傷④/梅脳 愛恋(うめの あこ)
梅脳 愛恋(うめの あこ)
私はワガママに育った。
それは自分でも自覚してる。
だってママはいつも私のすることは全部、
なんでも肯定してくれた。
パパは私が欲しい物をちゃんと買えるように、周りの子よりすこしだけ多いお小遣いをくれた。
ひとりっ子だから両親の子育て欲は全部私に注がれてきた。
昔、女の子の友達に言われたことがある。
「アコって、見てるだけでなんかイライラするよね。いつも自分が中心だと思ってない?ちょっとは周りのことも考えなよ」
クラスで一番仲の良かった子だから、
言われた時はそれなりに悲しかった。
でもその日帰ってお風呂でゆっくり考えてたら、ただ私が羨ましくて嫉妬してるだけなんじゃんって考えた落ち着いた。
私は確かに頑固だし、
自分のやりたいようにするためには、
人を振り回しすこともある。
それが自己中心的って言われたらそうなんだと思う。
でも皆、ワガママを言っても怒って居なくなったりしないんだもん。
本当に嫌ならもっと拒否すればいいじゃん。
子どもの時からそんな風に思ってたお陰で、
嫌味な同級生もスルーでしたし、
自分の願いを突き通す意志の強さもついた。
それでも友達に困ったことなんてないし、
嫉妬も妬みも結局私が羨ましいだけ。
ワガママの代わりに、
他人に羨ましがられるだけの努力も結果も見せてきた自負もある。
最近の私の目標は、
できるだけ沢山の男子から告白されること。
キッカケは女友達のくだらない会話だった。
その子も私と同類でやりたいことに真っ直ぐなタイプ。
勉強も自分磨きも人一倍してきたタフな子だった。
2人とも自分はモテるって言い張って、
お互い負けず嫌いだから決着がつかなくなってしまた。
だから、一年間の間でどっちが多く告白されるかで勝負することになった。
その子のモテエピソードが本当ならかなり強敵だから私も気が抜けない。
絶対に負けたくないから、いつも通り、
私の全力で勝ちにいくつもり。
1年間は長いようで短い。
とにかく数を稼がないといけないから、
とりあえず女の子と接していなさそうな男子に狙いを定めた。
何かと話しかけたり、
つまらない話に笑ってあげたり、
自然を装ってスキンシップをしてあげる。
後は連絡先を交換して、
教室の外で二人だけの会話をしてあげれば簡単だ。
相手の好きなものが分かればすぐに調べて次の会話に活かすマメさも欠かさない。
大事なのは手当たり次第にアピールするんじゃなくて、1回に1人ずつ”この人”て狙いを定めること。
そうすれば私も他の男子と態度に差がでる。
男子はこの『俺だけ特別』というのが異常に好きみたい。
自分は特別かもしれないと思い始めると、
後はこっちが何をしなくても勝手に盛り上がって私のことを好きになる。
ただ、同時に男子は呆れちゃうほどいくじなしでもあるから油断はできない。
ちゃんと告白してくるまで好意的な雰囲気を装って安心させてあげないといけない。
自分が好かれているという確信が持てないと怖くて告白もできないらしい。
学校の昼休み。
机の上に置いてたケータイが震えてメッセージが届いた。
『今日また告白された! これで5人目。絶対私のこと好きなのに全然言ってこないんだもん。マジでダルかった』
メッセージの後にドクロのスタンプまでついている。
私は今のところ三人だ。
思ったより差ができてきちゃった。
これからもっと頑張らなくちゃいけない。
告白された3人は全員かなり簡単だった。
少し気にかけてあげただけで、
皆おもしろいように私を見る目の色が変わっていく。
相手を思い通りに操作できてると感じるその瞬間が最高だった。
2日前に告白されて断ったばかりだけど、
もう次にいかないと5人に追いつかない。
次は誰にしようかと教室を見渡してみて、
たまたま宗方君が目についた。
あまり人と喋ってるのをみたことはないけど、
いつもどこか他人を見下したような目をしているからちょっと苦手な男子だ。
本当ならわざわざ関わりたくはないけど、
勝負のためならそんなのはどうでもいい。
彼に話しかけるキッカケを窺ってる時期に、
びっくりするような事件が起きた。
クラスで可愛いほうに分類される桜井さんが、突然顔に大きな傷跡をつけて登校してきた。
皆大騒ぎだ。
クラスの外にもその情報はすぐ広まった。
桜井さんの周りに群がってアレコレ質問をぶつけてる。
輪に加わってない人も、
席で聞き耳を立ててるのが丸わかりだ。
女の子の顔なのに皆デリカシーがなさすぎるって思うけど、正直私も気になるから輪の一番外に加わってみた。
皆が心配したり興味津々だったりするのに対して、桜井さんはとっても冷静だった。
冷静っていうか、ほとんど冷酷だった。
何かを聞かれても無視をして、一言二言ぼそっと呟くだけ。
まるで人が変わったみたい。
前の桜井さんは明るくて、けっこう可愛くて、男女両方から好かれてた。
アイドルみたいな可愛さじゃないけど、
見てるとだんだん愛着が湧いてくる可愛らしい顔。
大人になって思い返したら、思い返して懐かしくなっちゃうタイプ。
彼女のことを好きな男子も少なくないから、
私に告白させる時に障害になると思ってた。
なのに、今は自分から好感度を下げるような態度をしてる。
まあ、自慢の顔にあんな目立つ傷ができたんだから気持ちも分からなくはないけど。
そういえば、昨日から今日までの間にできた傷のはずなのに、
傷が新しい感じに見えなかったのはなんでだろう?
まあなんにせよ、
私の目的達成のための障害が少しでも減るなら、私にとってはラッキーなことだし。
彼女の傷は私には無関係だと思ってた。
そろそろ本格的に宗方君と仲良くなりにいこうと思っていた矢先、どういうわけか、
宗方君は急に桜井さんの後を追いかけるようになっていた。
今まで2人が喋ってるところなんて見たことがない。二人の間で何があったのかは不明だ。
急いで色んな女子に話かけて情報収集してみたけど、誰に聞いても首を捻るだけで何も知らなかった。
「やっぱりそうだよね? ねえ、アコは何か知ってる?」
なんて、逆に私が聞かれてしまったくらいだ。
そんなに誰も知らないなんてますます謎が深まる。
私に惚れさせようとしている人に、
万が一好きな人でもいたら冗談じゃない。
見ている感じだと桜井さんはあの謎のクールキャラで全く相手にはしてないみたいだけど、先を越される前に行動を起こさないと手遅れになりそうだ。
桜井さんに横取りされないように、適当な理由をつけて宗方君に話しかけてみた。
「ねぇ、宗方君。ちょっといいかな?」
その時も櫻井さんを目で追っていた彼は、
あからさまに邪魔されたと言う顔で私を見た。
「……何?」
「数学得意だって聞いたんだけど、ちょっと教えてくれない?」
「数学? 別に得意でもないんだけど。誰に聞いたの」
「え? えーっと、噂?」
もちろん嘘だ。そんな話聞いてない。
「無理」
「ええ、どうして?」
「別に仲良くもないのになんで僕か分からないし。今忙しいから」
「あ、忙しいのにごめんね? ……もしかして桜井さん見てた?」
思い切って放り込んでみた私の言葉に宗方君は一瞬ギクっとした顔をした。
「ど、どうだっていいでしょ」
「あ、ごめん。桜井さんのこと好きなんだと思ってたんだけど……。もしかして秘密だった?」
ワザとらしく声をひそめて囁いてみる。
「好きとかそんな言葉で語れるものじゃないんだ」
「じゃあ嫌い?」
「そもそも、君に言う必要ない」
いつもの少し私を馬鹿にしているような目で言い切られてしまった。
「じゃあさ、ゲームしない? コイン投げて表か裏か当てるの。私が勝ったら教えてくれる?」
「嫌だ。なんでそんなことしなくちゃいけないんだよ」
「宗方君が勝ったら桜井さんの秘密教える」
「秘密?」
「そう。あの傷の秘密」
「あの傷に秘密なんかない」
急に真剣な声になって真っすぐ私を見据えて言った。
「宗方君何か知ってるの?」
「さあ。君が教えてくれたら教える」
「だーめ。教えるのは勝負に勝ってから。ほら、やろ?」
小銭入れから100円を取り出して机に置いた。
宗方くんは小銭を見つめてしぶしぶ答えた。
「……裏」
「じゃあ私が表ね」
コインを両手で包んで中でよく振ってから机の上に100円玉を落とした。
100円はくるくる回転してゆっくりバランスを崩すと裏面を向いて机に倒れた。
「裏。僕の勝ちだ」
「ほんとだ。悔しいなあ」
「で、君の知ってる秘密って何」
「……三回勝負にしない?」
「しない。早く答えて」
「分かったよ。誰にも言わないでね?」
「分かってる」
私の思っていた通りの展開ではないけど、
なんだかんだで宗方君と話が続いてる。
内緒話をする建前で自然と体を寄せて耳打ちした。
「あの傷ね、彼氏の澤村君がつけたんじゃないかって噂なの」
「--え?」
「他にも、体の見えない所にアザとかあるんだって、どう? ビックリじゃない?」
「なんだそれ。アレはそんなくだらないものじゃない」
「どういうこと?」
「ゲームに付き合って損した。もういいや」
私の質問には答えずに、席を経ってどこかに行こうとした。
「え、あれ? どこ行くの?」
振り返った宗方君は真っすぐ私の目を見て言った。
「僕が勝ったし、用件はもう済んだでしょ。僕行くとこあるから」
そう言って、桜井さんが出て行ったあとを追って宗方君も教室から出て行ってしまった。
後で聞いた話だけど、宗方君はなんと、桜井さんに告白したらしい。
誰が見ても無謀な挑戦でもそのチャレンジ精神は私は嫌いじゃない。
そもそも桜井さんは澤村君と付き合ってるし、
そんなの宗方君だって知ってる。
上手くいかないとしても自分の思いを貫く姿勢は素敵だ。
当然付き合うなんてことにはなっていないみたいだけど、澤村君はかなり怒ったみたいだ。
校舎裏で宗方君に暴力を振るったらしい。
あの人気も者だった澤村くんが本当に? って思わなくもないけど。
野球部の男子4人が見たっていうから信憑性はそれなりに高い。
それ以降澤村君はクラスでの居場所がなくなって、昼休みになるとお弁当を持ってどこかに消えるようになった。
私は引き続き宗方君と近づこうとも思ったけど、澤村君に隠れながら桜井さんに付き纏ってる宗方君に、だんだん皆も気づき始めた。
誰も何も言わないけど、宗方君は変な目で見られるようになっている。
いくらなんでも、そのんな人に近づいてくのは目立つし私の評判も悪くなる。
本当は一度決めた相手を諦めることはしたくないけど仕方ない。
宗方君は諦めて他の人にターゲットを変えることにした。
友達には数で負けてる分、
普通よりインパクトのある相手に挑戦しないと勝てないかも知れない。
学校イチのモテ男か、一番のイケメンとか、有名な野球部のエースとか。
告白された時に皆に羨ましく思ってもらわないといけない。
私は王子様に迎えに来てもらうシンデレラにならなくちゃいけない。
もう、適当なレベルの低い男子で数を稼ぐのは止めだ。
相手に彼女が居たって、私に振り向かせればいいだけ。
目ぼしそうな相手をスマホのメモにリストアップしていたら、
予鈴がなって先生が入ってきた。
「ほら。席つけえー」
ゆるく声をかけながら持ってきた資料を置いて上着を脱いだ。
このクラスの担任の先生は理科の授業も受け持っている。
比較的若い先生で少し間延びした話し方と白衣が妙に似合う先生だ。
黒いくせっ毛と優しそうな顔が”大人の余裕”に憧れる女子達に人気で、
バレンタインも生徒から本命をいくつか貰ったって噂だ。
「えー、今日は前回の続きだから、細胞分裂の過程からだな」
教科書のページを確認しながら誰に向けてでもなく喋る姿を見て思った。
そうか、相手は生徒じゃなくてもいいんだ。
この学校には男の先生だって沢山いる。
確か先生はまだ独身なはずだ。
彼女が居るかは分からないけど、そんなの問題じゃない。
決めた。
次は先生にする。これで成功すれば一発逆転も夢じゃない。
先生と生徒って関係はきっとハードルが高いけど、上手く乗り越えられればむしろいいスパイスになるに違いない。
ここまで男子を落としてきた私にできないことじゃない。
真面目な顔で細胞の成長について話す先生を眺めて、手始めに休み時間になったら、
今日習ったところの質問をしに会いに行ってみらことに決めた。
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