第14話 勉強会
「皆さん、今日はテスト一週間前です。そろそろ皆さん勉強の方を始めるようにしてくださいね」
と、言われた。家出などでバタバタしていたが、そろそろそんな時期か。
正直言って嫌だ。茂と一緒に勉強し始めたとはいえ、まだ自信がない。どうせ今は分かった風になっていても、テストの時に問題用紙の前に座ったら、何一つ分からないんだ。
その絶望感は私が一番知っている。どうせダメな点数を取るくらいだったらもう勉強しなくていいかも……とさえも思ってしまう。
そして授業が終わった後、一人「テストやだな」と言って机にうつ伏せになる。
すると、茂がそれに気づいたのか、「大丈夫だ。俺が教えてやるから」と言ってくれた。だが、その言葉は私にとっては何の効果ももたらさない。
私自身テストに絶望しているヵらだ。
「愛香。お前は今まで絶望の中にいた。だから、勉強が出来なかったんだ。だけど、今は俺がいるだろ。大丈夫、任せろよ」
「……そう言われても。テストは別問題なの。心配で……」
そう、弱音を吐く。私にとって、安心な事なんてない。
「分かった。安心させるためにテスト勉強会をするか」
そして、私は再び茂の家にお邪魔することとなった。
「あら、いらっしゃい」
と、今日も茂のお母さん、美智子さんが出迎えてくれる。
そして、「今日もよく来たねえ」と言われ頭をなでられた。嬉しい。嬉しさのあまり、ちょっと顔がにやけてしまってないか心配なくらいだ。
そして茂の部屋に入る。そして早速ゲーム機をじろりと見る。今日も、キングカートやりたいなと思ってしまう。だが、茂はそんな私を見て、「あくまでも今日は勉強会だからな」とくぎを刺した。
「うう、分かっています」
……したかった。
そして、机の前に着くと、数学の勉強をした。数学の勉強と言っても学校から手渡されてる問題集を解く。茂に教えてもらってるからだいぶわかってきたとはいえそれはあくまで教科書の問題だ。問題集の問題に関してはあまり自信がない。実際今日も最初の数問はあっさりと解けたが、応用問題になるとすぐに分からなくなり、茂の助けを借りる羽目になった。
だが、茂はそんな私にも優しく教えてくれる。本当にありがたい。
そして一時間程度勉強した後、
「お菓子持ってきたわ」
と、美智子さんが、美味しそうなクッキーを持ってきてくれた。
「いいんですか?」
「もちろん。ていうかもう愛香ちゃんは私の娘も当然たもの」
「……いや、そんな」
だが、うれしい。私のことをそう思ってくれている人がいるという事実が。
そしてクッキーを早速一つ食べる。するとサクッという感触と共に、美味しい味がする。しかも今まで味わったことのないような味だ。食べた後、数秒間時間が止まった気がした。
「美味しい」
気が付けば私はそう呟いていた。
「良かったー。美味しいでしょ? これ。この前買っておいて他の」
「うん。とても美味しいです」
「じゃあ、ジャンジャン食べて。あ、もしかして今勉強の邪魔になってる? じゃあ、そろそろ戻るわね」
そう言って茂のお母さんは帰って行った。
「……嵐みたいだったね」
「そうだな。母さん、そう言うところあるから」
「でもうれしい。クッキーもおいしいし」
「それは良かったな」
そして私はもう一枚クッキーを食べる。
「食べるのもいいけど、勉強もしなきゃだからな?」
「分かってるよ」
そして、再び勉強を始める。
そしてしばらくたった後、
「ねえ、茂君」
私は気になったことがあった。
「自分の勉強は大丈夫なの?」
そう、茂君は今まで私に教えてばかりだ。彼自身のテスト勉強は大丈夫なのだろうか。もしかしたら私が彼の勉強の邪魔をしているかもしれない。その事実を思うと少し胸が苦しくなる。
「大丈夫だ。教えるのも勉強になるし、今は愛香の方が大事だ。このテストでこれからが変わってくるかもしれないし」
「……茂。茂の勉強も大事だよ。今の学力をもっと伸ばさなきゃ」
茂の夢は医者だ。父親の跡を継いで医者になることだ。医者になるには医学部に入らなければならない。そこには大変な努力が必要になるだろう。
私が大学に入るのとは意味がまるっきり違うのだ。
「それもそうだな。だけど、安心してくれ。俺の勉強もちゃんとやってるから。ほら」
そして茂は英単語帳を見せてきた。
「じゃあ、安心なのかな?」
「なんで疑問形なんだよ……」
そして喋っていると勉強が全然進まないので、勉強に再集中した。
そして、再び暫くの時間がたった後、また私の体力の限界が来てしまった、しかも今度は前よりも激しい疲れだ。
もう、休憩しても頭が働くようには見えない。
「限界か」
そう茂が私の状態を見てそう呟いた。それがなんとなく恥ずかしいと同時に罪悪感がわいてくる。私の忍耐力のなさによって、勉強を止めてしまっている現状なのだ。
「少し休みがてらゲームするか?」
「ゲーム!?」
少しだけ食い気味に反応してしまったことで、少しだけ顔を赤くしてしまう。これだと、ゲームがしたいという事がもろばれだ。だけど、茂は気にしている様子無く、「何がいい?」と訊いてくる。
私は瞬時にキングカートの名前を出す。
前に茂と一緒にやった時に楽しかったからだ。
そして、私達はゲーム機の前で、隣に座りながらゲームを起動する。
「じゃあ、始めるか」
前は全敗だった。偶然とかが味方して今日は勝てないかな?
そして、私達はマシンを走らせる。アイテムを駆使して茂に勝とうとしようとするが、結果は六位、二位にすらなれなかった。
「んんん」
言葉にならない声を出す。
「次は……負けないから!!」
「愛香、熱くなってるな?」
当然。ゲームなんてほぼ生まれてからやったことが無いのだ。熱くなって当然だ。
「行けえええええ」
次のレース、私はそう叫んで、車を走らせる。もちろん茂に勝つためだ。だいぶ茂との距離は縮まってきている。次は勝てるはずだ。
そして、丁寧に克大胆にやった結果、
「やったー!」
僅差で私が勝つことが出来た。
「はあ、はあ。やったよ」
「まいった。愛香、普通に強くなってるじゃねえか」
「努力の結果だよ」
「それを勉強で発揮してもらいたいものだが」
「…………それは言わないでよ」
まるで、私のお母さんみたいじゃない。実際、あの人は私がなんかマンガ読んでたりすると、「その熱量を勉強に費やしてもらいたいものね」と言った嫌みを言ってきてたりするのだ。
それは、もう耳にタコが出来るくらい聞いてきた、所謂鋭利な刃みたいな言葉なのだ。
「茂までそれを言ったら、私、茂のこと嫌いになっちゃう」
「……それは悪かった。すまん。お前はがんばってるよ、勉強面でもその他の物でも」
「……うん。そうだよね。私頑張ってるよね」
「そうだな」
私は単純なので、こんな慰めの言葉でうれしくなる。この瞬間、私が単純な人間で本当に良かったと思う。
「さあ、続きやるか」
「うん!!」
そして、勉強の続きをした。ちなみに家の門限は撤廃されたのでよほどの時間までじゃなければ大丈夫だ。
結局熱心にできたもので、夜の二一時まで勉強した。
そしてそれからというもの毎日茂の家で勉強会をすることとなり、私の学力は大分伸びた。
……そしてテスト当日を迎えた。
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