第33話 三人目、爆誕


 撮影現場に飛び出してみれば、魔王様と知らない女の子が対面していた。

 美男美女、絵になるね。

 などと感想を残しつつも、真ん中に失礼する。

 すまぬ、恋でも始まりそうなシーンにおじさんが乱入してしまった。

 そんでもって。


『新しい相手との御挨拶だ。派手に行こうか、相棒』


 イフリートがやる気を出したのか、周囲には爆炎が広がっていく。

 派手なんよ、マジで。

 今撮影中じゃないから、もう少し抑えても良いんだけど。

 立ち上る炎と、周囲に広がっていく熱風。

 ソレを防ぐようにして、周囲の皆は腕を正面で構えている訳だが……確かに、相棒の言う通り御挨拶は大事だ。

 そんでもって彼女は勇者であり、こっち側を攻撃して来た相手と言う事に間違いはないらしい。

 で、あるならば。

 まずはソレっぽく名乗りを上げるのが悪役というモノだろう。


「俺は魔王軍幹部、菅原 勇! 何やら俺と戦いたいらしいな! ならば直接来い! いちいち周りに食いつくチンピラは嫌われるぞ! そして試合をするなら男女平等! メンヘラはお断りだ!」


 腕を組んで、そう宣言してみれば。

 周囲から「メンヘラ?」「メンヘラって何だ?」という声が聞えて来る。

 皆様、是非先程の単語は忘れて下さいませ。

 勢いで言ったけど、こう……面倒くさくなるのは嫌だよって意味で煽っただけなんで。

 止めてね!? 流行らせないでね!?


「アンタが菅原……ね。んで? どうするつもり? 晃を巻き込んで、こんな茶番に付き合わせて。アンタは何がしたいの? こんな下らない世界に来て、帰る手段も無くて。何故そんな鎧を纏ってまで、しかも人間の敵になってまで戦ってんの?」


 少女が、顔を顰めながらそんな台詞を吐いて来た。

 その声は非常に耳に残り、まるで一つ一つの言葉に他の意味を乗せているかの様。

 自らの本音と、この世界に対する不満をぶちまけているかのようにも聞える。

 それは何故か。

 彼女が滅茶苦茶クール系に見えるのに、非常に感情的な台詞を吐いているから。

 うん、ちょっと待って? 本当に恰好良いなこの子。

 ショートカットなのに前髪は結構長めだし? 片目とか隠しちゃってるし? 流石はバンドマンって感じ?

 おっとぉ? ここに来て分かりやすい同胞発見かぁ?

 君絶対形から入るタイプな上に、恰好良い系のモノ好きだろ。

 ということで。


「貴様、名は何と言う」


「大沢 美香」


「ミカちゃんか、わかった」


「おい、ちゃんとか言うな。馴れ馴れしいな」


 相手は怪訝な表情のまま、此方に睨みを利かせて来るが。

 服装も含め、尖っているのよ。

 それはもう、パンクでロックで一匹狼してる感じのセンスで、アクセサリーとかも付けちゃっている訳で。

 俺くらいの歳のおじさんがやっていたら「うわぁぁぁぁ!」ってなる訳だけど、早乙女君の幼馴染って事は当然若い。

 つまり、多分学生。

 いいよいいよ、来たよこういう子。

 一目で気に入ったね、こういう子程……俺は欲しい。

 大人になったら“下らない”と評されるかもしれない恰好良さを、前面に押し出せる意思を持っている女の子。

 いいじゃない。

 変身に、男も女も関係ないよね。


「言っておくけど、アンタの能力はもうコピーしたから。戦っても多分私には勝てないよ? 私魔力量も他の連中と比べて多いみたいだし、今見た感じアンタの倍はあるんじゃないかな」


「本当か!? それは間違いのない事実か!?」


「え、何で嬉しそうなの……」


 今、間違いなくコピーした。

 そう言ったよな? あ、でも俺の場合イフリートが関わって来るからどうなのだろう?

 大丈夫かな? まぁモノは試しと言う事で。


「では、使い方を教えよう」


「いやいや待って? 私敵ね? アンタと戦って、晃の目を覚まさせる事を目的にココに来たの。分かる?」


「分かっているさ、大好きなんだろう? 早乙女君が」


「おい待てマジで何言ってんだよ。好きな訳ねぇだろ本気で何言ってる訳? あり得ないんだけど死ねよマジで」


「ハッハッハ、早口になるのは図星な証拠。では、行くぞ」


「おい聞けよ!」


 なかなか乱暴な言葉遣いの少女の前で、此方は変身ポーズを取った。

 今回は、そうだな。

 覚えやすい様に初期の方でやってみせよう。

 二世代目とかなら、非常に覚えやすいだろう。

 あの小指だけ曲げる感じが、人によっては難しい様だが。

 でも流石はミュージシャン。

 俺のポーズを真似て完璧に手の形まで再現しているではないか。


「では、続け……変身!」


「え?」


「早く! 間に合わなくなるぞ!」


「へ、変身?」


 此方と同じポージングをした彼女は、戸惑いながらも炎に包まれた。

 おぉ、おぉぉ!

 イフリートの能力もコピーしたのか! 最強だなこの子!

 などと感想を残しながらも、炎が過ぎ去るまで彼女の事を見つめていれば。


「……え? は? なに、コレ」


「それが、俺の能力だ! ハッピーバースデー! 君は、今! 三人目の変身ヒーローに生まれ変わったんだ!」


 思い切り叫んでみれば、周囲からは喝采が上がった。

 変身、ソレは男のロマン。

 そして今では、魔王軍の兵士達における憧れと言っても良いのだろう。

 誰しもがこの力を欲しているくらいに……流行っているのだから。

 そんでもって、目の前に現れた彼女の姿。

 それは、雨宮君の初期変身に近いモノだった。

 つまり装甲が殆どなく、ボディラインが強調されたアクションスーツのみ。

 あるのは兜と、籠手くらい。


「さぁミカちゃんよ! 変身できる貴重な人材よ! 俺と一緒に特撮をやろう! 女性ヒーローの誕生だ! そして曲も作ってくれると凄く嬉し――」


「とりあえず死ねぇぇぇぇ!」


 変身少女による飛び蹴りを、顔面に受けてしまった。

 ピッチピチのスーツを着るのは少々恥ずかしいというのも分かるが……痛いじゃないか。

 そんな感想を残しながら、俺は顔面で彼女のキックを受けとめるのであった。

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