20話 : そんなつもりは

 城から離れてより砂漠化した場所で、荒くれ者たちが殴り合いを見世物にしていた。


 そこにクレーエンとラメッタは現れて。荒くれ者たちが値踏みするような視線を向ける。


 ラメッタたちがエアデ王国からやって来たことを知ると、バオムの王族らを馬鹿にしていた。


 ラメッタが怒りを滲ませる。


 それを見たからか、それとも最近のラメッタの活躍への嫉妬からか、クレーエンは仕切っていた男を蹴り飛ばして。


 野蛮な男たちの殺気立つ視線を集めるのだった。


「お前」

「俺はクレーエン。魔王軍と戦うためにエアデ王国から来た」


「おらッ! どんな気持ちでここに来てるんだ?」


 荒くれ者が銃を撃つ。


 クレーエンの残像を追うこともできず、弾丸は空を穿ち続ける。


 弾切れを起こした。

 

 隙が生まれるとクレーエンは素早く近づき、腹部を殴って吹き飛ばす。荒くれ者は泡を吹いて倒れた。


「次は誰だ?」


 クレーエンは牙を向ける猛獣のようだった。荒くれ者は勇気を振り絞って無茶をする。


 僅かな望みのつもりだが。


「「なんだとコラァ!」」


 クレーエンは剣を抜くと、風を起こして駆ける。一つ風が吹き、また一つ風が抜ける。


「クレーエン、流石じゃな!」


 ラメッタの視線の先には怯えた荒くれ者がいた。


 クレーエンを見ると地面に伏せる。


「どうか命だけは」


 荒くれ者の言葉を聞く。

 クレーエンは許したくないのか、刃先を見せた。


「お前は誰も殺していないのか?」


 沈黙。


 クレーエンは迷いなく剣を振ろうとして、ラメッタに止められる。


「わしの魔剣じゃ。そのためのものではない」

「分かった」


 鞘にしまう。

 クレーエンは気に食わないが。


「流石じゃな! クレーエンがいて助かった。わし、弱いからの」

「こんな雑魚を制圧して何になる?」

「クレーエン?」


 クレーエンは足早に去ろうとする。ラメッタが咄嗟に腕を掴むが、クレーエンの力に敵うはずもなく突き飛ばされた。


「俺がそんなに役立たずか? 慈悲のつもりか?」

「何を言っておるのじゃ?」

「いいよな、ラメッタ。必要とされて楽しいだろうよ。ここに連れてきたのは成果のない俺のためだろ? 馬鹿にしているのか?」


 ラメッタは黙る。


 緊張と同様で目がキョロキョロと動く。震えた手を合わせて、人差し指をくるくると回した。


「いや、慈悲のつもりじゃなくて。クレーエンも豊かになっていくバオムを喜んでくれてると思って、これから一緒にッ!」


 この国の英雄になろう、なんて言えなかった。


 あの強者は、目の前で怒りに身を任せている。ラメッタはクレーエンの目がもはや歩み寄ろうとしていないことに気づく。


「分かってくれ、そんなつもりじゃない」


 クレーエンは、しまったと思いつつも止まれなかった。


「そうかよ」


 低く冷たい声が、水溜まりに一滴落ちる水の響きのようで。

 ラメッタはクレーエンに背を向ける。時々クレーエンの表情を確認すると、その重大さに悲しむのだ。


 なお。


「今のうちだ!」


 とクレーエンに歯向かおうとした荒くれ者たちは、魔剣を介した氷の刃を受けて意識を削がれた。


「わし、先帰るからな。悪かった、本当に傷つけるつもりはなかった。クレーエンがいなければ」


 これ以上言っても状況は変わらないか。

 ラメッタは諦めて城へ戻った。

 クレーエンは荒くれ者を城がある中心部まで連行する。


「クレーエン様!」


 図ったように城からディーレが出てきた。執事や従者もいる。荒くれ者の身柄を引き渡した。


 クレーエンは部屋に戻る。


 その日からクレーエンはラメッタを避けた。ラメッタは何度も話しかけようとしていたが、クレーエンを見ると怖くなってしまうのだった。


 いつオシュテンが襲撃してくるか分からない。クレーエンも今の状況が良くないことは分かっていた。


 ラメッタを避けて三日後。


 クレーエンは心機一転を考えて、城にある仕事を手伝おうと決めた。

 だが。


「すみません、クレーエン様。ラメッタ様からクレーエンさまの不器用さはなかなかだと」


 従者からラメッタの名前が出てくるのは気分が良くない。だが反論することもできなかった。


 計画が実行できずに暇になってしまったクレーエンが城の中を歩き回っていると。


「クレーエン様、わたくしを守ってください」


 はっきりと意見をするディーレに比べて、臆病でいつも隠れているベリッヒだった。


 自分の弱さを自覚するところまではいい、だがベリッヒのように他力本願なのは嫌いなタイプだ。

 だが今は姫様の相手をするのも良いかもしれない。


「どうした? いつ守るんだ?」

「もう、いつまでもですわよ。か弱き乙女ですもの」


 クレーエンは考えながら歩いていたためベリッヒの部屋の近くまで来ていたらしい。

 引きこもりの姫様はクレーエンに怯えながらも。


「やったあ! これでわたくし安全を確保しましたのお」


 叫びを抑えて喜んでいる。


 クレーエンは思う、この姫はだいぶ変な人だと。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る