蕾のままで

 いつからだろうか。

男子に興味がないと言っていた親友の珈那が、一人の男の子ばかりを目で追うようになったのは。

藍と話す時にだけ一段と嬉しそうな顔をする珈那を見て、あぁ珈那は藍に恋しているんだなと感じ取った。

でもその頃にはもう人の気持ちに敏感な私は勘付いていた。藍が好きなのは私だと。

四人でどこかへ遊びに行った時、いつも藍が呼ぶのは珈那じゃなくて私だったから。

ふたりに嘘をついた日もあった。ふたりの唯一の共通である音楽に私が入り込んではいけないと思ったから。音楽だけはふたりを変えてくれると願っていたから。私の嘘は正しくて、きっとそれがふたりを結んでくれると勘違いしていた。

けれどその翌日、気まずそうにするふたりの様子を見て私は後悔した。二つの恋心はもう動かない。違う方向に向いたそれぞれの想いはもう私の手では結べないと知った。

思春期の私たちは複雑だ。もう子供のように駄々をこねられるわけでもないし、大人のように自由気ままな行動をしないように我慢できるわけでもない。

私が引っ張らないといけないのに、みんなを困らせて、迷惑かけてばかりだった。

今朝、珈那が藍に想いを伝えようとしていることに気づいた時もそうだ。

みんなが苦しむ結末は確かにそこに見えていたのに。

最後だから、と油断してしまった。

"止めなきゃ"

そう思って必死に珈那の名前を叫んだけれど、ふたりの表情を見てすべて遅かったのだと悟った。

私はやっぱり、まだ大人には少し遠かった。大人にはなれなかった。

それでも、こんな私を励ましてくれるのもまた珈那と藍の音楽だった。

繊細だけれど歌うような珈那の音と訴えかけてくるような迫力のある藍の音はどちらも勝っていた。

ふたりは結局、お互いの存在をどう捉えていたのか。どんな風に気持ちが変わっていったのか。私には到底分からかった。でもそれは多分ふたりにも分からないのだろう。

そんなこと、誰も知らなくていいのだろう。

ふたりは確かに私のヒーローだった。

ふたりのそばにいられて良かった。

今日を最後に離ればなれになったとしても、また運命が私たちを引き寄せてくれるだろう。

少し寂しいけれど、ほんのりとした期待を胸に抱いて桜を見上げる。

安堵と自信がそっと心に浮かんできた。

まだ花を咲かせていない蕾は、今の私にそっくりだった。

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