第25話 問題児、収録開始


「ヌハハハッ! よく来たな! お前達が勇者一行か!」


「パルマ、油断するな。アイツ等は――」


「皆まで言うな、分かっている……お前と同じ、“変身能力”を持った勇者。だったな? 魔王軍の頭脳とも呼ばれている私が、その程度の事を忘れると思っているのか?」


 第三話、収録中。

 パルマ先輩は、ノリノリで演技しておられた。

 最初こそ駄々をこねまくり、現地にも自らの抱き枕を放さず現場入りしたくらい嫌がっていたのに。

 いざ始めてみれば、これだ。

 演技指導とかいらないくらいに、完璧に役柄をこなしていた。

 ただしそれは、“クソガキ”に他ならないが。

 というか小物臭が凄い、こんな所でまで匂わせなくて良いのに。


「ここに来て、新しい魔王軍幹部……」


「雨宮君、マジで今回は気を付けた方が良いぜ? 相手さん、かなり出来るみたいだ」


 勇者二人が武器を構え、台詞を読み上げている訳だが。

 おーい、後ろの三人。

 正確に言うと雨宮君のパーティメンバー。

 カメラには映っていないが、表情が固まっているぞー?

 まぁね、分かるけどね。

 今日から撮影に加わります、パルマ先輩でーす! なんて紹介だけで現場に突っ込んだから。

 見る人からしたら、子供を現場に引っ張り込んだ様にしか見えないだろうね。

 でもこの人、俺より年上だから。

 こんなクソガキしてますけど、俺より長く生きていらっしゃるから。

 中身はとても年上とは思えない程、我儘お子ちゃまお掃除できない系ロリっ子だけど。

 一応、頭は良いのだ。


「クハハッ! スガワラが苦戦しているからと聞いて、わざわざこの天 才 ! とも呼ばれるこの私! が! 来てみれば……なんだ、羽虫程度の魔力だな。話にならない、今すぐにベッドに戻りたくなって来たぞ。こんなのに勝てないとは……お前魔王軍幹部辞めた方が良いんじゃないのぉ~?」


 カッカッカと笑いながら、彼女がそんな台詞を溢してみる訳だが。

 分かっている、演技なのだ。

 演技なんだよなぁ!? なんか無性にイライラするぞ!?

 撮影中にニヤニヤしながらコッチ見るなクソガキ!


「ふん、苦戦などした覚えはない。今回は貴様も同行させた方が、後々都合が良いと思っただけだ」


「ふぅ~ん? へぇ~? この程度の相手に、私の手が借りたいと。そういう認識で間違い無いのかなぁ? ス ガ ワ ラ~」


 こ、コイツ……若干アドリブを入れながら煽って来てやがる。

 思わず拳をプルプルと震わせるわけだが、このまま俺がプチッと来ては撮影を中断させる他ない。

 なので我慢しながら、次の台詞を口にしようとしたその時。


「前言撤回。あんまし、強く無さそうっすね。今回の相手」


「だね、とりあえずは赤鎧を警戒しつつ、取り巻きを攻撃しましょう。あっちの方が弱そうですから、先に片付きそうです」


 此方の状況を理解したのか、勇者組がアドリブを突っ込んで来た。

 が、しかし。

 良くやった! もっと言ってやれ! このちびっ子を分からせてやれ!


「皆はあの小さいのを! 俺達はいつも通り、赤鎧を抑える!」


「ハハッ! 抑えるって、簡単に言ってくれるねぇ雨宮君! んじゃ、行きますか! あのちっこいのは任せたっすよ!」


 二人はそのまま演技を続け、彼等の背後に居る女の子三人もノッて来たのか。

 パルマ先輩に鋭い視線を向け始めた。

 すると、当然とも言っても良い化学反応が起きてしまい。


「はぁぁぁ!? だぁれが強く無さそうだって!? こっちは魔王軍幹部な上に、魔術開発部門の責任者なんですけどぉ!? あんまり舐め腐った態度を取ると、皆そろってあの世に――」


「行くぞ! 勇者達! 俺を楽しませろ!」


「「うおぉぉぉ!」」


「おい聞けよ筋肉共! 今私が喋ってるだろうがい! あ、ちょ、まっ! こっちにも何か来た! おい来るなよ! こっち来るな馬鹿ぁぁぁ!」


 その後戦闘を挟み、撮影は順調に進んでいった。

 しかしながら、一つだけ分かった事がある。

 パルマ先輩を役者に使うと、絶対にギャグ回になってしまうのだ。

 しかも、本人は確かな実力がある癖に。

 俺や勇者達へのツッコミに忙しくなり過ぎて、雨宮君のパーティにも平気で追い詰められる程。

 俺達が殴り合ったり、早乙女君の弓矢を回避している一方で。


「おいコラスガワラ! お前あんまりそっちばっか相手してないで私の事守れよ! 前衛、オイ前衛……だぁぁぁ! ごめんなさいごめんなさい! そんな魔法連射しないで!? そっちの子も剣を振り回しながら近づいて来ないで!? 暴力反対ー! 止めろよ! 泣くぞ!? 良いのか!? あぁぁぁ! 帰る!」


 背後で、何か走り回っているのだ。

 緩い、非常に緩い。

 思わず目で追ってしまう程に、ほんわかした戦闘が繰り広げられていた。

 第二話に関しては、前回同様結構な緊張感を保っていた筈なのに。

 人族の間でも話題になり、勇者二人の知名度はかなり上がったそうな。

 そんでもって敵役として俺の人形や、魔王様の人形も結構な売れ行きを伸ばしていると聞いていたのだが……三話、これで大丈夫か?

 ゆるキャラ出すにはまだ早かった気がする。


「え、えぇと! 菅原! お前の攻撃はもう通用しない! 俺には新しい力があるからなー!」


 どうにか演技に集中しようとしているのか、ちょっと片言になった雨宮君がフォームチェンジして緑色に変わっている。

 その手に持っているのは盾。

 以前俺のラ〇ダーキックを防いだフォームだ。

 もうちょっとこう……ドラマチックにしたかったのだが、致し方あるまい。

 このままではただのギャク回になってしまう。

 後ろで走り回っているちびっ子と、それを追っかける三人の女の子が撮影されているのだから。

 どうしても、集中力を欠いてしまう。


「ふんっ、その程度の盾で我が一撃を防ごうと言うのか? 笑止!」


 それだけ言って空中に飛び上がり、相手に向かって踵向けてから。


『final vent』


「せいはぁぁ!」


 イフリートの炎を背中で受けながらライ〇ーキックをかましてみれば。

 雨宮君が俺の攻撃を正面から受け止め、早乙女君がサイドに回り弓を構える。

 そうだ、それで良い。

 そんでもって、“大技”を披露するんだ!


「雨宮君! 耐えてくれ!」


「だい、じょうぶ! 早乙女さん!」


「うっしゃぁぁ! 行くっすよ!」


 彼の弓から矢が放たれ、光を纏った状態で俺の方に飛んで来る。

 ちなみに普段ならあんな掛け声は必要無く、隠密を使った状態なら発光すら無しに叩き出せるスキルらしいが。

 演出の為、派手にやって貰わなければ。

 という代物が俺の後ろを通り過ぎた瞬間。


「ぐあぁぁっ!」


 その矢が背後を通過する瞬間に合わせて、俺は全身からダメージエフェクトを発生させつつ横に吹っ飛ぶ。

 雨宮君の後ろから撮影しているメルの姿が見える以上、これで正しい筈。

 きっと映像には、早乙女君の矢が俺の身体を貫通したかの様に映っている筈だ。

 と言う訳で、その場からゴロゴロと転がってみれば。


「プークスクス! スガワラダッセェ! あんな見え見えの攻撃に当たってやんの! 治療いる? ねぇ治療いる? 治してあげようか? 今後一週間私の奴隷になるなら今すぐ治してあげるよぉ!」


 後ろから、非常に煽りまくっている声が聞こえて来てしまったのであった。

 あぁ、これは不味い。

 演技としても、タイミングとしても結構良い感じで撮影出来たんじゃないかと思っていたのだが。

 パルマ先輩の一言により、全てが台無しになってしまった。

 結果。


「カット! ……パルマ、少々話がある」


「え、あれ? 魔王様? いや、あのですね? いまのはその……癖と言いますか、普段からスガワラが情けないから思わず声に出してしまったと言うか……つい」


「貴様のその、“つい”で現場に混乱が起こる。下手したらさっきのシーンは全て撮り直しだ。分かるか? 分かるよな? お前程頭の良い魔族は他に居ない。この撮影に対し、どれ程の人材がこの時間に本気で仕事をしているか。分からない筈が無いよな?」


「え、あ、えぇと……そのぉ……」


「映像スタッフと話して来る。最初から撮り直しになった場合……覚悟しておけ」


「ひぃぃぃ!? 魔王様! ご慈悲を! 今度はちゃんとやりますからぁぁ!」


 パルマ先輩は三下。

 本当に、傍から見ると良く分かるね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る