第3話 永遠の拘束

 

「よし、服を着せてやる」


 と、手から拘束具が外される。そして寝巻のような服を着させられる。ズボンも同様に着させられる。

 服自体は緑一色の何もかわいげのない、囚人服かと言いたくなる服だ。まあ私自身囚人のようなものだけど。


 そして着終わったらすぐに別の拘束具で拘束される。


「今回は首枷もつけさせてもらう」


 と、首に冷たい枷がかかり、首から鎖がじゃらららららと繋がっている。


「変態なの? あなたは」


 まるで絵に見るようなプレイだ。何しろ私は手足拘束からの、鎖付きの首輪をつけさせられてるのだ。これでこの人が変態じゃないわけがない。


「変態ではないさ。これに鎖をつなげてお前が逃げないようにするためのものだ」

「だったらさっき風呂入る時に首枷をしとけば拘束具いらなかったんじゃないの? 私あなたに力では勝てないから」

「そう言う問題ではない。ただ……困ったな理由がない」

「じゃあ拘束具を外してくれる?」


 その理論が通るなら今も拘束具は要らないはずだ。少なくとも私が逃げるのを防ぐ役割は首枷が持っているのだから。


「理由のありなしと、外すかどうかは別だ。それに今はお前の手足が動かなくても俺には関係がない」

「私には関係があるんだけど」

「まあとりあえず。お前の寝室に今から行く」


 はぐらかされた。せっかく拘束具が外されるかもしれないと思ったのに……。


「ここで寝てもらう」

「あんがい普通のベッドね。二つあるってことは……」

「そうだ。俺もこの部屋で寝るという訳だ」

「なるほどねえ。隣で寝なくてもいいの?」

「無いとは思うが、拘束してても隣はやめておく」

「私があなたを殺せると?」

「可能性の話だ」

「ふーん」


 そして私の首枷に、壁につながっている鎖がつながる。これで私は文字通り手も足も出ない。まあ、そもそも拘束されている時点で手も足も出ないのだけど。


「布団をかけてやるから。もう寝ろ」

「わかった」


 そして手枷足枷首枷につなが多状態で一日目の夜を迎え、そのまま眠りに落ち……眠れない。


 当たり前の話だ。手の位置の固定が難しい。普通に寝ては手が背中に押しつぶされる。となったら他に残っている方法は横に転がることだが、普段の寝方ではない分寝ずらい。


 とはいえ、少しずつ慣れてきた。だが、寝返りを打つと、やはり腕が痛い。



「もう朝だぞ」


 声をかけられる。


「おはようございます」


 熟睡してしまっていたようだ。その証拠に時計の針はもう十時を示している。まさか私がこんなに眠ってしまうとは。


 だが、無理もない。普段とは違う、拘束された状態で過ごしたのだ。そりゃあ疲れるに決まっている。


「朝ごはんを共に食べるぞ」


 その言葉で首の鎖が外され、昨日と同様にお姫様抱っこで階段を下りる。


「恥ずかしいんだけど。やっぱり」

「お前も一人では降りれないだろ」

「別に足枷を外してくれたら一人で降りられるわよ」


 私の行動を妨げているのはこの足枷だけだ。それさえなかったら、ただの女子高生だ。


「それは俺が面倒くさい」

「それなら仕方ないわね」

「やけにあっさりと引き下がるんだな」

「私としては口論する時間がもったいないというのが正直なところなの」


 別にこの人は理屈が通らなくても、ゴリ押しするタイプだし、そもそも立場が下だからどう頑張ろうと勝てるはずがない。


「お前は暇なんじゃないのか?」

「私だっていろいろと考えたいことはあるわよ。どうやって脱獄するかとかね」


 なるほど、暇だったら口論するのか? まあ私は暇でも口論とかいう面倒くさい事はしたくない。考えるだけだ。


「俺はそれを防ぐために拘束しているという訳なんだがな」


「さてと、朝ごはんはソーセージとご飯だが、お前ひとりでは食べられないだろう。そこで俺が食べさせてやろう」

「昨日と同じね」

「そういう事だ」


 と、今日も口に運ばれる。これは安いソーセージではない。そこそこの値段がするソーセージだ。安いソーセージは大体わかる。味がシンプルで飽きやすそうな味をしている。だが、このソーセージは肉汁がしっかりとしている。こうなってはやはり誘拐の目的が気になるところだ。


「ねえ、身代金の要求とかってしてるの?」

「はあ? してねえよ。そんなこと」

「なら何故誘拐を?」

「別に何だって構わないだろ」

「ふーん、やっぱり私目的?」

「とりあえずご飯食べろ」


 と、ご飯を差し出してくる。やはり聞かれたくなかったことなのか……


「私はさあ……」


 完全にそう言うわけではない。だけど……


「別に私目的って言ってくれても良いよ」


 そういうことで拘束が外れる可能性もある。そのほんの少しの可能性を信じる。


「俺は……お前には好意がない」


 私の思い違いだったのか、それともただの照れ隠しなのか。

 顔を見てもそこまで分からない。もし照れ隠しなのだとしたら演技派なのだろう。


「まあ良いでしょう」


 そしてソーセージを食べた。


「もうお腹いっぱいです」


 満足。手枷足枷以外はやっぱり普通にご丁寧に世話されている。やはり好意があるとしか思えない。


「さてと。俺は仕事に行ってくる。鎖は繋いでおくが、お腹が減った時にはそこにあるソーセージを摘んでくれたら良い。流石に拘束されていてもソーセージは食べれるだろう」


 と言って誘拐犯は仕事に行った。誘拐しながら仕事に行ける度胸がすごいな。いや、逆に仕事してるから誘拐の容疑をかけられないと思っているのだろうか。


 とりあえず暇だ。


 話し相手もいなければ、遊ぶ道具もない。せめて手を前で縛ってくれたらせめてもの暇つぶしに手遊びが出来るというのに。


 手遊びが出来るだけでだいぶ暇は解消されるはずなのだ。だが、今の手を拘束されている私にはそんなことはできない。ただ寝転がることしかできない。


 ふと上を見る。すると明らかな監視カメラがある。これがあるなら尚更後ろ手で拘束する意味などない。首枷で鎖に繋いで、部屋に閉じ込めたら良いだけだ。


 それをしないということはやはり彼が誘拐監禁拘束というワードが好きなのかもしれない。


 暇だ。

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