第28話 合格発表

 そして数日後、合格発表の日になった。

 茂と二人で、合格発表の時間である十三時まで、カフェに行く。


 勉強をするためではない、二人でゆっくりとその時を待つためだ。

 こんな精神状態で勉強なんてできるわけがないもの。


 ちなみに今日来たのは初めて茂と行き、今までいつもいたカフェだ。

 いつも茂に来てもらってるから今回は私に方から向かったというわけだ。


「今日……緊張するな」

「……うん。落ちてたらどうしよう」

「落ちてたって、どうせ大学が変わるだけだ」

「私にとってはそれが一番なんだって」


 茂と同じ大学に行くこと。それが私の目的なんだから。


 茂と一緒に大学に行けなかったら大学に行くつもりはない……というのは極論なのだが、それでも行く意味の半分は失ってしまう。

 学内で茂と一緒の部活をしたりする。それが楽しみなのだ。


「楽しい話をしよう」


 数分間の無音の空間を打ち消すように茂がそう言った。


「俺達、特に愛香は、あらゆる困難を打ち破ってここまで来た」


 そんな。大げさな。



「俺としてはお前は受かってると思う。だから……受かった後の話だ。……部活とかどこに入りたい?」

「私は……わからない」


 そんな事一切考えてなかった。どの部活が面白そうなんて一切。

 そもそも部活が何の部活があるか自体もよく知らない。


「これ、パンフレットだ。ここに部活が乗っている」


 なるほど。茂いつの間にかこんなの用意してたんだ……


「俺的には愛香は演劇部とかどうかなって思うんだが」

「演劇部!?」


 無理無理。だって、私演技できないし。そもそも演劇もドラマもほとんど見たことがない。


「そんな驚くことねえだろ。だって愛香の演劇姿見たいし」

「……それって茂の趣味じゃない?」

「それもある」


 あっさりと肯定する茂。



「だってみたいだろ。愛香の演劇姿なんて」

「はいはい」


まあ、そう言ってもらえて嬉しいのは嬉しいけど。


「あとは、文芸部、美術部、映画研究部とかかな」

「映画研究部が気になる。映画を見る部活っていうこと?」

「概要を見るとそんな感じみたいだな。おすすめの映画を紹介したりみんなで見たりする」

「なんか面白そう」

「だな。後は運動部……」

「それは無理」


 運動は本当に無理だもん。運動するんだったら茂と一緒でもぎりぎり嫌だ。

 運動なんて百害あって一利無しだよ。


「そんなに無理か」


その茂の言葉に私は無言でうなずく。



 そしてそんな感じで部活の話をしていたらいつの間にか合格発表の時間になった。

 運命の時だ。これで、受験番号等を入力したら合否がそこに映される。


「緊張するね」

「ああ。だが、俺も愛香も受かっている。それなら結果見るだけだろ」

「……そんな単純な話じゃないよ」


 だから、なんでそんな茂は自信満々なのよ。

 私が緊張しているのが馬鹿みたい。


「じゃあ、開くぞ」

「……待って」


 怖いよ。


「でえも、時間たっても結果は変わらないだろ?」

「そうだけど……心の準備もできてるけど、それでも怖いの」

「……そうか」


 祖いs手茂はいったんパソコンを閉じる。


「じゃあ、愛香の準備が整ったらパソコンを開こう」


 そう茂は優しく語りかけてくれた。


 とはいっても、怖いのは変わらなくて……

 これ、結果見るまで怖さ変わらないじゃん。

 うぅ、嫌だ。逃げたいよ。もう、合否なんてどうでもいい。どうでもよくないけど、この緊張から早く逃れたい。


 怖い、茂と離れ離れになるのが怖い。

 大学に落ちて嫌な気分になるのが怖い。

 私がダメ人間だって直視するのが怖い。

 すべてが怖い。

 でも、でも。


「茂……」覚悟しなきゃ。開かなかったら何も始まらない。「開こう」


 そして私たちはパソコンに受験番号を入れる。

 運命の時間だ。

 受かってて、お願い。努力を認めて。






 その画面には合格という文字が書いてあった。

 そこの文字が示すものはただ一つ。

 私が無事に大学に受かったという事だ。


「嘘……」


 現実が現実じゃないみたいだ。

 奇跡。

 奇跡すぎる。

 私が大学に、茂と同じ大学に行けるなんて。


「嘘だろ……」


 だが、その時、隣の茂の様子がおかしいことに気が付いた。

 まさか……


 確かに、私が受かってても茂が落ちたんじゃ、意味がない。


「茂!?」


 恐る恐る隣のパソコンをのぞき込む。すると合格の文字が書いてあった。


「ドッキリだ」

「驚かせないでよ!」


 本当に茂が落ちちゃったと思ったじゃん。

 でもよかったー。

 茂も無事合格してて。


「これで、私たち同じ大学にけるんだよね」

「そうだな。同じ大学に通えるぞ」

「こんな嬉しいことってないよね。茂と同じ大学だもん」

「何回言うんだよ」

「だって、うれしいから」


 そう、仕方ないの。それにこれには現実と認知するためでもあるのだから。


「はあ、幸せだあ」

「ああ、俺もだ」


 そして私たちは互いの顔を見て、思い切り笑った。


 その直後、周りの客に思い切り見られたことで、そういえばここ、カフェだったと反省したけど。

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