第28話 歌声


「そ、それで……今回はどうしたのですか?」


 一応服を着たセイレーン先輩が、恥ずかしそうにモジモジしながら此方に視線を向けて来た。

 そう、“一応”服を着ているのだ。

 なんか妙に薄いベールの様なドレスを。

 つまり、透けている。

 輪郭とか普通に見えてしまうくらいに。


「セイレーン先輩! その服は些かエッチ過ぎると思います!」


 思わず手を上げつつ声を高らかと上げてみれば、彼女は恥ずかしそうに身体を隠し始めたではないか。

 恥ずかしいのなら、何か着て! お願いだから! 俺も恥ずかしいから!

 とかなんとかやっていれば、魔王様が乾いた笑い声を上げ。


「スガワラ、貴様が見ているのは鱗を纏った彼女の姿。つまり彼女からしてみれば、普通に相手に見せられる姿をしているのに性的だ、と騒がれている様な物だぞ」


「でも肌色ですよ!? ほぼ透明ですよあの鱗! 危うい部分はちゃんと隠されているとしても、エッチですよ!」


「は、ははは……貴様の感覚では、そういう扱いになるのだな」


「舐めないで下さい魔王様! 日本人ってのは、昔の戦国武将ですら美少女化して興奮する人々ですからね!? 透明な鱗が付いただけで美女が裸体を晒せばどうなるか、それはもう火を見るより明らかでしょう!?」


「……病気かな?」


 魔王様からは、非常に遠い目をされながら乾いた笑いを頂いてしまった。

 でも、エッチなのだ。

 所々隠れているにしても、セイレーンさんはエッチ。

 これは間違いない。

 と言う事で、再び相手をガン見していれば。


「え、えと……今でこそ“セイレーン”なんて名乗ってますけど、本名は“オウカ”と言いまして。普通のセイレーンに見られたら、私なんか醜いって言われるレベルでして……ホント、中途半端なんです。人魚と半魚人の間というか、人型にもなれますから特殊個体というか。でも全身鱗だらけですし、だから、えっと……」


 アワアワと慌て始めたセイレーン先輩が、必死で説明し始めている訳だが。


「普通とは違うんですか?」


「えぇ、それはもう……普通の人魚なら、こんな鱗だらけの姿はしていませんし。それに歌声だって、本来ならもっと高い声が出る筈なんです。でも私には出来ない、魔力量が多く、歌の影響力も大きいから幹部として魔王様に拾って貰いましたけど……未だこんな風に引き籠っているばかりで……」


 何やらモジモジし始めた彼女に対し、魔王様がため息を溢している。

 あ、もしかして彼女の性格が結構災いしている感じなのだろうか?

 とはいえ、俺はこっちの知識が浅いから何とも言えないけど。


「あの、セイレーンさん。一度歌声を聞かせてもらう事って出来ますか?」


「い、良いですけど……先程も言いましたけど、他の個体と比べて高音が出ませんから。その、お聞き苦しいと思いますよ?」


 そもそもセイレーンの歌声を聞いた事ないっす。

 と言う事で、魔王様に視線を向けてみれば。

 彼は静かに頷いてくれた。

 つまり、これは。

 彼が俺に対し、“歌姫”を提供してくれたという事に他ならないのだろう。


「是非、聞かせて下さい」


「わ、わかりました……では……」


 ちょっとだけ恥ずかしそうに、彼女は歌い始めた。

 空気を震わせ、この耳に届く彼女の歌声は。


「これだ……これだよ! 低音パートも歌えそうな恰好良い声じゃないですか! セイレーンさん、貴女に今から俺の記憶を見せます! いいですね!?」


「ひぃぃぃ!? 何ですか急に!? ちょっとぉ!? 何か背後からイフリートが出てきますけど!? 私を燃やす気ですか!?」


 叫ぶ彼女に対し、此方は覚えている限りの楽曲を叩き込むのであった。

 ただし、女性ボーカルの“恰好良い系”。

 ハスキーボイスだったり、勢いが良かったり。

 今聞いた限りでは、彼女は間違いなく高音も歌える。

 この世界のセイレーンがどこまで高音超音波になるのかは知らないが、彼女の歌声があれば……間違いなくOPが作れる。

 そしてこの恰好良い歌声に合わせるなら……男性ボーカルも欲しい!

 二人で格好良く合わせて歌って欲しい! 絶対良いから!

 もはや全身で喜びを表現しつつ、彼女の歌による興奮を抑えられずモジモジモジモジしていれば。


「協力してくれるか? セイレーン、いや……オウカ。今の仕事に、お前の歌がどうしても必要でな」


「は、はい……魔王様のご命令とあれば……」


「いや、命令ではない。お願いだ。お前の力を、貸してくれるか?」


 そう言ってセイレーン先輩の頬に手を当てる魔王様。

 あらヤダ、ちょっと百合臭が漂って来た。

 魔王様男性だけど、些か雰囲気がソレっぽいのだ。

 もしくはホストっぽい男性が女の人を口説き落としている所、と表現した方が良いのかもしれない。


「スガラワ、今一度貴様の記憶を見せろ。楽器を扱える人間を集めるぞ」


「了解です魔王様。個人的には男性の歌い手も一人欲しい所なのですが……」


「カッパラァに頼め、アイツは歌が上手い」


 万能過ぎてビックリですわ、カッパラァ先輩。

 と言う事で、イフリートに任せライ〇ーOP総集編をセイレーン先輩に見せつつ。


「まだまだやる事は多いが、人は集まりそうで何よりだ」


「ハハッ、魔王様も結構乗り気で何よりです」


 そんな会話をしながらも、俺達は人材を集める為に魔王城を歩き回るのであった。

 ほんと、この件が上手く行けば良いなぁ。

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