第34話 強敵

「ん……? あの旗、ワッフェ共和国の国有軍だな……。ボス! 二キロ先に検問があります!」


 四日目、ようやく折り返しかと思っていた矢先、いよいよ最大の危機が彼らを襲った。


「国有軍だって!?」


 タイヴァーは思わず大声を上げ、それに驚いた馬が嘶く。


「首都を守るエリート部隊が何故こんな所にいるんだ? まあいい、あの紙を見せて通してもらおう」


「……それは駄目だ」


「は? 検問を避けるとなると悪路をとてつもなく迂回するはめになるぞ。馬車で行けるかどうか……」


 ジェイたち一行は、辛うじて道と呼べるような、人の往来が踏み固めただけの道を歩いていた。

 その左は深い森、右は険しい斜面と、まともに人も住んでいないような場所だ。

 こんな辺鄙な場所に検問を置く意味も分からないが、仮にこの辺りを通る人間を検問するなら逃げ場のないここが最適ではある。


「どこから情報が漏れたのか分からないが、とにかく、国の連中に見つかるのはマズイ。アンタたちの出番だぜ……!」


「俺たちにすら教えていなかった情報を国に掴まれるとは、この荷馬車の正体は相当なものらしいな……? まあいい。話は終わってからゆっくり聞かせてもらおうか」


 ジェイは不敵な笑みを浮かべ、チャージングハンドルを引いた。

 その様子を見ていた他のメンバーも一斉にセーフティを外し武器を構える。


「作戦は待ち伏せを想定したものに。それでいて敵を逃したくない。追い払うのではなく殲滅する。──フュンフとゼクスは横の森に入り、逃げる者や応援を呼びに撤退する者を優先的に排除しろ。その他は正面から押し潰すぞ!」


「「了解!」」


 ジェイの指示通り二手に別れつつ、馬車はゆっくりと検問へ近づいた。

 近づくにつれ、段々と敵の全容が明らかになる。


『ボス、敵は五十人は下らないです……! それにやたらと重武装! 更には王立魔法師団のエリート魔導師までいます!』


「慌てるなフュンフ、問題ない。俺たちはこの程度の障壁を簡単に乗り越えてきた。そうだろう?」


『は、はい……』


「よし。……馬車はここで止まれ。俺たちが近づき油断を誘う。俺が最初に一発撃った後は各自の判断で射撃していい。──作戦開始だ!」


 ジェイはアインとツヴァイを両脇に伴い、検問している兵士へ歩み寄る。


「待て! お前たち、ここで何をしている!」


 全身鎧に身を包んだ兵士の一人が剣の鍔に手を掛けながらジェイたちを制止した。

 後ろの兵士たちも警戒を強めつつ、馬車を取り囲むようにゾロゾロと出てくる。


「ちょっと兵士さん、どうしたんですかそんなに怒鳴って。私たちはただの交易商ですよ」


「通行許可証を確認する。それと荷馬車の中も確認させてもらうぞ」


「ちょっとちょっと! ウチの商品に手を触れるのは困るなぁ……。それはウチの専売特許なんでね」


「ますます怪しいな。商品とはなんだ!」


 兵士は剣を抜き、切っ先をジェイに向けて威嚇する。


 ジェイは自分一人に警戒が集まっていることを確認すると、笑顔のまま外套の下からGLOCK18を抜いた。

 そのまま銃口を兵士の額に向けるが、それが何であるか分からない兵士は困惑の表情を浮かべるだけだった。


「何をしている!? 早く商品とやらの正体を答えろ! やはりお前たちが──」


「商品! それは死だ!」


 パン! と乾いた音と共に至近距離から放たれた9mmパラベラムは容赦なく兵士の頭を撃ち抜いた。兵士は糸の切れたマリオネットのようにその場に崩れ落ちた。


「な、何が起こ──」


 一瞬の出来事に、他の兵士たちが状況も掴めないうちにアインとツヴァイも射撃を開始した。


「グァッ!」

「うわァァ!」


 全ては作戦通りに進んでいた。

 正面からは訳も分からず火力で押し倒された国有軍の兵士たちは右往左往し、馬も暴れて砂埃が巻き起こりまさにカオスであった。


「ふん。もういいだろう。射撃中止! ──フュンフ! そっちはどうだ! 一人も逃がしてないだろうな」


『ボス、それが……!』


「どうした!?」


「じ、ジェイ様! あれ……!」


「あ……?」


 アインが指さす先には、半透明の壁の向こうで、無傷で立ちはだかっている十名程度の男たちの姿だった。


「防護魔法に傷が……。その武器、詳しく調べさせてもらう必要があるな……?」


「嘘だろ……」


 パンパンと砂を払い革手袋を深くはめ直す男。この男こそが検問を敷いていた部隊の隊長、ルーイッヒだった。


「私の名前はルーイッヒ。ワッフェ共和国軍諜報局の軍人である。お前たちの名前を聞こうか」


「フュンフ!」


 森の中から一発の弾丸が飛んでくる。

 しかし弾丸はあえなく防護魔法に防がれ、その表面にささやかな傷を残しただけだった。


「馬鹿な……! ドラグノフの7.62×54 mmFMJ弾だぞ!?」


「ふむ。無視、か。それもいい。では“尋問”を始めようか」


 ルーイッヒは防護魔法の内側から飛び出し、瞬きすらも終わらぬうちに彼の膝蹴りがジェイの腹に突き刺さった。


「ガハッ……!」


 長年鍛え抜かれた身体強化魔法から繰り出される重たい一撃。それはジェイに再び死の恐怖を思い出させた。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


お読み頂きありがとうございます!

次話2024/05/08 07:30頃更新予定!

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