第29話 映画館デート

 そして、合格発表の三日後、茂とのデートに出掛けた。

 映画館デートだ。


 正直最近勉強ばかりであまり一緒に遊べていなかったから、今日のデートは最高に楽しみだ。


「今日、まず映画を見るって、やっぱり愛香は映画研究部に入るのか?」

「それは考えてる。でも、とりあえずこの映画は茂と見たいから」


 それは恋愛映画だ。

 主人公の女の子がある日見知らぬ場所に飛ばされてしまう。だが、そこで一人の男性とであい、恋に落ちる物語だ。

 だが、実は大きな秘密があり、曇天返しが隠されているという話だ。


「愛香、ポップコーンの味どれがいい?」


 そう、茂はポップコーンを指さす。

 塩、キャラメル、バーベキュー味の三択だ。



「勿論塩」

「俺と一緒だ」


 そう茂が言ってくれたのがうれしくてハイタッチする。




 そして、映画が始まっていく。


 まずは映画の広告だ。いろいろと面白そうな映画が流れてくる。

 どれも普通に面白そうだ。

 だが、その中でも一番面白そうだと思った映画が、タイムリープ物の映画だ。

 過去に戻り、好きな人を救うという物語らしい。

 これも見たくなる。

 今度茂にこれも見よ? って言ってみるか……


 あ、そうだ。ポップコーンさっきから全然食べてない。食べないと。


「あ、」


 茂の手と私の手がぶつかった。その手が暖かく、ドキッとした。

 そして勢い手を引き戻す。


「愛香、どうした?」

「いや、なんでも」


 うぅ、恋愛映画を見る前からラブコメしてる。


 いや、うれしいんだけど。

 そっか、ペアセットっていう事はこういう可能性もあるってことね。

 もしかしてペアセットってこういう物のためなのかも。そう思った。


 そして、いよいよ映画が始まった。


「私の人生くらい私に決めさせてよ」


 映画の冒頭主人公が父親と喧嘩し家出をし、そのまま見知らぬ世界に来た。

 そこはまるで昭和の時代のようだった。

 彼女が途方に暮れる中、主人公にやさしく接してくれる青年がいた。

 そんな彼について家に匿ってもらう。


 青年優しすぎない?


 だが、その中で主人公の体が透明になっていっている。

 何も理由が分からないまま。

 それを見ていて私はごくっと唾を飲んだ。

 本当に隣の茂の存在も忘れるくらい熱中してみている気がする。


 そしてその原因が分かったときまたつばを飲み込む。

 主人公を助けてくれた人が主人公の父親なんて。しかも、その恋を諦めなかったら、存在が消えるって。

 展開がすごすぎる。






「楽しかったな。愛香」

「……うん」


 本当にいい映画だった。


「最後は涙が止まらなかった」


 主人公が父親に抱き着くシーン。

 それに対して父親が、「お前だったんだな、あの時の少女は」というシーンは本当に涙なしでは見れないよ。


「まあ、愛華目が赤いしな」

「見ないでよ。本当に泣いたんだから」


 そう、本当にいい映画すぎてね。


「まあ、あれは泣くなっていう方がおかしいくらいの映画だからな」


 茂が同意してくれた。

 嬉しい。


「それで、愛香。これからどうする?」


 そう、映画を見た後、少し時間が余っている。


「じゃあ、私海行きたい」


 その言葉に茂が目を丸くしていた。



「いや、まさか今頃海に行きたいなんて言うとは思えなかったな」

「悪かったね。夏に海に行けなかったからかな」


 勉強が忙しくて。


「はは、まあそれは海に行きたくもなるよな」

「せっかくだから軽く水につかりたい!」

「まだ三月だ。冷たいぞ」

「大丈夫だよ。足つかるだけだし」

「分かった」


 そして、足を恐る恐るつける。冷たい、足の体温が急激に奪われ、その寒気が体を襲う。

 油断していた。普通に冷たい。

 こんなに冷たいとは思っていなかった。


「大丈夫か?」

「うん大丈夫」


 弱いところなんて見せられない。それに寒いだけで気持ちいいし。


「というわけでえい!」


 水を茂にかける。茂にかけたくなった。

 せっかく恋人同士なんだから。


「おい、着替え、ないんだぞ」

「いいじゃん、困ったら茂の家で着替えたら」

「まあ、近くだからいいけどさ」


 そして茂は私にかけ返す。


 そうして互いの服がびちゃびちゃになっていく。


 その掛け合いがとても楽しかった。



「はあ、楽しかったね」

「でも、だいぶ濡れちゃったな」


 最後にはもう、服がびちゃびちゃだ。周りから見たら笑われるだろう。


「着替えに行くか」

「うん!」


 そして茂の家にお邪魔した。


「じゃあ、シャワー浴びるか?」

「うん!」


 と、お風呂場に行き、服を脱いでシャワーを浴びる。気持ちがいい。体にへばりついている塩水が流されていき、体がきれいになっていく。


 そしてシャワーを浴び終わり、外へ出る。だが、そこで気が付いた、着替える服がないということを。

 だって、まさか茂の家に来ることになるとは思ってなかったんだもん。

 いや、そもそも水かけを提案した(勝手にした)私が悪いんだけど。


「茂、これどうしたら……着替えがない」


 そう言って茂を呼ぶ。


「ああ、そうか、ちょっとだけ待ってろ」


 と、言われたので、茂を待つ……すると、服を持ってきた茂が来た。


「これでどうだ?」


 だが、その茂はお風呂のところまで来た。裸を見られてしまった。

 タオルで隠してなかった私も悪いんだけど。

 すると、固まっていた茂が。


「すまん」


 走って逃げ去った。茂も想定外だったみたい。

 そして茂の置いて行った服を着る。少しだけぶかぶかだけど、着れないことはない。そして、においをかぐ。


 ……流石に茂のにおいが残っているわけがないか。




 そして、リビングにいた茂に声をかけた。すると、すぐさま、


「さっきは本当にすまなかった」


 と、土下座してきた。逆に気まずい。


「別に……いいよ。私も悪いし、それに茂だったら裸を見られても全然いいし」

「わかった。まあとりあえず俺も浴びてくるわ。事故のないように着替えをもって」

「はーい」


 そして茂を待つ間、リビングのソファーに座る。テレビはあったが、観る気はしなかった。

 それよりも、今の感じって、同棲しているみたいじゃない? 

 茂のシャワーの音が聞こえてきて、少し照れる。

 前までこんなことなんてなかったんだもん。

 いや、今そんなこと考えるのはだめだとはわかっている。でも、そのような感覚が抜けない。だめだ、そんなこと考えては。


 でも、考えるほど、なんとなくそう言う気持ちになってしまう。隣に茂がいて、一緒にテレビを見て、一 緒にご飯を食べて、一緒に寝て、だめだ、妄想だけでもう幸せだ。


「はあ」


 いつか茂と一緒に暮らしたいな。一緒に色々なことしたいな。そう思った。


 だって、大学に進んだら茂と一緒の大学に通うことになるし。その時は同棲することになるかな?


 そして、茂が戻った後すぐに、今日泊まってもいい? と訊いた。今の時刻は五時、別に帰れないことはないが、もう今日はずっと茂と一緒にいたいという気持ちで、言ってしまった。

 これは私の我儘だ。

 茂のシャワーの音を聞いちゃったし。茂に裸を見られてしまったし。


 茂もすぐに私の思いに気づいたのか、同じ気持ちだったのか、すぐにOKしてくれた。


「じゃあ、ただで泊まるのも悪いし、何か作る」

「いや、別にいいぞ、そんな変な気を使わなくても」

「でも、なんとなく申し訳なくて」


 というか、私が作りたいだけ。


「わかった。じゃあ、二人で作ろう」

「え? いいの?」

「何がだよ」

「共同合作と言う事じゃん」

「なんか今日の愛香へんじゃないか?」

「いいじゃん別に。大学合格した喜びだよ!」


 そして、私が野菜を切って、茂君が炒める役割になった。二人で他愛ない会話をしながら料理を共同で作っていく。なんて楽しいんだろ。あの時は一緒に料理を作るとかなかったしね。

 そして料理が出来上がり、二人で食べた。


「ん! おいしい!」

「ああ、美味しい」


 その味は、塩味がちょうどよくて、肉も野菜もおいしい最高の炒め料理だった。何より、茂と一緒に食べられている。これこそ幸せだ。


「茂」

「ん?」

「私たち幸せだね」

「……そうだな」


 そして私たちでその幸せを噛み締め合った。


 その後、私たちは一緒にゲームをして楽しんだ後、ベッドに向かった。

「今日は一緒に寝るか?」


 そう、一つのベッドを指さす茂。


「うん。一緒に寝たい」


 私の気持ちが爆発してる。


 今日のいろいろなイベントのせいで。



「ねえ、茂、こういうシーンあったよね、一緒にベッドで眠るシーン」


 映画の中で。


「そう言えばあったな」

「私たちそれみたいじゃない」

「そうだな」


 そして茂は頭をなでてくる。


「へへ、本当に撫でてくれた……」


 映画と同じだ。うれしい。

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