第26話 欲は増えるばかり


 ひとまず戦闘シーンの撮影を終え、皆で映像をチェックしていると。


「今回は雨宮君のフォームチェンジで見どころはあるとして……いや、でもなぁ」


「何か不満か? 勇者サオトメ」


「あ、いえ。不満って訳じゃないんですけど……こう、変化をもっと入れないと不味そうというか。なぁんかやっぱ足りない気がするんっすよねぇ」


 早乙女君がう~んう~んと唸りながら、魔王様と話していた。

 映像としては結構良く撮れているとは思うのだが、彼もまた“向こう側”の人間。

 やはり、物足りなさを感じてしまうのだろう。

 だがエフェクトはこれでもかって程に派手なのだ。

 役者の演技は皆素人だから、ある程度は目を瞑るとして。

 その他の点で、やはり足りない箇所が多いとしか言えないのも分かる。

 そこばかりは、俺も同意見だ。


「早乙女君、雨宮君。それからパーティ女子三人衆。ちょっとそっちの街の事情が聞きたいんだけど……この映像って、そっちではどんな風に受け入れられてる?」


 と言う事で、俺の方でも口を挟んでみれば。

 勇者二人はフムと難しい顔をして、仲間達三人に関してははて? と首を傾げて見せた。


「どうもこうも……その、人気だなと。映像は大広場で公開されるのだが、貴族の面々も足を運ぶ程だ」


「今の所……他の勇者の映像が無い時は、一晩に一回放映。まだ二話しかないけど。でも時間を割いてまで、というか大勢引き連れて映像を見に来る住民も多い」


「お陰で色んな所のお店が繁盛して、話を聞きつけた他所の国から旅行者だって来るくらいです! 私達の報酬もドンドン上がってますよぉ! この調子で集客していきましょう!」


 なるほどなるほど。

 つまり、新しい娯楽として皆受け入れているという事なのか。

 が、しかし問題がここで一つ。


「菅原さんが言いたいのは、コレを戦闘記録として見ているのか。それとも本当に娯楽として見ているのかって事ですよね?」


 話の分かる雨宮君が、そんな言葉をポツリと呟いてみれば。


「そう言う意味では……どうなんすかね。一応俺達は戦闘記録として提出してますけど、民衆としては完全娯楽感覚です。国のトップ連中に関してはどう見てるのか……ちょっと、俺達だと判断出来ねぇっす。でも、実際新しい“流行り”が出来た事に喜んでいるのは確かっすよ」


 続く早乙女君の御言葉により、やはり此方も悩んでしまった。

 これは彼等の戦績を報告する映像。

 第一話には何も考えず予告を入れてしまったが、二話では控えた。

 何度も言うようだが、これは戦闘記録。

 あまりにも娯楽方面に特化してしまって良いのかという疑念が、未だに晴れないのだ。


「スガワラ、ちなみに今何を考えている? 何を悩んで、何を躊躇っている?」


 心配そうな顔を向けて来る魔王様が、そう声を掛けてくれる訳だが……。

 この人は、ウチの領地の魔族をまとめる人物なのだ。

 だからこそ、相談するならこの人というのは分かっているのだが……。


「この映像を、戦闘記録ではなく本格的に娯楽として扱って良いのかどうなのか……ですかね」


「元々娯楽だろう? 映像を見ている人間が武人であれば、直接戦っていない事など一目瞭然だぞ?」


「まぁ、そうなんですけどねぇ……それ以上に吹っ切っちゃったほうが、“見世物”として完成するというか……」


「これはまだ、未完成だと言う事か?」


「まぁ、ハイ」


 そう、渋い声を返す他無かった。

 此方の世界の娯楽、それは非常に分かりやすく本や吟遊詩人。

 そして演劇やら何やらと色々ある様だが、どうしたって比喩的表現が多くなっているらしい。

 あとはオペラの様な“役者”と分かる演技をする為、民衆が戦闘記録を見る機会は非常に貴重で刺激的なんだとか。

 だからこそ、俺達が作っている特撮に関しては……やり過ぎると“変に浮いてしまう”可能性があるのだ。

 他の娯楽の様に見て楽しめれば良いのか、それとも実戦の映像の様に見せた方がウケるのか。

 更にこの状態で新しい情報を突っ込むとどうなるか、もしかしたら“戸惑い”が生れてしまう可能性がある。

 そこを目新しいと見るか、それとも下らないと判断されるか。

 非常に曖昧なラインではある、がしかし……やっぱり欲しい。

 “娯楽”として振り切ってしまって良いのなら、是非。


「ちなみに、何が足りない? お前達異世界人は、これ以上の何を求めている?」


 魔王様の一言により、現地の皆様は俺と勇者二人に注目して来る訳だが。

 此方としては非常に渋い表情を浮かべながら。


「音楽が……欲しいです。オープニングと、エンディング。それからBGMと次回予告はやっぱり入れたいです……出来ればCMとかも入れて、前半後半で映像を分けた方が、見る側も集中力が持続するのかなって」


「すまん、何だって? おーぷ……? それから“しーえむ”とは何だ」


「ただいま、詳しくお見せします」


 と言う事で、イフリートにお願いして俺の記憶から過去の特撮番組を皆様にお見せするのであった。

 やっぱさぁ……欲しいのよ、BGMと主題歌。

 あれがあるだけで、締まりが違うのだ。

 そんでもって、CM。

 見ている側からすると不快に感じる事も多いだろうが、やはり前後半で分かれているというのは、非常に“楽”なのだ。

 作る側からすると編集の手間が、それにABパートそれぞれに山場を作ると考えた方がストーリー構成も分かりやすい。

 視聴側としてはやはり集中力の持続にも繋がるし、続きを見るのが楽しみになる。

 そして特撮と言えば、やはり玩具のCMを入れる事により興味が引ける事だろう。

 更にそこに曲やBGMが加わり、状況を見るだけではなく雰囲気その物が盛り上がる。

 だからこそ、やっぱりその辺はすぐにでも手を加えないと……早乙女君の言う様に、飽きる人が出て来てしまう可能性があるのだ。

 今の所派手な戦闘と魔法演出で釣っているだけの様な状態だし。


「曲、曲か……確かに舞台などでは盛大に音楽を鳴らしながら、役者が演技したりするな」


「その方が演出として強い上に、どうしたって緊張感が高まりますからね」


「しかしそのオープニングとエンディング。コレに関しては……大丈夫か? 一応扱いとしては戦闘記録だぞ、コレ」


「そこなんですよねぇ……」


 魔王様と共にう~~むと悩みこんでしまえば。


「あ、あの! とりあえず三話はこのまま行きませんか!? 今この場で答えが出ない以上、悩んでも行き詰まるだけですし! 一度案件として持ち帰り、向こうの言い分も聞いてきますよ! 色々詳しく話す事にはなると思うので……もしかしたら、こちらの地域が甘く見られたりするかもしれませんが……」


 雨宮君の発言により、ひとまず三話はこのまま行く事が決定した。

 確かにその通りだ。

 今からいきなり変えようとしても、放映時期を非常に伸ばす事になるし。

 だからこそ一旦保留とし、勇者組に向こうの王様から色々聞いて来てもらうという事でその場は収まったのだが……。


「勇者アマミヤ、そして勇者サオトメ。すまないが一つ頼まれてくれないか?」


「え? あ、はい。なんでしょう?」


「どうしたんすか?」


 解散直前、魔王様が彼等を呼び止めて何かをお願いしていたかと思えば。


「スガワラ、貴様も個別で少しこの後付き合え。企画というのは許可が下りてから始めたのでは遅い。此方も向こうの返事が来る前に、少しでも進めておくぞ。駄目だった時は無駄になるが、問題ない様なら初動が速くなる。むしろこちらに手札が無いのは愚策だ」


「えぇと? 了解しました、魔王様」


 何やら良く分からない言葉を残す彼と一緒に、俺は転移のゲートを潜るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る