11月〜文化祭にかさねて〜 前編

黒萩先輩と色々あった次の日。11月の初日の朝一番。

ようやく朝は涼しくなってきていて、まばらにしか人がいない教室だとむしろ寒いくらいに感じる。

「どうしようかな……」

私は机に顔を突っ伏して今後の事を考えていた。

かりんと別々の時間帯で登校をし始めてから、もう1か月経っているんだよね……。

なんとなく私が早い時間、かりんが遅い時間で学校に来るのが定番になっていて、今日も私は数人しかいない教室に一人静かに席に座っていた。

「優菜、大丈夫?どうかした?」

あみちゃんの声が聞こえて、突っ伏していた顔を上げる。

「聞いてよ、あみちゃん――あ、るるちゃんも一緒だ!おはよう!おかえり!!」

あみちゃんの隣にはお久しぶりのるるちゃん!

「立花ちゃん、おはようございます!ただいま戻りました!」

邪念のないその笑顔が、私の心に染み渡る。

るるちゃんが元気そうでよかった!

この間の黒萩先輩の一件で気持ちの整理がついて、感情がすっきりしたのか、素直に嬉しい気持ちが入ってくる。

「るるちゃん、この間は突然ごめんね。おかげで黒萩先輩とちゃんと話せたよ」

「そうですか!いいお話が出来たみたいでよかったです」

「ん?いいお話?」

疑問に思って私が訊ねると、るるちゃんは人差し指をそっと自分の唇にあてて微笑んだ。

「立花ちゃん、とってもいい笑顔ですので、そうだったのかなって」

なるほど、いつのまにか私は感情がわかりやすく顔に出てしまっているらしい。

「そんなの、るるちゃんと久しぶりに会えたからの笑顔だよ!でも、いいお話だったのは確かだったから、ありがとうね」

「わ、嬉しいです!」

「優菜、黒萩先輩と話したの?」

少し不安そうにあみちゃんが訊いてくる。

「あ、うん。そのおかげで色々腑に落ちたこともあって」

「そっか……ちょっと優菜とは整理したい事が多いから、じっくり話せる時間が欲しいな」

「そうだね、私も聞きたいことがまだまだあるもん」

あみちゃんとるるちゃんがいつも通り接してるのもちょっとびっくりしたし!

あみちゃんはるるちゃんとの事で悩んでいたはず……。

そんなことを考えていると、ひときわ明るい声がこちらに届く。


「るるちゃんだー!!」

教室に入ってまっすぐこちらに向かってくるかりん。

るるちゃんのそばで飛び跳ねるほどの勢いで喜んでいる。

そんなかりんのるるちゃんに向けられた笑顔にきゅっと胸が締め付けられる。

ああ、やっぱり私、かりんの事を意識しちゃってる。

そのことに少しほっとしたりして。やっぱり私、ちゃんとかりんのこと大好きなんじゃん。


「柚木ちゃん、お久しぶりです!」

「わー!おかえり!会いたかったよー、るるちゃん!」

「ただいまです!私もずっとみなさんに会いたかったですよー!」

るるちゃんもかりんのテンションにあてられて、かりんの手を取ってかりんと一緒にぴょんぴょん飛び跳ねる。

そんな様子を優しく見守るあみちゃんはまさしくお姉ちゃんって感じだ。

やっと四人揃えた安心感で、私もずっと頬が緩みっぱなしだ。

「これからもみんなでいっぱい遊びましょうね!」

るるちゃんのそんな言葉でかりんが飛び跳ねるのをやめて、気まずそうにるるちゃんから目を逸らした。

「あー……でも、私、文化祭委員会に入ってるから、これから忙しくなってしばらくは一緒には遊べないかも……ごめん!気にせず三人で遊んでほしいな!」

かりんがそう言うと、始業のチャイムが鳴り、それじゃあねとかりんは席に戻っていった。


 * * * 


「かりんはああ言ったけど、間違いなく私のせいだよねー……」

放課後、かりんは委員会の会議があるからと言ってそそくさと教室から出て行ってしまった。

「うーん?立花ちゃんのせいってどういうことですか?今から柚木ちゃんは委員会なんですよね?」

るるちゃんが首をかしげて不思議そうにしている。

かりんが教室を出て行ったあと、私とあみちゃんとるるちゃんの三人会議を開くことになったのだった。

「その辺りの整理もかねて、順を追って話していこっか」

あみちゃんの言葉に私とるるちゃんが頷く。

「まずは、るると黒萩先輩とのキスについて」

「うぇ!?」

顔色を変えずあまりにもあっさり言うあみちゃんに私は変な声でうろたえてしまった。

私が知らない間に、あみちゃんはまた一つ何か乗り越えたのかな?

「その件については、色々お騒がせして申し訳ないです……」

「ううん。私がもっと早くるるに向き合えていたら、ここまで大事にはならなかったわけだし」

るるちゃんがシュンとしたのを見て、すぐにあみちゃんがフォローする。

「もしかしてもう二人で話し合い、済んじゃってる感じ?」

仲良さげな二人の空気を感じて、私はあみちゃんに訊ねる。

「実は、そうなんだ。優菜には色々心配かけてごめんね。でも優菜のおかげでるると真っ直ぐ話すことができた」

あみちゃんはるるちゃんとアイコンタクトを取る。そして、るるちゃんは頷いてゆっくり話し始めた。

「わたしは姉を見送った後、昨日の夕方にはこちらに着いていたんです」

「その事、るるから聞いていたから、すぐにでもるるに会いたくて」

あみちゃんが言いながらるるちゃんの方を見ると、るるちゃんが微笑んだ。

「あみちゃんがすぐにお家まで来てくれて、それで夜までじっくりお話ししました」

「なるほど……」

話しながらるるちゃんの頬がうっすら朱に染まっている。

どうやら、話し合いは順調だったみたいだね。黒萩先輩との例の件はあんまり重く扱わなくても大丈夫ってことなのかな。

そういえば黒萩先輩に訊ねた時も、理由までは教えてもらえなかったけど、るるちゃんのこの様子だと訊いてみてもいいかもしれない。

「それで、るるちゃんはえーっと……どうして黒萩先輩にキスを?」

少し悩みながらもるるちゃんに直接訊ねると、るるちゃんは少し伏し目がちに

「お恥ずかしながら、私は素敵な女性になれるようにと、黒萩先輩に色々ご相談しているんです」

「あ……」

その言葉で思い出す。るるちゃんは黒萩先輩憧れていて、目標にしているって言っていたっけ。

「それで、私、あみちゃんに上手にキスをする方法を知りたくて……」


「……え?」


「そのー……あみちゃんに上手にキスをする方法を黒萩先輩に訊いていまして……」


「え、黒萩先輩の話だったはずなのに、これってるるちゃんとあみちゃんの惚気話なの!?」

「いえ、その、ちがいはしませんけど……」

るるちゃんの顔が真っ赤っかだ。あみちゃんも照れを隠すようにそっぽを向いている。

「それで、教えてほしいからって黒萩先輩が、るるちゃんにキスしたの!?なんで!?」

「け、結果的にはそうですね。――あ、そうだ!キスってする場所で意味が違うんです。立花さん知ってましたか?」

わざとらしく話題を変えるように言ってるるちゃんが椅子から立ち上がった。

いや、変わってはないか?話題。

「キスの場所……?」

そういう話を聞いたことがあるような、ないような……。

「例えば、手の甲へのキスは相手への敬愛、頬へのキスは相手に対する親愛、おでこへのキスはその人への祝福だったりするそうです」

「あー、それでかー……」

確か、黒萩先輩からるるちゃんへはおでこ、るるちゃんから先輩へは頬へのキスだった気がする。

「私も昨日それを聞いて唖然としたよ」

「ほっぺやおでこには姉ともよくキスしていましたので、その延長の感覚でいたんですけど、まさかお二人に見られているとは思わず……立花さんに訊ねられたときに嘘をついてしまいました。本当に、ごめんなさい」

丁寧にお辞儀したるるちゃんに慌てて私は手を振った。

「大丈夫、大丈夫!気にしなくていいって。黒萩先輩から秘密にするように言われてたって聞いたよ。るるちゃんはその約束を守ったってことなんだから」

「うぅ、ありがとうございます。しかも、あみちゃんの体調を崩した原因も私だったみたいで……」

「――謝罪は昨日も聞いたからなし。それより、事情を知っていてフォローしてくれた優菜に感謝、でしょ?」

「あみちゃんの言う通りですね……立花さん、本当に色々ありがとうございます!――ですので、私、立花さんに恩返しをしたいんです」

「私も。だから優菜、花梨との事、良かったら私たちが力になれないかな?」

柔らかい表情であみちゃんが私を見てくれる。

「そっか……」

あみちゃんとるるちゃん、二人になら話しても大丈夫。

二人に頼ること。ちゃんとみんなに話すこと。きっとそれが、今の私に必要なことだ。

「実はね」

私は二人に話し始める。

かりんと幼馴染のまま恋人になったこと、その関係が歪で、気持ちにすれ違いがあってしばらく距離を置くことにした事、そして。

「やっぱり、私はかりんの事が大好き、愛してる。でも、今更そんな都合のいいことを、距離を置きたいかりんには言えなくて……」

「なんだか、優菜らしくないね。そんなに弱気になっちゃって」

ツンとあみちゃんに肩をつつかれた。そしてるるちゃんは少し首をかしげる。

「うーん。でも優しい立花さんらしいって事でもあるんじゃないでしょうか?柚木さんの事を考えすぎて、自分の事を後回しにしちゃっている感じが」

「うっ、なんか二人ともちょっと厳しくない?」

「優菜を思っての事だよ。まあ距離を意識的にとっているのに加えて、花梨、文化祭委員だもんね」

「そうでした。一つ気になっていたのですが、文化祭委員会って忙しいのですか?確か、去年はちょっとした展示会と合唱会で、委員会としてのお仕事はあまりないと思っていたのですが」

「どうやら今年から本格的な文化祭になるみたいでね。ちゃんとした出し物をしようって話になってる。生徒だけじゃなくて、招待制の一般のお客さんも参加するみたいだよ」

「そうだったのですか。わたし、しらなか――あ、そういえば以前、黒萩先輩が文化祭を楽しめるものにしたいっておっしゃっていたような」

「黒萩先輩が教員や各所に猛プッシュしたみたいだよね。来年からの予定だった形式の文化祭を今年から実行するって。学年縦断のクラス毎に出し物をするんだってね」

「縦断ってことは、一年生、二年生、三年生のA組で一チームってことですよね?」

「そうそう」

あみちゃんとるるちゃんの話を黙って聞いていると、黒萩先輩の事を思い出す。先輩が三年生で、恋人の二人は二年生と一年生だったはず。三人で一緒の高校で過ごすのは今年が最後ってことで、先輩も気合が入っているのかもしれない。

それにしても――

「今年は結構大がかりだから、文化祭実行委員会も忙しいってことだよね……そんな中、私が気持ちを伝えたら、かりんにそれ以上の負担をかけちゃうかも」

「うーん。かりんがどう思ってるのかはわからないけど、気持ちの整理をつける時間は欲しいかもしれないね」

「そうだよね……」

私とあみちゃんが悩んでいると、るるちゃんがぱっと明るい声を上げる。

「でしたら、文化祭当日に立花ちゃんと柚木ちゃんを二人っきりにできませんか!」


 * * * 


お昼休みは四人一緒に過ごして、放課後はかりんが委員会に向かうのを見送る。

私とかりんの関係も、付かず離れずの距離を続けて三週間ほど経っていた。

「いよいよ、文化祭当日……!」

「優菜、緊張してる?」

あみちゃんに訊ねられて私は小さく頷いた。

私たちC組は天使と悪魔のメイド喫茶。

主に一年生が衣装、二年生がメニューの考案を担当して三年生が全体をまとめ上げて完成した。

今日の文化祭開始から一時間のシフトは、私たち四人がまとめて入っている。

今は先に着替え終わった私とあみちゃんが衣装のチェック中!


「こんな衣装着ることもないし、接客もやったことないし、これからの作戦の事もあって、緊張するなって言う方が無理だよ~」

「まあ、私も緊張するけどね、こんなの一生のうちに着る機会なんてないと思ってたし」

そう言ってメイド服のロングスカートをふわりと揺らすあみちゃんだけど、落ち着いた様子で全く緊張しているようには見えない。

「あみちゃん、今回の悪魔メイドばっちり似合ってていいなぁ」

悪魔メイドの服といっても、黒基調のメイド服に白色のエプロンの丈を短くして、ツノカチューシャをつけたシンプルなものだけど、あみちゃんが着るとめちゃくちゃかっこかわいい。


「優菜も着こなせてるよ。まあでも、優菜が天使じゃなくて悪魔の方を選ぶとは思わなかったけど」

あみちゃんが私を上から下まで見てから意外そうに言った。

確かに、私も迷ったところだったけどね。

「だって、みんな私のこと優しい優しいって言うんだもん――悪魔にでもなってやらないと、変われない気がして」

「なるほど、そんな理由が。やっぱりすごいね優菜は」

そう言うと、あみちゃんは柔らかく微笑んだ。

「わー!お二人とも可愛いです!」

奥の方からるるちゃんが駆け寄ってくる。

天使メイド服の着替えが終わって、キラキラオーラをまとっている。

クラシカルメイド服で大きめの白エプロンと天使の輪っかカチューシャをつけた天使メイドは、白色の面積が大きくなっていて、私たち悪魔メイドと対照的だ。

「るるもすごく似合ってて可愛いよ。天使みたいだ」

「えへへ、ありがとうございます!天使メイド、ですので天使ですよ」

いつかのイメージ通りの天使るるちゃんがくるりと一回転する。揺れるスカートとエプロンがとってもキュートだ。

でも、それよりも。 それよりも!

「うぅ、なんか恥ずかしい。こんな格好で本当に接客できるかなぁ。お母さんとお父さんも絶対見たいってはしゃいじゃってたし……」

そう、私は天使メイドのかりんから目が離せなくなっていた。

るるちゃんの後ろからとぼとぼやって来て、落ち着かない様子でもじもじしているのが、とってもいじらしくて愛おしい。

普段は元気いっぱいのかりんが恥ずかしそうにしゅんとしている姿そのものが可愛いのに、普段見ることのないロングスカートで意外性の清楚さが際立っていてとてもいい。

――なんて全部口に出したい気持ちをグッとこらえる。偉いぞ、私。

「かりん、似合ってて可愛いよ!自信もって!」

「う、うん。ありがとうゆうちゃん。みんなも新鮮な感じだけど、似合ってるね」

弱弱しく笑うかりん。私も緊張してたけど、珍しくかりんもすごく緊張してるみたい。

『ただいまより、一般参加の入場を開始します。白桜祭を是非ご堪能下さい』

校内放送でのアナウンスを聞いて、気を引き締める。

さあ、いよいよ始まる……!頑張ろう!


 * * * 


午前中の最初だから、お客さんはそこまで入らないと思っていたけど、そんなことは全然なかった。

教室二つ分の座席はほとんど埋まっていて整理券も配り始めている。

白桜生徒と生徒から招待券をもらった一般の参加者、半々くらいの比率みたい。

「お持たせいたしました!ストロベリーパンケーキのコーヒーセットです」

「わー、美味しそう!」

お客さんの笑顔を見て、私も自然と顔が緩む。

接客経験はなかったけど、メニュー数も少ないし、一つのテーブルに対して一人以上は応対できるシフトの人数なので、順調にお店が回っている。

「みてみて、あの子めちゃくちゃ可愛くない?」

「わっ、本当だ。あ、その隣の子落ち着いててクールな感じがして素敵だね……」

三年生らしき人がるるちゃんとそのそばににいるあみちゃんを見てうっとりしている。

ふふふっ、私の友は先輩すらも魅了するスーパーガールなのだ。

るるちゃんも初めての接客を楽しそうにこなしている。

あみちゃんと接客練習をしたみたいだし、そのあみちゃんもなるべくるるちゃんの近くにいてフォローできるようにしているみたい。


「すみません注文いいですか?」

「は、はい……!」

お、かりんが緊張しつつも夫婦らしいお客さんの所へ向かって行った。

ぐるっと周囲を見渡すけど、他に私が出来そうな仕事は今のところはないし、ちょっと様子を見ておこうかな。

「私はチョコパンケーキのコーヒーセットで。あなたは?」

「俺はミートソースパスタと、あれ、ドリンクのページどれだっけ」

「あ、えっと……」

「ああ、これだ。ウーロン茶を一つお願いするよ」

「は、はい、注文承りました」

――なんだか、かりんの様子がちょっとおかしいかも。

こんなに緊張しているかりん、あんまり見たことないかもしれない。

「そうだ。娘がこの店にいると思うんだが、呼んでくれないかな?涼香というんだが」

「え、えっと、そうですね……」

まずい、とうとう下を向いてしまっちゃってる。

私はかりんの方にそっと近づく。わっ、かりん少し震えちゃってる……?

優しく触れて、手を握って大丈夫だよって伝えてあげたい。

でも今私がそれをやるのはきっとダメだ。接客中、お客さんの前でもあるもんね。

「すみません、お客様。トラブルの元となりますので、店員の呼び出しはできないルールとなっておりまして」

だからかりんに代わって私が対応する。

かりんが落ち着くように、なるべく柔らかいトーンの声で伝える。


「ああ、そうか、それもそうだね。ごめんね、無理言って」

「いえ、ご理解いただきありがとうございます。それでは、ご注文を承りましたので。ね、かりん?」

「は、はい!チョコパンケーキのコーヒーセット、ミートソースパスタ、ウーロン茶でよろしいですか」

再度確認した後、私はかりんを連れてオーダーを通しに隣の家庭科室へ向かう。


「あの、ありがとう、ゆうちゃん。すっごく助かった」

「どういたしまして。それよりもかりん大丈夫?ちょっと休む?」

「あ、それは大丈夫。体調が悪いとかじゃないんだ」

手を横に振って否定するかりん。

どうしてあそこまで緊張していたのか。気になるけど、今の私なんかが訊いちゃダメ――そこまで思い浮かんだ考えを否定する。そうやって、また私はつかみ損ねるの?

「そっか、さっき普段見ないくらいガチガチだったから、心配しちゃった。もしかして、何かあったのかなって」

「えっとね……私接客って初めてで、しっかりしないとって思えば思うと緊張しちゃって、声が出なくて。――それに実は、大人の男の人ってちょっと苦手で……」

「そうだったんだ……」

ずっと一緒にいたのに、知らなかったかりんの一面。

「どうしよう。このままじゃ、またみんなに迷惑を……!」

接客っていうプレッシャーがかりんの苦手意識を際立たせていたのかもしれない。

生徒からの招待券を受け取ったお客さんは、ほとんどが生徒の友達か家族だと思う。

だったら――

「ねぇ、かりん。男の人じゃなかったら、接客できそう?」

「え?う、うん。頑張れると思う」

「それじゃあ、基本男性がいるグループは私が対応するから、かりんは気負わずに他のお客様の接客を頑張って!」

「でも……」

「もちろん、無理はダメだよ?しんどいことを続けるのは、せっかくの白桜祭がもったいないし。でも、かりんが頑張るなら、私も――あみちゃんも、るるちゃんも、きっと応援するからさ」

「うん。うん!ありがとう、ゆうちゃん。私、頑張りたい」

強くそう宣言したかりんと私は、また教室に戻っていく。

大丈夫、まだ私はかりんの隣に立っていられる。

その関係を、これからも続けたい。それが今日にかかっているんだ。

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