8月~熱々のイベント~
夏休み、恋人同士になった私とかりんは、二人だけのデートを重ねた。
水族館に行ったり、お家でまったりしたり――ちょっとだけイチャイチャしたり!
あみちゃんやるるちゃんと出会ってから二人っきりで遊ぶことはなかったので、
昔に戻ったみたいに新鮮な気持ちになっていた。
そして8月、私は約束を果たしにこの地にやって来ていた!
「とうとうこの日が来たね、優菜!」
そう、いつもよりテンション高めなあみちゃんと共に。
「ガールズクエストのリアルイベントだぁ!!」
いよいよ会場に入場して、私も高揚感にのまれていた。
色々な展示物や体感型アトラクションがずらっと並んでいる。
パンフレットに載っている様々な情報にワクワクしながら、会場を見て回る。
「あ!あみちゃん、あれ行きたい!VR体感冒険譚!」
「そう、私も気になってたんだよね!ガルクエの世界に入り込んで冒険できるなんて夢みたい!」
意気揚々と二人で VRアトラクションのコーナーに入る。
ガルクエでは、自分の分身として主人公をキャラクリエイトして冒険できる。それだけでなく、主人公抜きで他の魅力的なキャラクターを操作し、パーティを結成して冒険することもできるのが一つの特徴として挙げられている。
今回はその主人公としてガルクエの世界で冒険できるらしい。
しかも、お助けキャラを一人につき一キャラを連れていける!
誰にしようかあみちゃんと真剣に悩みながらキャラを選び、いよいよプレイスタート!
「あみちゃん!右から敵が!」
「了解!」
聖騎士のあみちゃんが盾で敵を受け止めてそのまま弾き飛ばした。
「優菜、前方に敵集団!」
「オッケー!『メガフレイム』!」
魔法使いになった私は集団の骸骨姿の敵に向けて炎魔法を打ち込む。
き、気持ちいい!
二、三体の敵をあみちゃんが前方で盾を使って受け流す。
その敵にあみちゃんの隣でビキニアーマーの戦士、メリーちゃん(私の推し!)が攻撃を仕掛けている。
善戦していてもどうしてもくらってしまう被弾でダメージを受けている前衛二人に回復魔法を届けているのが、白ローブをまとった治癒士のフィーちゃん(あみちゃんの推し!)。
「あみちゃんの横!『クロスサンダー』!」
するりとあみちゃんの隣に回り込んだ敵に魔法をぶつける。
「サンキュー、優菜!よし、じゃあ私も『フロストシールド』!」
あみちゃんの盾が強烈な冷気を発し、前方の敵を凍結させる。
そうやって敵を蹴散らしていると、『WARNING!』の文字がステージ上に表示された後、鬼の形をした二体のボスモンスターが現れる。
戦士のメリーちゃんが遠くにいる赤色の鬼に駆け出して行って、攻撃を繰り出す。
青色の鬼はのそのそと私たちに向かってくるのをあみちゃんが盾で押しのけた。
さて、どちらから先に倒すか。
青鬼の方が私たちとの距離が近いし、魔法も打ちやすそうだよね。
「先に青鬼から行くね!とっておき、『チャージファイア』!」
炎を圧縮して、高火力を単体に打ち込む大技!
私は青鬼にターゲットを取って準備体勢に入っていた。
――そこで、赤鬼の様子が変わった。
メリーちゃんを振り払い、ものすごい速度でこちらに突っ込んできていた。
明らかに私を狙ってる!!
私はその場で動けず、どうしようもなく立っているだけだった。
「やばい、やばいやばい!!」
寸前まで迫ってきた赤鬼が怖くて、私は目をつぶる。
ガキーンと何かが弾いた音がする。
「優菜には、触れさせない……!」
目を開けると目の前であみちゃんが攻撃を防いでいた。
え、うちの騎士様カッコよすぎでは!?
おっと、見惚れてないで役割果たさなきゃ!
炎の弾丸をターゲッティングしていた青鬼に撃った後、すかざす雷魔法を赤鬼にぶつける。
「あみちゃん!今なら!」
「オッケー!よいしょっと!」
雷魔法は弱点属性だったようで、怯んだ赤鬼にあみちゃんが盾で突っ込んで体勢を崩させ、メリーちゃんもこっちに戻ってきて連撃を繰り返す。
私たちに有利が回ってきて、回復が中断できたフィーちゃんが私たちに攻撃力上昇の魔法をかけた。
「よし、バフがはいった!行けるよあみちゃん!」
「ラストスパートだ!」
流れを引き込んだ私たちはそのまま二体の鬼を退治して見事勝利。クエストクリアとなった!
「あー、全部楽しかったー!」
「ほんとに幸せな空間だよ……あみちゃんがいてくれて、ここに来れて良かった……」
VR体感冒険譚の後、キャラクターのスタンディパネルと写真を撮ったり他のアトラクションに参加したりと、めいっぱい楽しんでいた。
今はアイスをつまみつつ、ベンチに座って休憩中だ。
「それにしても冒険譚のときのあみちゃん、カッコよかったな~!」
「もう、さっきから褒めすぎだってば。盾役として当然に頑張っただけだよ」
何度褒めてもちょっと照れてくれるあみちゃん。
今日は終始テンションが高めで、私も嬉しい!
「そうやって私にばっか構っちゃったら花梨、すねない?」
あみちゃんから急にかりんについて触れられて、私は一瞬思考が停止した。
――え、あれ?もしかして気づかれてる?
だ、大丈夫だよね、平常心、平常心……。
「え、えー?なんでかりん?」
ちょっと声上ずった気がする!
「いや、だって花梨、いっつも優菜のこと気にするじゃん?布団は絶対隣にするし、お見舞いの日も何がなんでも自分一人で大丈夫って言い張ったり」
「え、お見舞いのときそんなだったの!?」
もし気づかれたとしても、原因は100%かりんのせいだからね!?
「幼馴染としてというか、花梨は独占欲強いなーって思ってたからさ」
「もしかして、今日二人で来てるってこと万が一でも知られたら、かりん怒るかな……?」
「怒るっていうより、妬きそうだなぁ」
「な、なるほど……あの、あみちゃん?今日の事は二人だけの秘密ということで」
「もちろん。優菜も誰にも言っちゃダメだからね」
「墓場まで持っていきますので……」
あみちゃんは笑って
「そんなになるんだったら、花梨も誘えばよかったのに」
「いや、かりんはこういうゲームにあんまり興味ないし、それにその」
「――ああ、そういえば優菜の好きなキャラってちょっときわどい恰好というか、エッチなキャラが多いもんね」
「ち、ちがう!そうじゃない!」
違わないけど!!
「はいはい。みんな可愛いもんね、ちょっと露出が多いけど、可愛いから仕方ないよね」
「そ、そういうあみちゃんだって、身長低めだったり、ちっちゃいこばっかり推しじゃん!もしかしてロリ――」
ヒッ!無言でにらまれたので、お口チャックします!!怖いよ!
「でも、やっぱりあみちゃんはお姉ちゃんなんだね」
「――やっぱり、そこに行き着くんだ?」
そう訊ねるあみちゃんに不思議な空気を感じた。
「うん。実の弟くんに対して優しくて頼れるお姉ちゃんしてるじゃん?るるちゃんに対してもそうだしさ」
「うん、そうだね。ちゃんと私が守ってあげたいから」
「だから、保護欲というか、母性を刺激する子が好きなのかーって思ってちょっと納得」
「勝手に納得しないで!確かにその傾向はあるかもだけど!」
認めちゃったよ!まあ、癖は人それぞれということで……わ、私はガルクエはゲーム性が好きだからハマってるだけだしね!ね!
イベントを最後までがっつり堪能した私たちは、興奮しっぱなしで帰り道を歩いていた。
「優菜と語りつくせて楽しかった!」
「ほんとに!というか、こうやってあみちゃんと二人だけでお出かけって初めてだよね?」
「そういえば、そっか優菜と出会った頃からかりんと三人で遊んでたもんね」
「最近は、るるちゃんと四人で会うのがほとんどだもんねー。そういえば、今日はるるちゃんは誘わなかったの?」
「誘ってはみたんだけど、今日は予定があるらしいんだ」
そういえば、ここ最近るるちゃん忙しそうだったな。
中々四人で集まれないので、その分私とかりんは二人きりで会う機会が増えていた!
というか。
「私から聞いててなんだけど、るるちゃん誘ったの!?ゲーム知らないんだよね!?」
「あ、一応優菜が一緒とは言ってないよ。一人で好きなゲームイベントに行くんだけどって感じで話してて、るるはなんでも楽しそうにしてくれるから、もしかしたら行けるかもって……」
「確かに……」
満面の笑みで会場にいるるるちゃんが容易に想像できてしまう!
「私、あのイラスト展示が印象に残ってるなぁ」
「あれ、よかったよね!普段見ない組み合わせのキャラもいて、これからの展開が待ち遠しいよ!」
話しながら歩いていると、大きな道から少し外れたのか、人通りが少なくなった。
ふと、あみちゃんが歩みを止める。ちょっと緊張してる様子かも?
「どうかした?」
「うーん。やっぱり優菜には言っておきたいことがあって……」
「おー?いいよ、今日は機嫌がいいので大抵の事では怒らないので!」
「いや、懺悔の話じゃないってば」
そうツッコんで少し緊張が解けたみたいだった。
「その、実は私――女の子が、好きかもしれなくて」
頬を少し赤らめながら、そう言うあみちゃん。
こんな雰囲気になった姿は初めて見て、私は少し戸惑った。
「ほら!ガルクエでも絆レベルが上がれば、女の子同士で恋人になるキャラもいるじゃん?それで、優菜なら、その――」
「うんうん。いいよね、友情のその先へってやつ!私も好きだもん」
「あ……」
「あみちゃんが好きになった女の子ってどんな子なの?やっぱり妹系?でもそれは守りたいって感じで違うのかなぁ」
「こら、勝手に推測しないの」
笑顔でそう言うあみちゃん。
そっか、あみちゃんも女の子が好きなんだ。
「私も――」
言いかけて気づく。
私は、どうなんだろう。
かりんの事は好きだ。でも、今までだってそうだった。
あみちゃんもるるちゃんだって好き。
大切な友達だ。
「優菜?」
私がフリーズしちゃったので、あみちゃんが不思議そうにこっちを見ている。
私は、ちゃんとかりんを――
その時雰囲気が、その場の空気感がガラッと変わった。
まるで、お話の主人公が現れたような。
そんなオーラを感じてそちらに視線を向けると、そこには『女神さま』がいた。
「あれが、黒萩先輩……」
遠目で見てもすぐに分かった。
さすが、白桜女子高の『女神さま』は
「ねぇ、あみちゃん――」
振り向くと、隣のあみちゃんは顔を真っ青にしていた。
え、なんで?黒萩先輩となにか関係が!?と色々思考を巡らせていると、私も気づいてしまった。
『女神さま』の連れ。黒萩先輩と仲良さげに話している人物。
「なんで……るる……」
そう呟いて呆然とするあみちゃん。
黒萩先輩とるるちゃん、普段では絶対見ない組み合わせ。
でも、私はそこまで驚かなかった。
るるちゃんは黒萩先輩に憧れていて、目標にしているって言ってたもんね。
これもその頑張りの一環なのかな。
なんてのんきに考えていたら、『女神さま』はるるちゃんのおでこにキスをした。
「――え?」
キスをした『女神さま』は屈んだまま待機する。
すると、るるちゃんはお返しにといった感じで『女神さま』の頬にキスをした。
黒萩先輩のオーラで気づいた私たちとは違い、かなり遠い距離のるるちゃんはこっちには全く気付いていない。
隣で地面を蹴りだす音がして、そちらに視線を向ける。
あみちゃんが、るるちゃんのいる方向とは真逆に駆け出して行った。
私は声も出せずに、虚しく手が伸びるだけだった。
そしてこの時から、あみちゃんとは連絡が取れなくなってしまった。
* * *
その日の夜。
今日の出来事が頭から離れない。でも何一つわからない堂々巡りの中、かりんから着信があった。
付き合うことになった私たちは、毎晩通話するのが日課になっていた。
『もしもし~』
「かりん、こんばんはぁ」
『あれ、ゆうちゃん今日はちょっと元気ないね?』
「うんー、出先で気になることがあってね――あ、でもかりんに心配してもらうほどじゃないから、気にしないでね!」
正直あの事態はあみちゃんの事もるるちゃんの事も何も飲み込めていないし、かりんに話すとしてももう少し整理がついてからだよね。
『そうなんだ――あ、そうだゆうちゃん!今日クッキー焼いてみたんだ、見てみて!』
楽しそうに話すかりんから早速写真が送られてきた。
「わ、美味しそう!すごく上手に出来てるね!」
『えへへ、ありがとう。プレーンとココアの2種類作ったから、明日一緒に食べよう!』
「やったー!かりんの作るお菓子好きだから、クッキー楽しみ!」
『あ、それとねゆうちゃん。お願いがあるんだけど……』
かりんの声が少し小さくなり、雰囲気が変わる。
『明日、またゆうちゃんのお家にお泊りしてもいいかな……?』
恥ずかしそうに言うかりんのおかげでこっちまでこそばゆい気持ちになってきた!
「う、うん。わかった明日ね。待ってるから」
動揺をなるべく隠しながら余裕を持ったように話す。
だってだって、ここで反応しちゃったらなんか私が期待してるみたいじゃん!
「じゃあ、また一応お母さんに連絡入れておくよ」
『うん、よろしくね。私はもう家族には言ってるよ~』
私のお家にお泊りの時は、家族にちゃんと伝えることにしている。
もちろん、快くOKしてくれるんだけど、私たちが恋人として付き合ってることはナイショにしているので、騙しているみたいでちょっと罪悪感があるんだよね……。
女の子同士のお付き合いってみんなどうしてるんだろう。
ふと、思い出したことがあったのでかりんに訊いてみようかな。
「ねぇねぇ、かりん。前に黒萩先輩が一年生とお付き合いしてるって話してたよね」
『うん、そうだよ~。ゆうちゃんが興味持つなんて珍しいね!』
「ちょっと気になっちゃって。それって、まだお付き合い続いてるのかなぁと思ってね」
うーんとかりんが記憶を辿るように少し考えて
『別れたって話は聞いたことないかも。『女神さま』関連のニュースはすぐに広まるからね~』
「そっか~」
じゃあ、今日のあのキスは何だったんだろう。
私はちゃんと黒萩先輩を見たことはないけど、あの雰囲気は間違いなく黒萩先輩なんだろうな。
るるちゃんも、ちょっと遠目ではあったとはいえ流石に本人だと思う。
るるちゃんちょっとズレてるし、ほっぺにチューくらいは挨拶とか思ってたり……。
それから、あみちゃんの事も気になる。あれから大丈夫かな……。
不安と考え事が一杯で、今日は中々寝付けなかった。
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