第27話 初依頼

 それから約一ヶ月の間、人数が大幅に増えたヴァルカンは慌ただしい日々を送っていた。


 まずジェイはしきりに一人で街へ行くことが増えた。数日戻らなかった時はアインが騒いだが、ツヴァイに連れ戻され事なきを得た。


 アインたち子供組は午前中にフュンフたち大人組に銃器の扱いを教えた。

 系統が全く違う武器ではあるが、武器の扱いに長けた者を見抜いてジェイが選んだだけあり、すぐ戦力に数えられる程度にはなった。


 そして時には実践訓練を兼ね、ジェイと共にやっていたように冒険者ギルドへ赴いては適当な依頼をこなして資金調達を続けた。


 傭兵ギルド立ち上げは無事に済んだものの、まだ何の実績もない彼らは冒険者ヴァルカンとして冒険者ギルドを利用していたのだった。






「──やっと仕事を掴んだ」


 そう言ってジェイは拠点へ帰ってきた。


「エスタマイルを治める貴族には結局会えなかった。もちろんその上の人間もな。それどころかオフィジェンと直接話すのにすら半月もかかるとは。そこから仕事を振られるまでまた半月だ。……全く、貴族制と封建制度はクソだな」


「随分お忙しそうにしてるなと思ったら、貴族様の所へ行っていたんですか、ボス」


 フュンフは射撃場を整備する手を止め、ジェイの手荷物を受け取った。


「全然仕事を回さないから文句を言いに行っていた。こんな序盤で燻っているようではビジネスは成り立たない」


「当面の資金は例の戦功を売った分と私たちの報酬で足りていますよ」


 ズィーベンはそう言ってジェイが空けていた間の金の動きが記された帳簿を見せる。


「確かに暮らしていく分には金は問題ないな。だが今後組織を拡大し、最終目標を達成するためにはやはり民間軍事会社ヴァルカンとしての実績を積む必要がある」


「了解しました。武器・弾薬の準備は出来ています。命令を、指揮官殿」


 ゼクスは巨大な耐衝撃ケースを軽々と持ち運びジェイの前に置いた。ケースの中にはカスタム済みのM4と、その他予備弾薬から手榴弾まで全てが揃っていた。


「ああ。では作戦概要を説明する。本部へ集まってくれ」







 初めは放棄された掘っ建て小屋から始まったヴァルカンの拠点。

 それが今や居住区画から倉庫まで個別に建てられ、中央に事務所と会議室を兼ねた本部が出来上がっていた。


 狩猟小屋を作る程度の知識はフュンフにあったが、実質素人同然の集まりがここまで立派なものを良く作れたなとジェイは感心していた。

 中は家具もない殺風景なものだったが、それはいずれ調達する事にしてジェイは壁に地図を貼り付ける。


「まず確認するが、俺たちが居るのはここ、エスタマイル領コンフリクト大森林。正式名称はどうでもいいとして、この森も一応はエスマタイル伯爵の領土らしい」


「この国では、実際に統治が及んでいるかはともかく、制度上は全ての土地が貴族に属していますからね」


 フュンフがそう補足説明をする。


「そうだ。だが今回はここ、エスマタイルのすぐ北にあるノーシスという土地で仕事だ」


「少しの遠征ですか。それで、任務の内容はどのようなものでしょうか」


「端的に言えば国境紛争だな」


「国境紛争……? それは面倒事になりそうですね……」


 先程までは意欲的だったゼクスだが、政治の色が見えてくると途端にトークダウンする。


「これはワッフェ共和国の内乱だから国境ではないが、それぞれの領地の係争地での紛争ということになる。……なんてことはない。このコンフリクトの森のように、実際は統治されていないような緩衝地帯を少しエスマタイル側に押し広げればいい。やることと言えば向こう側の兵士がいればそれを排除し、味方の兵士の前進を援護することだ」


「なるほど……。エスマタイルの兵士がノーシスの兵士に手を出せば問題になりますが、体裁上無所属の傭兵なら問題にはならないということですか……」


「そうだズィーベン。お互い直接手を出せないところを我々が掻き乱す。その隙にエスマタイルが領土を広げる。──傭兵らしい、汚い仕事だ! 歓迎しようじゃないか!」


 ジェイは地図上のエスマタイル──ノーシス国境線に巨大なバツを描く。


「しかしジェイ様、そのようなことをしては今後の仕事に支障を来すのではないでしょうか。相手も貴族です。私たちの立場も危うくなるのでは?」


「それはそうだな。しかしそのリスクよりもメリットを選んだ」


「メリット?」


「ああ。民間軍事会社ヴァルカンは貴族から政治的に危ない仕事を依頼されるほど信頼があるということ。そして我々は相手が貴族であろうと怖気付かずに任務をこなすこと。この二つを対外的に宣伝できるチャンスだ。要はノーシス一つを踏み台にすることで他の貴族全員へのアピールになるなら十分にリスクを取ってもお釣りが帰ってくると読んだって訳だ」


 これが元の世界では米国すら手玉に取った男。危ない橋を走り抜けチャンスを掴み続けてきた男の策略だった。


「愚見、失礼しました。流石はジェイ様のご慧眼です」


「いや、もっともな指摘だったぞアイン。目の付け所はいい。……さて、それでは作戦内容についてより詳細に議論していこう。まず第一に敵の戦力についてだが──」







 それからジェイたちは三日間に渡って作戦を立てた。

 高度に政治的な案件であるため緊密な連携が求められる反面、フュンフたち大人組にとっては初の本格的な戦闘だ。丁寧に越したことはないとジェイは大きく構えていた。


 そして全ての準備を終えた彼らは武器を担いで拠点を出る。


「では行こうか、新たな戦場へ…………」





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


お読み頂きありがとうございます!

次話2024/05/1 07:30頃更新予定!

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