第25話 新たな傭兵たち
次の日ジェイは街に出た。今度はアインも止めはしなかった。
残された子供たちは昨日のジェイの言いつけ通りの仕事をして彼の帰宅を待った。
一週間が過ぎた頃、ジェイは戻って来た。いや、
ジェイは新たに三人の奴隷を引き連れて戻って来たのだった。
「じ、ジェイ様、それは一体……」
「民間軍事会社ヴァルカンはこれより第二フェーズに移行する。そのためには人数が必要だ」
「第二フェーズ……?」
「ああ。傭兵ギルドを名乗るには組織を拡大する必要がある。これからは国を相手にもっとデカい仕事をやっていくからな。──最終目標達成のためにも」
本当に大切なことは何も話してくれない。アインはそれを分かっているから「真の平和」についても「最終目標」についても尋ねはしなかった。
「まあ一人ずつ紹介しよう。これがフュンフ。フュンフは元々猟師をやっていたそうだ。斥候として役に立つだろう」
「どうも」
短く切り揃えられた金髪と翠色の瞳、細身だが引き締まった肉体といった外見は好青年という印象を与える。
「次にゼクス。これは不運にも捕虜になったある国の兵士らしい。本来は捕虜交換で開放されるはずが国が滅んで奴隷の身に落ちたとか。まあ俺ほどではないが経験値は高いだろう」
「よろしくお願いします」
フュンフとは対照的にガタイが良く、力強いしかめっ面を呈する彼は雄々しいという表現がピッタリの男だった。
「そしてズィーベン。俺の秘書兼ヴァルカンの経理をやってもらう。商店の娘だったとか」
「はい! お願いします!」
ショートカットの茶髪にバンダナ、白と紺のスカートといった小綺麗な彼女はその柔らかい表情から朗らかさが溢れている。
「ジェイ様、これはどういった人選なのでしょうか……?」
「俺も疑問だ……。聞かせろ……」
アインだけでなくツヴァイまでもがジェイに詰め寄る。
「理由も添えて説明したが?」
「違う……! コイツらは“上”で売られている奴らだろ……!」
そう、フュンフ、ゼクス、ズィーベンはいずれも、年齢・健康状態・能力、その全てが優れている。奴隷商における高級商品であった。
それはアインやツヴァイのような、働けない子供・死にかけ・生きる気力もない、そんな今までの人選とは真逆のものだった。
「アンタは俺らみたいなのを助けてくれるんじゃなかったのかよ……!」
「……そんなことは一度も言っていない。あくまでも必要な時に必要な人間を手に入れる、合理的な判断の末に選んだ。本当に価値のないものに金は出さない」
「クソが……!」
ツヴァイはわざとジェイにぶつかるようにして外へ飛び出した。
「……お前にはそれだけの価値があるのだと、何故気付かない」
ジェイがポツリと零したのをアインは聞き逃さなかった。
「私が追いかけます!」
アインはジェイの了承も得る前に、そう言い置いてツヴァイの後を追いかけた。
「良かったのでしょうか、ボス」
フュンフは気まずい表情でジェイにそう尋ねた。
「それはどっちの意味だ?」
「……あの子らのような奴隷じゃなく、俺らを買って」
「ああ。この選択は正しいものだ。全ての不幸な少年少女を買い上げて解放するのは不可能だ。ならば最終目標を達成することを優先すべきだ」
「その最終目標とやらが達成すれば、死にゆく彼らのような奴隷も救われるのか」
ゼクスはしかめっ面に疑惑の色を混ぜた。
「ああ当然だ。病気が無くなれば病人はいなくなる。それと同じだ」
「その言葉が回答になっているようには思えませんよ。少なくとも、それではあの子たちには伝わりません」
ズィーベンは心配そうに窓の外を眺める。そこには当然アインやツヴァイの姿などない。
「それでいい。いつか分かる」
「もう、不器用というか、不親切というか……。言葉足らずなんですよ……」
「俺は教育者じゃない」
「でもあの子たちを危険に晒したくないから私たちを──」
「黙れ。それ以上お喋りを楽しむつもりはない。道中伝えた仕事に取り掛かれ」
騒ぎを聞きつけたドライとフィーアが部屋から覗いているのに気付いたジェイは、ズィーベンの口を無理矢理手で覆うように塞いだ。
「ほら、仕事に取り掛かろうぜ」
「再び武器を持つことが出来る幸福を噛み締めたいものだ」
「はーい……」
フュンフに連れられ三人は外へ出て行った。
「今日は久しぶりに俺が料理をしよう。二人は休んでいていいぞ」
ジェイはそう言って両手をドライとフィーアそれぞれの頭に置いてキッチンへ向かうのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
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次話2024/04/29 09:00頃更新予定!
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