第8話 討伐
一瞬怯んだワイルドウルサスだったが、すぐにジェイの追跡を開始する。
熊の時速は約60km/h。体格が大きくなればそれだけより速くなる。
人間の足で逃げ切れるはずもなく、ジェイは再びモンスターの攻撃範囲内に捉えられてしまった。
「グォォォォォ!!!」
まるでハエでも叩き潰すかのように繰り出された大振りな一撃を辛うじて躱す。
照準をワイルドウルサスの目に合わせるが、この距離で動き回りながら同じく動き回る目標は正確に狙えない。
ジェイは深く後悔していた。
地図に書かれていた生息域に入る前から最大の警戒を怠らなければ、遠距離から確実に目潰しをして仕留めるやり方もあった。あるいは迂回してヘリに向かいより強力な兵器を用意すれば良かった。
だが後悔ばかりしていても問題は解決しない。
「くらえ──!」
「グガァッ!?」
攻撃を通さないような防具で全身を覆っているのなら、その防具の隙間を突けばいい。
毛皮で守られていないが目よりも面積の大きい場所、肉球部分にワンマガジン全ての弾丸を撃ち込み再び怯ませた。
ジェイは木を遮蔽に素早く離脱しマガジンを交換する。
攻撃手段でもあり移動手段でもある前脚を痛めたワイルドウルサスは若干動きが鈍った。
その隙を逃さずジェイはひたすらに森を駆け抜け作戦を練る。
今出せる最大火力は何か? その答えは腰元にあった。
ジェイはチェストリグのサイドポーチからグレネードを取り出した。
それは俗にフラググレネードと呼ばれるディフェンシブ・グレネードだった。
攻撃するグレネードで何故防御と思うかもしれない。
それは
「さあ来いッ!」
「グォォォォォ!!!」
ジェイはワイルドウルサスが攻撃する瞬間、毎回必ず咆哮する特性に気がついていた。
ピンを抜きワイルドウルサスの口目掛けてグレネードを投擲する。
そしてグレネードは大振りなワイルドウルサスの一撃が放たれる直前に奴の体内で炸裂し、強靭な鎧に身を包むモンスターを内側から破壊した。
「グゴォォォ……! ──こっ……がぽっ……」
ワイルドウルサスはその巨体を地面に放り投げ、口からは湖でも造るかのような勢いで血を吹きながら、やがて息絶えた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
汗と土まみれのジェイは、討伐したモンスターを眼前にその場で立ち尽くす。
彼の手はグレネードの軌道が狂わなかったのが奇跡と思えるほど恐怖と緊張でブルブル震えていた。
それから数分後、血溜まりがジェイの足元にまで広がってきて初めて、彼はそれを避けるように動き出した。
そして装備を補充するためにヘリへ向かう。
偽装を施した本人ですら遠目では見つけるのに苦労したが、震える足で何とかヘリまで辿り着いたジェイはそこで壊れかけの座席に腰掛けやっと一息ついた。
水筒の水を一口含むと、乾きを癒すとともに生きた実感というものを彼に味あわせた。
小一時間の休息を済ませ、ジェイは耐衝撃ケースを漁り弾薬と余分なグレネードを補充した。
ここでの補給が命を左右すると思い知った彼は装備の確認に二時間を費やし、街までの帰還についても地図に付された情報を熟読し最も安全なルートを画策した。
最終的にジェイは、この世界では若干威力不足とはいえ慣れ親しんだAR15を使うことは変えず、代わりにアンダーバレルにグレネードランチャーを追加で装備する。
またサイドアームにお気に入りのGLOCK18を新たにをホルスターに納めた。
装備を整えたジェイは再びヘリを隠蔽しワイルドウルサスの亡骸の元へ向かった。
最大限の警戒を払いつつモンスターの巨体に触れたが、それは動き出すことなく徐々に冷たくなっていた。
今回討伐した証にワイルドウルサスの耳を持っていく必要があった。
「ここですらこんなに硬いのか……」
世界最高峰の斬れ味を誇るヴァルカン社製ナイフをして、やっとの思いでジェイはワイルドウルサスから首級代わりに片方の耳を削ぎ落とした。
そしてそれを布で包みチェストリグのポーチにしっかりとしまい込み、街へ帰還するのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
お読み頂きありがとうございます!
次話2024/04/12 18:00頃更新予定!
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