第14話 お説教と肉
「スガワラ、貴様は少々勢いで動く癖が強すぎるな」
「す、すみませんでしたぁ……」
後日、ダンジョンを守るお仕事を終わらせた俺達は無事魔王城へと帰って来た訳だが。
イザベラさんの報告の後、即呼び出しを食らってしまった。
本日のお仕事を早々に切り上げたらしい魔王様が、若干不機嫌そうな顔で土下座している俺を見下ろしていた。
「確かに、可能な限り自由にさせるつもりではいる。しかしそこに貴様自身の危険が伴うとなれば話は別だ。お前と他の幹部達は決定的に違う箇所が存在する、分かるな?」
「戦闘経験が全然足りてないって事ですよね……すみません、後先考えず戦って前回も魔力切れを起こしてしまいました……」
俺の一言に、彼は非常に大きな溜息を吐いてから。
「違う。他の者は自らの意思で私に従い、戦場に立つ事を決意した面々だ。仲間の無茶に付き合う事だって覚悟の上だろう。だがお前は、巻き込まれただけなのだ。そして生きて行く為に、私に従っている。更には此方も謝罪の意を含め、お前には出来る限りの自由を与えているのだ。やりたいようにやれば良い、好き放題この世界を楽しめば良い。しかし身の危険が伴う様な行動は看過できない、そう言っているのだ」
え、なにこの魔王様。
前々から思ってたけど、男でも惚れそうなくらい性格までイケメンなんだけど。
顔を上げれば、物凄く心配そうな顔で此方を覗き込んで来るし。
止めて! こんなおっさんをそんなイケメンフェイスで誘惑しないで!
いやまぁそっちの趣味は無いで、この人すげぇわぁってなるだけで済むのだけれども。
「えぇと、ですね。そもそも俺は巻き込まれたって意識があんまり無いというか、仕方なく魔王様に従ってるって感じも……その、あんまりっていうか。むしろ俺の我儘にすげぇ付き合ってくれるなぁって感謝しますけど」
だって、宝物庫で勝手に物品に触った挙句。
そこに居たイフリートと勝手に契約を結び。
もっと言うなら、異世界でヒーローごっこやりたいですって意味の分からない事を言って。
彼は許可をくれたのだ。
他の人とか皆、殺し殺されという意識でガチなのに。
俺だけは、未だに“殺し”ではなく“戦う”為にだけ戦場に赴いている。
だというのに、この人は俺の甘さを否定するのではなく心配してくれているのだ。
「あの、魔王様は何でそこまで心配してくれるんですかね? 俺みたいなのが軍に混じったら、絶対危ないって言うか。周りを危険に晒す可能性があるのに」
結構、未だに謎なのだ。
戦うだけで殺さないみたいな、俺と言う異分子が入ったら他の皆が危険に晒される。
それでも仕事を与えてくれるから、しっかりこなそうとは頑張っているのだが。
前回の戦闘でも思った。
やっぱ、俺には殺しとか無理ですわ。
格好良く戦って、相手とバチバチやりあって。
そういうのが、凄く楽しかった。
だがしかし、あのままトドメを刺せるかと言われたら……多分、無理だ。
そしてそんな奴を部隊に入れて仲間を危険に晒す行為を、管理する者が許容するとは思えないのだが……。
「簡単だ、それが貴様への謝罪という意味もあるが。幹部達は簡単には死なん、だからお前に組ませるのは力ある者達ばかり。もっと言うなら……奴らにも、“殺し”は可能な限り避けろと厳命してある。自らが本当に危険に晒されない限りはな」
「……はい?」
え、だって命がけで戦ってるんですよね?
だというのに、こちら側には不殺の縛りがある的な?
俺が言えた事では無いが、それってかなり不利になっちゃうんじゃ。
何て事を思いながらポカンとしていれば、魔王様は対面席を指さし。
更には二つのグラスにお酒を注いでいくではないか。
「我々は他の種族から敵視されている、しかし世界に存在する害獣程度の認識に過ぎないんだよ。まぁそれも、過去の歴史の延長線上でしかないがな」
「と、いいますと?」
いつまでも土下座したままという訳にもいかず、彼の対面席に腰を下ろしてみれば。
相手は大きなため息をついてから。
「本当に大昔には、互いに全勢力をぶつけ合い戦った過去をあった。だが今では、こんな物は茶番に過ぎないんだよ。相手は此方を敵視する、此方も他の種族から孤立した状態でも抵抗する。つまり、和解出来ていないからこそ続いているだけの緩やかな戦争に過ぎない」
「いやいやいや、大問題じゃないですかソレ!?」
そう突っ込んでみれば、魔王様は楽しそうに笑い始め。
「我々にとっては、な? だが相手からしたら些細な問題なんだよ。他の種族との和平を結び、大陸のほとんどを手に入れている。つまり他種族同士で手を取り合い、広い大地を闊歩出来る環境が整っている。その大地のほんの一部に、我々魔族という反乱分子が存在する。それだけだ」
うーむ?
つまり世界的に見たら、やっぱり魔族側が悪者で良いみたいな?
ちょっと話の規模が大きくなってくると、俺としてはすぐに理解し難くなってしまうのだが。
「もっと単純に考えろスガワラ。まずは酒の一杯でも飲んで、頭を柔らかくする事だ。今更他の種族に歩み寄ろうとした所で、相手には既に“魔族は敵”という常識が擦り込まれている。和平を結んだ所で、数年数十年は迫害されるのがオチだ」
「あ、あー? まぁ確かに、いきなり仲良くはなれないでしょうね?」
首を傾げながら、魔王様から頂いたお酒を一口飲んでみれば。
いや、うっま!?
なにこれ、コンビニとか居酒屋で飲んだお酒より何倍も旨いんだけど!?
思わずガブガブと飲み干してしまうと、彼は笑いながらおかわりを注いでくれた。
そして。
「こればかりは仕方のない事として、我々魔族が飲み込めば数十年後には平和が訪れるかもな。しかし魔王も一人ではない、そして皆が王の命令に大人しく従う訳でもない。つまり、絶対に反発する者が現れるんだ。そういう王や民が多い地域ほど、戦闘が激化していく。抵抗意識が強い個所程、勇者が多く差し向けられるからな」
本人もお酒をグイッと一気飲みしてから、これまた大きなため息を溢していた。
この問題が、多分魔王様の一番の頭痛の種と言った所なのだろう。
普段では見ない様な、物凄く疲れた顔をしている。
「それこそ一斉攻撃でもされれば、すぐさまその国は亡んじゃいそうですね……」
「その通り、だが未だどこも殺さず生かさずの戦闘が続いている。何故だと思う?」
戦闘をしているのに、死者が出ていない?
いや、流石にそれはないか。
多分国レベルのお話なんだろうけど。
だが、そう考えた所であまりパッと答えが浮かんでこない。
魔族を生かしておいた方が、何かしらメリットがあるって事だよな?
これはまた、俺が知らない事情が出て来たのではないか?
なんて事を考えながら、難しい顔をしていると。
「言っただろう? もっと頭を柔らかくして考えろと。もう一杯飲むか?」
「あ、いただきます」
此方が考えている事等お見通しだったらしく、彼は笑いながら再びお酒を注いでくれた訳だが。
「非常に簡単だ。娯楽と、刺激。そして“英雄”の名に相応しい活躍をした勇者が居れば、それは人々の間で有名になる。彼等の物語や、勇者が使っていた武装などなど。欲しがるヤツも出て来れば、レプリカだって出回る事だろう。その他にも勇者が愛用していた道具、気に入っていた食事。街や人、それらも有名になり金が動く。後は花嫁がこぞって集まる、とかな? つまりは金と人が動くんだ」
「存外俗物だった!?」
思わず突っ込んでしまったが……え? そういう理由?
雨宮君も早乙女君も、結構必死な感じだった気がするが。
いやまぁ、雨宮君のパーティメンバーを見る限り「金!」って感じは確かにあったんだけどさ。
だとするとなに、絶体絶命な状況に置かれているのは魔族側だけであり、向こう側はコッチを冒険譚作りに丁度良い場所みたいに思っているのだろうか?
「あえて危険な場所に飛び込み、それを語り、金にする。まぁそんな感覚だろうな、全体的に見れば今は平和な時代だからこそ。そちらの世界では居なかったのか? 所謂“冒険”の様な者を愛する変わり者は」
「あ、あぁ~はい。居ましたね、確かに。凄い遠くの戦場にわざわざ足を運んだり、平和な国でも戦闘を好むというか……いやぁ、そう言う意味では俺もその一員なんでしょうけど」
「だろうな。特にお前はそういう人族に見える」
少々呆れた顔を浮かべつつ、彼がハンドベルを鳴らしてみれば。
部屋の扉が開いて数名のメイドさん達がカートを押して入って来た。
そしてその上に乗っかっているのは……肉! でっかい肉!
それからおかわりのお酒!
「まぁつまり、殺し殺されただのという状況までいくと戦況が激化する恐れがある。だからこそ、スガワラの戦い方に何か言ったりはしないが……無理だけはするな、周りを頼れと言う事だ。さぁ、説教はこれくらいにして食事にしようか」
と言う訳で一旦お話は終了し、俺達を挟んだテーブルの上に巨大な肉やら何やらが並んでいく。
すげぇ、いつもよりずっと豪華に見える。
更に言うなら、登場した肉がデカすぎてもはや何の肉か分からない。
思わずお肉様をジロジロと色んな角度で観察していると。
「スガワラ、コレが何の肉か分かるか?」
何やら悪戯を思い付いたかのような表情をした魔王様が、楽しそうに声を上げて来たではないか。
こういう聞き方をすると言う事は、多分珍しい肉なのだろう。
それから、随分綺麗な色をしているからお高い筈だ。
なんだ、コイツは。
漫画で見るような巨大骨付き肉、そのまま手に持ってガブッと行きたくなるソレは……結構大型の生物に違いない、骨もデカいし。
では何処の骨なのかという話になるのだが……大きさ的には、牛の脚を豪快に焼いた! みたいな見た目をしているが。
いや、もっとデカいか?
「分からないか? なんと、竜の尻尾だ」
「竜!?」
つまりアレだ、イフリートと同じ様な存在って事か!?
いやアイツは炎しかないけど、ちゃんと肉が付いている竜がいるって事なのか!
そんでもって、竜なんて言ったら絶対強いヤツだ。
強敵を倒し、その一部を俺に分け与えてくれるのか。
それともココは、竜さえも家畜の様に飼える程に強大な組織なのか。
思わず胸を躍らせながら、今にも飛びつきそうな勢いで待機していれば。
「メイド達は下がったぞ? どうせ我々二人だ、豪快に行ったらどうだ?」
「いただきます!」
許可が下りたので、骨を素手で掴んで豪快に肉に齧り付いた。
すると、何と言う事だろう。
こんなにも柔らかい肉があるのかと、お口の中が感動していた。
しかも、滅茶苦茶旨味が凄い。
デカいからこそ、中とか生焼けなんじゃ? とか警戒してしまいそうなのに。
そんな事はない、どこまでも旨い。
下味もしっかり付いている事から、もしかしたら何かに漬け込んだお肉という可能性もある。
そして何より、ブワッとあふれ出る肉汁。
お部屋を少々汚してしまう勢いだったが、魔王様は気にした様子もなく笑っていた。
すげぇ、ドラゴンうめぇ!
ひたすらに感動しながら、俺の顔よりデカい肉をペロリと食べきってしまうのであった。
「旨かったか?」
「改めて……忠誠を誓います、魔王様」
「本当に単純な奴だなお前は……」
なんて呆れたお言葉を頂きながら、その後はゆっくりとお酒を楽しむのであった。
※※※
ちなみに、俺が食べた竜とやらを後日見せてもらった結果。
「嘘だぁぁぁ! 違う! あんなの竜じゃない!」
「いや、一応竜なんですよ? 形はまぁ……アレですけど」
イザベラさんに案内してもらった場所には、何と言うかこう……二足歩行で翼の生えたウーパールーパーみたいなのが、のっそのっそと歩いていた。
顔が緩い上に草食、更に竜とは言え一切攻撃しない程穏やかな性格。
そして羽はあるけど飛んだりもしないらしい、パタパタと動くだけ。
そんでもって、コイツの尻尾は切り落としてもすぐに生えて来るんだとか。
味の方は、前日味わった通りの絶品という事で。
「俺、コイツの尻尾食ったのか……」
「美味しかったなら良いじゃないですか」
「まぁ、はい……」
なんか、ちょっとだけ納得いかない結果になってしまった。
あ、今欠伸と同時にほんのちょっとだけ炎吐いた。
竜……なのか、お前等。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます