第7話 高難易度
ジェイがギルドに行くと、そこは小さな騒ぎになっていた。
「お、おい、あの見たこともない服装と魔道具を持ってるのって……」
「あ、あれがそうなのか……!?」
「バカ! 聞こえてるぞ!」
「…………?」
周囲からの視線を感じるジェイは、金が出来たら服もこの世界で調達しようと決心しつつ受け付けへ向かった。
「今日も仕事を回して欲しい」
「はい、ではそちらの掲示板から……っと、その前に、ヴァルカンのジェイさんに報奨金が支払われます」
「報奨金?」
「はい。第三級モンスター、ジャイアントマンティスの討伐をギルド職員が確認しました。あのモンスター討伐の依頼金として預かっていた金貨五枚を報奨金としてお支払いします」
予想外の収入だったが、ジェイは金貨を受け取りチェストリグのポーチにしまった。貰えるものは黙って貰うのが彼の主義だった。
「そして異例ではありますが、ジェイさんは別の地域でも活動していた上、実際にその実力もこうして証明されたので、特別に第三級冒険者として登録を改めようと思っているのですがいかがでしょうか?」
「……そうしてもらおうか」
周囲の冒険者たちに目をつけられるのは厄介だったが、冒険者としてのランクが上がればより高難易度の、より報酬の多い仕事を受けることが出来る。
会社の運営もなんでも、最初の数歩が難しい。それをスキップできるとは何たる僥倖かとジェイはほくそ笑んだ。
「では改めまして、第三級冒険者ヴァルカンのジェイさん。おはようございます。そちらの掲示板の中から、最大で二級までの依頼を選んでください」
「ああ」
別に一級を目指す必要はない。それぐらい二級の依頼というのは報酬が美味かった。
その中でも特にジェイの目を引いたのは、地図付きでご丁寧に生息区域を示しているモンスターの討伐依頼だった。
丁度その辺はヘリの墜落現場となっている。
簡単に欺瞞工作を施してはいるが、下手に他の冒険者があの残骸を見つけても面倒だと、この依頼を手ずからこなすことにした。
「これで頼む」
「……はい。こちらは討伐等級第二級のワイルドウルサスの討伐です。非常に高等級の依頼ですので無理はせず、万全の体制で臨んでください」
「分かった」
だがこの時彼は全くモンスターを恐れてはいなかった。第三級のジャイアントマンティスは驚異にすらならなかったからだ。
初めはあの巨体と圧倒的な攻撃力に恐れ慄いたが、実際は脳天に弾丸をぶち込めば死ぬ生き物に過ぎなかった。
だが、その慢心はやがて打ち砕かれることとなる。
ジェイは昨日手に入れた銀貨一枚で地図と
これらは冒険者向けにギルドが補助金を出して安く購入することができた。
衛星など当然ないこの世界の地図に、できる限りのより詳細な現地の情報を書き足しつつコンクリフトの森を進む。
そして約二時間、道無き道を進んだ先。ヘリの墜落現場より若干手前であるワイルドウルサスの生息地に辿り着いた。
「これが……ターゲットの足跡か……?」
そこには巨大な丸と五つの蹄と思しき溝が地面に刻まれていた。
直径にして一メートルはあるその足跡にジェイは警戒を強める。
「モンスターの住処を横切って街に向かってたのか……」
これがこのモンスターに出会わなかったのは運が良かったとしか言えない。昨日の混乱した状況下でこの化け物に出会っていれば、彼の命は既になかっただろう。
ジェイは全身に纏わせた殺気が一瞬揺れるのを察知し前方に大きく飛び込んで回避した。
その背中をビュンと空を切る音が掠った。
「──ググゴォォォォ!!!」
「なんでもデカくすればいいってもんじゃないぞ……!」
彼の背後に忍び寄っていたワイルドウルサス。その正体は体長五メートルはある熊型のモンスターだった。
そして相手が熊だというのもジェイにとって予想外のことだった。
熊の図太い毛はまるでナノファイバーでできた防弾ベストのように弾丸を弾き飛ばし、衝撃は分厚い脂肪が受け止める。仮に弾丸が貫通したとしても体長が数メートルある熊にとって数ミリの穴など全く意に介さず、むしろ激昂して人間の頭を一撃で文字通り引きちぎる必殺の一撃を何度も繰り返してくる。
だから一流の猟師が熊狩りに当たり、スラグ弾のような強力な弾を用いて一撃で仕留める。サイドアームにも大口径マグナムが好まれる。
そしてこれは元の世界での話だ。
既に十分モンスターなのに、この世界ではその体の大きさが二倍以上にもなっている。ジェイの持つ5.56mm弾を使うAR15は奴にとって豆鉄砲同然だった。
「クソッ!」
一旦距離をとって体制を立て直すため、ジェイはワイルドウルサスの顔面に弾をばら撒きヘリの方へ撤退した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
お読み頂きありがとうございます!
次話2024/04/11 18:00頃更新予定!
ブックマークしてお待ちください!感想、レビューも頂けると幸いです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます