第28話 係争地にて

 ワッフェ共和国、エスマタイル領・ノーシス領係争地にて。


「では諸君らに改めて作戦概要を説明する。まずフュンフが敵の布陣を調査後、適当なノーシス警備兵を一人射殺する。その様子を見に来た他の警備兵を俺、ツヴァイ、ゼクスで叩く」


「了解しました」


「この時、異変を察知した向こう側の領地から新手が来ないか、アイン、ドライ、フィーアで監視しろ」


「はい」


「一帯の敵を排除後、死体は魔獣に食わせる。そして偽装工作も全て完了したことを確認したら後方で待機しているズィーベンに俺から無線連絡を入れる。そしたらズィーベンからエスマタイル兵に前進命令を出し、領地の境目を大きく押し上げれば任務完了だ。──特に難しいことはないな。質問は?」


「ありません」


「よし、では任務開始だ!」


「は!」


 ジェイの号令によってヴァルカンのメンバーは一斉に動き出す。


「よし、行くぞツヴァイ、ゼクス」


「ああ……」

「了解です」


「お気をつけて、ジェイ様」


 ジェイとは別働隊に配属されてしまったアインはツヴァイの後ろ姿を恨めしそうに見送った。







『敵兵見えました。Cの3、Dの3、Eの4とほとんど等間隔で並んでいます。計八名です。A、B方面に敵影はありません』


 領地の境目と言っても、地図で見ても実線は書いていないし、現実でも柵などが立っていることもない。

 何の変哲もない、小さな森と丘陵地帯が広がるこの一帯が何となくの境目となっていた。


 市販されている地図自体も信頼性に欠けるものの、ジェイはそれを500m毎に区切り、東西の横軸をアルファベットに、南北の縦軸を数字に置いて、作戦遂行上必要となる正確な地図の代わりとした。


「よし。アインとドライたちはDの5付近にある丘陵の頂上を確保し、交易路があるEラインを押さえておけ。フュンフは引き続きF以降の西側について索敵を続行せよ」


 同じ国の中でこのような争いは少なくない。

 将軍や天皇がありながら戦乱の世となっていた戦国時代と同じ、というと大袈裟だが、各々の利権のために貴族が争うことはママあることだ。


 今回の一件も、エスマタイル側の独自の調査によって、領地の境目付近にある山から魔石が産出するということが判明し、このような事態に至った。

 正当な領地請求権がない以上、武力行使自体は十分に考え得る選択肢のひとつであった。


『──こちらアイン。別働隊、位置に着きました』


「了解。こちらの指示があるまで待機だ。……フュンフ、西側の様子はどうだ」


『スコープで見える限り敵兵はいません。ただ、農民と見られる人間たちがHの11近辺に散在しています』


「それは元からエスマタイルの領民だな。こちらに不利な証言は簡単に揉み消せるので気にする必要はない。……よし、それでは3、4のラインから1まで境界を押し上げるぞ!」


「はい!」


 こうして新生ヴァルカンの初仕事が始まった。


「予想よりも遥かに敵が少ない。一気に片付ける。フュンフ、Dの3付近の兵士の足を撃て」


『了解ですボス』


 近代化改修されたドラグノフ狙撃銃、SVDS。サプレッサー付きの銃口から放たれた性格無比な一撃は、街道脇の森林を警備する兵士の足のど真ん中を撃ち抜いた。


「ぐぁぁぁ!!!」


「な、何だ!? どうしたんだお前!」


 武器はおろかフュンフの位置すら掴めないノーシス警備兵は右往左往する。

 足を撃たれ地面をのたうち回る兵士の叫び声で、街道や街道の迂回路を警備していた兵士を引きつけた。


「よくやった。後はこちらでやる。──行くぞツヴァイ、ゼクス!」


「ああ……!」

「了解しました!」


 近くの草むらに潜んでいたジェイたちは一斉に飛び出す。


「誰だお前たちは!?」


「こちらは民間軍事会社ヴァルカン。死の押し売りに参りました」


 言い終わるのが先か、ジェイはトリガーを引き、警備隊長らしき装備の立派な男の脳天を撃ち抜いた。

 それに合わせてツヴァイとゼクスも射撃。立っていた兵士は全て糸の切れた人形のように地面へ崩れ落ちた。


 ジェイはいとも簡単に作られた血の湖をパチャリパチャリと歩む。


「ま、待ってくれ……! どうしてこんなこと……!?」


 最初に撃たれて倒れていた警備兵は武器も鎧も投げ出し、止めどなく血が流れる足を庇いながら後ずさりをする。

 ジェイはそんな彼の首を容赦なくナイフで引き裂いた。


「死にゆく者には関係のないことだ」


「が…………」


 ジェイは彼が完全に事切れたことを確認し、ナイフを丁寧に拭って納めた。


「……これで終わりか。このメンバーでの初任務ということで慎重を期したが、少し大袈裟すぎたな。まあいい。──ズィーベン。エスマタイルの兵士に前進するように連絡を──」


『敵だ』


「は?」


 ジェイの無線連絡を遮ったのはフィーアだった。


『Dの0、交易路の向こう側から敵が来ているよ』


「何だと……?」


『大変ですジェイ様! 敵の数は四十……いや、五十はいます!』


 ノーシスにとっては大して価値のない土地のはず。それなのに同じ国の仲間へ向けるには過剰すぎる兵士の数……。

 ジェイの頭の中ではあらゆる可能性が推察されていた。


「前言撤回だな……。どうやら俺たちはもっと慎重に動かなければならなかったらしい……」





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


お読み頂きありがとうございます!

次話2024/05/2 07:30頃更新予定!

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