第3話 奮い立つヒロイン


 本来、アーク・ブレイの婚約者となるはずだった令嬢──レヴィリア・ホープは次期当主として父であるジャン・ホープの仕事を教わりに王国騎士団本部の検閲室を訪れていた。

 婚約を結ぶはずであったブレイ伯爵家の次期当主が未だ決まらないことで顔合わせなどに時間が奪われていない上、ホープ家は次期当主として幼少の頃に推されていたアークが期待外れだったこともあり、ブレイ家への不信感から婚約を破棄して、ひとまず代々ホープ家が叙任している審問官としての仕事を継承させようという思惑からこの場にレヴィリアは招かれている。


「すまぬな。レヴィリア。お前を振り回すようなこととなって。我がホープ家に見合うような家で信頼にたる家を見つけられぬまま審問官の任期が終わりかけておるからな。せめてルイーザが妹でなく弟として生まれてくれればよかったのだが」


「お父様、気になさらないで下さい。ホープ家の長女として生まれたからにはこうなることは覚悟しておりましたから」


 幼い頃からジャン本人から機密を扱う家柄であるため、息子が生まれなかった場合、長女であるレヴィリアが次期当主として審問官としての仕事を引き継ぐ可能性が高いとは言われていたからだ。

 むしろ婚約が成立して長女である自分が当主としての責務から罷免されようとしていたことの方が理不尽な状態だと思っていた節まである。


「お前ができた娘で助かった。では早速基本の基本──報告書の確認から入っていこうか。……むう、不吉な。はじめに手に取ったものがよりにもよって第四騎士団のブレイ隊のものか……」


「何か不都合が?」


「これは参考にならんのだ。むしろお前にとって悪影響しか及さん。実力がないものや、当主になれなかった集まりだというのに戦績を捏造し、常勝で損害ゼロの出鱈目な報告書を送ってきて、確かめる必要もないほどのものだからな。これを見て、さらっと見て騎士たちの不正を確かめれるものだと思われても困る」


 最近は交流が絶えて久しいが幼少の頃から交流のあった幼馴染に対して決めつけるような態度をとる父親に対してレヴィリアは理不尽さを覚えると家長である父の意見にはいつも是と答える彼女には珍しく異を唱えた。

 

「調査はされたのですか?」


「無論したとも。出てきたものは杜撰な捏造の証拠と、不正報告後の統括騎士団長閣下の誠意のない返事だけだ。伯爵家以上の家となるとよほど大きな問題でない限り打ち消されることも多いからな。まあ我がホープ家であれば、統括騎士団に不服を申し立てればそれを打ち消すこともできるが」


「……」


「怖い顔をするな。ちょっとしたジョークだ。報告書の捏造程度でわざわざ伯爵家と争うのも家が立ち行かなくなるからな。さて、これ以上、こんなことに時間を使ってもしょうがない。下に第四騎士団以外の報告書が埋もれているはずだ。それを捌いていこう」


「はい」


 他の報告書に進むことに頷きはしたが、レヴィリアはアークの件について納得していなかった。

 彼女にとって、過去のアークならば本当に損害ゼロで戦を終わらせることもできるという確信があったからだ。

 自分を納得させるためにレヴィリアは実際にアークの戦う姿を見て、判断することを決めた。


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