第25話 お出かけ
そして次の週から茂は有言実行とばかりに来てくれる。
そのおかげで毎週末が楽しい。
ちなみに事件については、川原君が別のクラスに移行することでとりあえずは収まった。
だが、その川原君も、未だに私への恨みが消えてないし、彼も、別のクラスでいじめられたりして、結局転校してしまった
それに関しては、十和子と茂のおかげで、私が悪いんじゃないと思えるようにはなったけど、まだ罪悪感自体は残っている。
そして毎週末は茂とのデートは主にデートしたり勉強会をしたりする。そんな日々が続く中、二学期の期末試験が始まり、そして閉幕した。
「愛香すごいじゃないか」
茂が私のテスト用紙を見て言う。何と私は数学で九十八点を取れたのだ。
世界史とかの暗記科目ではなく、数学という実力主義のテストだ。
テストで九十八点取れた瞬間に思ったことは、茂に褒められる!! というだった。
つまるところ、私は茂に褒められたいという不純な動機で頑張ってきたのだ。
だからこそ、褒められて嬉しい。
「ありがとう。茂のおかげだよ」
「いや、確実に愛香が頑張ったおかげだ」
そして私たちは軽くハグをした。互いに赤面しながら。
「ハグと言っても緊張するな」
「……うん」
そしてすぐに手を離した。
「そう言えば、茂」
「何だ?」
「十和子が茂に会いたいって」
そう言った。基本茂は土曜日はビジネスホテルで泊まる。
「つまり、明日という訳だな」
「うん。ご褒美として」
「なるほど、それはいいな」
そう言って茂はニカっと笑う。良かった、肯定してくれて。
「なら、もう一人呼ばないか?」
「え?」
翌日、十和子が私と茂が待つ駅前に現れた。
「お待たせ、愛香」
「そんなに待ってないよ、十和子」
「で、その人が愛香の彼氏?」
「うん。こちら茂!」
そう言って私は茂の方に手を向ける。すると茂はそれにこたえるように頭をぺこりと下げた。
「イケメンだね」
「ちょっ」
「大丈夫。取らないから」
ほっ。まあ、今更茂が他に乗り換えるなんてないとは思ってるけど。
「それで、もう一人愛香の知り合いが来るんだよね」
「ああ、そろそろかな」
そう言ってスマホを見る茂。
すると、向こうから一人こちらに向かってきた。
「鳩さん!」
私は即座に振り向く。そこには懐かしき姿があった。実に三ヶ月ぶりだ。
「久しぶり愛香」
「うん、鳩さんも」
そして私たちは手を繫ぎ、握手をする。
「実はね、茂をこちらに行くことを促したのは私なの」
「そうなんだ。ありがとう」
「あいつヘタレなのよ。学校の心配して」
「いうなよ、鳩」
そこに茂が咳払いしながら来る。
「恥ずかしかっただけなんだから……」
そう、恥ずかしそうにする茂。
「でも助かりましたよ。茂さんが来なかったら愛香、病んでたと思うから」
「おう、そうか」
茂はまた照れたような顔をする。その顔がかわいくて、つい「ふふ」と、笑ってしまった。
「なんだよ」
「いいじゃん」
「ねえ、二人共イチャイチャしないの」
そうは言われても……。
「もういいわ。いこ、十和子ちゃん」
「え、ええ」
困った顔で鳩さんについて行く十和子。いったい向こうで何を話しているのだろうか。
「じゃあ、俺たちもあっち行くか」
「……うん」
そして私たちは先に行ってしまった十和子、鳩ペアについて行く。
茂と手を繫ぎながら。
そしてようやく二人に追いついた時、二人は私の話で盛り上がっていた。……というよりも、鳩さんが私の話を暴露しているのだ。
まあ、別に暴露されて困るような話なんてないから、黙って見ていてもいいのだが。
「おい鳩、行くぞ」
そう茂が府あt里に対して言う。
「なによ。茂がイチャイチャしてるからじゃん」
そう言って、茂の服の袖をつかむ鳩さん。なんだか、あの時が戻ってきたみたいだ。
ああ、懐かしい。
「愛香、何か寂しい」
そう、十和子が私の服をぎゅっとつかむ。いつも強い感じだからちょっと意外だ。
「大丈夫だよ。私は十和子の友達だもん」
これで良かったのだろうか。
でも十和子は少しだけ安心したような顔をしている。大丈夫なのだろうか。
よく考えたら。このお出かけ、十和子にとっては、私以外の三人は知り合いじゃないってことか。
「ん?」
茂がこちらを見る。その後、納得したような顔をした。
「大丈夫だ。俺は……仲間外れにしないから」
そう、照れながら言う茂。
「うん」
「……茂、浮気しないでね」
「するわけないだろ。行くぞ」
そして茂はずんずんと歩いていく。
「愛香の彼氏優しいね」
「うん。ちょっと嫉妬するけど」
「え?」
「だって、十和子にも優しくしてたから」
「なるほどね。ふふん。でも、私は愛香の彼氏を取るような真似しないから」
そう言って笑う十和子。
「それにね」
そう、いつの間にか隣にいた鳩さんが私に声をかける。正直びっくりした。
「あいつは誰にでもああいう反応だから」
「誰にでも?」
「あいつ、明るいように見えて、女性経験ないのよ。だから愛香があいつの二代目彼女だし」
「二代目!?」
「うん」
へー、もっと彼女とか作ってるんだと思ってた。鳩さんがもう初代彼女だったという事ね。
初耳過ぎる。
「うぶなのね」
そう、十和子が調子に乗った風に言う。
「そこ、全部聴こえてるからな」
茂がやはり照れた様子で言った。
そんないつもと違う茂はかっこよいというよりはかわいくて、そんな茂もいいなと思った。
もうこの時点で、このお出かけは成功だ。だけど、まだ出発しただけで、目的地へはついてすらいない。
つまりまだまだ楽しめるという事だ。
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