第29話 ハーレム系主人公


 結果、人材は結構集まりました。

 が、しかし。

 問題はやはり山積みな訳で。


「こればっかりはどうしたものか……」


「曲調からして“コチラの音楽”とは違いますものねぇ。魔王様もソレを懸念して、勇者二人に人族の流行りを調べる様にお願いしたみたいですし。スガワラさんに見せてもらった様なモノを作るにしても、流石に聞きなれない音源を即興で作れと言われても無理があると思いますけど……」


 イザベラさんから、毎度無慈悲なお言葉を頂戴する訳だが。

 結局次の収録時期まで引っ張っても、曲は完成しなかった。

 こればかりは、最初から予想しておくべき事態だっただろうに……俺の馬鹿。

 “向こう側”の音楽を聞かせてあげれば何とかなると思っていた時期が、俺にもありました。

 本当に馬鹿野郎。

 しかも今回俺自身が力になれる事があまりにも少ない。

 作曲、無理。やった事無い。

 作詞、無理。気の利いたワードなんか思いつかない。

 楽器、無理。リコーダーも上手に出来た記憶が無い。

 歌、カラオケの最高得点も六十点くらいの実力しかない。

 無力、圧倒的無力。

 人は集まったのに、ソレを扱えるだけのクリエイト力が……俺には無かった。


「ぐあぁぁぁ! 今だけは音楽に関してのチート能力が欲しいぃぃ!」


「えぇと、そろそろ収録ですから……一旦そちらの準備を始めましょう? 今悩んでも解決しない訳ですし」


 思い切り溜息を溢しつつ、ヨロヨロと撮影班の元へと足を向けると。


「あ、もう到着してたんだ皆。久し振りぃぃ……」


 既に勇者組が現地入りしていたらしく、皆と一緒に打ち合わせを進めていた。


「お疲れ様です、菅原さん。……って、大丈夫ですか? 顔色悪いですけど」


「乙っす。こっちはそれなりに良い報告を持ってきましたけど……大丈夫っすか?」


 勇者二名から心配されつつも、お話を伺ってみれば。

 なんと向こうの王様からは、もっと演出を過剰にする事をOKされたらしい。

 とにかく盛り上がれば良いよ、みたいな感じで。

 まぁ今まで以上にチェックの目は厳しくなるかもという話だったが。

 このまま行けば普通に和平とか結べそうだけど、なんで駄目なんだろう?

 相手方が魔族の事を滅茶苦茶軽く見ているのか、それとも他の所の魔王がそれ程危険分子なのか。

 こればかりは分からないが。


「んで、そっちは何を悩んでるんっすか? この前まではOPとかCMとか騒いでたのに」


 早乙女君から心配そうな声を掛けられ、此方の行き詰まっている事例を正直に話してみれば。


「あー、あ~……そこは失念してましたね。確かに、こっちの音楽ってミュージカルとかクラシックみたいな所ありますし。有名どころは調べたんですけど、やっぱり何処もそんな感じで。俺も音楽はあまり経験ありませんし……」


 なるほどとばかりに、雨宮君も頷いてくれた訳だが。

 もう一人のチャラ系勇者が、うーむと悩みながら首を傾げている。

 そして。


「もしかしたら、何とかなるかもしれないっすよ。俺ギターに関しては経験ありますし、召喚された勇者の知識とかを使ってエレキギターとかも作られ始めてます。んで、他にも道具技師とかがエフェクターとかアンプなんかも、魔道具として開発が進んでるんすよ。今回俺が調べて来たのは、主に楽器方面っすね」


「すまない早乙女君、日本語で頼む」


「菅原さん、落ち着いて下さい。全部日本語っす」


 度々知らない言葉が登場したが、つまりどういうことだ?

 雰囲気からしてギター関連。

 もしかして、“向こう側”みたいな派手な音が出せると言う事で良いのだろうか?


「それから、作詞作曲に関しては……他の勇者に協力してくれれば、まぁワンチャン?」


「どういうことだ? 音楽関係に詳しい勇者が居たりするのか?」


 ここに来て、僅かな希望が見えて来た。

 思わず彼に駆け寄り、ガシッと肩を掴んで詰め寄ってみれば。

 彼は、少々気まずそうな顔で視線を逸らし。


「協力してくれるかどうかは……正直、かなり危ういラインっすかね。“こっち側”に来る寸前まで現役でバンドやってた女の子が居るんですけど……その、俺嫌われてるんで。話を聞いてくれるかどうか……」


「どうにか! そこをどうにか! 一旦案件を持ち帰って声を掛けて頂く事は出来ないでしょうか!」


「そ、そう言う事なら俺も協力しますよ! 元々早乙女さんの知り合いって事ですよね!? チャンスですよ! 俺も誠心誠意お願いしますから、一緒にOPを作って貰えるようにお願いしましょう!」


 俺と雨宮君が食いついた結果、彼はハハハッと乾いた笑い声を洩らしつつ。


「お、俺の幼馴染なんですけど……その、デキ婚してから滅茶苦茶距離置かれてまして……」


 おぉっと、これはまた。

 彼の女関係のお話と言う訳か。

 貴様、嫁が三人も居るのに幼馴染まで居るのか。

 違う感じの主人公に見えて来たぞ、君。

 と言う事で、嫉妬が天元突破した勢いで早乙女君を睨んでいれば。


「それからもう一つ……アイツ、特撮とかアニメとか。俺が好きだったもの大抵嫌いなんで……子供っぽいとか言って来る癖に、楽曲の耳コピは完璧なんすよ。お前が好きな曲くらい、すぐ完コピ出来るって散々馬鹿にされた記憶しかないっす」


 気まずそうに呟く彼に対して、思わず腹パンしたくなった。

 もう良い、貴様はハーレム主人公を突き進め。

 いっその事その幼馴染も嫁にしてしまえ、絶対君の事好きだから。

 そっちの都合には一切口を出さないから、その子に話を通して来てくれ。


「帰ったらすぐに! その子にお願いしてくれ! 頼む、早乙女君! 君の幼馴染だけが頼りだ! こっちに連れて来て良いから!」


「早乙女さん……あの、なんて言うか。ちょっと俺は今嫉妬に狂いそうです」


 雨宮君と一緒に早乙女君にお願いした結果、あまり期待はせずに待っていてくれとのお言葉を頂いてしまった。

 が、しかし。

 間違いなく、その幼馴染は話を受けてくれる事だろう。

 早乙女君本人が余計な事を言わない限りは。


「おい、そっちの三人。撮影を始めるぞ?」


 魔王様の一言により、この話題は強制終了となってしまったが。

 だが、希望の光が差した。

 彼の幼馴染さえ確保してしまえば、楽譜が出来てしまえば何とかなる。

 楽器を扱える奏者も歌ってくれる人も居るのだ、であれば最初のピースがハマれば事態は動き始める筈だ。

 と言う事で俺達は、ドキドキワクワクしつつも本日の撮影に当たるのであった。

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