第34話 泥臭さ


「マジであり得ないんだけど!? 何コレ! 何この能力!」


「だから“変身”だと言っているだろうが。誰か、誰かー!? 撮影スタッフ! ここに鏡をもてぇい!」


「映像見たけど、アンタの能力コッチなの!? 炎の方じゃないの!?」


「そっちもそっちで能力とも言えるかもしれないが……まずは変身しないと話が始まらないだろう? そもそも俺の目的は変身だ。さぁ見てごらん、コレが君の変身後の姿だ」


「駄目だコイツ! 話が通じない! あと一度の会話に何回“変身”ってワード入れるんだよ! 語彙力何処行った!」


 何やら騒がしくなってしまったミカちゃんに対し、順調に説得を続けながらも彼女の前に姿見を立てる。

 自分の姿を見てワナワナと震えた後、自らの兜をペタペタと触り。


「何でこんなちょっとしか鎧部分ないの!? アンタの能力コピーした筈なのに!」


「初期フォームと言えばこういう物だ! と言いたい所だけど……あれかな? 雨宮君と違って、俺はイフリートに力借りて変身してるからな。もしかしたらイメージが足りなかったんじゃないか?」


「いや、意味分かんないから!」


 初変身に戸惑う気持ちは分かるが、このままでは撮影時間が無くなってしまう。

 と言う事で、撮影スタッフに合図を送ってから。


「さぁ来い、ミカちゃん! 俺と戦いたいんだろう!?」


「こんな不完全な状態で!?」


 新たなる配役が登場したのだ、このまま戦闘シーンを撮影してしまえ。

 きっと良い戦闘シーンが撮れる筈、魔力量は向こうの方が多いとこの子も言っていたし。

 そして変身ヒーロー同士が語るのなら、やはりまずはぶつかり合う他無いのだろう。


「あぁぁもう! マジで何なのアンタ!」


 とにもかくにも、相手は此方の誘いに乗って攻撃して来た。

 ほぉ、なるほど。

 格闘技か何かを習っていたのか、非常に綺麗な蹴りを放って来たではないか。

 しかし、それは此方も同じ事。

 体勢を逸らしギリギリの所で回避しつつ、そのまま身体を回転させて回し蹴りを放ってみれば。


「っ! へぇ……派手な鎧着てる割に、そっちも結構動けるんだ?」


 どうやら相手もすぐさま連撃に繋げていたらしく、此方の蹴りと彼女の蹴りがぶつかり合った。

 素晴らしい! コレ雨宮君とは違ったタイプの熱い戦闘が撮れるぞ!?

 チラッとカメラの方へと視線を動かせば、撮影スタッフが親指を立てている。

 バッチリ、撮影出来ている様だ。

 で、あるならば。

 この子の出演許可は、後で取る事にしよう!


「ミカちゃん! 来い!」


「だからミカちゃん言うな!」


 その後は激しい近接戦が行われた。

 殴り、蹴り。とにかく激しく休む間もなく攻防戦が行われる。

 ハ、ハハッ! なるほどどうして。

 俺はこの子を甘く見ていた様だ。

 コイツは……マジで“強敵”だ!


「ふはははっ! 凄い、凄いぞミカちゃん!」


「黙れクソ赤鎧がぁぁ!」


 相手は軽いジャブから急に姿勢を落として足払いの蹴り。

 ソレを避けてみれば体の回転をそのままに、再び拳で連撃を放ちながらビタリと張り付いて間合いから離れない。

 間違い無い、この子……肉弾戦の天才だ。

 鎧が無ければ、俺だって手痛い打撃を何発もこの身に受けていた事だろう。

 この子の凄みは魔力云々ではない。

 そもそもの肉体能力! 更には教えられた格闘技を実戦に応用しながら戦える適応能力! これは、凄い逸材だぞ!

 日本の、というか現代の戦闘の“形”は魅せる為に手を加えられたモノが多い。

 もっと簡単に言うなら、素人でも真似出来るように分かりやすくお手本を作っているのだと聞いた事がある。

 しかし彼女の動きはどうだ?

 “形”というものに従いながらも、必要のない所は削り自らに落とし込んでいる。

 更には様々な格闘技の技を連続で繋げ、休む事なくガンガンと攻め込んでくるのだ。

 強い。

 正直、そう思った。

 この子は、技量と才能に溢れている。

 が、しかし。


「とても良い……良いが、少しだけおじさんからも教えてあげよう」


「ハッ! こんなにボコボコ殴られておいて何を――は? え?」


 彼女が放って来た拳を受け流し、そのまま力の流れに沿って彼女の身体ごと引っ張った。

 すると簡単に姿勢が崩れ、その場に転びそうになってしまうミカちゃん。

 確かに真正面からの殴り合いなら、今までの攻撃だけで此方が沈んでいれば、全く持って問題なかっただろう。

 しかしこの子も以前の俺同様、訓練や試合としての戦闘しか知らない御様子。

 もちろん魔法込みとなれば、また違うのだろうが。

 とても、戦い方が“素直”なのだ。

 発想力よし、技量良し、状況に合わせる能力もピカイチ。

 でも実戦という状況の肉弾戦をあまり知らない御様子。

 生き死にが掛かった戦闘の場合、技とも取れない様な絡め手や外道とも呼べるような手段でも行使しないと生き残れない。

 魔王軍兵士達の戦闘訓練で、俺はそれを嫌と言う程教わった。


「未熟だな、ミカちゃん。君も戦闘訓練に参加すれば、俺なんて簡単に勝てただろうに」


「いや、はぁっ!?」


「所謂、“経験の差”だ。そして何より、君は“軽い”。攻撃が、ではなく、体重が。だからこそ、こうしてあっさりと姿勢を崩されてしまうんだ。ズルいと思うだろう? だがそれも戦う上では警戒しないといけない所だ」


 ヨロヨロとたたらを踏んだ彼女の背中をトンと押してみれば、相手はその場で簡単に転んでしまった。

 もしもここで俺が追撃を入れれば、呆気なく勝負は終わってしまった事だろう。

 格闘技、それは数多くの種類に分かれ目的も違って来る。

 正面から殴り合うボクシングでさえ、かなり細かいルールが存在するのだ。

 しかし、殺し合いでは何でもあり。

 もっと言うなら、喧嘩だって同じ事。

 プロの選手であれば、彼等の肉体は武器とされるが。

 素人であれば、何をどれだけ混ぜて反撃しようとルール違反にはならない。

 というのは流石に暴論かもしれないが、逆にソレが戦闘の怖さとも言える。

 そして彼女の放って来た攻撃は、俺にとってはとても綺麗な動きを繋げている様に見えるのだ。

 体術において、“形”とはお手本に過ぎない。

 つまり彼女には、“泥臭さ”足りない。


「どうした? その程度か?」


「クッ! 調子に乗って……」


 彼女は立ちあがり、再び拳を構えた。

 気概、良し! 勢い、良し!

 であれば、あとは……演技力、良し!

 もはや、採用という言葉以外浮かばなかった。

 が、しかし。

 今だけは一旦の区切りとさせて頂こう。


「君は俺より強いのだろう? なら、耐えてみせろ……」


 フワリと浮かび上がり、相手に踵向けてみれば。


『シャバ〇ビッタッチヘンシーン! シャ〇ドゥビタッチヘンシーン!』


「著作権に関わる、少し変えろイフリート。それからソレは変身音声だ」


『む、駄目か? では……バーニング、キックストライク!』


 イフリートの声を聞きながら、彼女に向かって突撃していく。

 チラリとカメラに目を向けてみれば……ココしかない!

 爆発と威力を最小限に抑え、しかし彼女が見えなくなるくらいに炎をまき散らしながら、ガードしている相手の隣を通り過ぎる。

 そして、着地と同時に側転しながらポージングを決め。


「フンッ、この程度か……」


「う、うん? え? 当たってないけど……」


 背後で炎に囲まれながらも不思議そうにする彼女の周囲で、爆発が起きた。

 これぞ、特撮。

 何故か攻撃を繰り出した後に、敵が爆発する。

 良く分からないけど、コレが良いのだ。

 これで、良いのだ。

 そして。


「カァァット! 大丈夫だスガワラ! 良いシーンが撮れた!」


 魔王様からもOKが貰えるのであった。

 うっし、今回も戦闘シーンは確保したぜ。

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