第19話 祝 第一話放映
その後、街中では菅原さんと戦った俺達の映像が公開された。
勇者の活躍を民に見せるのは珍しい事では無い。
しかしながらやはり普通の戦場となると、この平和な時代にはお見せ出来ない様なシーンも有ったりするので、カットされたり口頭のみで終わったりと色々なのだが。
今回の物に関しては、完全に全年齢の安心安全映像となっているのでフルで放映されていると言う訳だ。
結果、何が起きたかと言えば。
「す、すご……こんなに報酬貰ったの、初めて……」
「簡単に武具が新調出来る金額を貰ってしまったな……」
「流石アマミヤ様です! これでしばらくは贅沢三昧……じゃなかった、生活の心配をする事はありませんね!」
仲間たちが、王様から頂いた報酬を手に各々感想を残していた。
元々俺のパーティは、それこそ“ハズレ勇者”なんて呼ばれていたくらいで、これ程の大金を手にした事は無かったのだ。
だからこそ、俺としてもこの度の報酬に感動したのも確かなのだが。
一番の成果は、持ち帰った映像に民の多くが興味を持ち。
同じ“変身能力”を持っている俺に、菅原さんを倒すというドラマを期待させた事。
人々から多く期待の声が上がり、それを映像に納め更なる経済発展の為、王様からもあの魔王に関する事例は俺に一任されたのだ。
つまり、菅原さんの所に遊びに行っても誰の邪魔も入らないと言う事。
そして協力者として名乗り出たのは当然。
「いやぁ、結構な金額になったね雨宮君。何食べるよ? 俺を今回の話に噛ませてくれたお礼もあるし、今日は奢っちゃうよ~ん」
軽い調子の早乙女さんが、機嫌よさそうに絡んで来た。
この一件により、二人の勇者が組むという事態が許されたのだ。
早乙女さんが現状パーティを組んでいないという影響もあり、これは結構すんなり許可が通った。
つまり、俺のパーティに追加戦力という形で同行を許された形だが。
「あっ! 見て下さい早乙女さん! 俺等のフィギュア売ってますよ!」
「フィギュアっていうか、木彫りの人形とか石膏だけどね? でも、あぁぁ……俺も何か鎧買おう! 雨宮君の鎧はすっげぇ格好良く出来てるのに、俺だけ安い量産品みたいな顔してる!」
「こればっかりは、もっと腕の立つ造形士が手を出してくれる事を願うしかないですね……ハハ」
俺達が戦っている映像が市民の皆様に“ウケた”事により、様々な物品が売られ始めたのだ。
早乙女さんの弓のレプリカは勿論の事、俺の鎧と似た様な物も大層売れているそうで。
ちなみに今眺めている人形の類は、随分と子供に人気が出ている様だ。
街中で俺の変身ポーズを真似している子供達なんていうのも、度々見かける様になった程。
そしてそして、結構意外だったのが。
「ホラ、最後の一箱を開けるぞ! 今日はこれでお終いだよ! お買い求めのお客様は急いだ急いだ!」
人形を売っていた露店の店主が木箱を開き、中から取り出されたのは。
「うっへぇ……菅原さん、人気だねぇ」
「あの映像を見返してみても、やっぱり恰好良かったですからね。仕方ないですよ」
真っ赤な鎧の、菅原さん人形。
魔族の仲間だからどうとか、戦っている敵だからとか。
そういう意識は結構市民的には薄い様で。
やはり娯楽としてこの事態を認識しているのだろう。
それはそれで怖いと思ってしまうが、でもこうしてお金が回るのなら、国の望んだ形なっているのは間違いない。
人が群がって、我先にと赤い鎧の人形を買い漁っていく姿はまさに圧巻。
映像を見た人達には、一番印象に残っているであろう菅原さん。
彼のは何と言うか……本当に全力で“特撮”と言うモノをやっていたのだ。
演技は隅々まで“悪役”を演じているのに、とにかく見た目も攻撃も派手。
だからこそ、悪役だとしてもしっかりと心に残る。
俺が主役をやらせてもらうのが申し訳ない程、本気で撮影に取り組んでいたのだから。
更に言うなら彼が言い放った台詞の数々は、どちらかと言うと多くの“勇者側”に突き刺さったらしく。
各地で争っていた相手と交渉を始めた勇者なんかも現れ始めたそうな。
間違いなく今回の一件は、多くの人を動かした。
だからこそ、大成功だと言って良い結果にはなったのだが。
「あっ! 勇者様! “第二話”はまだ公開されないんですか!?」
一人の子供が此方に気が付き、走り寄って来てそんな事を言い放つではないか。
そう、これまた別の問題が発生してしまったのだ。
戦闘の映像記録だけで終わっていれば良かった物を。
あの人、最後に予告を入れてしまったのだ。
「えーあー、そ~だなぁぁぁ……もう一回あの赤鎧と遭遇すれば、第二話が放映出来るかなぁ?」
「じゃぁ早く! 早く見たい! 行って来て! スガワラを探して!」
些か彼が人気になり過ぎた事により、俺の扱いはこういう感じになってしまったのだ。
酷い、こんなのってないや。
いや、分かるよ?
早く第二話を見たいってのは分かるよ?
でもさ、特撮って一週間に一回しかやらないんだ。
なんて説明した所で子供達が納得する訳もなく、次から次へと集まって来てしまうではないか。
「予告では勇者様も新しい鎧に変わるって言ってたよ! どんな鎧なの!?」
「ねぇ見せてー! 見たいー!」
「スガワラっていう赤い方は、鎧が変わったりしないの!?」
わちゃわちゃし始めた所で、彼等を遮る様にウチのパーティメンバーが集まって来てくれて。
「はいはい、勇者アマミヤと話したいなら順番順番。一分銀貨一枚」
「あまり大通りで固まるものではないぞ、子供達。ほら、せめて一列に並べ」
「皆お姉さん達の活躍も見てくれたかなー? 今だったらサインとか書いてあげても良いよぉ~?」
女子三人が子供達をまとめようとしてくれたのだが、彼等彼女等はポカンと仲間達を見上げてから。
誰も彼も顔を合わせる様にして。
「え? 誰?」
「しらない……何このおばさん達……」
「お、おい誰か母ちゃんか父ちゃん呼んで来いよ……勇者様使って勝手に商売しようとしてたし……」
どうやらパーティメンバー三人は、戦闘に入ってから本当に目立っていなかったらしく。
映像を見た筈の子供達に覚えている子は一人も居なかったという。
術師のミリィと剣士のレイテルは愕然としながら膝を折り、回復術師のラウナだけはクワッ! とばかりに怒り始めた。
「なぁっ!? 私達は勇者アマミヤ様のパーティメンバーですよ!? もう一回映像を御覧なさい! ホラッ! 最初の方とかちゃんと映ってますから!」
しかしながら、それは逆効果だった様で。
子供達は怯えるか、もしくは反感を買ってしまったらしく。
「しらねぇよ! おばさんみたいな奴絶対映って無かった! さては勇者様のファンだな!? 知ってるぞ! お前みたいなの、“厄介オタク”って言うんだろ! 自重しろおばさん!」
「んはぁぁぁ!? 最近の子供は難しい言葉をしってるねぇ!? でもおばさんじゃないから! 全然若いから! それから本当に仲間ですからー!」
駄目だこりゃ、全く話になっていない。
もはや子供と一緒に騒ぎ立てる一員になってしまい、大通りで人目を憚らずワンワンと騒いでいる。
コレ、どうしたら良いの……。
「苦労するねぇ、雨宮君は」
「こういう時、どうしていたんですか? 早乙女さんのパーティでは」
「ウチは……まぁ、こういう騒ぎ起こさなかったし。皆すげぇ良い子よ? あ、今度遊びに来る? 嫁さん達紹介するよ」
「幸せそうで何よりです……」
思わずため息を溢してしまい、とにかくラウナを止めようとしたその瞬間。
ゴウッ! と派手な音がして俺の目の前から炎が立ち上った。
思わず回避行動を取り、マントで火の粉を防いでみれば。
「お、ホントに着いた! やぁ、雨宮君達」
炎の中から現れたのは、まごう事無き菅原さん。
真っ赤な鎧に身を包み、未だ周囲には火の粉のエフェクトが発生している。
いやいやいや、こんな所に急に魔王軍幹部が現れたらパニックどころの話じゃ――
「「「うおおぉぉぉぉぉ!」」」
周囲からは、喝采が上がってしまった。
おかしいだろ、絶対。
一応敵の幹部だって映像でも分かったでしょうに。
しかもさっきの炎だ。
非戦闘員の皆様は、普通なら逃げ惑ってもおかしくないのに。
子供達は黄色い声を上げ、露店の人達は歓声を上げている状況。
正しい反応として、悲鳴を上げたり腰を抜かしているのはウチのパーティメンバーのみ。
いや、ホント。
どれだけ娯楽に飢えているんですか、こっち側の世界の人達は。
「おいアンタ! 魔王軍幹部のスガワラだろう!? サインしてくれよ!」
「あ、あの! 握手して下さい!」
そんな声ばかり上がり、彼の周りには人だかりが出来ていく。
そう言った行動を示す市民達に対し、菅原さんは一人一人ファンサービスをしていくから事態は収まる所を知らず。
「あ、あ~えぇと。菅原さん? 本日は、どんなご用件で……」
「そうだった! ちょっと待ってな? 今サイン書いちゃうから」
やけに集まって来る皆様に対応していた菅原さんが、人波の向こうから顔を出し此方に声を掛けて来る。
ホント、何しに来たんだろうこの人。
そんな事を思いつつしばらく待っていれば。
「なんだなんだ! この人だかりは何だ! 散れぇ! 何をしている貴様等ぁ!」
不味い、衛兵が来ちゃった。
ホイッスルを盛大に鳴らしつつ、集まった住民たちを端から散らしてく。
そして、ある程度人が散って菅原さんを見つけた瞬間。
周囲には炎が撒き上がり、彼は上空へと飛び上がった。
「勇者雨宮、勇者早乙女。両名は明朝にダンジョン前まで集合せよ……前回の続きを行う」
彼の一言に、周囲の民衆は喝采を上げ。
衛兵たちは困惑した様子で武器を向けている。
更には。
「第二話の撮影を開始する……心して挑め! 勇者達よ!」
クハハハハッ! と高笑いを浮かべる菅原さんは炎に包まれ、周囲に熱風を振り撒いていく。
その後声が途絶え、集まっていた炎が霧散すると。
周囲には火の粉が舞い、彼の姿は消えていた。
夜の街に静寂が戻り、皆誰しも彼が消えた夜空に視線を向けている空間が出来上がってしまった。
まぁ、つまり。
明日から撮影を始めるよって事で良いみたいだ。
毎度毎度、登場の仕方が派手だけど。
「こりゃ、ある意味苦労するかもな。ま、お互い頑張ろうぜ」
「だね、頑張ろう。そっちこそお付き合いよろしく」
早乙女さんとだけは、苦笑いを浮かべつつゴツンと拳をぶつけ合うのであった。
さて、明日から忙しくなるぞ。
多分今の様子だと、前回以上に拘りそうだし。
異世界生活という言葉だけなら、さぞ心躍るワードであっただろうに。
いざその地に踏み入れてみれば、やっている事は特撮の撮影とその役者。
なんともまぁ、不思議な生活になってしまったモノだ。
あ、そうだ。
とりあえず菅原さんに、フィギュア一種類ずつ買って行ってあげよう。
絶対喜ぶはずだ。
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