第38話 落ち着かない


 その後は何と言うか、とにかく普通に過ごしていた。

 この城で出される“ドラゴンステーキ”に舌鼓を打ち、その後ウーパールーパードラゴンを見せると唖然としていたり。

 皆で会議しながら曲とBGM制作の意見を出し合ったり。

 何故か美香ちゃんがオウカさんに懐いたらしく、度々彼女に会いに行ったりして早数日。

 魔王城で過ごした彼等は、本日人族の街へと帰って行った。

 日程を合わせ、次の撮影の予定は立てているので心配はない。

 ないのだが……別の所で、また心配事が一つ。


「現状どれ程の勇者が居るのか分かりませんけど、こればかりは一度持ち帰って貰って相談してもらうしかないですからねぇ」


 俺と一緒に彼等をダンジョンまで送迎してくれたイザベラさんから、そんなお言葉が。

 そう、今回の問題。

 それは美香ちゃんを此方に引っ張り込んで、本当に問題ないのかどうか。

 何とか本人の協力は得られたが、彼等彼女等を管理しているのはまた別の人間。

 そちらから許可が貰えないと、少々扱い辛いという意見が出てしまったのだ。

 まぁ確かに、もう既に二人も勇者付いてるしね。

 でも売上をもっと出せば良いよ、みたいな話は前に出てたじゃん……とは思ってしまうものの。

 今はその“これまで以上の実績”が残せていないのも、また事実。

 これでもう一人、なんていったら流石に多いでしょって言われる可能性もある様で。

 そうなった場合彼女は向こうの街で、もしくは普段通りの活動を続けながら作詞作曲は引き受けてくれると言っていたが。

 しかしながら、三人目の変身ヒーローとしても是非協力して頂きたい……。

 何とかならないかなぁ、ホント。

 今回の戦闘記録も持たせたけど、今の所未完成。

 なので放映はまだ出来る状態じゃない、つまり以前程の実績を持ち帰っていない事になる訳で。

 思わず、大きなため息を溢してしまった。


「仕方ないですよ、スガワラさん。彼等の良い報告を信じて待つ他ありません」


「ですよねぇ……」


 とにもかくにも、此方でもやる事は多いのだ。

 映像のチェックとか、切ったり貼ったりして繋げたりとか。

 あとは勇者組が居なくても撮影出来そうな所は進めておかないと。

 でもなぁ……。


「ホラ、帰りますよスガワラさん。いつまでもココに居ても何も進みませんよー?」


「う~っす」


 そんな訳でちょっとだけモヤモヤしながらも、俺達は魔王城へと戻って行くのであった。


 ※※※


「スガワラ、お前は数日休め」


「ほえ?」


 魔王様から急にそんな事を言われてしまった。

 ポカンとした間抜け面を晒す俺に対し、相手は少々不機嫌そうに眉を顰めながら。


「最近根を詰めすぎの様に見える。勇者たちは予定日まで此方に来る事は無いし、映像の方も大体出来る所は終わった。だというのにソワソワソワソワ、あっちでもこっちでも何かしら仕事をしているだろう、貴様」


「いや、俺が出来る事なんて大して無い訳ですし。ほとんどお手伝いみたいなもんですよ?」


 実際問題、映像系のお仕事が一段落してしまうと俺はやる事がないのだ。

 映像の確認は皆でやったし、勇者が映らない所のシーンも撮影終了。

 残る映像の切り貼り作業に関しては、パルマ先輩にぶん投げるという事になった。

 ついでにもう少し編集技術増やしてくれと無茶ぶりもしておいたが。

 その結果、俺に出来る仕事が消えた。

 今後のストーリーや演出を話し合うってのはあるけども、俺一人で決めて良い筈もなく。

 勇者三人組にも相談したいし、音楽が付くかどうかの問題で色々と予定も変わって来るのだ。

 もっと言うなら、他の皆も特撮の仕事ばかりしていて良い筈もなく、どうしても空き時間が出来てしまう。

 なので俺は兵士の訓練に参加したり、お掃除のおばちゃん達を手伝いに行ったり。

 数日に一度はパルマ先輩がサボっていないか&部屋の掃除をしてやっている訳だが。


「駄目だ、休め。明らかに“何かしていないと落ち着かない”とでも言いたげに、片っ端から手をつけているだろう」


「あぁ~えぇと、まぁ確かに何かしてないと落ち着かないは確かですけど……」


「一度気晴らしをしろと言っているんだ。街に出て見たらどうだ? “こっち側”に来てから城内と出張ばかりで、一回も街を見て回っていないだろう」


 あ、そう言えば。

 お城の窓から外を眺めてみれば、とてもとても立派な街並みが見えるのだ。

 なんかもう普通にファンタジー系の洋風、デッカイ街って感じで。

 まぁお城だけで自給自足出来る筈も無いし、当たり前っちゃ当たり前なのだが。

 魔族の街ですよーって言われても、あんまり実感わかないけど。

 というか魔王様の言う通り、仕事ばっかりであんまりそっちの事考えた事もなかったな。


「我々が守ろうとしているモノを、一度その目で確かめる事にも繋がる。だから、たまには遊んで来い」


 そう言われてしまうと、流石にNOと言う訳にもいかず。

 それじゃ、まぁ……はい。みたいな中途半端な返事を返してしまった。

 でもなぁ、他の皆働いてるしなぁ。

 俺一人だけ良いのかなぁ……などと、やっぱり悩んでいれば。


「はぁ……まったくお前と言う奴は。ちょっと一緒に来い、もう一人言わないと休まない奴にも休暇を与える。二人で一緒に出掛けて来い。言っておくが、これは命令だからな?」


 などと怒られつつも、俺は魔王様の後ろを付いて行くのであった。


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