26話 : ラメッタとオシュテン

 ラメッタとクレーエンは乱闘大会に突撃し、その大会を企画していたオシュテンと戦う。

 その後、二人はオシュテンを追い詰める。

 オシュテンはこのままでは敵わないと考えてラメッタを集中攻撃してクレーエンに庇わせる。その隙を狙って優勢になっていた。

 クレーエンは剣を大振りする力業に変更する。

オシュテンは受け切ることができない。

再び徹底的にラメッタを狙う。

しかし、ついにラメッタを捉えたそのとき、オシュテンは。


 総帥オシュテンは、ラメッタに一目惚れをして抱き締める。


 その結果、ラメッタはオシュテンへの勘違いに気づくのだった。

 そう、オシュテンは女の子、僕っ子だったのだッ!


「かわいいかわいい、ラメッタちゃんかわいいなあ。お嫁さんにならない?」

「アホか、ならぬわ。で、勝負はどうする?」

「あは、どうするかって? いくら劣勢でもラメッタちゃんをどうにかするのはできるけどさ?」

「どうする?」

「オシュテン派は正式にラメッタの傘下に下る。僕はラメッタちゃんをお嫁さんに、いや待って。僕がお嫁さんなのも悪くないかな? どうだろ」


 オシュテンは脳内お花畑であるが。


「分かった。よろしく、オシュテン」

「おお、ラメッタちゃん手もすべすべでかわいいなー!」


 ラメッタはドン引きして、顔を引きつらせていた。

 オシュテンは槍を変形して見慣れた傘に変える。


「なあクレーエン」

「どうした?」


 クレーエンはオシュテンがラメッタを傷つけないことを感じて警戒を解いていた。

 別の意味で危険なのかもしれないが。


「これってバオム国の事実上の再統一じゃろうか?」

「たぶん」

「わし、傾国の美少女じゃもん」

「間違いない」


 クレーエンは緩く応える。

 ラメッタは調子に乗った様子ではなく、むしろ予想外の事態に困惑していた。

 傾国の美少女と自身を高ぶらせることで落ち着きを取り戻そうとしていたのである。


 翌日、オシュテンは部下を一人も連れずに城に来た。


「室内はよく見えて嬉しいよ。僕、今日はラメッタちゃんに会えると聞いて楽しみだったんだ。ディーレ姫は柱のとこで何してるんだ?」

「おぬしが怖くて隠れてるけど、ちょっと気になってるんだよ、分かれよ、この!」


 広間に集まる。

 危険人物ということで、三姫は部屋にいるようにと指示をした。

 しかし、ディーレは自分の目で見ておきたいそうだ。

 ラメッタにとっても国の実質の最高権力者がいてくれるのは都合がいい。


「僕らが傘下に下るとバオム国は国民の大半がまとめられるってわけだよね? これからどうするつもり? どこへいるか分からない国王たちを探すのか、国をさらにまとめるのか、他国に協力や貿易を求めるか、今すぐにでも魔王軍と戦うのか」


 オシュテンは満足そうにラメッタ特製のジュースを啜る。

 恍惚とした表情だ。


「国王を探すべきじゃろ」

「僕はディーレ姫がいればバオム国はバオム国でいられると思ってるけどね。大体、行方不明っていっても前線に出てそれきり帰って来ないって。探すといっても魔王軍と戦うことになる。見捨てれば魔王軍は基本的にエアデ王国へ向かう。あそこは強い人ばかりで、特に魔法技術を中心として大いに発展している。優れた魔道具もある」

「エアデ王国の魔道具はわしか、わしの師匠か、わしの兄弟子姉弟子か、粗悪品じゃ。師匠も兄弟子姉弟子も寿命を全うしておる」


 ラメッタの見た目は子供だが、実際は呪いで老いることができなくなっただけだ。

 七十八才、その時の重さは優れた人間を失うには十分だった。


「それに魔法に関してはこの国以上に使えなくなっている」

「ふーん。クレーエンへの違和感はそういうことか」

「違和感?」


 ラメッタが聞く。

 クレーエンは気まずいのか俯く。


「何度も躊躇ったような動きをしていた。制限を受けているとは思っていたけど、ラメッタちゃんの魔道具で補っているわけだね。魔法の根源は『世界樹』とかなんとか。エアデ王国が神のように崇める木に異常があったわけだ。エアデ王国はどう考えている? 僕に言えないなら仕方ないけど」


 ラメッタの顔が真っ青になった。

 冷や汗が額から、背中から、手足から。


「ラメッタちゃん、暑いのか?」

「大丈夫じゃ。世界樹にかんしては、いやあ、どうなんでしょう? ふふふ、魔道具職人にはなかなか説明してくれないところがあるみたいですわ、おほほほほ」


 ラメッタの口調がおかしくなった。

 壊れた。


 まさか世界樹は実験のために魔法薬掛けたらおかしくなってしまったとは言えず。

 気持ちの悪い作り笑顔を披露し続けるしかなく。

 普段冷静沈着な印象のオシュテンもラメッタへの好意から怪しいとは思わず、外気のことばかり考えている。


「分かったよ、魔法がないから二人が来たのか。他の傭兵もそんな感じ? 二人いるって部下には聞いたけど」

「あれ、最近見ないのじゃ。……なぜ見ない?」

「スパイかな、魔王軍の。静かすぎて変だと思ったけどね、一人か二人か。僕に任せるといい」

「クレーエン、クレーエン。こやつ、頼りになるな」

「頭が切れるし強い」

「クレーエン、タイプ?」

「性格が悪すぎる」

「お兄様、僕がそんなに嫌いかな?」


 オシュテンは真っ白な目で上目遣い。


「お兄様?」

「僕はラメッタちゃんをお嫁さんにするから」

「らしいぞ、ラメッタ」

「ふむ。スパイは魔族よな?」

「あ、そういうことか。実を言うと僕は魔道具職人殺してるんだ、相当な技術の」

「え? 野蛮じゃ!」

「もちろん人間じゃないよ」

「そうか。ってことは」

「僕の強さを見誤った。騙したんだけどね、トゥーゲント連合に対抗させるのが目的らしくて、負けないために魔道具をって。トゥーゲント連合の道具の一部も魔族が作っている。粗悪品ばかりだけどね」

「だから魔道具がたくさん」

「ラメッタちゃんでバオムは一体化して、食事も困らなくなった。だからスパイはね、見なくなったんだよ」

「そういうことか」


 ラメッタは納得した一方で、仮にオシュテンがまだまだ敵だったらいつまでも優勢でいられただろうか? と心配になる。

 が、今は少なくとも仲間だ。


「僕がスパイを捕まえるまでのんびりしてなよ。食料たくさんいるよ、国王を探すのだろ? どちらにせよ、ラメッタちゃんの使命は魔王軍と戦うこと、これから忙しくなるかな」

「そうじゃな」


 ラメッタは頷く。

 うん。

 危険なことを率先してやってくれる強者がいるなら任せた方がいい。

 ラメッタは痛いのはできるだけ避けたいのだ。




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