7月~弾けるおもいで~ 後編


 かりんのサプライズ誕生会をした次の日、お昼前まで別荘でゆっくりしていた私たちは、近くの緑地公園に向かっていた。

「いやー、やっぱり夏といえばバーベキューだよね!」

 元気よく前を歩くかりんを先頭に、公園のバーベキューエリアを目指す。

 るるちゃんは「別荘でも準備できるし、お手伝いさんもいますよ」と言ってくれたけど、頼りっきりになるのも申し訳ないし、公園で体を動かしたい気持ちもあったので満場一致でここに来ることになった。


 なんと、手ぶらバーベキューということでスタッフの人がセッティングや火起こし、食材の準備など色々してもらえるから楽々!

「るるはさっきから何を大事そうに抱えてるの?」

 私の後ろであみちゃんがるるちゃんに問いかける。

「マシュマロです!バーベキューの醍醐味だそうですが、わたしは食べたことがなくて。柚木ちゃんが焼きマシュマロは絶品だって言っていたので、楽しみです!」

「ホントにるるちゃんはなんでも楽しそうにしてくれるから、新鮮な気持ちで私たちも楽しめるよね!」

 私の言葉にあみちゃんも深く頷く。

「それは同感。るるが楽しいとこっちまで楽しいもん」

「ふふーん。焼きマシュマロで頬っぺたを溶かするるちゃんを早く見たいものだね――あ、みんな、見えてきたよ!あの看板がそうじゃない?」

 かりんが指差す方にはキャンプエリアの看板があった。

「じゃあ、私が受付済ましてくるよ」

 あみちゃんが受付に向かい、しばらくするとスタッフさんに案内されて私たちはテーブルに座った。

 手際よくバーベキューコンロに火が付けられ、飲み物も各自用意してバーベキューの準備が整う。


「よし、じゃあお肉焼いていくか」

 トングを持って網の前に立つあみちゃん。

 ――いや、ダジャレじゃなくて。

 お肉を並べて焼いていく様がすごく似合っている。

 火が似合うカッコいい女……!


「私も焼く~!」

 と元気よくそこにかりんも加わる。

 かりんは可愛らしさと元気の塊なので、火の似合うあみちゃんとは別の雰囲気だけどこの場に馴染んでいた。

 バーベキューというイベントに!そう、かりんは陽の雰囲気でこそ輝くのだ!

 と、かりんの事をずっと目で追っている自分に気付いた。

 やっぱり、恋人になったことで前より意識しているのかも……。


「ふふっ、あみちゃんと柚木ちゃんすごくバーベキューにピッタリの雰囲気ですよね」

 私がじっと見ていたのに気付いたのか、るるちゃんがそう言ってくる。

「うん!似合い過ぎてちょっと見惚れちゃってたよ」

「わかります。かっこいいですよね、みんなでバーベキューに来て良かったです!」

「そういえば、るるちゃんはバーベキューは経験あり?」

「そうですね、家族とは何度か。小さいころの話ですけどね。お友達とは初めてです!」

「ほうほう。また私たちが最初の経験を与えてしまったね。でも家族とはバーベキューした事あるんだ――あれ、そういえばるるちゃんって一人っ子?」

「あ、家族の話はしてませんでしたっけ」

「おっと、お話ししたくなかったら大丈夫だからね?」

 一瞬、るるちゃんが寂しそうな表情をしたので私は柔らかくそう言った。


「えっとですね、実は私には姉がいまして。といっても、双子なので同い年なのですが」

「え!?るるちゃん双子だったの!?」

 全く知らなかった!あみちゃんは知ってたのかな。

「高校の時に関西の方へ行ってしまったので、しばらく会えていないんですけどね」

「そうだったんだ。でも双子なのに別々の高校にしたんだね?ちょっと意外かも」

「双子だから、ですかね。わたしたちは双子で、そこで世界が完結してしまっていたんです」


 昔の事を振り返りながら、少し俯くるるちゃん。

 私は何も言わずるるちゃんのペースで話してくれるのを待った。

「何をするにもずっと二人でいて、りりが――姉がいるなら友達も要らないって思っていました。でも、このままじゃいけないって」

「それで、お姉さんは高校を……?」

「はい。ちゃんと自立したいって、飛び出して行っちゃいました。すごいですよね、お手伝いさんがいるとはいえ、家族の元を離れるなんて。わたしとは大違いです」

「そんなこと、ないんじゃないかな」

「え?」

「だって私、知ってるもん、るるちゃんが一杯頑張ってるってこと。色んな経験増やして、ちゃんとやりたいこと楽しんでさ」

 自虐気味のるるちゃんを初めて見てちょっと戸惑っちゃったけど、ちゃんと言いたいことを言えた!


「それに、目標を持って進んでるじゃん!黒萩先輩に近づけるように努力しているんだよね」

「あ……立花ちゃんには黒萩先輩の事お話ししてましたね。励ましありがとうございます!そうでした今は頑張ってる最中でした!」

 ニコッとるるちゃんはいつもの明るさを取り戻して

「では新しい経験として、『みんなでお肉を焼く』を達成してきます!」

 とバーベキューコンロに向かって行った。


 現状に満足しないで、るるちゃんは変わろうとがんばっている。

 やっぱりかっこいいな、私も見習ってもっと努力しないとね。


 * * * 


 それから焼き係をくるくる交代して、後半戦に移っていた。

 今はあみちゃんとるるちゃんが残りのお肉を焼いてくれている。

「うわっ、るるちゃんのお肉美味しすぎない!?」

 私の隣に座ったかりんが感嘆の声を上げる。

「いや、言い方!なんかそれ意味変わってくるから!」

 確かにと笑うかりん。


 るるちゃんが実家から持ってきてくれたお肉をるるちゃんが焼いてくれているので、実質るるちゃんのお肉なんだけどさぁ。

「これ、ハラミだよね。口の中で溶けてっちゃうよ~」

「バーベキューで食べていい味じゃないよね……最高……!」


 お肉を堪能しつつ、手を合わせてかりんと一緒にありがたや~とるるちゃんを拝む。

 焼いてくれている二人を見て、一つ思い出した。

「そういえばかりんに訊いておきたかったんだけどさ」

 かりんとの距離を詰め、念のため二人には聞こえないように小声で話す。

「私たちがその――恋人になったってことは、二人には話す?」

「あ、あー、そうだねぇ」


 恋人って言われたのが嬉しかったのか、かりんは少し赤くなった。

 可愛い!

「二人なら茶化したりしないだろうし、私は話してもいいかなって思うんだけど」

「うん。私もゆうちゃんと同意見だよ。でも――」

 突然、かりんは近づいていた私をギュッと抱きしめた。

 びっくりしたぁ!

 手早く離れたので、焼いてくれている二人には気づかれていないと思う。

「こうやってしばらくは秘密の関係でいるのも、ドキドキしない?」

 いたずらっぽく笑うかりんにキュンとして、なるほど、そういうのも悪くないかもと知らしめられた……。

「わかった。じゃあ、いつか話す時までは二人だけの秘密だね」

「うん!愛してるよ、ゆうちゃん!」


 その後、焼きメンツを交代して、あみちゃんがるるちゃん肉を食べて私たちと同じリアクションを取ったり、焼きマシュマロを食べたるるちゃんが、ほっぺた落ちそうなくらい嬉しそうにしているのをみんなで眺めたりしてバーベキューを満喫した!

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