第27話 鱗
「セイレーン、邪魔するぞ」
「あら、魔王様。ごきげんよう」
魔王様に連れられてやって来た部屋、そこには妙に広い池というか。
本当に室内? とか聞きたくなってしまう光景が広がっていた。
更に池の中心には小さな陸地があり、その場で寝転がる様にして……人魚が、居た。
落ち着いた雰囲気、そして滴る水分が裸体に滑るその光景は。
「大変失礼しました! 後ろを向いているので服を着て下さい!」
思わず大声を上げながら、バッと背後を振り返ってしまった。
下半身はね、魚っぽいけど。
上半身、何も服を着ていないのよ。
長い髪の毛で色々と隠れてはいたが、それでも攻撃的な格好をしていらっしゃる訳で。
「そちらは……新しい幹部の?」
「あぁ、お前は初回に見ただけだったな。イフリートと契約している、スガワラだ。新しい仲間だから、仲良くしてやってくれ」
「フフッ、炎の魔獣と契約していると聞いて警戒しておりましたが……随分と可愛らしい反応をする殿方を拾って来たのですね、魔王様」
なんだか妙な会話を繰り広げながら、水音が徐々に此方に近付いて来た。
俺は部屋の外へと視線を送っているので、状況が理解出来ないのだが。
「スガワラ、さん? と言いましたか。どうぞ、此方を向いて下さいませ。女性の裸体に慌てている様ですけど、良く見て下さいな。とてもではないですけど、性的興奮など覚えないでしょうから」
なにやらよく分からないお言葉を頂き、「し、失礼します……」と声を上げながら振り返ってみれば。
そこには。
「だから服ぅぅぅ!?」
やはり、全力で目を逸らした。
だって彼女、今度は人魚ではなく普通に人の脚が生えていたのだ。
だと言うのに、全裸。
いやいやいや、待ってくれ。
これはどういうイベントだ?
ラッキースケベにしても、些かグイグイ来すぎな気がするのだが。
などと思っていれば、相手はクスクスと笑い声を上げ。
「本当に、良く見て下さいませ。きっと、ガッカリするでしょうけど」
そんな彼女の言葉に従って、視線を戻してみれば。
「フフッ、分かりますか? 気持ち悪いでしょう? 全身を鱗が覆っているんです。魔族でもここまで来ると判断に困るのですよ、人魚なのか魚人なのか。本来の“セイレーン”であれば、半身は間違いなく人なのに。私は、ほぼ全てが鱗に覆われている不完全体です」
そう言って彼女は、コチラにその美しい肉体を見せつけて来るではないか。
このままガン見しては流石に失礼に当たる、思わずそう思ってしまい。
勢いよく上着を脱ぎ捨て、此方も上半身を曝け出し。
「フンッ! コレが俺の筋肉です、お見苦しいかも知れませんが、どうぞご覧ください」
それだけ言って、色んなポーズを取りながら肉体を見せつけた。
ココは異世界、つまり俺の常識が通じない空間。
だとすれば、女性であっても自らの肉体をグイグイ見せて来る相手が居てもおかしくない。
ならばこそ、これはきっと彼女にとっては挨拶みたいなものなのだろう。
であれば、全力で応えてコチラも同じように返してあげなければ。
「あ、あの……何故、脱いだのでしょうか?」
「そちらが脱いでいるからです」
「良く見て下さい、私は全身に鱗が……」
「ではそちらもよく見て下さい。肌を見せる事が挨拶なら、俺はソレに応え肉体を見せつけましょう。如何ですか?」
ムキムキと筋肉を見せつけていれば、彼女はちょっとだけ赤い顔をしながら視線を逸らしてしまった。
ありゃ? もしかしてバッドコミュニケーション?
そんな事を思いながらポージングを続けていれば、魔王様からバシッと頭を叩かれてしまった。
「落ち着け、スガワラ。そして彼女の身体を良く見ろ、本人の言う通り」
何てことを言われてしまった。
よ、良く見ろと言われましても……つまり、裸体の女性をジロジロ観察しろと?
ちょっと俺には刺激が強すぎるんですが。
とかなんとか考えながら、「失礼します」と声を上げて顔を近づけてみれば。
おや?
「鱗、ですね。え、マジで良く見ないと分からないですけど……え、鱗だ! あ、あのちょっと触ってみても良いですか!?」
「だから先程からそう言って……触るのは構わないですけど、本当にその……ガッカリしますよ?」
相手の許可を頂き、指先でお腹に触れてみた。
すると……何という事だろう。
たしかに、柔肌的な感触ではなく鱗って感じのツルツルした感じ。
え、え!? なにこれ楽しい!
「す、すげぇ! え? コレが全身にあるって事ですか!? すげぇぇ! 一見素肌にしか見えないのに、透明度どうなってんの!? あ、光の当たり具合によって若干輪郭が見える! すげぇぇ!」
申し訳ない、大 興 奮である。
だって傍から見たら裸の女性なのだ。
なのに、角度によってキラキラした鱗の輪郭が見えるというか。
まるでSF的ボディスーツでも着ているかのような見た目。
いやいやいや、コレはエッチだ何だと言う前に格好良いぞ!?
なんかもうコレだけで防御力高そう!
「スガワラ、流石にそこまでジロジロ見ると失礼だ」
「す、すみません! つい……いやぁ、でも……いいなぁ。恰好良いなぁ……」
角は諦めるよ、尻尾も諦めるよ。
じゃぁ代わりにこのセイレーンさんの鱗装備頂戴よ。
そんな事を考えつつ、彼女の裸体を眺めていれば。
「そ、そこまで熱心に見られると……流石に羞恥心が湧いてきますね。服、着ても良いですか?」
「あ、どうぞどうぞ。出来ればそっちの方が俺も助かります」
新たなる幹部様に対し、まずは御着替えの時間を用意する事になってしまった。
魔王軍幹部にも色々居るねぇとは思うが……今回は、凄く良かった。
パルマみたいな変なヤツじゃなく、おっとり系美人が美しい裸体を晒しつつすげぇ綺麗な鱗を見せてくれたのだ。
こちらとしては、“ご馳走様です”と言う他無い事態だろう。
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