第11話 ルギルとサフィーナ
一応、ルギルはヴァルガに声を掛けようと思ったが、気付いた時にはもうどこかに立ち去っていた。
受験票を確認すると、七つの白星が並んでいる。全戦全勝での勝ち抜けをやり遂げた。
ルギルは、魔法戦を振り返る。
(1対1の魔法戦なんて久々にやったけど俺、近接戦闘しかやってねえな)
ルギルの傭兵時代の戦闘は、多対多の殺し合いがほとんどだった。
自分だけで勝とうとするより、仲間を生かした方が総合的に強いため、デバフ魔法を生かして戦っていた。
遠距離からフォローするためにちくちく攻撃する事はあっても、近接魔法をかけるなんて数年振りかもしれない、と懐かしむ。
(同じ魔法しか使ってなかったから手札が少ねえな)
それが今回の正直な感想。
七戦中四戦を同じ勝ち方で終わらせ、残りの三試合も全て近距離で戦った。
サフィーナに言われた魔法の幅、という課題が完全に浮き彫りになっている。
ダンジョンプレイヤーとして生きていくなら、それが足を引っ張りそうだ。
そんな事を考えていると、後ろから声がかかった。
「おめでとうルギル! ヴァルガに勝つとかすごいじゃない! 大口叩いてただけあるわね」
サフィーナだ。
彼女は早々と七試合目を終わらせて、ルギルの試合を観戦していたらしい。
「ありがとう。サフィーナは勝ったのか?」
「当たり前じゃない。もう負けないわよ」
「そりゃ頼もしい。一足先に最終テストで待ってるぜ。ちゃんと来いよ」
「勝ち抜けを決めたからって……最終テストの内容も知らないくせに」
ルギルが調子に乗った事を言うと、サフィーナは苦笑しながら返答する。
ルギルもそれにつられて笑った。
『第七試合終了です。第八試合に移ります』
『尚、勝ち抜けを決めた志願者の転移は行われませんので、あと二試合、ご自由にお過ごしください』
「だってさ。じゃあラストの試合頑張ってくるわね」
「おうよ。見つけたら観戦するわ」
「いいわよ。魅せる魔法のお手本を見せてあげるわ」
バイバイっと彼女が手を振ると、転移して消えた。どこかの立方体に飛ばされたのだろう。
△ ▼ △
立方体が割れて、キラキラと破片が空を舞う。
破片は地面に落ちず、溶けるように消えた。
割れた箱から出てきたのはサフィーナ。
その顔に浮かぶのは、喜びよりも当然だという表情。
彼女は八戦目にして七勝目を挙げ、勝ち抜けを決めた。
「おめでとうサフィーナ」
「ふふ。見ててくれた?」
「すごかったぜ。ちゃんと見えないのに面白かった」
七戦目の時とは逆に、ルギルがサフィーナを祝った。
試合内容に関しては圧巻の一言。
半透明の膜のせいで全て見えた訳では無いが、観戦していたルギルは驚きの連続だった。
大型の水魔法を連続で使って相手を動かしてどんどん追い詰め、最後は別の大型魔法でトドメを刺す。
大型魔法を大雑把に使って、丁寧に相手を追い詰める。
相反するように思えるが、サフィーナはそんな魔法士だった。
「それじゃあ、最終テストの作戦会議をするわよ」
サフィーナ魔法戦からすぐに切り替えると、次に向けて話し始める。
「ああ、全然わかんねえから教えてくれ」
「本当……何も知らないのによくドラフト志願してきたわね……」
本当にその通りだと、ルギルは失笑した。
彼は商人に乗せられて、ここまで来てしまったのだ。
「最終テストは一芸を見せる試験。志願者が持つ一番魅力的な魔法を一発だけ見せるのよ」
「一発だけ、か……それを俺とサフィーナでやんのか?」
「そう。グループを組む事が許されているから、二人で連携するの。人数が多い程求められる物は厳しくなるけど、水と氷の相性なら絶対素晴らしい物ができるわ」
まだルギルには魔法の魅力について理解しきれていない。
だから、詳しいサフィーナと組んだ方が良いと判断した。
彼女が素晴らしいと言うなら素晴らしい物ができるのだろう、という甘い考え。
「なるほどな、それに乗るぜ。具体的にこんな魔法が作りたいとか作戦があんだろ?」
「んふふ。あるわよ。私が小さい頃から妄想し続けた、氷魔法士と協力する用の魔法があるわ」
「お、おう……」
「何引いてんのよ! 別にいいでしょ!」
サフィーナは、ドン引きされた事に恥ずかしくなって赤面したが、気を取り直して続ける。
「……簡単に言うとね、私が大型魔法で水を大量生成して、あなたが凍らせるの。凍らせるだけなら魔力負担軽いでしょ?」
魔法は基本的に、生成する量が増えれば増えるほど、使用する魔力量が多くなる。
例えば、サフィーナが使った『
そのため魔力量の少ないルギルは、氷を生成できる量が他の魔法士と比べてかなり劣る。
だがしかし、魔力コントロールが上手いため、絶対零度まで氷の温度を下げる事ができる。
魔力量が、生成する物のデカさを決める。
魔力コントロールが、生成する物の質や効果を決める。
それが、現代魔法の常識である。
余談だが、『
「それなら、俺でも役に立てそうだ。凍らせるのは得意だからな」
「でしょでしょ。それでやりたい魔法ってのがね――」
△ ▼ △
『これにて、休憩時間を終了致します。勝ち抜いた志願者の皆さんは第一練習場にお集まりください』
第九試合が終わった後に、インターバルを挟んで、いよいよ最終試験。
あれだけ人が居た第一練習場には、もう数十人の選ばれし魔法士しかいない。
その中に、ヴァルガとレティシアの姿をルギルは発見した。どうやら勝ち抜いたらしい。
『休憩前にも説明した通り、最終テストは一芸試験です。チームのフロント陣にしっかりアピールできるような素晴らしい魔法を期待します』
『それに加えてグループを組む場合、基本的にはグループごとにドラフトされますので、気を付けてください。プロチームに入った後はセット売りされたりするので、相手はよく選びましょう』
「え? グループごとにドラフト? それになんだセット売りって。初耳なんだが」
ルギルは慌ててサフィーナを見るが、彼女は全く目を合わせない。
明らかに目を逸らしている。
「サフィーナ……?」
「…………」
「おい。説明しろサフィーナ」
「な、なんのこと? わ、私も初めて聞いたから、わからないわね」
「ほーん。言ってくれねえなら、俺たちのコンビは……」
「言うわよ! 言うから待って!」
「冗談だよ」
「……あなたねえ」
ルギルはサフィーナをおちょくって笑うと、彼女は微妙な顔をした。
「黙っててごめんなさい。私とあなたならダンジョン放送で人気になれると思って誘ったの」
「打算的だな、意外に承認欲求も高い」
サフィーナの正直過ぎる物言いにルギルは笑った。
「ごめんなさい」
「謝る事はねえよ、分かり易くて好きだ」
サフィーナは続けて謝るが、ルギルは気にしていなかった。
彼女のお節介に助けられたし、彼女の人間性は好ましいと思っている。
「別にいいぜ。サフィーナにはいっぱい助けられたし。それに、俺の魔法が良いと思ってくれたのは事実なんだろ?」
「ええ。もちろん」
サフィーナはルギルを見つめて言った。
嘘偽りのない本心である。
ルギルの魔力コントロールの巧みさに尊敬すら抱いていた。
「じゃあ。ぶっちぎりで一番良い物作って、一緒に放送しようぜ」
「ありがとう。許してくれて。是非やりましょう」
「おうよ」
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