第20話 戦闘技術
真正面からぶつかり合う両軍。
ブルーム公国軍は冒険者を戦争には使わないようで、全員が統一された武器と防具で完璧な統制の元戦っている。
確かに一芸に秀でた冒険者はその辺の兵士より強いかもしれない。しかし戦争に必要なのはこの強さではなく集団での総合的な戦闘力だ。
優れた魔法使いなら多少の大立ち回りも可能だろうが、そもそもが百人に一人しか魔法を使える才能がないという世界でそのような人物がポンポン現れるとも考えにくいというのがジェイの出した結論だった。
「敵の指揮官を倒せば残りの雑兵も撤退するだろう。敵陣中央にいるのが大将で、前線で指揮をしているのが副将か」
「やはり大将狙いでしょうか?」
「いや、大将も副将も両方やるぞ。それも同時にだ。……ドライ、フィーアは俺が指示したタイミングで大将を狙撃しろ。俺たちが副将をやる」
『うん、分かったよ』
『うん、分かった』
ジェイ、アイン、ツヴァイの三人は前線を迂回して森に紛れる。
「この様子だと次第にワッフェ共和国軍が押され始めるな」
「一応援護はしますか?」
「いや、放っておけ。俺たちはここでじっと待機だ。敵軍が勝機に乗じて攻め上がった時、最も油断している瞬間を背後から襲う」
「……敵の気配だ」
作戦会議中にツヴァイは乱入者を察知した。
「こっちに来るか……。やるしかないな」
ジェイは簡易的な偽装を施したコートを脱ぎ捨てる。
その下にはフルカスタマイズされたAR15と見るからに重いボディーアーマーを装備していた。
「サプレッサーを付けてはいるが完全に消音される訳ではない。出来ればナイフで仕留めたいな」
乱入者の正体は共和国軍の斥候のようであった。
防具も軽装で武器は短剣が一本のみ。しかし、斥候は一定の距離を保ちつつ複数人で森の中を探索しており、中途半端な攻撃では生き残りに察知される危険があった。
「やり過ごすのは無理そうです。近付かれる前にやりましょう」
「そうだな。横着してより面倒事になったら作戦が台無しだ。──フィーア、俺たちが見えるか?」
『……木で見えないよ』
スポッターのフィーアが見えない状況ではドライも射撃不可能である。
「仕方ない。俺が中央の三人を、アインが左二人、ツヴァイが右一人をやる。それでいいな」
「二人やれる……」
ツヴァイはジェイの作戦に異を唱えた。ジェイは数秒の逡巡の後、「いいだろう」とツヴァイの意思を尊重する。
「では一人二人ずつの敵兵を殺す。十分引き付け、距離五十で確実にやるぞ」
アインとツヴァイは頷き銃を構える。
「三……二……一……今だ」
タンタンと二回乾いた音が鳴り響くと同時にドサドサと男が倒れる音が聞こえてきた。
ジェイはスコープで敵兵の様子を確認する。
「……全員やれてるな」
アインはその言葉を聞いてホッと息をついた。
「どうだツヴァイ。初めて人を殺した感覚は」
「呆気ない……。こんなつまらないものなのか……」
「そうだな。楽しいもんじゃない。だが、それでいい。ただ任務の為と割り切って淡々とこなせばいい」
ツヴァイは濁った目をジェイに向けつつセレクターをセーフティに入れた。その仕草はまるで歴戦の殺し屋だな、などとジェイは思った。
『敵軍、動いたよ』
『そっちのちょうど真横まで動いたよ』
「了解だ」
戦況は刻一刻と変化していく。
「斥候が帰らないことを怪しまれないうちに私たちも動きましょう」
「そうだな」
ジェイは戦闘の中心となっている平原の方へ歩き始めた。アインはその半歩後ろを追いかけ、ツヴァイは後ろを警戒しつつ最後尾を務める。
「──チッ……」
徐々に明らかになる戦場の光景にジェイは舌打ちを漏らした。
積み上げられた死体の数々と広がる血の海。死体の割合はバラバラの装備が七割、統一された鎧が三割だった。
それは公国軍が圧倒的優勢を保ったまま戦争を進めていることを意味している。
「共和国軍は全然動いていないな……。まあ、税金で育てた兵士でもない上に冒険者は死ねば死ぬだけ支払う報奨金も減るからな」
「はい。この国は腐っています」
アインがそのような強い言葉を使うのは初めてだったのでジェイは少し驚いた。
「早く終わらせよう……。見ていて気分が悪い……」
ツヴァイもそう言う。彼らがそこまで言うのは自らを奴隷にしたこの国への恨みが篭っていることは明らかだった。
「まあ他の冒険者など俺たちにとってもどうでもいいことだ。──ドライ、フィーア、そっちも準備はいいな?」
『いつでもやれるよ』
『やれるよ』
「よし。……横槍とはいえ敵の数はこちらの数百倍、激しい抵抗も予想される。目標、敵軍副将! 油断するなよ!」
「はい!」
「は……!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
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次話2024/04/24 07:30頃更新予定!
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