第24話 働かなければ……生き残れない!


「だから違うってば、スガワラの下手くそ。こっちの回路とこっちを繋いで、一時的にダンジョンを休眠状態にするの」


「へ? あぁぁ~コレ? 配線ならまだ分かるんだけど、まどーかいろとか言う実物が無い物だとちょっと……うわぁ、触ってる感触ないのにちゃんと掴めるのキモチワルイ」


「スガワラも魔法を使うんだから、“魔導回路”くらい理解しておきなって……これは視認できるようにしてあるけど、お前の体の中にも同じようなのがあるんだぞ?」


「キショイキショイキショイ、想像させんなよマジで」


 と言う事で新たなお仕事、ダンジョンの奥底に転移させられた俺達。

 そのまま作業を始め、パルマ先輩に教えられるままダンジョンの調整をしている訳だが。

 まぁぁったく分からん。

 昔の仕事上&車なんかをイジった事もあったので、配線関係は結構得意だ。

 しかしながら、その配線に実物が無いとなるとどうなるか。

 現代人には分かるまい。

 感触もない、目を凝らしても薄っすらとしか見えない“配線の様な物”がグチャグチャに繋がっている光景が目の前には広がっているのだ。

 はっきり言おう、ストレスが溜まる。

 ココに電気やネット回線の配線技師を連れて来たとしよう。

 多分、秒でブチギレるレベルでグチャグチャ。

 分かる人には分かるから良いんだよ! みたいな繋ぎ方をしており、正直こんなの理解出来るかと言いたくなる。

 おぉ~い、コレ。

 マジで一からやり直した方が早い気がするぞ?

 ダンジョンに対する知識も、魔術に対する知識も人一倍無いので軽くそんな言葉は溢せないが。

 しかしながら、今俺が見ている魔導回路とやら。

 酷い、酷すぎる。

 関連する回路をまとめて結束バンドで留めたい、あと何故既に絡まっている?

 実体無い癖に絡まるなよお前等、何があったらこうなるんだよ。

 今すぐ切断して繋ぎ直したい。


「だぁから、そっちはコッチに繋いで。あっちはコレと繋がると活動を停止するから、その間にコレをソッチに繋いで回復を……」


「ずあぁぁぁぁ! めんどくせぇぇ!」


 うん、無理。

 元々頭良い方ではないし、覚えるのも苦手だし。

 でもね、明らかにね。

 分かりやすく出来る作業を雑にしたまま放置した現場なんですよ、ココ。

 だから管理できる人が少ないの、分かる?


「魔王様に連絡してください」


「おいおいスガワラ、この程度で一体何を――」


「一から全てやり直しましょう、多分その方が早いです。その方が後に繋がります。だから、ダンジョンが完全停止している間は、カッパラァ先輩に守ってもらいましょう。彼と彼の部下なら、秒で来てくれます」


「……本気? ここの回路、かなり膨大だけど」


「その膨大な量の回路を、次から次へと“その場限り”でやって来た結果がコレです。だから、今! まとめましょう! 次回から“AとBを差し替えて、終わったらAに戻す”くらいにまとめましょう! さっきからやっている回路、同じところに幾つも一つずつ繋ぎ直してますよ!? しかも順番バラバラで!」


「そ、それはだね……順番に繋ぐ回路があるという訳で……別にぃ、そのぉ~まとめるのが面倒だったとかって訳じゃなくてぇ」


「だったらソレはCです! 一つ手間が増えるだけです! ホラ、作業としては誰でも出来るようになるでしょう!? トラブルの為に技術スタッフは居るのであり、常日頃から現場に向かうのは作業員で十分な筈です! 作業の効率化! 万歳!」


 と言う事で、一度魔王様に連絡を取る事になったのであった。

 ちなみに魔王様もこの魔導回路のゴチャゴチャ具合にはお手上げ状態だったらしく、即座にOKを出してくれた。

 やったぜ。

 が、しかし。

 言い出しっぺと言うモノはやはり苦労するもので。


「ホラ、休んでる暇は有りませんよ。カッパラァ先輩の部隊が護衛してくれているんですから。ココは? 何処に繋ぐんですか?」


「そ、そろそろ休ませて……」


「アンタ普段他の人よりずっと寝てるだろうが、徹夜だ何だは気分が乗った時だけ。だったら働け働け! ホラホラ、こっちの回路は何処と繋げば良いんですか? 他とまとめられる箇所があるなら、一つにまとめますよ」


「勘弁してぇ……」


 パルマ先輩の指示の元、俺達は徹夜でダンジョンの魔導回路を弄り回すのであった。

 とはいえ、簡単に言えば電送盤を弄っている様な物。

 しかも“向こう側”の様な面倒な事は無く、本当にゲーム感覚で回路を繋いでいくだけ。

 もちろんコレも、元々の魔術式を作り上げているから簡単に済んでいるのだろうが。

 こっちと繋げば、何階と何階までの灯りが付いて。

 こっちはその階の魔物が快適に過ごせる為の物。

 なんて風に理解して行けば、結構楽しくなって来た。


「あぁ~つまり、こっちに繋ぐと魔物すら過ごせない厳しい環境が出来て、もっと言うなら侵入者すら死ぬって訳ですね。正面から来るなら、突破不能のダンジョンも作れる訳だ……あぁでも、魔力が足りないのか。バランスが難しいな」


「何楽しくなって来てるのかなぁ!? 分かってる!? 私達調整に来ただけ! こんな事までする必要無いの! ダンジョンの難易度上げなくて良いの! ココはそもそも結構キッツイダンジョンだからね!?」


「元から丁寧に作ってあれば、幹部じゃ無くても出来る仕事ですよね? それを今までやって来なかったから、こうなってるんです。自業自得ですよ、魔王様にも報告しますからね」


「お願いだから止めて!? この仕事ですら部下に奪われたら、私の存在意義ドンドン無くなっちゃうから止めて!?」


「あーもう遅いですね。ダンジョンに関しては、魔導回路大体分かって来ました。まぁ先人の残した環境を参考にしてるんで、素人にも出来る範囲ですけど。これで問題ないですか?」


「問題ねぇよ! 今までより快適だよ! 回路もスッキリしたよコンチクショウ!」


「なら、先輩の仕事は一つ減り、暇が出来るって事ですね。これなら他の人にも分かりやすくなってる筈ですよ、回路まとめておきましたから。つまり新しい仕事が出来る、やりましたね」


「止めろよ馬鹿ぁぁぁ! 私の存在意義が一つ減るだろうがぁぁ! 確かに今の方が私も分かりやすいけどさぁ!」


 うるせぇよガキんちょ。

 こちとら誰とも知れぬ相手が滅茶苦茶に組んだ配線とか、もしくは配管とかも相手にして来たのだ。

 だったら、修理の度に混乱するよりこっちの方が良いだろうがい。

 例え数年後にしかコイツを拝まないとしても、最初の状態の回路は二度と御免だ。


「パルマ先輩、大丈夫ですよ」


「ス、スガワラ……」


 なにやら頭を抱えている彼女の肩に手を置き、満面の笑みを浮かべながら。


「こっちが早く終わったなら、“撮影”の方で仕事はいくらでもありますから」


「お前本当にふざけんなよぉぉ!? そういう表に立つのが嫌だからこういう仕事してんの! 分かる!? 分かれ脳筋!」


 ふはははは! 雑務なんぞ効率化!

 他の業務に関してもどんどんと簡単に済ませ、満足感の得られる提案は惜しみなく出そうではないか!

 全ては、“特撮”の為に。

 そして今、このパルマ先輩は。

 しばらく手が空いたという事に他ならない!

 つまり! 他の仕事しろ! というか撮影に付き合えちびっ子!


「パルマ先輩には、次の撮影で敵役として参加してもらいましょうか」


「嫌ダァァァ! 私が演技なんて出来ると思うのかぁぁぁ!? 無理に決まってんだろぉぉ!?」


 人材、確保だぜ。

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