第19話 茂
(SIDE茂)
俺は最初は愛香の事なんて何とも思っていなかった。地味そうな顔のやつがいるなあと思っていただけだった。それが興味に変わったのはいつからなのだろうか。
それはおそらく、彼女が初めて屋上に出てた時のことだ。彼女は俺がいるのに気づかず、屋上で叫んでいた時だった。
彼女は何もない空に向かって家族の悪口を叫んでいた。その時の声、すがすがしそうな顔、今でも忘れられない。そこからだ、彼女のことを目で追うようになったのは。
クラスでは他人に興味がなさそうに過ごしている彼女の心の叫びを屋上で訊くことがいつの間にか楽しみに奈tぅていた。
まあ、毎日叫ぶわけではなさそうだが。
そしていつの間にか、興味から愛情へと変わって行った。
そこからすべてがいとおしくなった。彼女が授業中寝ている時の寝顔も、暇つぶしにスマホをいじっている姿も、男女行動になった時の体育での君のビビる姿。その全てがいとおしくなった。その時は鳩と付き合っていたから、告白はしなかった。
でも、ある日、
「ねえ、茂。やっぱり私たち別れよ?」
と、鳩に唐突に言われた。意味が分からなかった。
「え? 何を言っているんだ? 鳩」
俺はそう訊き返した。確かに最初に告白したのは俺だ。だけど、まさかそんなことを言われるとは。俺は鳩としっかりと恋人をやっていたはずだ。なのに、どうして?
……俺には、全くもって意味がわからなかった。
「だって、茂は私を愛していないもん」
「それは……」
図星だった。俺は鳩のことを愛せなくなっていたのだ。いや、その前から恋人としては見れてはいなかったのだが。
それから彼女は静かに「他に好きな人がいるんでしょ?」と、一言言った。
その言葉に対してどう返そうかは激しく迷っていた。別に鳩も嫌いではないし、むしろ好きだ。だが、恋人がいる中、別の女を好きになっていたなんて言えるはずもない。
俺は「いや、違うよ」と、愛想笑いでごまかした。だが、それでごまかせるほど鳩は簡単な女ではなかった。結局、「別に気にしなくていいよ。別に茂男として見れてたのかっていえば微妙だったし、友達の方が気楽そうだしね。じゃあね、これからは友達としてよろしく!」
その言葉を言って、鳩は、食堂に行った。
鳩の言葉……鳩が俺のことを男とは見れていなかったという言葉が本当か嘘かわからなかった。
俺はどうしたらいいのかわからなくて、そのままその場に突っ立ていた。
それからと言うもの、俺と鳩が別れたことは噂になった。たくさんの人に理由を聞かれたが、彼氏として見られなかったという、鳩の本当か嘘かわからない言葉を理由として伝えた。
「正直ショックだぜ」と言う言葉を添えて。
愛香には告白はしなかった。唯一したことと言えば、相変わらず屋上に忍び込み、彼女の魂の叫びを聞くことくらいだ。
だが、そんなある日、彼女が飛び降りようとしているのが、目に見えた。俺はもうすぐさま彼女のもとへと行き、彼女を手でつかみ、自殺を止めた。
その後は、もう勢いそのままでお気に入りのカフェに連れて行った。鳩とも何回か言ったことのある、美味しいカフェだ。
そこで軽く話すことに困ったが、とりあえず、告白をした。陽キャとか言われた時は困ったけど、とりあえず、つらいときには楽しいことを考えるべきだと伝えると、愛香は愛想笑い感もあったが軽く笑ってくれた。
それから、勉強を克服するために勉強を教えたりした。
ああ、教えるの上手いと言われた時はうれしかった。
カラオケでハグをしたときも楽しかった。
あとは、彼女が、家にいるのがつらいと言った時には、彼女を無理やり連れだしたりとか。あれは楽しかった。
バトミントンもゲームもだるまさんが転んだも。
一緒に家で勉強したときも楽しかったし、休憩と称してしたキングカートも楽しかった。
愛香強くなってたな。
その後、動物園では、愛香に無茶ぶりをしてしまった。俺が恋人らしいことをしたかっただけなのに。俺はこのまま友達の感じになるのが嫌だった。
思えばキスもほぼしてなかったし、ハグも数回だけだった。俺はこのままでいいのか? と、心の中で思った。それで結局愛香に「ハグしてもいいか?」と告げた。
嫌そうな反応をされた時は、断られるかと思った。しかし、愛香はOKしてくれた、公衆の面前でハグしてくれた。俺はそれが嬉しくてたまらなかった。愛香は俺の彼女なんだぞと、周りの人に言えているみたいで嬉しかった。その後、俺のアピールは止まらなかった。今考えれば愛香に嫌な顔の一つされてもおかしくはなかった。そんな俺に嫌な顔一つせずに応じてくれた愛香には本当に感謝をしてもしきれない。
お母さんが亡くなった時、俺は事件の詳細を知らなかった。ただ、お母さんが刺されたと聞いて駆け付けた。すると本当にお母さんは死んだように動かなくて、もう悲しくてしょうがなかった。そこで、愛香には申し訳ないが、電話をした。
だが、お母さんが刺されたと言った瞬間、愛香には明らかな動揺があった。すぐに愛香は来てくれたが、その様子はどこかおかしかった。
その翌日の事だった。刺したのが、愛香の父親だと知ったのは。
ショックで家から出れなかった。だが、勇気を振り絞って愛香の家に言った。愛香は悪くない、愛香は悪くないと心の中で言い聞かせて。
愛香を誘った、だけど、来てくれなかった。なんでだ? と思ったが、それは仕方ないことだと、自分に言い聞かせ、一人でお葬式に言った。お父さんは返ってきていたが、お父さんとはほとんど何も話さずに、そのままお葬式は終わった。
新学期が始まっても、愛香は来なかった。愛香がいないと、なんだが、寂しさを感じた。隣の空き机、そこに愛香がいない、その事実で俺まで行きたくなくなる日もあった。毎日、転校とかしてないが、心配になった。だが、それでも愛香に電話をする勇気がなかった。あの時からずっと罪悪感を感じていたとしたら、電話をかけるべきだということは俺にも当然わかってはいた。でも、俺にはそれが出来なかった。
そして俺の心はだんだんと、段々と壊れていく感じがした。勉強にも身が入らず、ゲームも何も面白くない。
高級レストランに行っても何も味がしないというありさまだ。周りから見たら俺は廃人に見えていたかもしれない。
だが、そんな中、愛香が目の前にやってきた。鳩に連れられて。
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