12月~うその終わり~ 前編

 放課後、まだ少し賑やかな教室に久々に私たち四人が集まった。

毎日のように集まっていたあの日が、少し懐かしく感じるね。

「立花さん、柚木さん、おめでとうございます!」

 と私の正面のるるちゃんが言う。

「二人が無事恋人になれて、安心したよ」

 あみちゃんが胸をなでおろした。

 と、そんな中――

「えへへ、ゆうちゃん、ゆうちゃん!」

 私の隣にいるかりんが、ずっと私に引っ付いて、身体をすりすりしているんだけど……。

「あのー、かりん……?あみちゃんたちにじーっと見られてるよ?」

「だって私たち正真正銘の両想いなんだよ?あみちゃんとるるちゃんにもちゃんと証明したいじゃん!」

「これ、証明だったんだ」

 かりんの発言にあみちゃんは苦笑い。

「じゃあじゃあ、あみちゃん!私たちもラブラブなこと、証明しますか?」

 対してあみちゃんの隣でるるちゃんはニコニコと私たちを見つめていた。

「私たちまでかりんみたいなことをやりだしたら、収集が付かなくなるから……」

 あみちゃんがるるちゃんの頭を軽く撫でながらそう言った。

 というか、あみちゃんも私たちの前で堂々とるるちゃんといちゃつくようになっちゃってる!

「そういえば、あみちゃんとるるちゃんはいつごろから付き合い始めたの?」

 私の質問に、るるちゃんの目が輝いた。

「やっぱり気になりますよね!」

「私も気になる!」

 かりんも私の肩に頬をこすりつけながら賛同する。

「ねぇ、あみちゃん。お話してもいいですか?」

 るるちゃんがあみちゃんの方を見つつ首をこてんと傾けた。

「いいよ。でもその代わり、私たちの話の後で、優菜たちの事も聞かせてもらうからね」

「それはもちろん!むしろ聞いてほしい!」

 不敵に微笑むあみちゃんの提案に、かりんは前のめりになって頷いた。

 あ、やっとかりんの頭が私から離れた。

「その反応は期待してたものとは違うけど……じゃあ、まずは私たちが出会ったときの話から。ね、るる」

「はい!最初に出会ったのは一年生の時の始業式ですね。わたしが初めてのことだらけでおろおろしているところに声を掛けていただいて!」

 あみちゃんとるるちゃんが思い出話を宝箱から取り出すように話し始める。

「まあ、正直その時に私は一目惚れだったんだけど」

 言って、あみちゃんは頬をかいた。

「あ、そっか、あみちゃんって確か幼――」

 私が言いかけた言葉をあみちゃんの鋭い視線が止める。

 すみません……冗談でももう言いません……!

「わたしは始業式の日からあみちゃんと友達になって、いっぱい助けてもらっちゃいました」

「るると一緒だと、毎日新鮮な気持ちでいられたよ」

「あみちゃんにそう言ってもらえると嬉しいです!」

 見つめ合う二人。これ、二人だけの世界になってるんじゃないかな?

「それでそれで、あみちゃんはいつるるちゃんに告白したの?」

 かりんがするりとそこに滑り込むように話を続ける。

「それは確か六月の……」

 あみちゃんが記憶を辿るように左上の方に視線が向かう。

「六月の二十三日です!立花さんの風邪が治って柚木さんのお誕生日会の準備をしているあたりですね」

「そうそう、二十三日。って、そういえば花梨はなんで私からるるに告白したって思ってるの?」

「あれ、違うの?」

「いや、まあそうなんだけど……」

 純粋なかりんの目線を向けられて、あみちゃんは素直にそう答えた。

「あの日、あみちゃんに告白されてすごく嬉しくて。こんなにわたしの事を想ってくれる人が家族以外にいるんだって初めて知って……それで、わたしはあみちゃんに恋しちゃいました!」

 晴れやかにそう言うるるちゃんの隣で、あみちゃんは両手で顔を覆っていた。

「るる……可愛い……ありがとう……」

 るるちゃんはそんなあみちゃんに寄り添ってから私たちに向けてピースをした。

 ラブラブカップルとして輝いておられる……!

 そんな中、かりんがまた私の肩に頭を預けながら口を開く。

「そういえば、クリスマスイブの予定って決まってる?」

「わたしはイブの夜の予定は決まってます!」

るるちゃんが元気よく答えると、かりんも頷いて

「私も夜は決まってる!ねえ、ゆうちゃん?」

「どうしてそこで私に振るの!?」

「あー、一応補足しておくと、るるはイブの夜に家族でパーティをするんだってさ」

あみちゃんが少し困ったようにそう言う。

「じゃあ私たちとは違うのかぁ」

「かりん!?」

「ふふっ、だからわたしとあみちゃんはクリスマス当日にゆっくりとデートする予定なんです」

「まあ、そういうことだからイブは夕方までなら私もるるも空いてるよ」

「だってさ、かりん」

「オッケー、それじゃあ提案!クリスマスイブの午前中からダブルデートで水族館に行きたい!」

「わ、ダブルデートですか!楽しそうです!」

「るるがいいなら、私も大賛成。水族館も久々に行きたかったところだし」

 あみちゃんとるるちゃんが笑顔でかりんの提案に賛同してくれた!

「二人ともありがとう!えへへ、ダブルデート夢だったんだよね~」

「よかったね、かりん。私も水族館楽しみ」

 かりんは私の肩に預けていた顔をそのまま耳元に寄せて

「ふふふ、ゆうちゃんにはとっておきを用意してるから、期待しててね」

 そう小悪魔の様に笑って囁いた。


 * * * 


「わー、あれだよね!ここの水族館には久々に来るかも!」

最寄りの駅から出て水族館が見えてくると、その方向を指さして隣を歩くかりんがニコニコしだした。

「るるは水族館は行ったことあるって言ってたよね?」

「はい。この水族館ではありませんが、家族で行ったことがありますよ!」

私たちの後ろで、あみちゃんとるるちゃんが会話している。

って、いつのまにか後ろの二人、手を繋いでるじゃん!

「ねぇ、かりん、私たちも繋がない?」

「いいよー!でも、もうちょっとで水族館に着くから、中に入ってからにしない?」

「うん、わかった」

とかりんに言ってから、あれ?と疑問に思う。

こういうとき、かりんから積極的に繋いできそうなものなんだけど……。

まあ、もう入館するんだし細かいことはいっか。

そんなこんなで受付を済ましていざ水族館へ。

「あれ、最初にエスカレーターになんか乗ったっけ。最後に来たのはいつだったかなぁ」

うーんと記憶を探るかりん。

「小学校の遠足では行ったことあるよね?それからは――もしかしてない、かも?」

「私もそれが最後かなぁ。その時の事、あんまり覚えてないんだけどね」

エスカレーターから降りながら私が言うと、かりんも頷いて

「私も水族館でなにを見たかとか全然覚えてないやー……あ、でもゆうちゃんと手を繋いでずっと回ってたのは覚えてるよ!」

「え、そうだったっけ?」

「そうだよー!ゆうちゃんって暗いところ苦手だからさぁ、恥ずかしそうに繋いでてもいい?って言ってくれて~」

「ちょ、ちょっとかりんストップ!恥ずかしいからこの話はここまで!」

慌ててかりんの口を私の手でふさいだけど、時すでに遅し。

あみちゃんとるるちゃんがにやにやとこちらを見ていた。

「なに、優菜。そんな可愛いことあったんだ。昔の惚気話ってやつ?」

「えへへ、ごちそうさま、です」

あみちゃんが私のほっぺを軽くつんつんすると、るるちゃんもマネして反対側のほっぺをつっついてきた。

顔が熱い!

「もう!二人ともつんつんおしまい!水族館なんだから見るのは私じゃないでしょ!」

はーいと二人が返事して私から離れると、すかさずかりんが私の腕をつかんでそのままかりんの腕で絡めてきた。

「え、えっとかりん?周りに他のお客さんもいるから、ね?」

「ゆうちゃんは私のだもん……」

ううっ!ちょっと上目使いでこっちを見てくるのは反則じゃない!?

「もー……わかったよ。まあ、みんな他の人に視線向けてる暇ないもんね」

「わーい、ありがとうゆうちゃん!」

ぎゅっと腕をつかんでくるかりん。

まあ、かりんが身を寄せたいって言ってるんだから仕方ないよね。

うん。かりんが言うなら仕方ない!

ようやく歩き出して館内の生き物を見て回る。

そんな中、ずっとかりんは私のそばから離れない。

「ゆうちゃん、にっこにこだー。私も嬉しいかも。こうやって外でゆうちゃんとイチャイチャできるの幸せ~」

「え、そんな顔してるかな!?こ、これは可愛い魚を見てつい頬が緩んじゃって……」

「ふーん、そっか。私よりお魚のが――」

「かりんと引っ付けるのが嬉しくてずっとにこにこしてました!」

「ふふっ、正直でよろしい」

言いながらかりんはこてんと頭を私の肩に軽くぶつけてくる。

なんか私、だんだんかりんにコロコロと転がされることが多くなってきているような……。

かりんの髪が私の顔をくすぐる。

あ、知っているシャンプーの匂い。

まあ、昨日うちのシャンプーを使ってるから、当然と言えば当然なんだけど。

不思議と安心する。

そんなこんなで離れる気配がないかりんと、手つなぎカップルのあみちゃんるるちゃんと一緒に水族館を回る。

熱帯魚やカワウソなどなどを見て癒されながらゆっくりと館内を歩いていると

「あ、あっちの奥の方にペンギンさんがいますよ!」

るるちゃんがはしゃいで奥を指さした。

そっちの方は人だかりができていて、流石の人気みたいだね、ペンギン。

「ねぇねぇ、ゆうちゃん。このおっきいカニじーっと私たち見てるよ、かわいいね~」

かりんはというと、近くの水槽のカニにご満悦みたいで、足を止めてじっくり見ている。

腕はつかまれたままなので、当然私もそこで立ち止まってカニを見る。

近くのプレートにタカアシガニと書かれているそのカニは、その名の通り細長い足が目立ってかなりの大きさだ。

水槽のガラスにべったりとくっついているので顔?がよく見える。

確かにこっちを見てる感じ。

「はさみゆらゆら、口もごもごしてて、かわいいかも」

私の感想にかりんも満足したように微笑む。

「でしょー?カニってお家で飼えたりするのかなー」

水槽を覗きこんで、指をカニのはさみに合わせて揺らしながらかりんは言う。

「うーん。カニのペットってあんまり聞かないような……少なくとも、ここにいるみたいな大きいのは難しいんじゃないかなぁ」

「だよねー」

のんびりとそんな会話をしていると、あみちゃん達はペンギンの方にもう向かっているみたい。

「あ、あみちゃん達行っちゃうよ、かりんそろそろ――」

「やだ」

私の言葉を遮って、かりんは掴んでいる腕はそのままに私の正面に来て、ぎゅっと抱きしめてきた。

「か、かりん!さすがに目立っちゃうから!」

「でも、この辺は人あんまりいないし、みんなペンギンに夢中だよ?」

確かに、この辺りで立ち止まっている人は少なくて周辺に人はいないけど!

というか、もしかしてこうするためにかりんはここから動かなかったり……?

「あ、でもほら、カニが見てるから!」

私は水槽の方を指さす。微動だにせずガラスからこっちをカニが見つめている。

「ゆうちゃん、カニに見られても恥ずかしいって感じちゃうの……?」

「い、や……まあ、そうでは、ないかな」

「じゃあ、あと十秒だけ。だめ?」

「――十秒だけなら、まあ」

オッケーとかりんが頷いて、耳元で数を数えだした。

「じゅう、きゅう、はち――」

息が耳をくすぐるのがじれったくて、身をよじろうとする。

でもかりんは動こうとする私を逃がさないように強く抱きしめてきた。

「――さーん、にぃー、いーち、ぜろ!」

「ひゃっ!」

かりんが離れる直前、最後にフッと息を吹きかけられて、小さく悲鳴が漏れちゃった!

「ひゃっだって、ゆうちゃん、かわいい~」

「だって、急にふーってするから!かりんやりすぎ!」

「でも、ほら、誰もこっちに気付いてないよ?」

確かに、さっきから人の気配はないんだけど……そういう問題なのかなぁ。

「終わったなら、あみちゃん達と合流するよ」

「んー、もうちょっと待って」

私の正面にいたままだったかりんが、また顔を近づけてきて――

私のほっぺたへ軽くキスをした。

そのままかりんは私の方に頬を向けてきた。

なにも言われなくても、どうして欲しいのかはわかるけど……まあ。

私からかりんのほっぺへキスのお返しをする。

「ありがとう、ゆうちゃん。ちなみにね、ほっぺへのキスは親愛の情を意味するんだって」

「あ、なんかその話最近聞いたかも」

確かるるちゃんがキスする場所によって意味が違うって言ってたっけ。

「じゃあ、これでおしまいにするから、じっとしててね」

私を見つめてそういったかりんは、少しかがんで私の顔の下に唇を近づけて、喉元に一つキスして手早く首筋にももう一つキスをした。

「じゃあ、いこっかゆうちゃん!」

「あ、うん。ねえかりん。さっきのキスの場所は何の意味があるの?」

「んー?ナイショ!」

かりんは私の手を引いて人だかりのペンギンエリアに向かう。

最後のキスは一体何だったのか気になる……後で調べようっと。

それにしても、誰にも見られなくてよかったよ、ほんとに。

かりん、家で二人の時はされるがままでおとなしいのに、外に出るとはっちゃけちゃうよね。

珍しいというか不思議なタイプな気がする。

まあ、ついついそれに乗っかる私も私なんだけどさ。

嬉しそうなかりんを見れるのが、一番幸せなんだから仕方ないよね。


 * * * 


水族館も終盤。四人で最後まで回って、出口が近づいてきた。

あ、出口付近にショップがある。

なにかおみやげを買って行こうかなと考えていると、私の前を歩いているあみちゃんるるちゃんのカバンが目に入った。

二人のカバンについているお揃いのネコのキーホルダー。

ちょっと前に、あみちゃんと一緒に買いに行ったものだよね。

無事に渡せててよかった!

「あ、そうだ!」

一つ思いついた私はぽんと手を打つと、私の声を聞いたみんながこっちを見る。

「せっかくだし、四人でなにかお揃いのものを買わない?」

ショップを指さして私が言うと、るるちゃんが笑顔を浮かべて

「賛成です!」

「私も良いと思うな」

あみちゃんもるるちゃんと同様に頷いた。

「じゃあ、みんなで見に行こう!」

と、なぜか提案した私より先にかりんが嬉々としてショップに入っていった。

私たちもその後を追って、何がいいかなと物色する。

「これとかいいんじゃない?」

そういってあみちゃんが手に取ったのはイルカのキーホルダー。

前にも思ったけど、あみちゃんって結構可愛い物好きな所があるよね。

「わー、いいですね!あ、これもしかして――」

言いながら、るるちゃんがショップに並んだキーホルダーのイルカを四つ取り出した。

「こうやって四つ合わせると、ほら!輪になりましたよ!」

四つのイルカそれぞれの尾びれに頭をくっつけていくと、丁度輪の形になった。

「いいねいいね!これ、四人で買いたい!」

目を輝かせていうかりんに、みんなが賛同した。

イルカを手に取って嬉しそうにするかりん。

けどその表情の中に、なにか隠されているような気が……。

もしかして。

「あ、そうだ。かりん、二人だけのお揃いのものも何か買って行かない?」

私がそう提案すると、くるりとかりんがこっちを見つめてきた。

「す、すごいよゆうちゃん!今から私がそれを言おうと思ったの!」

「やっぱりそうだったんだ。私もかりんが言いたそうだなーって感じてたんだよね」

「ゆうちゃんと通じ合えるのすっごく嬉しい!じゃあ、ほらお揃い探そっか!」

「うん。じゃあ、あみちゃん、るるちゃん、ちょっと見て回ってくるね」

かりんに促されて、私はかりんと一緒にショップの中を回る。

アクセサリーも売ってる。こういうのもありかもしれないなぁ。

なんて、色々考えていると一つのもので視線が止まった。

「あ、これ」

「カニだ!」

隣にいたかりんと声が重なる。

どうやら同じものを見つけたみたい。

二人ともそのボールペンを手に取る。

「このカニのボールペン、可愛いよね!」

かりんがポールペンのノック部分についたカニを撫でる。

「うん。私もいいなって思った!それに、カニって――」

私が言いかけると、かりんが私の耳元に口を寄せて

「あの時の事、思い出せちゃうもんね」

そう囁いた瞬間、ついさっきのカニの前での出来事がフラッシュバックした。

「ま、まあ。今日の記念としてはぴったりだなって」

「それじゃあ、二人お揃いで買って行こうね!」

このボールペンを見るたびに、あの時の光景が思い出されちゃうのか……。

これはさすがに学校には持っていけないよね。

カニよ、君はお家専用ボールペンだ。

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