第4話 ドラフトテスト・魔力測定

 巨大な第一練習場には多くの人が詰めかけている。

 それなりに年を重ねた人たちも散見されるが、圧倒的に若者が多い。

 おそらく、国中の魔法学校を卒業した人間が集まってくるのだろう。


 枠に入れるのは5チームで大体5人の計25人。

 しかし、その数十倍はいるように思えた。


『最初のテストは魔力測定です。測定器を持つ係員の列にお並びください』


 十数人の係員が目立つように練習場に出てくる。

 ドラフトテストの足切り試験、魔力測定が始まった。

 

「じゃあ、さっさと並びましょうか」


 二人は一番近くの測定係の列に並んだ。

 もうすでに多くの人が列をなしているが、測定にかかる時間は短いためどんどんはけていく。


「よっしゃあ! 俺は1000を越えたぞー!」

「250しか……今年もだめか……」

「500越えなら安心だな」

「測り直してくれ! この測定器は壊れている!」


 大きな声で自分の魔力量を叫ぶ者、喚き散らす者、様々な異なる反応をしながら魔力測定を終える。

 ある程度の基準量があるのか、息を吐いて一安心する者も多くいた。


 余談だが、魔力量というのはほとんど生まれつきに左右され、後天的に増やしにくい。

 魔力の使い方次第で実質的な量は変わるが、総量自体はほとんど変わらない。

 それが現代魔法の常識である。


「次の方どうぞ」


 あれだけ並んでいたというのに、あっという間にルギルの順番が来た。

 名前だけが書かれた簡易的な受験票を係員に渡して、丸い輪っかの測定機に手首を突っ込む。

 すると測定器がどんどんと収縮していき、手首にぴったりと巻き付いた。


 この時、ルギルは「ふんっ」と力を入れ、得意の魔力コントロールで測定器の部分に魔力を集める。

 意味があるのかどうかは分からないが、最後の悪あがきとしてやってみた。


 それをちらりと見た係員は魔力量を読み上げる。


「438ですね、お疲れさまでした」

「どうも」


 係員は受験票の上に手を翳して数字を刻んだ。

 どうやら魔法紙らしいそれをルギルに返して、すぐに後ろに並んだサフィーナの対応に移る。


 ルギルは列を外れてから、受験票をまじまじと見つめた。

 ……これがドラフトテストで良い値なのかそうではないのか、ルギルには分からない。

 でも、前測った時より増えてる気がした。


(サフィーナに聞いてみよう)


 そんなことを考えていると、


「おぉ! 1572です。お疲れさまでした」


 同じ係員の声で周囲にどよめきが起こった。

 中心にいるのはサフィーナである。

 どうやら、かなり魔力量が多い体質らしい。


(おれより千以上も多いじゃねえかよ)

 

 サフィーナは、なんてことないですよって顔をしながら口角が若干上がっている。

 ダンジョンプレイヤーを目指すなんて奴は、どいつもこいつも目立ちたがり屋なのだ。


「……すげえ多いんだな」

「それほどでもないわ」

 

 声をかけると、サフィーナはにやけ顔からキリっとした表情に整えた。


「で、どうだったの?」

「……438だ。これはどうなんだ?」


 ルギルは天に祈る気持ちでサフィーナを見つめる。

 (ドラフトテストどうこうよりも、あれだけ啖呵切ったのに、こんなとこで落ちたくねぇ!)

 頭の中はちょっと恥ずかしい。


「ギリギリね……大丈夫寄りのギリギリ」

「おお……?」

「確かここ5年の基準点は、全部それより下だったはず。そう悲観しなくて良いわよ」

「おお!」

「楽観できる程の魔力量じゃないわよ」

「はい……」


 チクリと棘を刺されたが、確実に落ちるような魔力量じゃなくてよかったと思った。

 

   △ ▼ △


 志願者全ての魔力測定が終わると、また遠隔音声魔法のアナウンスが流れ始める。


『志願者の皆さん、魔力測定お疲れさまでした。今年の基準点は』


 巨大な第一練習場が静まり返った。

 夥しい数の人間がいるのにも関わらず、皆が一様に沈黙する。

 ルギルは手を合わせて天に祈り、サフィーナは静かにその時を待つ。


『魔力量、425です!』

 

「うおおおおおおお! やったあああ!」

「よかったわね」


 最初の難関、突破。

 まだ足切りテストを合格しただけだが、ルギルは拳を空に突き上げて喜んだ。

 サフィーナはそんなルギルを見て微笑む。

 

 周囲は喜怒哀楽、全ての感情で満たされていた。

 今年もダメだったと嘆き悲しむ者もいれば、パスして当然だと余裕の者もいる。


『残念ながら、魔力量424以下の皆さんはここでお別れです。結界外へと転移します』


 残酷なアナウンスが流れると、基準に達しなかった者達が第一練習場から音も無く消えた。

 巨大な第一練習場が更に広々とした気がする。

 

 ここまでは序の口。いよいよ本番の第二ステージが始まる。


『次のテストは1対1の魔法戦です。ルールは――』


 遠隔音声魔法でルールが告げられた。

 

 要約すると、

 1対1で寸止め無しの魔法戦。戦闘不能・死亡・場外・降参のいずれかで敗北、15分以内に決着が着かない場合は両者ともに敗北扱い。

 勝敗数が同じ志願者同士で戦う。(3勝2敗同士とか、5戦全勝同士など)

 7勝すれば勝ち抜けで合格。7勝するまでに3敗すれば敗退で不合格。

 対戦相手はランダムで組まれ、試合開始から15分経つと次の試合会場に自動で飛ばされる。


『以上です。それでは頑張ってください。全志願者の武運を祈っています』


「じゃあなサフィーナ。第三テストで待ってるぜ」

「居なくなってたら笑ってあげるわね」


 ありえない、とルギルは笑って返す。

 サフィーナも笑っていたが、急に何かを思い出したように慌て始めた。


「そういえば言い忘れてたことがあったの! 魔法戦は――」


 ――サフィーナが言葉に耳を傾けてたら、急に景色が変わった。一戦目の試合会場に転移したらしい。

(気になるじゃねえかよ……)

 

 気を取り直して目を瞑り、一つ深呼吸した。

 すると、ルギルは広くて半透明な立方体の中に入れられていることに気付く。

 目の前には対戦相手がいて、横を見ると同じような立方体に二人の魔法士が相対していた。

 

 立方体が第一練習場にズラリと、試合数と同じ数だけ並んでいる。

 この立方体内が魔法戦のフィールドなのだろう。

 近接戦闘もできるし、遠距離魔法の撃ち合いもできる。

 それぐらいの広さだった。

 

 実は、立方体上面の隅っこには魔法カメラがあり、熱狂的なダンジョンファンに向けて中継されている。


「ボロいローブ着てんなぁ。貧乏人か?」


 一戦目の相手、見知らぬ若い男がそう言った。


「気に入ってんだよ」


 流石のルギルも、自分の着てるローブがどれだけ汚いのかが今日で嫌と言うほど分かった。

 正確には、靴も杖もボロボロなのだが、彼はまだそれに気付かない。


『第一試合、試合開始!』

 

 第二テスト、魔法戦が始まる。

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