第2話 お風呂

 

 あれから一時間程度が経った。今だに彼は返ってこず、未だに手足は縛られたままだ。


 暇で暇でどうしようもない。誘拐とかはドラマでしか見たことがないから、こういう気分だとは知らなかった。強気でいたが、いつまで強気でいられるのか……。


「気分はどうだ?」


 戻ってきたようだ。


「いい気分よ」

「ふん、そうか」


 なわけないじゃない……。

 ただ、舐められたく無いだけなのだ。


「さて、臭い女は好みじゃないんだ。風呂に入ってもらうぞ。だが、その前に縄では水に弱い。拘束具に代えさせてもらう」


 と、私につけられていた縄が解かれた。だが、自由になるわけではない。手を強い手で握られているからだ。


 女よりも男のほうが力が強い。それは世の理である。実際力では余裕で負けているだろう。


 そしてそのまま服を脱がされる。私はもちろん抵抗したが、そんな簡単にはがせるわけもなく、抵抗虚しく、服を脱がされた。


「無理やり脱がして悪かったな」

「そう言う気持ちがあるんだったら服を着せてくれてもいいとおもうんだけど」

「風呂に入るには服を脱ぐ必要があるからな。仕方ない」

「なら自由にさせてくれたらいいんだけど」


 自分で服を脱ぐことなんて朝飯前だ……手が拘束されていなかったら。


「そう言うわけには行かん。窓から逃げる可能性があるからな」

「……そう」


 そしてすぐさま鉄の枷で手首がおおわれる。右手も左手もだ。


 そして足も同様に鉄の枷に覆われる。先程と同様に自由はない。腕を動かそうとしてももう片方の腕がそれを防ぎ、肩は完全に回らず腕が前に動かない。


「そうだな……腕を無理に動かされたら困る。そのまま抵抗するんだったらお前にもう一つ拘束具を増やさなくてはなら無いかもしれないな」

「私としては拘束具を外してほしいのですが」

「おお、やっと自我を出してくれた。動揺の色を出したねえ」

「そりゃあ……動揺しない方がおかしいでしょ」


 それに動揺とは思わない。ただ、拘束具を外して欲しいなんて、人間の同然の思考だ。


「そうか、まあ俺もお前の胸を見たいわけじゃない。手速く風呂に入れさせてもらうぞ」

「はいはい」


 と、風呂に入れられる。もちろん手足は拘束されたままだが。


「気分はどうだ?」

「まあ気持ちいいわよ」


 拘束されていなかったらもうちょっと気持ちよかったはずなんだけど。こればかりは仕方ない。


「お前は、今は総合的にどういう気分なんだ?」

「は?」

「お前はつらいとは思わんのか?」

「まあ私の人生三〇〇〇〇日くらいから二日三日消えると考えたらつらいけどね」

「相変わらず面白くない相手だ」


 強情になると、やはり面白く無いと思われるのか。


「ねえ」

「なんだ?」

「のぼせました」

「ああ、もう三〇分が立ったか。よし、あとは頭を洗わせてもらおう」

「普通順番逆じゃないですか?」

「悪いな。忘れてたんだよ。安心しろ出来るだけセクハラはしない。ただ、体は触らせてもらうけどな」


 と、髪の毛にシャンプーをたらされて、そのまま頭をわしゃわしゃと洗われる。


「気持ちいいか?」

「手枷足枷を外してくれたら気持ちいいかもね」

「はっ、減らず口め」

「いいでしょ。事実なんだから」


 嫌味もそりゃあ言いたくなるよ。こんな状況じゃね。


「まあいい、次は体を洗うぞ。セクハラとは言わないでくれよ」

「誘拐してる時点であなたは変態でしょ」


 金目的か身体目的かな二択だからだ。


「ならもう少し変態行為をさせてもらおうか」


 と、体の隅々まで洗われる。脇も、手の甲付近も、足首も、足の裏も、胸まで全てをしっかりと。


「声は出さないんだな」

「私はあなたとは違って変態じゃないからね」

「流石にそう言う状況で声を出しても変態とはならないと思うぞ」

「気持ちの問題よ。別にあなたにどう思われようと関係ない」

「まあいい。ちょっと失礼するぞ」


 と、もう一度胸付近を洗われる。私は別に特段胸が大きいという訳ではないから誘拐犯も上手くあまり胸に触れずに洗えているらしい。まあ触られてしまっているのは事実だけど。


「ねえ、変態」

「変態と言うならば、もっと胸を触ってやろうか?」

「かまわないけど、あなたが本格的に変態になるだけだから」

「まあ俺は胸を触りたいわけじゃあないからなあ」

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