7月~弾けるおもいで~ 前編

 何気ない日常が過ぎ、梅雨も明けてとうとう夏休みに突入!

 7月中旬になり、外に出たくないほどの暑さが続くけれど、この日のために私たちは頑張ってきた!


「おー……」

 赤守家の別荘に到着した私たちは、その建物を見上げて仰天した。

 るるちゃんは少しコンパクトな別荘と言っていたけれど、私の家とそう変わらない大きさに見える。

「どうぞ、遠慮せずに上がってください!」

 るるちゃんの声に従い、別荘の中に入る。

「こっちがリビングで、お手洗いはこちらです。それと――」

 部屋の案内を受けた後、みんなでかき氷を作ってプールへ向かった。

 屋外のパラソルの下、相変わらずの暑さだったけど、水辺のおかげで幾分かマシに感じられた。

 なにより――

「冷たくて、美味しい!」

 かき氷を頬張り、嬉しそうにするかりん。

「もう、かりんったらそんなに急いで食べて。耳がキーンってなっても知らないよー」

 私が言うと、るるちゃんが笑いながら、

「気持ちはわかります。みんなで食べる夏のかき氷、最高ですね!」

「今日はお世話になってるし、るるが楽しんでくれるのが一番だね」

 あみちゃんが優しく微笑む。

 って、あれ?

「あみちゃん、いまなんて?」

「うん?だから、るるが楽しんでくれるのが一番だって」

 私が聞き返すと、何の疑問もなくあみちゃんが答えてくれた。

 やっぱり聞き間違えじゃなかった!

「あみちゃん、いつの間にるるちゃんのこと名前呼びになったの!?」

「確かに!」とかりんも頷く。

 あみちゃんは、なんだそのことかと至って落ち着いていた。

「ほら、優菜も花梨も名前呼びだったから、るるだけ違うのも変だなって思って本人に訊いたんだよ」

「はい。わたしの方からもあみちゃんって呼ぶことになりまして。もう一年以上の付き合いですので!仲良しに前進です!」

 なるほど。一年かけてるるちゃんの心を開いたご褒美ということですかー。

「じゃあ、るるちゃん!私のことも是非、花梨って呼んでよ!」

「えーっと、か、かりん――ごめんなさい!柚木ちゃんで許してください!」

「ふむ。さん付けからちゃん付けに昇進か。よかろう、よく頑張った」

「なんでかりんが偉そうなの……」

 とジトッとした目でかりんを見てやった。

「あ、そうだ、るる。そろそろじゃない?」

 コソッとあみちゃんがるるちゃんに小声で話す。

 多分かりんは気づいていない。

「じゃあ、ちょっとあみちゃんにはお手伝いしてもらいたいことがあるので、こちらへ」

 るるちゃんに引かれてあみちゃんたちは部屋に戻っていった。

 プールに残されたのは私とかりんだけ。

 そう、あみちゃんたちはかりんの誕生日サプライズパーティーの準備に向かってくれたのだ!

 無事に開始できるよう祈りつつ、プールサイドに近づく。

 かりんと一緒に足だけプールにつけて、足湯ならぬ足プールを楽しむ。

「ひんやりしてて、これはこれでいいね」

「ね、いい感じに気持ちいい!というか、またゆうちゃんと二人っきりだねぇ」

 確かにといいながら横を見ると、かりんと目が合う。

 ――と、すぐにかりんは顔をそらした。

 やっぱり、最近かりんと目が合わないというか、合わせてくれない気がする!

 私、気づかないうちになんかしちゃったかな!?

 なんだか変に緊張しちゃうけど、とりあえず当たり障りのない会話を……。

「そういえばかりん、この間風邪を引いちゃった時は看病ありがとうね」

「もう、それは何回も聞いたってばー」

 とかりんは笑って言った。

「だって、本当に本当に嬉しかったんだもん!」

「そっかー、それなら良かったよ」

 かりんは続けて、

「――ゆうちゃん。その時、眠る前に私に言ってくれたこと覚えてる?」

 眠る前に言ったこと?

 ふと記憶を辿って、思い出して顔が火照る。

 あれか、めちゃくちゃ甘えモードになったやつか!?

『――かりんが幼馴染で良かった。私のそばに居てくれる人がかりんで良かったぁ』

『ありがとう、かりん、私を大切に思ってくれて、大好きだよぉ』

 なんてこと言ったんだ私!

「あ、あはは、もちろん覚えてるよ。ごめんね、急にあんなこと言っちゃって」

 耳まで熱くなってきた……。

「ちょっと風邪で本心が出ちゃってさ。できれば忘れてくれたら」

「――忘れないよ、ぜったい」

 私の言葉を遮って、かりんは私の目を見てそう言った。

 すごく真剣な表情で、空気が変わった気がして私は戸惑う。

 プールを通った涼しい風が私の頬を冷ましていく。

「私ね、あのときゆうちゃんに大切だって、大好きだって言ってもらえてすごく嬉しかった。今それが本心だったって知れて、舞い上がっちゃうくらいの気持ちになったの」

「そ、そうだね。恥ずかしいけど、ちゃんと本心だよ」

「私はね、ゆうちゃんのことが大切で大好きで――」

 かりんはそこで一呼吸おいて、

「愛してるの」

 と直球の言葉を投げかけた。


 一瞬、頭が真っ白になる。


 それに気づいたのかどうか、かりんは優しい声色で続ける。

「私は恋愛感情として、ゆうちゃんが好きなんだと思う。――ごめんね、言おうかどうか迷ったんだけど、隠してるのもダメだよねって思ってさ」

「えっと、かりん、その」

 なんて言えばいいのかわからない、とっさに言葉が出てこない。

 戸惑ったままだけど、イヤな感情は湧いてこない。

 ごめんなんて謝るかりんにそれだけは伝えたいのに……!

「大丈夫、答えてもらわなくてもいいんだ!付き合ってとか、そういうことじゃなくてね。私もゆうちゃんが好きで、ちょっとそれが大きすぎる感情なんだよーって伝えたかっただけだから!」

 笑ってそう言うかりん。

 いや、笑ってみせるかりんに、手を伸ばしたい。

 私だってかりんが好きだ。

 でもそれは多分、かりんの言う通りでかりんの好きとは少し違うのかもしれない。


 私だってかりんが大切だ。


 今日の誕生日パーティだって、かりんに喜んでもらうために一杯考えてきた。


 私だってかりんを――


 かりんを笑顔にしたい。


「ねぇ、かりん」


 ゆっくり、私はやっとの思いで口を開く。


「私もね、かりんが大好き。それはずっと変わってないよ」


 頑張って、頑張って言葉を紡ぐ。話さないと、伝わらない。


「だからさ、両想いなんだから、私たち付き合おうよ」


 * * * 


 リビングに戻ってくると、すでに部屋の飾り付けが終わっていた!

 パーティ用にセッティングされていて、かりんは唖然としている。

「かりん」

 私はかりんに声をかけつつ、あみちゃんとるるちゃんの元へ向かう。

 そこでクラッカーを受け取ってせーの、と掛け声を発する。

「「「お誕生日、おめでとう!」」」

 三人の声が重なって、すぐにクラッカーを鳴らす。

 ようやく状況が飲み込めたかりんは――

 なんと、目から涙が溢れてきている!

「わ、なんか涙が!ごめんね、色々嬉し過ぎて、自然に出てきちゃった!」

 涙を拭いながらかりんは笑った。

「そんなに感動してもらえたなら、準備した甲斐があったね」

「はい!いっぱい考えて良かったです!」

 あみちゃんとるるちゃんがそう言って喜ぶ。

 でも、私は、私だけは知っている。


 このパーティがサプライズで嬉しかったのはもちろんだけど、きっとかりんが涙してしまったのは――

「本当に、一生忘れられない記念日になったよ!」

 実際のかりんの誕生日はまだ少し先だけど、私たちの記念日は間違いなく今日なのだ。

「よかったね、かりん」

 ぽろぽろと泣きやまないかりんの頭を優しくなでる。

「うん!ありがとう、ゆうちゃん!」

 にへらと泣き笑う表情がとっても可愛い。

 泣き顔もよく似合うずるい女だ!

 それからパーティ料理を堪能して、ケーキまで美味しく頂いた。

 プレゼントも渡し終えてまったりしていると

「そういえば、この別荘には寝室が二つあるのですが」

 とるるちゃんが話を切り出す。

「一つの寝室自体はそこまで広くありませんので、二人ずつに分かれて使うというのはどうでしょうか?」

「なるほど、じゃあ部屋分けを決めないとだね」

 とあみちゃんは少し楽しそうに言う。

「そっか、二人ずつかーどうしようかな」

 あれ、かりんが悩んでる?

 てっきり私と一緒!ってすぐに言ってくるかと思ったんだけど……。

 もしかして、あみちゃんたちには私とかりんの関係はナイショにしておきたいからなのかな。

 でも、こう……いままでの接し方と変わらなければ気づかれないと思うんだけどね。

 せっかく恋人になれたんだしさ。

 それじゃあ、よし。

「はいはい!じゃあ私はかりんと一緒の部屋がいいです!」

 そう言ってあげるとかりんは、え、いいの?とでも言いたげな表情をした。

「まあ、なんとなく想定通りだね。私はそれでいいよ」

「ですね!ではわたしとあみちゃんが同室ということで」

 ごく自然なことのようにあみちゃんもるるちゃんも肯定してくれた。

 あっさり決まったことに戸惑ってるのか、ちょっとテンポ遅めにかりんが反応する。

「わーい!またゆうちゃんと一緒だ!よろしくね」

「うん。よろしく!」


 * * * 


 夜が更けて、るるちゃんが眠たげにうつらうつらとしていたので解散。

 さっそくかりんと寝室に向かっていた。

「わ、お布団ふかふかだぁ」

「ふふっ、ほんとだー気持ちいいね」

 別荘の寝室だしてっきりベッドかと思っていたら、お布団が敷いてあった。

 どうやらるるちゃんがお布団派だかららしい。

 ちなみにこのお布団は、るるちゃんのお手伝いさんがいつの間にか敷いてくれたみたい。

 二人ともそれぞれ自分の布団に入って寝ころびながらお話をする。

「でもびっくりしたなぁ、ゆうちゃんから一緒に寝たいって言ってくれるなんて」

「せっかくならそのほうがいいかなって思って!あ、もしかしてダメ、だったかな?」

 さっきちょっとだけ戸惑っていた様子を思い出す。

「ううん、ゆうちゃんと一緒で嬉しいよ。でも付き合ったその日に一緒の部屋で寝るのかーって考えちゃって」

「そっかー、私はかりんと一緒に眠れると安心するから嬉しいよ」

 一緒の部屋で寝るのは、私のお家でもこの間の旅館でもそうだったような……でもあれは二人っきりではないかなんて思っていると

「あの、ゆうちゃん……」

「なーに?」

「すっごくドキドキしてきちゃった。私、眠れないかも……」

 そっか。今日隣で眠るかりんは、いままでの友達のかりんじゃなくて

「そう言われちゃったら私までドキドキしてきちゃったかも……」

 なんだかこそばゆい雰囲気に包まれている。

「あ、ドキドキしてるって言っても違うからね、ゆうちゃん!大丈夫だからね!」

「んー、なにが?」

 ふわふわと話の流れがつかめず、そうのんきに返事をする。

「その……襲ったりとか、しませんよといいますか……」

 襲ったり?なにか私悪いことしたっけ、なんてボーっとしていると

「私は、するより、されたい側なので……」

 顔を真っ赤にしながらそう言うかりんを見てやっと理解した。

「そっか……こいびとって……そういう……」

 釣られて私も全身熱くなる。顔も耳まで真っ赤になってそう!

 一瞬私とかりんが裸で抱き合っているのを想像してしまって、

 さらに恥ずかしさが加速する!

 手を自分の胸にもっていくと、鼓動が早くなっていてかりんに気付かれちゃうんじゃと思うくらいにうるさい。

 結局、ドキドキしっぱなしになって寝付くのに時間がかかってしまうのでした……。

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