第33話 遠征
「よお、お前たちが新しい護衛か」
「タイヴァー、だな。俺たちがヴァルカンだ」
オフィジェンが指定したエスタマイルの裏路地にて、ジェイたちは全身を外套に隠した男と接触した。
男の後ろには荷馬車が一台あった。
「腕利きの冒険者上がりの傭兵だと聞いている。期待しているぜ」
「報酬分は働かせて貰うさ」
タイヴァーは「へっ」と鼻で笑うと、荷馬車に飛び乗った。
「荷物は乗せな。空いているぜ」
「助かる」
荷物を置くべく荷馬車の幌を捲ると、そこには大量の木箱が山積みになっていた。
「よし、準備はいいな。南の門から出る。門番には話がついている。行くぞ」
手網を握るタイヴァーにより荷馬車はゆっくりと動き出す。ジェイは顎で指示を出し事前に決めていたフォーメーションで荷馬車を囲い、護衛体制を整えた。
荷馬車は人通りの少ない道を通り、エスタマイル南門へ差し掛かる。
門の前には通行許可を求める人たちが小さな人集りを作っていた。
タイヴァーは迷う素振りすら見せず門番の兵士へ一直線に近づいた。
「──こいつを」
「……ああ。通ってよい」
荷馬車は順番待ちすらなく門を抜ける。
一見賄賂による買収にも見えたそのやり取りだったが、タイヴァーは兵士に何も渡していなかった。彼はただ小さな紙切れ一枚を兵士に見せ通行許可を得たのだ。
ジェイはこれでタイヴァーがオフィジェンから特別な許可を得た、目的の人物であることを改めて確認した。
「あの、荷馬車の荷物は何なんでしょうか……?」
「お嬢さん、旅は長いんだ。ソイツは楽しみに取っておこうぜ」
「…………」
アインの問いをタイヴァーは軽く流す。
「行き先ぐらいは教えてくれてもいいんじゃないか?」
「おいおい、これから一週間も野宿なんだぜ? こんな序盤に種明かしをしたら詰まらない旅になっちまうよ!」
タイヴァーは「ケケケ」と笑いながらそう言う。
相変わらず任務の詳細を知らされないことにジェイは不満だったが、それだけ機密性の高いことへ首を突っ込むのはやめようとそれ以上食い下がることはしなかった。
それから特に何も起こることもなく馬車は進んだ。
その間ジェイは方位磁針と地図で進路を確認したが、進路上に街はなく、ますますその疑惑を募らせるだけだった。
結局一日目は街から近かったこともありモンスターにすら出会わずに終わった。
二日目にもなるとエスタマイル郊外を抜け、多少モンスターも出没したがヴァルカンにとっては障害にすらならなかった。
「初めて見たぜそれ。面白い魔法を使うんだな。何も見えないのにモンスターが死んでいくのはなんでだ?」
「軽口はいい。馬車を進めろ」
「へへ! へいへい」
互いに手の内を隠したままジェイたち一行は歩みを進めた。
三日目にもなると、流石にヴァルカンメンバーの間に疲れが見え始めた。
特に、ジェイが心配した通りドライとフィーアは既に限界といった顔で、何とか部隊に着いてきているような状態だった。
彼女たちにとって、ベッドで休めない状況自体が向いておらず、それがさらに昼寝も無しで歩き続けるというのは苦行に他ならない。
「おいおい、そっちのお嬢ちゃんたちは大丈夫か?」
「大丈夫だ。最悪先に帰還させる。報酬は減らしてくれて構わない」
「おいおい! アンタも鬼だな! ……こんな小さい子を歩かせて俺だけ馬車ってのも気分が良くないな。──よし、そっちの二人を乗せな! 狭いがお嬢ちゃん二人ぐらい隙間に入るだろ」
「いやそれは……」
「遠慮すんな! 荷物の見守りも仕事さ!」
「そうか……。有難い」
そんなやり取りを経て、タイヴァーの申し出通りドライとフィーアは荷馬車の荷台に乗せられた。
敷き詰められた木箱の上は乗り心地が良いとは到底言えなかったが、それでも幌により日が遮れる場所で休めるだけマシだった。
「アイン、お前も休むか」
「私は大丈夫です」
「そうか。無理はするなよ。──ツヴァイは……大丈夫そうだな。ズィーベンの方が少し厳しそうか」
「いえ……、大丈夫ですよ……、社長……」
その発言と取り繕った笑顔とは裏腹に、息も絶え絶えなズィーベンの様子を見てジェイは肩をすくめる。
「人数も増えてきたことだし、そろそろ向き不向きに合わせて参加する任務を考えた方が良さそうだな」
無闇矢鱈に頭数を揃えるより、戦略の方が重要であるとジェイは良く知っていた。
しかし今後の展開を呑気に考えられていたのは三日目までだった。
四日目、一行は遂に大きな障害にぶち当たる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
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次話2024/05/07 07:30頃更新予定!
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