第30話 魔王様と一緒


「楽曲の作成に当たって、色々と悩んでいるみたいだな。スガワラ」


「そうなんですよね……流石に向こうの曲丸パクリだと著作権の問題がありますから。あぁでも、勇者側でなんとかしてくれるかもって話は出てきてますから! ご安心ください!」


 そんな会話をしながら、本日も魔王様と夕食&打ち合わせ。

 流石に戦闘がワンパターンになって来たかと、魔王軍側でも話題になっているそうな。

 だがしかし、そこには当然テコ入れも考えている。

 人間ドラマ、または魔族のみのパートを入れる。

 これまではとにかく戦闘! って感じだったので、そろそろ戦闘中以外のお話も織り込んでも良いだろう。

 だが、ユーザーがソレを求めるかと言ったら難しい所。

 勧善懲悪の様な物語を作れば、勇者すげぇで終わるのだが。

 今回は魔族の話も盛り込んでいるのだ。

 だからこそ多少なり此方の事情を織り交ぜて、両者にとって良い結末にしたいのだが……それではよく分からないと言われる事があるのもまた事実。

 大人達であればまだ良いが、子供達が見た時。

 それは非常に曖昧な物語になってしまう可能性も出て来る。

 だからこそ、絶対的な“悪”はどうしても必要。

 コイツを倒せば、平和になる的な。

 しかしどうしても、その配役が決まらない。

 誰も彼も、その役に納めて良い様な“悪役”をしていないのだ。

 つまり、完全恨まれ役。


「音楽の件もそうだが、それ以外にも悩んでいる様に見えるな」


「うっ……まぁ、そうですね。最終的に倒すべき相手が居ない事が、一番の問題です」


 クスクスと笑う彼に答えてみれば、相手は途端に表情を変えて非常に呆れた様なため息を溢してみせた。


「それこそ、私で良いではないか。悪の根源、指揮する者が周りの者を使って侵略を進めていた。その対象を打ち取って、世界は平和になった。それで良いと思うが」


 どこか自虐的に、魔王様は笑って見せる訳だが。

 此方としては言語道断、一番受け入れられないエンディングだ。

 それでは結局、魔王は悪だと決めつける作品になってしまうのだから。


「もしも本気で言っているのなら、怒ります」


「ほぉ、怒ってくれるのか? 貴様が、魔王である私に。ではどうする、頭でも引っ叩くか?」


 やけに煽り文句を紡いでくる魔王様に対し、此方は全力で敵意を向けた。

 もはや外聞とか関係ねぇってレベルで、イフリートの力をステージ3まで引き上げて。


「お望みとあれば、全力で引っ叩きます。アナタを悪の根源に仕立て上げるくらいなら、俺が全世界に喧嘩を売るストーリーにした方がマシです」


「……フフッ、アハハ! お前は本当に面白いな。何故そこまで私を慕う? 私は、お前を勝手に“こちら側”に呼びつけた魔族なのだぞ? お前からしたら良い迷惑だろう、なのに何故――」


 その台詞が終わる前に、彼の近くへと移動して膝を折った。

 そして彼の瞳を真っすぐ見つめながら。


「間違えない様に、もう一度言います。貴方は、死んだ俺を救ってくれた。今一度新しい人生と言うモノをくれた。更には、好き放題やらかしている俺を手元に置いてくれている。これで感謝しない男が居ると思いますか? あまり、舐めないで下さい魔王様。俺の二度目の人生は、貴方に捧げていると思ってください」


 まぁ格好付けた所で、現状全力で周りに頼ってるんですけどね。

 情けないったらありゃしない。

 というわけで、場を和ませる為にもウハハハハ! と盛大に笑ってみれば。


「あぁ、えっと……スガワラが本気だって事は分かったから……これからも協力するから。だからその、な? 毎度そう改めて感謝されると結構恥ずかしいというか。ダイジョブ、私、今後変な発言シナイ」


 魔王様のやけに片言なお言葉を頂き、再び頭を下げた後。

 ふんすっ! と鼻息荒く自分の席に戻った。

 とりあえず他のエンディングを考えるとして、多分今の調子なら魔王様も真面目に考えてくれるだろう。

 今できる事って言ったら特撮OP映像を皆に見せて、人気の高かった物を抜染して雰囲気を似せる様に心掛けたりとか。

 今後の展開に関しても皆の意見を聞く会議の場を作ってもらうのも良いかも知れない。

 なんたって魔族の王が協力してくれているのだ、頭の回転は俺よりずっと速いのは間違いない。

 最悪やっぱアレだよな、俺が悪の根源って事でラスボスになっても良い訳だし?

 いや、むしろそれが良いか? 物語的に悪目立ちしているのは確か。

 魔王軍と勇者組が協力して、暴走した俺とイフリートを打ち倒すラスト……みたいな?

 あぁ、いいかも。

 ちょっとテンション上がって来ちゃったぞぉ!?

 なんて、下らない事を思っていれば。


「スガワラ、今のお前には私がどう見える?」


「はい? えぇと……いつも通りの格好良い魔王様に見えますけど」


「そ、そうか。なら良い……良くないけど、まぁ良い」


 そんな会話を挟みながら、本日の打ち合わせは進んでいくのであった。

 何か地雷を踏んでしまったのか、その後魔王様がギクシャクしていたものの。

 いつも通り、次の撮影の会議が行われた。

 とはいえ次回に関しては、やはり今の所いつも通りに進めるしかない。

 テコ入れするにしても、少々手札が少ない。

 また新しい幹部を登場させても良いが、パルマはダメだ。

 あいつが登場するとギャグ回になってしまう。

 煮詰まって来た所の時間稼ぎ、または箸休め程度に考えなければ。

 などと話題を散りばめながらも、夜遅くまで打ち合わせを繰り広げる訳だが。


「魔王様。そろそろお風呂に入らなくてよろしいのですか?」


「ん? どういうことだ?」


「あぁ~いえ、すみません。大体この時間だと、魔王様がお風呂上りって感じの匂いがしていたので。気になってしまいまして」


「臭いか!? 私臭いのか!?」


「違います魔王様! 決してその様な事は! ただいつも通りだとお風呂上りだなぁって感じだったので! 俺の仕事に付き合わせるのが申し訳なく!」


「風呂に入ってくる! その後もう一回打ち合わせだ! キリの良い所まで進めるからな!? すぐ帰って来るから! 私の部屋で待っていろ!」


 そんな事を言いながら、魔王様は退室してしまった。

 イケメンは、やっぱり気にする事が多いんだなぁ。

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