第26話 ゲーセン
そして、そのまま私たちは目的地である、ゲームセンターに来た。この四人で遊ぶためだ。
ここにはゲームセンターと別にボーリングやカラオケなどもあり、飽きたらそちらもできるという物だ。
その中で、私は茂を連れて、カートレースゲームをすることにした。
十和子は鳩さんに任せたから、こっちはこっちで楽しみたい。
「じゃあ、やるぞ」
そしてカートレースが始まる。
とは言っても、私はこのゲームを持っていないので、するのは久しぶりだ。
……引っ越し前も茂の家でしかできなかったわけだけど。
茂の車が先行する。そのスピードはかなり速い。……というか前回よりも速度が速くなってる気がする。
でも、私だって。負けない!
ハンドルをしっかりと握り、ハンドリングを意識して、ぶつからずに難しいカーブを曲がる。先行した茂は確かぶつかっていたはずだから、これで差が少し縮んだはずだ。
だけど、まだまだ茂は先にいる。アイテムを取らなくちゃ。
そして、アイテムボックスを取って、加速する。
そして、茂に追いついた。
「アイテムを使ったのか。くそ、ずるい」
「ずるいなんてないよ」
だが、並んだのは一瞬だった。結局、茂のぼろ勝ちで終わってしまった。
「悔しい」
「はは、仕方ねえよ。年季が違うんだからな」
茂は上機嫌そうだった。
リベンジということでもう二戦やるが、どちらも負けてしまった。
本当に悔しいが、もうこれでは茂には勝てないと分かったので、次のゲームに行く。
次のゲームは、太鼓の名人という太鼓ゲームだ。
これは茂もあまりしたことがないと言っていたし、勝つチャンスだ。
結果はこれもぼろ負けだった。考えればわかる話だ。茂は歌がうまくて、私は下手。そのことから考えて、勝てるわけがなかった。
「うぅ、茂にはかなわないなあ」
「ふふん、どうだ」
「すごい!」
本当に何でもできるや、茂は。
「なあ、」
そんな時だった。声をかけられたのは。
「え、なに?」
「なあ、鈴村隆介の娘だろ?」
「え?」
それを聞いた途端固まる。まさか、川原君以外にも知ってる人が?
「ははははは、これが犯罪者の娘か」
「なんで?」
「はいはい、父親が犯罪を犯して今どんな気持ちぃ?」
「おい、お前。何をしているんだ?」
茂が力強くそう言う。
「何をしているだと? 決まってるっしょ。インタビューだよ」
そうカメラを持ちながら言ってくる男。
「インタビューにしては了承を得てない気がするが」
「そんなの関係ないっしょ。だって、犯罪者の娘に人権なんてないんだから」
ああもう、次から次にそんな輩が出てくる。
引っ越しをしたってそういう人は出てくるんだね。
やっぱり私には平穏に暮らす資格なんてないんだ。
「救いようがねえな。今すぐ動画を消せ」
そう、茂がカメラを奪いに行く。
「なんでだよ。なんで罪を犯してない愛香がこんなに苦しまなきゃならないんだ?」
「いや、俺たちは被害者や遺族のストレスを晴らすためのインタビューしてるだけなんだが?」
「それを言うなら俺は遺族だ。俺のお母さんは鈴村隆介に殺された。だが、俺はそんなことは望んでなんかいない。愛香が苦しむのは望んじゃいない」
そうきっぱりと言った茂。その時、警察が来た。
「そこの君、困ってるだろ。動画を止めなさい」
「は? なんで警察が来てんの?」
そう、男が言うと、後ろで鳩さんと十和子がピースをしていた。二人が呼んだのだろう。
結局、その男は有名な迷惑系動画配信者だったらしい。
そしてその結果男は厳重注意された。
「いや、助かったぜ、鳩」
「どういたしまして。まったくもう、へんな人はいるよね」
「……そうだね」
「そんな顔をしなくてもいい。この前も言ったが、みんながみんな変な奴なわけじゃないからな」
私の顔の沈み具合に気が付いたのかな。
「うん」
「今度からも守ってやるからな」
「ありがとう」私はお礼を言う。
「愛香、あんな人たちは少数派なんだから気にしたらまけよ」
「そうだね」
そして私は茂の腕をぎゅっとつかむ。私にしては大胆な行動だ。
「ほら、思う存分つかめ」
「ありがと」
やっぱり茂は優しいな。
そして、私は遠慮せずに茂の胸へと飛び込んだ。
「おおー、愛香やるじゃん」
「ね」
後ろで二人が騒いでいるが、そんなことは関係がない。
「茂。好きだよ」
「ああ、俺もだ」
そして、
茂君はこれから冬休みとは言え、すぐに家に帰らなければならない。それは仕方のないことだ。でも、休みだからこそ、毎日一緒に遊びたい。一緒に楽しみたい。
夏休みなのに、何で毎日遊べないの?
そこがつらい。
勉強していくしか、ないのだろうか。大学生になったら毎日会える。だが、それも二年後だ。
毎日会いたい。その気持ちが日々増えていった。
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