第41話 お仕事再開!


「待っていたぞ! 勇者達よ!」


 数日後、再び現れた皆様方をダンジョン前でお出迎えしてみれば。

 勇者様御一行の中には、美香ちゃんの姿もあるではないか。


「美香ちゃんが居る! ヤッター! つまりそう言う事で良いんだよな!?」


「スガワラさん、落ち着いて下さい。相手方が物凄く嫌そうな顔をしています」


 イザベラさんに注意されながらも、相手に抱き着く勢いで駆け寄ってみれば。


「うざいうざいうざい。マジで勢いが凄いんで止めて下さい、通報しますよ?」


 相手からも、非常に冷たいお出迎えをされてしまった。

 酷いじゃないか、ずっと待っていたのに。

 周りの皆からも困った様な顔をされてしまったが、とりあえずは皆揃って帰って来たのだ。

 さぁ仕事をしようじゃないか! と意気込んだのも束の間。


「あ、すみません。私撮影には参加しないし、ストーリー的なのにも口を出さないんで。後はご自由にどうぞ」


「どうしてそんな酷い事を言うんだ美香ちゃん!」


「美香ちゃん言うな、おじさん」


「俺と一緒に変身しようじゃないか! ホラ! ヘンッ――」


「タイ! 近づくなマジで! 怖い怖い!」


 何やら色々と大荷物の彼女は、ケッと吐き捨てる様に言ってからイザベラさんの元へ向かい。


「ヴァンパイア、私をオウカさんの所に連れて行って下さい」


「イザベラです。相変わらず私には当たりが強いですね……」


「私が協力したのは作詞と作曲です。それから可能な限り協力を、と書いてあったので監修と演奏には付き合います。コレ、それらに必要になる道具ですから一緒に転移して下さい」


「あぁ、はいはい……」


 そんな訳で、イザベラさんと美香ちゃんはすぐさま現場から居なくなってしまった訳だが……コレ、どうなってるんだろう?

 説明を求めて勇者組に視線を向けてみれば。


「えぇとですね、とりあえず美香さんがココの担当に含まれるのは許可されたんですけど。当人があんまり、撮影には乗り気では無くて……」


「え、三人目の変身ヒーローなのに」


 つまり、なに?

 彼女はもう変身しないって事? マジで?


「ついでに、音楽の方も“簡単に言うな”って怒られたっす。本人が現地入りして、演奏者達に指示、相談しながら作る事になるから時間が掛かるって言われちゃったっす。BGMは大至急作るから、OPとかはもう少し待てって……」


「ま、まぁそっちは専門家達に任せる訳だから、俺等は何も言えないけどさ……」


 どうやら現実問題、パッと作ってパッと採用とはいかないみたいだ。

 考えてみれば、当たり前なんだけどね。


「ついでに言うと、どうやって音楽を乗せるのかって話が出てまして。戦闘しながら背後で演奏していたらおかしいですし」


 困った様に笑う雨宮君だったが、そこはコッチも考えているのだ。

 そんでもって、俺から彼等に対して出来る良い報告の一つだとも言える。


「そんな事もあろうかと……準備しておいたのさ! 音楽を映像に乗せる技術を! いでよ、パァァルマァァ!」


 叫んでみれば、ダンジョンの方から疲れた顔したちびっ子がトボトボ歩いて来た。

 そんでもって、此方に水晶玉をペイっと投げつけて。


「魔王様の許可貰ったから作ったけど……知らないからなぁ? 戦闘記録として使う道具が、“後から編集できる”って結構危ない事してるからなぁ? 切ったり貼ったりどころじゃ無くて、マジで都合の良い様に編集出来るから制限とか掛けたけど。人族側でその魔道具解析されたらすげぇ危ないからな? 勇者組にも言っておくけど、魔術開発とかしてる連中にソレ渡すなよ? 今後の戦闘記録はぜぇんぶ本人の都合の良い様に書き換えられるぞ?」


 と言う具合に、眠そうな顔のまま注意事項を投げ掛けて来るパルマ先輩。

 依頼したのは映像の切り貼りの効率化と、映像の拡大縮小の編集。

 更に後から音声を追加して、同時に再生出来るというもの。

 未だ“向こう側”の編集ソフトには遠く及ばないが、それでもとんでもない代物が爆誕してしまった訳だ。


「流石天才ちびっ子ドリル、パルマ!」


「“先輩”はどうしたデコスケ野郎。カミソリでお前のデコをもっと広くするぞ」


 なんて台詞を言いながら、フラフラしているちびっ子先輩。

 多分昨日も徹夜でこの映像記録装置を作ってくれていたのだろう。

 お疲れ様でしたって事で、しゃがみながら背を向けてみれば。

 相手は半分思考が停止している様な状態で俺の背中によじ登り、そのままスヤスヤと寝息を上げ始めた。

 うわっ、涎垂れて来た。


「えぇと……つまり、音声をミックスする魔道具が出来たって事で良いんですかね?」


「だな、流石はパルマ。マジで頭良いよ、コイツ」


「でもパルマさんの言う通り、この魔道具の扱いには注意が必要っすね。画像加工やらなんやら、悪意ある編集すればいくらでも映像証拠として加工出来るんですから」


 などと勇者達と話していると、背後から他の面々も集まって来て。


「皆揃って居る様だな、さぁ仕事を始めようか。まずは前回の足りなかった分の戦闘シーンから撮影し、その後休憩を挟む。音楽に関しては此方も報告を受けた、なので午後は今後の展開に関して皆で話し合おうと思っている。以前の勇者ミカ……と呼ばれるのは嫌がっていたか。ミカの戦闘シーンを挟むかどうかも状況次第となってしまった為、皆の意見が欲しい。細かい所まで決めていき、明日の撮影に備えるぞ」


 完全に場を仕切る事に慣れた魔王様が、勇者組に台本と予定表を配っていくのであった。

 うし、今日もやりますかぁ!

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