第27話 受験

 そして、日が経ち、大学受験本番の日になった。

 共通テストの結果は思ったより点数が取れていて、茂と答え合わせをしたときに、二人で大喜びだった。もちろん、茂は九割超えていて、私のはるか上を言ってたけれど。


 感じ的には合格確率は高いという感じだ。だけど、私は元々勉強ができなかった。

 油断はしてはいけない。


「じゃあ、がんばれ」

「うん、がんばる。茂も頑張って!」



 茂とは大学に入ってから分かれた。受験する学部が違うからテスト会場も別なのだ。

 ちなみに鳩さんと十和子は別の大学に行くみたいで、どうなっても同じ大学に行くことはない。

 まあ、二人とも私たちの大学と近いところに行くから、休日とかに会うことはできるけど……

 同じ大学みたいだし。



 大学に受かれば、学部が違うとはいえ、茂と一緒に大学に行ける。それが私のモチベーションにつながる。


(茂。私頑張るよ)


 そう、机の前に座って、意気込んだ。そして、最終確認のために、机の前で教科書、参考書を読む。

 緊張するけど、今まさに茂も頑張っている。そう考えたら私も頑張れる気がするんだ。





 テストが始まった。




 そして試験後、茂を待つために、大学の最寄り駅で待ち合わせすることとなった。

 試験には正直自信がある。

 読みが完全にあたったのだ。過去門から茂が割り出した出題パターンにそこそこ当たっていたのだ。


 茂もテストうまくいってたらいいなあと、思いながら待つこと一〇分。茂の姿が見えた。


「茂……!」

「愛香!」


 私たちは軽い刃具をする。


「それで、テストどうだった?」


 恐る恐る聞く。テストに大失敗してる可能性がある。


「大丈夫だ。うまくいった。……愛香は?」

「私も!」

「そうか」


 そして私たちは再び厚い抱擁を交わした。


「ねえ、受かってたら一緒の大学だね」

「そうだな受かってたらな」

「そんな怖いこと言わないでよ」


 フラグになっちゃう。


「大丈夫だ。普通にやってたら俺たちは受かるんだからよ」



 そう、私たちは普通に合格範囲内にいるのだ。

 受かってるはず。だが、そう思っている。だからこそ落ちる未来が怖い。

 私にとっては茂と一緒に大学に行けるかいけないか、それだけで大学に対するモチベーションが落ちるのだ。


 それとさらに一つ、国公立だったら学費が安く済むという思いもある。



「帰りにどこかよるか?」


 そう茂が提案してきた。


「ご褒美として」

「そうだね。どこ行く?」

「それは……もう決めているんだ」


 そう、茂がドヤ顔で言った。


 そしてついた先はフリールーム、いわゆる自由に使える部屋だ。

 そこにはでかいテレビと様々なゲーム機が置いてあった。


「ここで一緒にゲームをしよう。愛香、最近ゲーム我慢してただろ」


 実際ここ三か月は茂と一緒にゲームをしたいという気持ちを抑えて勉強していたのだ。


「……そうだね」

「どうしたんだ、嫌だったのか?」



 いや、嫌じゃない。

 ただ、緊張がほぐれたことによって少し変な気持ちになっているだけだ。


「ううん、全然大丈夫」

「今が一七時。だから三時間やって八時にご飯を食べよう。それでいいよな。……お腹すいてるなら借りるの二時間でもいいぞ」

「お腹減ってないから三時間でもいいよ」

「分かった」


 でも、


「少しだけ休憩させて。疲れたから」

「……おう」


 そして私はそばにあったソファーに寝転がる。


「でも、私たち頑張ったよね」

「急にどうした」

「だって、必死に勉強したし。受かってるかわからないけど、こうして受験も終わった。あの時じゃ考えられなかったな……」


 あの、地獄の日々。お父さんの暴力に耐え忍んできた日々。

 やっとここまで来た。

 あと少しで茂と一緒に大学に行ける。


「本当にありがとうね。茂」

「ん?」

「自殺を止めてくれて」



 あれがなかったら私は人生の悦びを知らないまま死んでいた。

 茂のやさしさに気付かずに死んでいた。

 十和子にも会うことはなかった。

 勉強が得意だという自信を持つこともなかった。

 ゲームの楽しさを知らなかった。


 友達がいる人生を知らなかった。


 好きな人がいるという感覚を知らなかった。


 彼氏がいる人生を知らなかった。




 茂に出会ってよかったことが山ほど見つかる。



「茂。大好きだよ」


 その気持ちはいつまでも変わることがない。

 私が死ぬまで絶対に。


「ああ、俺もだ」



 そのあと、私たちは大画面で乱闘ゲームをした。様々なキャラを使って戦うのだ。

 いつものカートレースゲームとは違ったが、楽しかった。


 その後、ご飯を一緒に食べに行く。


 そのご飯屋さんは見た目からすごかった。

 なんか、外にあるメニュー表に一〇〇〇円という文字が見えたのだ。

 しかもそれはほんの前菜だった。

 つまりメインディッシュはもっと高いという事。


「大丈夫だ。全部俺持ちだから」

「そういう問題じゃないよ……」



 本当にそういう問題じゃない。値段が高くてビビってしまうのだ。


 とはいえ、店に入ってメニュー表を見てもそれぞれがなかなかの値段をしている。

 これらを頼むのはやっぱり勇気がいるなあ。

 正直、怖いけど、その傍らで茂は頼みたいものをどんどんメモしていく。



「茂、毛tぅこう食べるんだね」

「まあ、お腹すいてるからな。……愛香もどんどん食べたい奴決めて行けよ」


 茂がこんなに頼むのに、私だけがビビっているのもおかしい。

 私もどんどんメニュー表を開き食べたい物を選んでいく。



「よし、出そろったかな。じゃあ、アイパッドに書くぞ」

「うん」



 個々の注文の仕方は完全なるデジタル化がされていて、店員さんを呼ぶ必要がないようになっている。

 私が食べたい物を茂に言ってどんどんと茂が書き込んでいく。

 そのたびに下に表示される合計金額が増えていくけど、もう気にしないことにした。


「よし、これでいいかな」

「……うん」


 総計金額が七〇〇〇円を超えてた気がしたけど、気にしない。

 私たち酒も飲めない未成年なのに、なんという金額だ。


 早速前菜が届いた。茂が頼んだものだ。

 メニュー表を見てた時はあまりおいしそうだとは思わなかったけど、いざ目の前にすると、すごくおいしそうだった。


「私も食べていい?」


 茂が頼んだものだし、許可いるよね。


「もちろんだ」


 そして一口食べる。

 優しい味がしておいしい。

 前菜でここまでおいしいってうそでしょ?

 幸せの味すぎる。


「美味しい」

「よかった。喜んでもらえて」


 そう言って微笑む茂。

 茂まで喜んで層に思えた。



 そして料理は次々に運ばれていく。刺身や、小籠包、炒飯、だし巻き卵、北京ダックなど多種様々な料理が運ばれてくる。

 どの料理もしっかりと美味しいところがすごい。


 そしていよいよメインディッシュの登場だ。

 この店のメインディッシュは断然ステーキらしい。

 もうすでにお腹が結構いっぱいだから食べられるのか目の前にして心配になる。すると茂は


「大丈夫だ。おなか一杯になったら俺が食べてやるから」

「……うん。ありがとう」


 これでお腹いっぱいで食べるのがしんどくなるという事態は回避した。

 さて、ステーキを切り分けて一口食べる。


「美味しい」


 さっきから美味しいしか言ってない気がするけど。美味しいんだから仕方がない。


「幸せだあ」

「俺もだ」



 結局ステーキは食べきれずに最後茂に食べてもらう事となった。

 まあ、茂は幸せそうな顔で食べてたからいいんだけど。


「本当に今日はありがとうね。最高のご褒美だったよ」

「ああ、俺も今日は楽しかった。……あとは受かってるかどうかだな」

「……嫌な話ししないでよ」

「悪かったな。とはいえ、一応勉強はちゃんとするんだぞ」

「分かってます!」


 とはいえ、やる気が出るかは怪しいところなんだけど……。


「じゃあな」

「……うん」



 最後に一ハグだけした。


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