六年間

瑠奈

六年間

「単刀直入に言うと、別れたいってことなんだけど」


「……うん」


 4月5日、午後5時過ぎ。沈む夕日を背景に、彼はそう言った。


 ――周りの音が消えるって、こういうことなんだ。


 私は小説でよく描かれるように、本当に二秒ほどの間をあけて頷いた。


 彼から放たれた言葉を頭で理解するのに時間がかかる。だって、大学のことだと思ってたから。別れ話だなんて、思ってなかった。


 彼は高校三年生。今年、他県の大学を受けて、落ちた。浪人するってお母さんが言ってた。彼のお母さんから連絡が来たらしい。だから、重要な話があるって連絡が来たときは、それ関係の話なのかなって思ってた。


「ずっと付き合ってるけど、これ以上付き合ってても進展望めないと思うし、そっちは高校生活楽しんでほしいし」


 確かに、六年くらいは付き合ってるけど、進展はほとんどない。一歳違いだから連続で受験があるし、学校も違うから、なかなか遊ぶ機会もなかった。家、徒歩で一分で行けるのに。連絡だって、三ヶ月に一回くらい。そりゃあ、そんなんじゃ冷めちゃっても仕方ないよね。話し方的に、彼が冷めたみたい。


 彼は私が優等生だと思ってるから、男友達もいると思ってるみたい。いつも否定してるけどね。


 ……でも、多分私は、あなた以外は好きになれない。私の性格にも難があるし、男友達なんてあなた以外いない。きっと、私はずっとあなたのことが好きなんだと思う。


 私は、そんな言葉を飲み込んだ。言ったら多分、困らせる。きっと、ずっと考えてたんだと思うし。


 けど、なんて言ったら良いのかわからない。


「友達としては一緒にいて楽しいし連絡も全然してくれて良いんだけど」


 黙って考えている私に、そう言ってくれる。


「…………そうだね。区切りつけておくのもいいかもね」


 やっとのことで、そう言った。声、かすれてた気がする。


「じゃあ、友達ってことで」


 彼はちょっと、ホッとしたような顔をしていた。


「うん」


「じゃあね」


 彼が振り返って、軽く手を挙げる。


「うん、じゃあね」


 ……私、笑えてたのかな。夕日が眩しくて目を細めてたけど、マスクの下で、笑えてたのかな。


 泣けないってことは、心のどこかでわかってたんだと思う。このままで良いのかなって。


 あまり悲しくなくて、その理由が友達と電話して少しわかった。多分、付き合ってるって感覚がなかったんだと思う。


 小学校の時から、私は彼にずっとアピールしてきた。黒歴史になるレベルで。けど、彼から返事をもらったことはなかった。だから、彼は付き合ってるって認識だったみたいだけど私はそうじゃなかった。あまりそうは思えてなかった。俗に言う『友達以上恋人未満』って感じ。


 私も彼も奥手だから、ずっと同じ距離感だった。多分、彼が冷めた原因の一つだろうな。もっと近寄りたかったけど、どうすれば良いのかわからなかった。


 けどさ……付き合ってるって認識だったなら、もっとカップルらしいことしたかったよ。そういうの一つもしたことなかったから。


 彼の中では多分もう終わった話なんだと思う。けど、私はまだ振り切れないと思う。しばらくかかるかな。大学は女子大のつもりだから、新しい出会いなんてないし。


 好きだよって、口で言ったことなかったな。今となっては、後悔ばっかり。


 ……もう、どういう顔して会えば良いのかわかんないよ。連絡なんて取れるわけ無いじゃん。


 今、何事もなかったように普通にできてるのは、割り切れてるからなのか、自分の中のダメージに気づいてないだけなのかはわからない。推しを見てはしゃげるくらいだから、一応元気ではあるんだけど。友達に元気ないねって言われちゃった。


 落ち込んでる私と、元気な私、どっちが本当の「私」なのかわからなくなっちゃった。

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六年間 瑠奈 @ruma0621

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