第31話 新しい可能性
「問題が起きました、菅原さん」
雨宮君が、到着早々そんな言葉を伝えて来た。
やめて、本当に。
朝一でその台詞聞くの、社会人にとっては結構精神的に良くないから。
むしろ俺は現場仕事をしていた様な人間なので、昨日のお仕事で何かやらかしたのかとドキドキしてしまうのだ。
「えぇと……何が、起きたのかな? 出来れば聞きたくないと言うか、可能な限りマイルドに伝えてもらえると……俺としては、嬉しいかなぁ」
今から撮影が待っていると言うのに、変な汗が全身から出て来てしまったではないか。
いやだよぉ、聞きたくないよぉという心境のまま彼の次なるお言葉を待っていれば。
「あ、えっとですね。良い報告もあるんですよ? 早乙女さんの幼馴染、
「でかした雨宮君! それでその大沢さん? と、ついでに早乙女君はどこにいるんだ?」
周囲をキョロキョロ見回して見たのだが、件の人物が見当たらない。
それどころか、いつもなら雨宮君と一緒に行動している早乙女君の姿まで見えないではないか。
もしかして、今日は欠席とか?
体調不良だったら、確かに仕方ないんだけどさ。
マジで? 今回は前回の続きの戦闘から撮るから、間違いなく早乙女君の出番あるよ?
などと考えながらひたすらに姿を探している所に。
「それで……問題の方なんですけど。一つは、この地域に三人も勇者を付けるならもう少し稼ぐというか、人気を出せと言われたのと……件の大沢さん。一度赤鎧と戦わせろって言ってるんですよね……」
「……はい? え、それは特撮に参加させろとかではなく、ガチの戦闘的な意味で?」
何か凄い事言って来たぞ、どういうこと?
結構戦闘狂な女の子だったりするのだろうか? いやまぁ俺も人の事はあまり言えないけど、凄いね。
私に勝ったら協力してやるみたいな? わぁ、ワイルドだぁ。
少年漫画みたい。
あとお国の方はアレね、売上もっと出せと。
はいはい了解、そっちの職人がこぞってフィギュア作りたくなる程の格好良いシーン撮ってやるから待っとけ。
つぅか、そっちに関しては俺等が直接関われないから職人さん達の支援でもしなさいよ。
とかなんとか、色々思いながらその問題児を探してみれば。
「どうした! こんなもんなの!?」
「チッ……この勇者、なかなか出来る。お前達は下がれ!」
「ミカァァァ! 止めろってマジでぇぇぇ! それ出演者! 怪我させたら不味いんだってぇぇぇ!」
撮影現場の方で、何か爆発が起きた。
えぇ……なんかもう、戦闘始まってる?
俺、ココに居るんだけど。
君は赤鎧と戦うんじゃなかったのかい?
「スガワラさん! 今すぐ来て下さい!」
休憩所の方に、イザベラさんが慌てた様子で駆けこんで来た。
はい、すぐ行きます。
先輩方もそれなりに居るのに、それでもこんな状況に持ち込めるほど強い勇者だと言う事なのだろう。
ならば、俺も行かなければ。
そう思い、立ち上がってみれば。
「相手はスガワラさんとの戦闘を求めていますが……その、どうやら能力を複製する力を持っている様で。カッパラァとメルナリアが戦闘に当たりましたけど、近くに居たパルマの力を使って好き勝手やっている状況です。あの子、根性は無い癖に能力の幅は限りなく広いですから……」
と、言う事らしい。
パルマ先輩、マジで何やってるんですか。
とか言いたくなってしまうが、今聞き捨てならない台詞が聞えて来た。
相手の能力、つまり雨宮君達と同じチート能力と言う事で良いのだろう。
それが……“コピー能力”、だと?
おいおいおい、マジか。
これは、まさに。
「行くぞ雨宮君! 第三の変身ヒーローの誕生かもしれない!」
「あ、やっぱそっちなんですか。同胞の心配とかではなく」
「カッパラァ先輩とメルは簡単にやられたりしない! 行くぞ! 非常に重要な人材の確保だぁぁぁ!」
「ス、スガワラさん!? 今魔王様も対処に当たっている所で、不用意に近づくのは非常に危険……って、聞けぇぇぇ! 速い! 足速い! 待ってくださいスガワラさぁぁん!」
イザベラさんの叫びを置き去りにしたまま、俺は戦闘地域へと走るのであった。
とはいえ、撮影現場付近だからそう遠くは無いんだけど。
「菅原さん、戦うつもりですか?」
隣を走る雨宮君が、心配そうな声を上げて来るが。
彼を安心させる為にも、此方は満面の笑みを返す。
「もちろんだ! 相手は俺と戦いたいんだろ!? そんでもって、早乙女君が特撮好きな影響で、多分彼女も見ているんだろ!? だったら話は早い。全力全開で勝負して協力を求めるだけだ!」
「まぁ、ハイ。確かに彼女の性格を見ると戦闘は回避出来そうにありませんけど……怪我はしないで下さいね?」
やけに心配そうにする彼の言葉を聞きながら、とにかく足を進めていれば。
やがて見えて来るのは、カッパラァ先輩と一対一で戦っている少女の姿。
そして彼女の攻撃手段は、何と素手と来たもんだ。
おぉっとこれは、テンション上がって来たぜぇ!
「行くぞイフリート、勧誘の時間だ! 今回はどれで行く!?」
『相手は音楽が得意、となれば……コレしかあるまい』
相棒の声と共に、この手には真っ赤な音叉が現れた。
つまりそう言う事だ。
手首で軽く叩き、コォォンと音を立ててから額に持って来る。
すると全身を炎が包み込み。
「オォォォォ……ハァッ!」
『コレだけは、“変身”と言えないのが不満だな。我は結構好きなのだが……ヒビ〇』
「そう言う事もある!」
いつもより大人しい変身を終えてから、此方もまた戦場へと飛び込むのであった。
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