第24話 始動!傭兵ギルド

「──それで、早速だが傭兵ギルドに頼みたいことがある」


「ほう?」


「端的に言えば、先の戦争での戦果を譲って欲しい」


「……と言うと?」


「戦争に参加した貴族たちはその戦果によって報酬が決まる。しかし今回はお前たちが総取りしたせいで貴族様方は戦費すら賄えるか怪しいレベルだ」


 ジェイはそれを聞いた時、子気味良い気分だった。あの傲慢な貴族たちが合法的な活動の結果、平民のせいで苦しんでいるという事実は彼の心をくすぐった。


「そこでだ。大将首は既に世間でもお前らの手柄だと広まってしまっている。だが副将の方はそこまでだ。つまり──」


「良いだろう。別に俺たちは手柄が欲しい訳じゃない。だが手柄に付随する実績という奴はビジネスにおいて重要だ。それを譲るという意味は分かっているな?」


 オフィジェンは黙って頷き、白金貨の箱三つをジェイの方へ戻した。


「これでどうだ」


「……貴族様は副将の首だけで金貨300枚以上の追加報酬が貰えるということか……。いや、それも役人に裏で手を回して貰うのに300枚の価値なら、直接受け取るのはそれ以上か」


「…………」


 オフィジェンは黙ったまま、追加でもう二個の箱もジェイの方へ押し戻す。


「冒険者一人当たりの募兵費用が金貨10枚。兵士も同じぐらいだとして、あの戦争だけで数万は飛んでいるな?」


「分かった分かった! いくら欲しい! 要求額を言ってみろ! 交渉はそれからだ!」


「はは……! 話が分かるじゃないか。──この白金貨5枚と、追加で金貨500枚。合わせて金貨1000枚相当でどうだ!」


 これはただのブラフ、ドイアインザフェイスのつもりだった。


「分かった。それでいい。ただし、そこには口止め料も含まれていることを忘れるな」


 この時、ジェイは完全に貴族という生き物を見誤っていた。

 社交界に生きる彼らにとって、名誉は命にも代え難いもの。金銭的に損をしてでも欲しがるものだった。金貨千枚、一千万円以上の価値がそこにはあったのだ。


「契約成立、だな……」


 簡単に条件を飲まれたジェイは拍子抜けのした顔を何とか取り繕う。


「証拠は残したくないのでな。書面での契約は行わないが構わないな」


「ああ……」


「では後日、金銭の受け渡しを行う。ヴァルカンの本拠地はどこだ」


「コンフリクトの森だが……」


 ジェイは売り言葉に買い言葉で答えてしまったが、あそこは勝手に住み着いていることを言ってから思い出した。

 だがオフィジェンはもはやそのような些細なことは気にしていなかった。


「毎回そこまで行くのは面倒だ。円滑なやり取りのため、街の中にも拠点を置け。個人からの依頼を受けるためにもな」


「この後すぐにやろう」


「決まり次第私に直接伝えろ。執政官に用があると窓口に書簡を手渡せば届く手筈になっている」


「了解した」


 あくまでも自分のペースで淡々と物事を進めていく様子から、このオフィジェンという男が如何に優秀な役人かを物語っていた。

 ジェイはそんな彼の様子を見て、優秀な協力者を得られた安堵した反面、体制側にも侮れない人間がいるのだと改めて背筋を伸ばした。


「それでは今日はこれで。お互い部下を使う身だ。もう会うこともないとは思うが、今後ともよろしく」


「ああ。こちらこそ」


 ジェイとオフィジェンは立ち上がって握手を交し応接室を後にした。








「ジェイ様、これからどうされますか? 傭兵ギルドとは、私たちはどうすれば良いのでしょうか」


「心配は無用だアイン。お前たちのやることは変わらない。ただ、俺の指示に従って任務をこなす。それだけだ」


 ジェイたち一行は街で買い物を済ませ、拠点へ向けてコンフリクトの森を歩いていた。


「だが、ギルドとはなんだ……。俺たちも愛想良く受け付けをやればいいのか……?」


「ははは! それはお前には向いていない仕事だなツヴァイ。……我々は傭兵ギルドに所属する民間軍事会社ヴァルカン。あくまでもギルドとはガワだけこの世界のシステムに合わせたというだけで、中身はこれまでのヴァルカンと同じだ」


「ふーん……」


 ツヴァイは心底つまらなそうな声を漏らしながら、近くを飛んでいた鳥型のモンスターを撃ち落とす。


「でも、わたしたちも忙しくなるよねお姉ちゃん」


「そうだね。あたしたちも忙しくなるね」


 ドライとフィーアにとって、金も名誉も無価値に等しいものだった。彼女たちは一緒にいられるのなら、それがベッドの上でも戦場でも、どこでも同じことだった。


「仕事の裾野を広げるからな。それは多少忙しくなる。……そこで俺はこの後拠点に戻って金庫の金を出したら、しばらく街をうろついて準備を進める。拠点では引き続き拡張作業と訓練をしておけ」


「その間ジェイ様は戻らないんですか」


 アインは若干ヒステリックが混じったような顔でジェイに詰め寄る。


「これも仕事の内だ。お留守番が任務だと思って大人しく待っていろ」


 ジェイはそう命じたが、アインはどこか不満げに俯きながら「了解しました……」と呟いた。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


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次話2024/04/28 09:00頃更新予定!

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