第32話 複製能力


 なるほどどうして、なかなか腕利きが揃っている軍隊みたいだ。

 私を相手にしている亀の魔族……かなり強い。

 晃の馬鹿に勧誘されて、この地に訪れてみた訳だけど……なんだ、ここの魔王軍。

 今まで経験した相手とはまるで違う。


「カッパラァ様!」


「下がれ! お前達に怪我をさせる訳にはいかない!」


 上司が、部下を守ってる。

 生憎と社会経験とか無いから、どういう心情なのかは分からないけど。

 でも、他では違ったのだ。

 誰も彼も、本当に兵士? と言いたくなるような相手を戦地に立たせ、幹部と呼べる奴等は後ろの方でふんぞり返っていた。

 だからこそ、私は魔族と戦う事が出来たと言っても良い。

 コイツ等が悪であり、私は正義。

 そういう意識があったからこそ、遠慮なく攻撃出来たと言うのに。


「マジで何なの、アンタ。何で部下を使わないの? 何でそこまでして、仲間を守ってるの? 訳わかんない。私の能力説明したよね? 誰の特技だって複製出来るの。だから、一斉に攻めて来ればアンタの防御をコピーして守れば良いだけ。でもアンタ達は攻撃して来ない、何で? 魔族の癖に」


 そう言いながら拳を構えてみれば、彼は笑うのだ。

 何度も何度も、私が攻撃した所で防御だけを繰り返し。

 余裕そうな表情を浮かべて、相手はニッと口元を吊り上げる。


「まだ話が付いていなかったようだな、謝罪する。コレだけ多くの魔族に囲まれれば、警戒してしまうのも仕方ない。だがスガワラが来れば、詳しい内容を説明してくれるだろう」


「スガワラスガワラスガワラ……どいつもこいつも」


 正直、イライラしているのだ。

 私達は各地で戦場に赴いていると言うのに、ココはどうだ?

 街中で公開されている映像はどうだ?

 とてもじゃないが、お遊びにしか見えなかった。

 こっちはいきなり訳の分からない所に連れて来られて、魔族を殺せって言われて。

 生き残る為に必死こいてるってのに。

 何故、ここの地域だけこんなに平和そうにテレビ番組を作っているんだ。

 おかしいだろ、どう考えても。

 しかも晃も関わっている上に、コレで稼いで嫁を養うって?

 イライラする、マジで。

 “こっち側”に呼ばれて調子に乗った挙句、仲間達を孕ませてやっと覚悟が出来ました?

 はぁぁ……ホント、イライラする。

 だったら私みたいな人間は、彼の人生においてなんだったのだろう。

 そう思ってしまうと、とてもじゃないが全てがどうでも良くなってくるのだ。

 ハーレムとか、マジ舐めてんの?


「どうでも良いけどさ、その“スガワラ”ってのはいつ来る訳? アンタの相手も飽きたんですけど。守るばっかりで攻撃して来ないし、何がしたいのか全然分かんないんだけど?」


 相手を呷る様な声を上げてみれば、彼は更に笑い声を上げ。


「クハハハッ! そうさな、馬鹿みたいだろう。だがな、俺はスガワラの言っていた“平和な戦争”を繰り広げる為にココに居る。そして、仲間達もだ。俺達は、誰かを殺したくてこの地に立っていないのだ。だからこそ、改めて部下には厳命しよう。誰も殺すな! 怪我をさせるな! 我々は、“トクサツ”をやりに来たんだ!」


 亀の甲羅を背負った人物が声を上げれば、周りの魔族も声を上げる。

 なんだこれ、本当になんだ。

 普通魔族との関係ってこうじゃなかったじゃん。

 まるで私だけ空気が読めていない様な、そんな感じ。

 皆は既に意気投合していて、私だけ除け者な雰囲気。

 止めてよ、ホントコレ苦手なんだよ。

 こういう……なんていうの? 団結みたいなの、マジで苦手なんだよ。

 “向こう側”でのバンド活動の時だってそうだった。

 経験者だからって最初は皆頼って来るくせに。

 それに答えようとして作詞作曲から、他の楽器の事だって勉強して面倒を見ても。

 この仲良しですみたいな空気になると、私だけ基本除け者になるのだ。

 人付き合いとか、多分私に向いていないんだろう。


「あぁもうウザい。全部一気に片付けるから……」


「美香! いい加減にしろ!」


「うっさいなぁ……アンタだって好き放題やってるのに、私には説教でもするつもりな訳?」


 幼馴染からお声を頂く訳だが、発動した魔術は止まらず。

 私の頭上でバリバリと稲妻を光らせていた。

 あぁ、なるほど。

 チラッと見えた小さい子の魔力がとんでもなかったから、コピーしてみたけど。

 あの子も幹部か、能力が尋常じゃない。

 でもまぁ、この威力の魔法をぶつければ……コイツ等は塵になる。

 いい加減、異世界ハーレムやってる上にこんな所で遊んでいる幼馴染の目も覚めるというものだろう。

 何てことを思いながら、魔法を放ってみれば。


「流石にソレは承認できないな、犠牲者が出る。少々調子に乗り過ぎだぞ、勇者」


 私の魔法を、片手間に握り潰す存在が現れた。

 距離がある状態にも関わらず、相手が掌を握り締めれば此方の攻撃がスッと消え去ってしまった。

 間違いなく幹部程度には収まっていない力量であり、魔力量も桁違い。

 アイツは多分……ココの地域を守っている魔王。

 もはや気配だけでも分かる程、圧倒的な力量を見せて来る相手に鋭い視線を向けてみれば。


「……え?」


「私が相手では不満か?」


 何か、この場には相応しくない様な女の人が居た。

 多分“変化”の術を使っているのだろう。

 気を抜けば、男装している令嬢くらいには見える。

 でも、魔術特化の私として見れば。

 どう見ても、女の人にしか見えなかった。

 魔族だから、魔術を使うから女性が戦場に居ても不思議じゃない。

 だとしても、ここに居るのは……なんかこう、戦う人って感じがしない女性ばかり。


「……何笑ってんのよ」


「いや何、スガワラに見せてもらった映像で言うと……随分と“悪役”らしいなと思ってな。周囲の事情など関係なく、自らの我儘を押し通そうとする。大筋としては、悪役というのはその辺りなのだろう?」


「はぁ? つまり私は我儘な子供だって言いたい訳?」


「我々からすれば、貴様は子供と言う他無い年齢だからな。致し方あるまい、だからこそ……今までの行いは許そう。被害が出ていないからな、カッパラァには苦労を掛けてしまったが」


 クスクスと笑う彼女に、ギリギリと奥歯を噛みしめてみれば。

 相手は、更に余裕の笑みを浮かべ。


「それに、ちゃんと本質も理解している、“ヒーロー”という存在は“ここぞ”という所に現れるんだろう? 正直、もう少し早めに登場して欲しい所だがな」


 彼女がそう言い放った瞬間、後ろから赤い鎧が飛び出して来た。

 まるで私達の間に立ちふさがる様に、着地と同時に周囲に炎をまき散らしながら。

 何度も見た、晃達が持ち帰った映像の中で。

 だからこそ間違い無い。

 今登場した真っ赤な鎧と、この立ち上る炎は。


「スガワラ! お前がスガワラか!」


 そんな声を叫びつつ、彼の能力をコピーするのであった。

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