第23話 喧嘩する程……オイテメェふざけんな


「魔王様、パルマをお連れしました」


「うむ、御苦労」


「おいテメェ、“先輩”はどうした先輩は。調子に乗るなよ!」


「パルマ パ イ セ ン を、お連れしました。未だにお部屋の掃除も出来ない上に、お風呂に一人で入れないパ ル マ 先 輩をお連れしました」


「一人で入っただろう!? スガワラとなんか一緒に入って無いだろう!? 誤解を招く様な事言うなよお前ぇ!」


「……うむ、えぇと。大変御苦労……様。スガワラ、もう手を放して良いぞ」


 魔王様の声と同時に、小脇に抱えたパルマ先輩をベチッと地面に下ろしてみれば。

 彼女はギリギリと歯を鳴らしながら此方を睨んで来た。

 でも知りませーん、貴女が悪いんでーす。

 散らばったスナック菓子をソファーの下に放置したり、腐った食いかけの肉がベッドの向こう側から出て来る様な部屋に住んでいる貴女が悪いんでーす。

 毎回掃除する身にもなれちびっ子!

 虫が湧かない様に熱消毒までして、更には清掃係のおばちゃん達から道具まで借りて来てフレグランスな香りが漂うお部屋に戻してやった事を感謝しやがれ!

 と言う事で、此方もギリギリと歯ぎしりながらおでこをくっ付けて睨み合っていれば。


「相変わらず、仲が良いな……」


 俺達の前に座っている魔王様が、おかしな事を言って来るではないか。


「ど こ が で す か! 魔王様聞いて下さいよ! コイツ洗濯物一週間以上溜めてたんですよ!? なぁにが大人の女性なんだか! 夫でも彼氏でもない男にパンツ洗濯されて恥ずかしくないんですかねぇ!?」


「あぁぁ!? お前がそれくらいしか出来ない無能だって証明だろうがスガワラ! 幹部になった癖に、毎日毎日炊事洗濯のお手伝いと訓練訓練訓練! あぁお疲れ様! こっちは魔王軍全体に役立つ魔術を作り出すのに毎日忙しくてねぇ! お 前 と 違 って!」


「はぁぁぁ!? コイツ前衛に対する理解が全く足りてねぇなぁ!? 前に立つ皆様が居るから、パルマセンパァイの様な? 毎日部屋に引き籠って研究出来る環境があるんじゃないですかねぇ!? カッパラァ先輩達に、一度本気でお礼でもした方がよろしいかとぉ!? パルゥゥマァァァセンパァァィ!」


「うっわその言い方マジでムカつく! お前人族の街中に一人だけで転移させんぞ!」


「俺は人族でーす! 変身しなければそっちでも攻撃されませぇぇん!」


「うがぁぁぁぁ! 魔王様! コイツ放り出しましょ!? ね! そうしましょ!? こんな生意気なヤツ、ウチにいらないですよ!」


 物凄く下らない口喧嘩を繰り広げてみれば。

 俺達の前に座った魔王様は大きなため息を吐きつつ。


「その場合、パルマの部屋に百以上の部下達が抗議に向かうと思うが……それは構わないか? スガワラは、その……色々と人気者でな。それから貴様の部屋を掃除してくれる貴重な人材が居なくなるぞ? 清掃係の面々も、お前の部屋だけは嫌がってな」


「そんな馬鹿なぁぁぁ!? こんな冴えないおっさんが!? というか私の部屋ってそんな扱いになっていたんですか!?」


「残念だったなぁパルマセンパァァァイ! 俺は社交的な性格をしてるんだよぉぉ! 悔しかったら他人様を呼べるくらいにはお片付け出来るようになりましょうねぇぇぇ?」


「おっまぇホントムカつくなぁ!? こんな美女のパンツ見ておいていう事がソレか!?」


「美女? あれぇ、どこに居るのかなぁ? イザベラさーん? メルー? どっかに居るのかー?」


「ぐあぁぁぁぁ! ムカつくぅぅ!」


 クハハハハッ! と高笑いを浮かべていれば、此方のやり取りを見ていた魔王様が再びため息を溢してから。


「次の仕事だ、スガワラ。パルマと一緒に、ダンジョンの調整をしてこい。まぁ、なんだ。勉強だと思って……」


 その一言に、俺達は二人してピシッと停止した。

 いや、あのですね。

 待ってください魔王様。

 この生活力皆無のパルマパイセンと、ペアで仕事っすか?

 しかも、なんか難しそうなお仕事。

 明らかに俺は護衛と言うか、見学というか。

 お勉強の為に付いていく、みたいな。

 そんな事態になれば、当然。


「スーガーワーラーくーん? ダンジョンの調整って、結構難しいんだけど……君に出来るかなぁ? いやぁ、一人で行っても良いんだよぉ? 私一人の方が楽だしぃ、暑苦しくて鬱陶しいのが近くに居ない方が集中出来るしぃ」


 ホラ、これだよ。

 間違いなく俺では出来ない仕事を申し付かった瞬間、ニヤニヤニヤニヤと勝ち組の顔をなされているよ。

 アレだ、マジでクソガキ。

 そう表現するしかない顔をしながら、パルマ先輩が口元を吊り上げておられる。

 しかしながら、コレも魔王様の指示。

 今後俺もダンジョン管理とかするのなら、間違いなく習っておかないといけない技術。

 だからこそ。


「く、クソッ! 汚部屋に住んでいる癖に……」


「何か言ったかなぁ? 良く聞こえなかったなぁ? スガワラ、何だってぇ?」


 こ、こいつっ!

 誰がいつもお前の部屋を掃除していると思ってやがる!

 と、言えるはずもなく。


「お、俺にダンジョンの調整を……教えて、下さい……」


 グッと拳を握りながら頭を下げてみれば。


「別に教えるのはやぶさかではないんだけどぉ、もう少しこう……いろいろあっても良いんじゃないかなぁ? 私、魔王軍幹部の魔術開発担当。誰よりも詳しい知識を持ち合わせて、尚且つ誰よりも魔術やダンジョンを理解してる。あぁ~そう言えば、異世界からの召喚術式をこっちで発案したのも私だねぇ。死んだ君を蘇らせたのは私と言う訳だぁ~、ハァーハッハッハ!」


 マジで調子に乗り始めた赤毛のドリル角小娘が、見た目に合っていないコートみたいなのをバサッと広げながら。

 これまた調子に乗った感じで高笑いを浮かべつつ、更に。


「私もねぇ、新しく幹部になった後輩くらい可愛がりたいと思っていたんだよ? ほらほら、優しく教えてあげるから。ココに膝を着いて、その無駄にデカい身長を小さくしてから頭を垂れると良いよ。それから毎日私の部屋の掃除をしてくれて……そうだ、食事を取りに行くのも面倒だから毎食届けてくれると助かるな。その他にも色々とお願いしたい事はあるが~まぁ、ひとまずはコレくらいで。そしたら、ダンジョンに事を懇切丁寧に教えてあげよう」


 こんな事まで言い始める始末。

 魔王様も、思い切り溜息を吐いているし。

 つまり、“分からせてやる”必要がある様だ。


「ホラホラ、跪けスガワラ! 私に忠誠を誓え!」


「御意」


 言われた通り跪いた俺の頭を、ペシペシと叩いてくるパルマ先輩。

 あぁ~おじさん怒っちゃったぞ?

 ずぶ濡れで風呂から上がって来て、誰がお前のモサモサした長い髪の毛を乾かしてやったと思ってるんだ?

 お前のクッソ汚れた部屋を綺麗にしてやったのは誰だと思ってるんだ?

 と言う訳で。


『「変身」』


「どわぁぁぁぁ! 熱っつ!? あっついからぁ!? 髪の毛燃える! てめぇ!」


「本日の貴様の罪を数えろ」


「数えきれないわ! ごめんね!? 本当にごめんね!? だから燃やさないで!?」


「お前の角毟って俺の頭に移植してやるわこのクソガキィィ!」


「うぎゃぁぁぁ! 角持って持ち上げるな! もげる! 首から捥げるから! やめ、やめろぉぉぉ!」


「ほんと、仲良いね……君達」


 魔王様からは、再び呆れた様なため息を頂いてしまうのであった。

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