正統派の怪奇譚である。遠洋漁業という状況下では、偶か異様な体験をする事もあるのだろう。 昏く深い海嶺の果てには一体《何》が息づいているのか。それを想うと空恐ろしくなる。荒濤の波頭を越えて現れる人知を超えた《モノ》達は、殺生与奪と輪廻とを経験し、ある日突然人の領域へと侵蝕して行く。 妖しの《モノ》に名を呼ばわれる恐怖とは如何なるものか。深く昏い海の底へと成す術もなく沈んで行く様な、そんな心持ちでもあるのだろうか。
昔の船乗りたちは、海底には魔物がいるとか、海は死後の世界へつながっているとか、そう考えていたみたいな話を聞いたことがあります。本作品を読み、船乗りたちの言うこともただの迷信ではなかったのかもしれない、そう思わせられました…海は私たちが想像する以上に魔の世界なのかも?