第13話 金
そして、家に帰ると、「良かったのう。彼氏ができて」と言う、明らかに不機嫌そうなお父さんがいた。
ああ、全て分かった。呼び返したのはお父さんに一人で対抗するのが嫌だったからなのか。全く、そっちのことに巻き込まないでよ。
それとももしかしてお父さんが不機嫌な理由に私がかかわっているのか。
「でもなあ、彼氏と遊び過ぎて家のことを放ったらかしにされては困るからなあ。決めたんや……」
私のことか。
ああ、もう大体話すこと分かっている。
「彼氏からお金貰って来い」
いや、思っていたのと違う。
「ギャンブルのためのお金を集めるためだ。さんざん貢がせて来い」
「そんなこと……」
茂くんなら本当に情で訴えたらお金をもらう事なんて簡単にできそうだ。でも!
「そんなこと出来るわけないでしょ」
「できない? それでもうちの娘かあああああ!!!」
思い切り殴られた。痛い!
「お金を貰って来い。それがお前の唯一の選択肢だ」
そう言って出ていった。おそらくギャンブルに行くためだろ。なんでこんなひどい仕打ちを受けなければならないんだろ。なんでこんな目に。
はあ、とはいえお金を貰わないと。でも、もう茂君のお金をもらうなんて、そんな最低な行為、私にはできない。
私の中で茂くんは完璧な人間だ。そんな彼をだますなんてできない。
「おかあさん……」
「お金を稼いできて」
返事はない。いや、あるにはある。お父さんの言うことを反芻するだけ。私を守ってくれるわけないか。少しでもお母さんを信用した私が馬鹿だった。本当に馬鹿だった。所詮お母さんはお母さんだ。
部屋に戻りどうしようかと考えた。素直にお金を渡したくはない。茂君のお金をそんな無駄な使い方をさせるわけには行かないし、茂君の善意を悪用したくない。
だが、考えても解決方法は出ない。明日茂君に相談した方がいいなと思い、宿題に手を付けた。
次の日、学校でそのことを茂くんに話した。少し怖かったが、やはりこうするしかない。
「わかった。じゃあ……」
と、茂君はカバンを探り始め、財布を取り出した。違うの!!
「別に欲しいとは言ってないし……くれなくてもいいから」
そんなんだと、私が茂君を利用しているみたいになる。昨日危惧したとおりだ。
「いや、でも貰わなかったら愛香が困るだろ」
「そうだけど……そのお金はどうせギャンブルに消えるの。だから貰えない」
そんな無駄になるに決まっているお金をどうしてもらおうとするか。それも他人のお金だ。
「そうか……ならせめてお小遣いにして、いざの時に使えるように渡しててもいいか?」
「だめに決まってるでしょ!!」
「おーいどうしたの? 二人とも」
そんな言い争いをしていると、鳩さんが来た。
「お、鳩。聞いてくれ。愛香にお金渡そうとしたらなかなか受け取ってみらえなくて」
「え? もらえるもんはもらっときなよ。私結構貰ってたよ」
そう言って肩を軽くたたかれた。
「いや、私はそう言う意味で言ったんじゃないし。どうせもらってもギャンブル代に消えるから」
「……ああ、そう言うこと?」
鳩さんにもこの問答の意味が分かったようだ。
「でも、それで暴力振るわれないようになるならもらっといたほうがいいとは思うけど」
「鳩さんまでそっちの味方なんですか?」
「うん。だって暴力振るわれるのとかマジいやじゃん」
「そうだけど……」
「まあ、いらなかったらそのうち返したらいいしさ。とりあえず、はい」
それは一万円だった。
「思ったより多いんだけど」
「いいじゅあねえか。まあそれで何とか一〇〇〇円ずつ払ったりしたらいいからさ」
「……わかった」
そして家に帰ると、すぐに、「おう、愛香? ちゃんともらってきたか?」と言われた。
誰があんたなんかにお金なんて渡すかと言いたい。その思いで、すぐさま二階の自分の部屋に駆け出していった。だが、すぐに腕をつかまれてしまった。
「おお? お金渡せや。ちゃんと色仕掛けでやってきたんだろうな?」
「……失敗した」
やっぱり渡せるわけがない。茂くんからもらったお金を、こんなくそ野郎に。
「なんて?」
「失敗した」
「それでもうちの娘かあああ!!!」
そう言って顔を思い切り殴られ、一瞬視界が白くなる。そして、頬がずきずきとし始めた。
「もらって来い!!!! お前も生活費ぐらい自分で稼げるようになれ! それともなんだ? パパ活とか売春とかするか? とにかく! 俺のためにお金稼いで来い。俺は結構イライラしてるからな。もし明日! お金を稼げなかったら、お前を家から閉め出すからな。分かったな?」
「……はい」
状況は最悪だ。やはりこのくず親父は私からすべてを奪っていく。ああ、最悪の気分だ。昨日までは最高の気分だったのに。
渡せるお金自体はある。それを私が渡したいかどうかは別として。
このままじゃあ、お金を毎日搾取される日々になる。パパ活は別として、私自体はバイトはしてもいいとは思っている。でも、でも!! あのくそ父親にすべてわたるのは嫌だ。これは別の話なのだ。茂君と一日一緒に過ごしたので私はいかに思い上がっていたが、この件ですぐさまわかってしまった。そして、茂君や鳩さんの言っていたことに、素直に従っていればよかったと思った。
翌日そのことを茂くん達に言ったら、「そうか……今日は俺にもらったと言ってこのお金渡しとけ」と言われた。
「やっぱりそんなこと……私さ、茂君の高貴なるお金をそんなことに使いたくないよ。どうしたらいいの……」
「だが、やっぱりそれは見過ごせない。お前が家から追い出されたら俺が養ってやる。でもさ、今はお金を渡し解けば何とかなるんだろ。やっぱり渡そうぜ。それでお金で何とかできないようになったら、な」
「うん」
そして、茂君の言うことに従い、今日はお金を素直に渡すことにした。
「お父さん。これ貰ってきました」
とりあえず、三千円。これでお父さんも満足してくれたらいいのだが。
「ほう、三千円か……お前もやる時はやるじゃないか。なでてやろう」
と、お父さんに頭を撫でられた。撫でられても嬉しくない……と言いたいところだが、私の中の私が喜んでしまっている。だまされてはいけないのに。これじゃあ、貢がされているみたいなものじゃん。
「ありがとな。愛香」
本当意味が分からない。普段はそんな優しくないはずなのに。
「うん」
そしてその日からお父さんの機嫌は多少良くなった。私が週一で三千円(茂君にもらったものだけど)を渡してるからと言うのが大きいのだろう。
いや、一番はそれよりもお金を貰っていることで私に多少強く出れなくなったのだろう。本当単純な人だ。単純すぎて反吐が出そうだ。
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