弍ノ花 暮梨村

 ひどく心地の悪い夢を見ていた。

 頭の中で鳴り響く、複数の声から声が、さざ波のように押し寄せては引いてゆく。

『良い日和です。良い縁が起こりました。あなただけの花を──』

『お前の親父は、最後までお前を──』

 誰だ。誰が何を言っている。

 聞いたことがある声。身に覚えのない声。次から次へと押し寄せては、過ぎ去ってゆく。

『大人しく母を差し出していればいいものを──』

『誰も見ていない。誰も私たちを見ていないの──』

『抱っこして──』

 それらは自分にとってのなんなのか、判然としない。

 耳を傾ければ傾けるほどに、悲しくなり、腹も煮えてくる。

『お母さんを許して──』

 言葉の濁流の圧迫が、肉体に浮遊感にも似た心細さを感じさせる。心臓は早鐘のように鳴り、焦燥感で背中が汗ばんでいる。次第にじりじりと縄で首を絞められているような錯覚に陥り、

「やめてくれッ」

 少年は堪らなくなって跳ね起きた。身体にかかった布団も煩わしいとばかりに腕で払って、乱れた呼気を整えるため、肩で息を吸って深く吐き切る。

 憤怒、悲壮、悔恨。それら頭の中のどす黒い残り香が、少しずつ呼吸と共に胡散してゆく。

 先程まで聞こえていた声の濁流、あれはなんだったのか。思考を巡らせると、また気分の悪い焦燥感が背中を這った。

 ──やめよう。どうせ思い出せやしない。

 少年は省察を打ち切って、障子から溢れる陽光に顔を照らす。優しい温みが泥の中に沈んだ意識の緞帳をゆっくり上げ、ぼやけた視界を明らかにしはじめた。

 しばらくそうしていると、 

「俺の名前は──」

 開き切らない喉でぽとりと呟き、途端に慌てて目を擦る。

「ネズミ」

 その名前が滑らかに舌先で転がって、胸を撫で下ろした。またあの絶望の朝を迎えなくてよかった。自分の名前がないと、個として所在が掴めない気持ち悪さで鬱々とした気分になる。自分に名前がある寝起きは、この世に根を下ろせているという安心感がある。

 ネズミは安堵の溜息を一つ吐き、改めて自分の寝ていた部屋を見渡す。

「女性の家……かな?」

 十二畳ほどの家屋だった。上質な木の板の床に趣のある囲炉裏、釜と水桶が設置された土間。部屋の隅には上品な漆塗りの箪笥。その上に華やかな柄が踊る着物が何着も雑に折り重なっていて、ひと目で女物であると判断できた。

 背後を振り返ると、ヒビ割れた鏡が嵌め込まれた化粧台と乱雑に置かれた化粧道具。家主の荒い気性が窺える。

 とにかく立ち上がろうと腰を浮かせると、身体の均衡を崩して尻餅をついた。

「あ、そういえば」

 意識を失う前に何があったか思い出し、反射的に手で尻に触れる。骨と肉を丸ごと両断されたにも関わらず、尻尾があった場所は綺麗に体毛が生え揃っていた。誰かが手当てしてくれた、という次元ではない。最初から尻尾なんて生えていなかったような仕上がりだ。

「お、起きてるな」

 しばらく尻を検めていると、ふと玄関から声をかけられた。そちらを振り返ると、美しい白髪の少女が木皿を片手に上がり込んでくる。

 ふわりと白米の良い香りがして、食事を持ってきてくれたのだとネズミは察した。

「おはよう、ネズミ」

「おはようございます。ザク……ロさん?」

「ザクロでいい」

 そう言うと、ザクロはなぜか少し怪訝な顔で持っていた木皿を布団の傍に置き、どさりと荒々しく胡座をかく。置いた皿の上には握り飯と沢庵、それに竹製の水筒が添えられていた。

「すみません、ご飯なんて……。あの、ここはザクロさんのお家ですか?」

 尋ねてみると、ザクロは更に眉根を寄せて片肘をつく。

「敬語と敬称を取っ払えたら答えてやんよ」

「ええ……そんな無茶な……」

 知り合ったばかりの人間は誰であれ呼び捨てにできないし、異性なら尚更だ。そんな風に突っぱねれば、より機嫌を損ねてしまうだろうとネズミが逡巡していると、

「まあ、それも追々だな」

 急に笑顔を作って、皿に乗った握り飯を差し出してくる。随分と表情がコロコロ変わる少女だ。ネズミは小さく会釈して皿を受け取った。

「昨日は散々だったな」

「え、ああ。カリンさんに目玉を潰されそうになってたことですか? その節は助けて頂いてありがとうございます」

「違う違う、あの馬鹿のことじゃない。尻尾のこと」

「ああ、そうですね……。なんか綺麗に傷も塞がってるんで、むしろありがたいというか」

「ビビっただろ? ちょいと試していいか?」

「え? あ、はい」

 ザクロの問いに反射的に返事をすると、おもむろに片方の手を強引に引き寄せられた。

「ちょいと痛むぞ」

 言うと、ザクロは懐から小刀を取り出し、鞘を口に加えながら刃を抜き放った。鋭く光る刃先を見たネズミが戦慄するより先に、手の甲に素早く切っ先を走らせる。

「──ッ」

 一筋の細い切り傷ができ、プクリと血溜まりが膨らんだ。かと思えば、傷口に沿って線香花火のような小さな火花がパチパチと上がり、傷が綺麗に塞がってしまった。

「これは!?」

「母上の鮮花の能力〈生物の変質変化〉だ。つまりは、生き物であれば母上の思い通りに肉体を改造できる。私たちと同じ、中々死ねない肉体にされたな……」

 ──なんということだ。

 あの大いなる存在から恩恵を賜われたことに喜びを、誇りを感じる。受けた恩に相応しい者にならなければと背筋を伸びる。神の権能、鮮花の能力とは凄まじいものだ。いずれ自分も能力を開花させて、この御恩に報いらなければならない。

 ふと、そんな思考が濁流のごとく脳裏に走る。

 ──なぜだ。

 ネズミは我に帰り頭を振る。なぜ、そんな風に思うのか。確かに香梨紅子は名前も居場所もくれた上に、自分を認めてくれた。しかし、香梨紅子という人物を大して知らないにも関わらず〝誇り〟を感じるにはあまりにも不自然な思考だった。

 ──オレはあの方を知っていた?

 ネズミが失った記憶に想いを巡らせていると、はたと重い沈黙が流れていたことに気がつく。

 ザクロがネズミの手を握ったまま表情を曇らせていたのだ。何を考えているか察することができず、なんとも居た堪れなくなり、ネズミは口を開いた。

「あ、あの、すみません、ご迷惑おかけして。ここってザクロさんのお家ですよね? 寝床とお布団ありがとうございます」

「いいよ。今日からここがお前の家になるんだし」

 ネズミの手を開放して、ザクロがそんなことを言う。

「え、じゃあザクロさんは何処に?」

「私は何処だって寝れる。なんだったら近くのリンゴ姉か、ミカン姉の家でも寝れるし」

 それは流石に気が引けると、ネズミは頭を振る。

「俺なんかのためにわざわざ悪いです。新参者がお家を横取りするようなこと」

「じゃあここで寝る」

「いやいや、男女で同じの屋根の下でなんて。俺はどっか外で寝ますから、引き続きザクロさんがこのお家をお一人で───」

「おい!」

 突如、ザクロの両手がネズミの顔に向かって突き出された。それに驚いて身を引いた次の瞬間には、万力のような腕力で頭を固定されていた。

「それ以上面倒なこと言ったら握り飯を剥奪する! 私はなぁ、ゴネゴネとゴネくり回されるのが一番嫌いだ! 面倒じゃない方向に頭を切り替えろ! 今日からお前は竹の子だ! ここで根を下ろせ! 天井を貫通するまで居座り続けろぉ!」

 そんな怒声を散らして手に力が込められ、少女と思えぬ怪力によって、ネズミの頭蓋骨が悲鳴を上げた。

「ぐああああ! なんちゅう力ァアア!」

 堪らずネズミは観念する。

「わかりましたァ! この家は俺が乗っ取ったァ!」

「良いノリだ、ネズミ! 期待以上だッ、フハハハハ!」

 何やらご満悦の様子で大いに笑い、ネズミの頭部は解放された。

「危ない……ぺちゃんこになるかと思った……」

「この力も母上の鮮花の能力だ。普通の人間より怪力に改造されてる。多分、お前さんもな」

「なんと……」

「試しに後で重そうな石でも持ち上げてみろ」

 言って、ザクロは立ち上がり、さっさと玄関まで歩いてゆく。

「飯食ったら外出てこい。ミカン姉が話したいってさ」

 それだけ言い残し、ザクロは玄関の戸を閉じた。

 ──夏の嵐のような人だなぁ。

 残されたネズミは、布団の傍に置かれた握り飯を一つ手に取り、白米の香りを嗅いだ。

 獣の肉体になってから初めての食事だ。味覚まで変わっていないか? ネズミという動物は白米を食べていいものなのか? 少しだけ不安に感じ、ゆっくりと握り飯を口に運ぶ。

「……うめェ!」

 それは幸福の味だった。米の一粒一粒の甘みが染み渡るように舌の上を踊り、海苔の良い香りが鼻をくすぐり通り抜けてゆく。皿の端にちょこんと添えられた沢庵も、水筒に入った水の味も、人間の味覚と変わらない。むしろ人間の味覚より多くを受け取れている気がした。

 ──よかった。

 米を存分に咀嚼して、ネズミは頬を綻ばせた。

 飯を食べて幸せな気分になれる。それは自分が人間だからだろう。

 それが、何よりのことだった。


『……うめェ!』

 ネズミの声は家屋の外に漏れ聞こえ、今しがた玄関を出た少女の耳にも届いた。

 ──んよし!

 自分は器用な方ではない。いや、かなり不器用な方だ。

 釣り竿を握れば、食い気を悟られて魚は逃げる。針仕事などにしても、力加減を間違えて何度も糸を千切ってしまう。握り飯も、握るというより握り潰してしまっていて、餅の成り損ないが出来上がる始末だった。

 しかし今日、食べさせたい者の顔を想像して握ってみれば、不思議と上手くいった。

 また明日も握ってやろう。明日もきっと美味いと言ってもらえる。

 少女は気持ちを軽やかにして、弾む足取りでその場を後にした。


      ✿


 ネズミは朝食を食べ終えると、腰を上げて家屋の外へ赴いた。

 戸を開けて真っ先に視界に飛び込んできたのは盛大に舞い散る桜の花びらだった。

 ネズミから二〇歩の距離、広い広間の真ん中に見事な桜の木が聳え立っている。枝振りといい、その大きな佇まいといい、まことに絵になる大桜だ。

「はぁーッ。春爛漫だなぁ──ん?」

 感嘆の息をついて束の間、頭の中に疑問が浮かぶ。自分は気を失う前に、夏に咲く花をいくつかこの目で見てはいなかったか? 今はいったい何月なのか。

 小首を傾げて辺りを見渡すと、桜の木の根元に腰を降ろし、何やら針仕事をしている次女ミカンが、ネズミに気がつき手を振っていた。

「おはようー、ネズミちゃん」

「おはようございますー!」

 ネズミが駆けてゆくと、ミカンがクスっと自然に笑みを溢した。

「名前、昨日は怒っちゃったけど、実際呼んでみると可愛いね」

「はは、なんか自分でもしっくり来てます」

 ネズミは曖昧に笑った。なぜあの時ミカンが怒っていたのか、それを考えると胃に不快感を覚えた。惨めな気持ちと誇らしい気持ち、その相反する二つの感情が腹の中で踊るのだ。

「あー、そういえば……」 

 沈黙を嫌って、ネズミは言葉を繋ぐ。腑に落とし切れていない感情を棚に上げて、目先の異常事態に視線を移した。

「あの、今って、何月なんですか?」

「ん? ああ、ごめんね。紛らわしいよね。七月だよ」 

 立派に咲き誇る大桜を指差し、ミカンは誇るわけでもなく、むしろ不出来を恥じるように、申し訳なさそうに言う。

「私の鮮花あざばなの能力で咲かせてるの」

「ええ! すごい!」

「樹木であれば、何でも植えて咲かせられるんだ」

 ネズミは桜を見上げ、舞い散る桜の花びらを手に取って見つめ、瞳を爛々とさせる。

 その反応が初々しかったのか、ミカンが微笑んで左手の義手を掲げて見せた。

「この義手の中でね、植物の種を作れるの」

 仄かに光沢の帯びる黒い義手。見ればその表面はいくつもの木目が渦状に踊っていた。

「やって見せようか」


 ココココココココココ


 ミカンの喉が脈動した。キツツキがクチバシで木の幹を叩くような音。それはカリンの音より、聞く者の心を穏やかにする心地の良い音だった。

 そんな鮮花の開花音が鳴り響く中、掲げた義手の側面から六つの穴が開くと、「よっと」と、ミカンが可愛いらしい掛け声と共に素早く腕を振るう。

 すると、穴から小指の先ほどの茶色い豆粒が射出され、一粒二粒と地面に転がった。

 その瞬間だ。

「────‼︎」

 何本もの植物の根が土を突き破って飛び出し、蛇のようにのたうち回る。

 ネズミが驚愕して一〇歩後ろへ退避した頃には、暴れる木の根は大きく空に向かって伸び始め、次第に真っ赤な葉をつけた枝が生い茂る。

「うわぁ……」

 身を軋ませながら、ネズミの身長の四倍ほどの大きさに成長した紅葉の木が聳え立つと、最後に一つ身を震わせ、二人の頭上に鮮やかな紅葉を舞い散らせた。

「義手の中で種を作って、こうやって撒いて成長させることができるの。後から私の血を栄養として加えると、一年中咲かせることができるんだ」

「すごいッ、まるで神様の力ですね!」

 ネズミの称賛の声に、照れるでもなく、喜ぶでもなく、どこか物憂げな笑顔をミカンは作っていた。

「……こんな風に、羅刹は色んな力が使えるの。普通の人間にできない神様みたいな力かもしれない。でもね、覚えておいて欲しいの」

 ミカンの真剣な眼に見つめられ、ネズミは「え、はい」となんとか応えて居住まいを正した。

「母上のような神様として崇められてる羅刹でもね、所詮は人から生まれた人間なの。喉の中に花の形をした軟骨が生えてるだけなの」

 言って、ミカンはネズミの喉に優しく手を添える。

「だからね、ネズミちゃんが鮮花の能力を使えるようになっても、〝神様〟みたいになっちゃダメ。人の命を、人の選択を軽んじてはダメ。勝手に価値のないモノだと決めつけちゃダメ。どんなことでも、どんな状況でも、自惚れちゃダメ。人に優しくない人になっちゃダメ」

 矢継ぎ早に言われ、ネズミは困惑しながら僅かばかりに頷いた。

 頷いてみたものの、その心の内はいまいち理解できていない。自分が神になる未来など思い描けるはずもなく、ましてや能力の開花もしていない。

 どう返答していいかわからず、次の言葉を待っていると、ミカンが僅かに目を伏せた。

「起き抜けにごめん、こんな話して。記憶もなくなってるのに、急に色々言ってごめんね」

「いえ……その……気をつけます……」

 また謝らせてしまった。ネズミはひどく申し訳ない気持ちになった。何か言葉をかけようにも、自分はまだ何もわかっていない。ミカンに少しでも笑ってもらえるような、そんな話題の一つさえ自分は知らない。

 二人で揃って沈黙し、どんよりと空気が重く沈み始めたそのとき。

 黒い小さな影が三つ、ネズミの視界を素早く横切る。

 ツバメだ。三羽のツバメが突如、凄まじい速さでネズミの身の周りを旋回しだした。

「ちょ! なになに!?」

 ネズミの叫声を聞くと、徐々にツバメ達はフワリとその羽ばたきを緩め、驚いて身を屈めているネズミの頭に三羽仲良く肩を並べてふわりと着地した。

「なんや空気重そうやったから、つい驚かしてもうた。ごめんなぁ、ネズミはん」

 呆気に取られるネズミに笑いかけ、桜の木陰から長女リンゴが洗濯桶を小脇に抱えながら姿を現した。

「『はん』なんだ」

「『はん』やわ。なんや『さん』って感じちゃうし、こっちの方がええやろ?」

「うん、そっちの方が可愛いかも」

「せやろ。な? ネズミはん」

 水を向けながら、リンゴがネズミに微笑んだ。

「え、いや。はあ……? その、このツバメって──」

 ネズミは恐る恐る頭の上に鎮座するツバメに疑問符を打つと、くつくつとリンゴは笑う。

「なんやネズミはんの頭の上が気に入ってしまったみたいなんやわ。堪忍な」

 言うなり、リンゴはおもむろに着物の裾を捲って足を露出する。その足は女性の白く美しい柔肌、ではなく、ミカンの義手と同じ木肌の義足だった。

「ほい、戻りぃ」

 リンゴが合図すると、木肌の太ももから三つ穴が開く。

 すると、ツバメ達はネズミの頭頂部から即座に羽ばたき、義足の中へと素早く帰巣した。

「すごい……リンゴさんの能力だったんですね」

「そそ。ツバメをこの足ん中で作って、飛ばすことができるんよ」

 ぽんっと自身の右の義足を叩き、ネズミに良く見えるように足を上げる。

 うら若い乙女の四肢に義手と義足。事情を尋ねたい気持ちもあるが、昨日ここへ来たばかりの自分が不躾に仔細を尋ねるのも体裁が悪いと、返す言葉に窮していると。

「ちなみに左はなまめかしい生足でありんすぅ」

 リンゴは肩でしなをつくり、艶かな太ももをチラリとネズミに見せた。

 その肌がなんとも美しい。右の義足の無機質で硬質な木目に反して、ふわふわと柔らかそうで、いっそ淡く輝いて見える白肌だ。

 扇情的なリンゴの視線と相まって、ネズミの視線はまんまと釘付けにされる。

「ちょっと! リンゴ姉、はしたないからやめて!」

「ああ、太もも……」

 傍で見ていたミカンがリンゴの着物の裾を掴んで急いで足を仕舞わせて、小声で惜しんだネズミの眉間を指で弾いて灸をすえた。

「もー! やっぱリンゴ姉はネズミちゃんと接近禁止」

「はぁーあッ、うっさいわーほんまに。気難しなあんたは」

 やんやと口論を繰り広げていると、三人の元に新しい足音が近づいてくる。

「ほほほ、何やら楽しそうですな。ネズミ様と早くも打ち解けておいでで」

 桜の木陰から梅干し顔がひょっこり現れ、朗らかに微笑んでいた。

彩李いろりかいな。散歩か?」

「いえいえ、ネズミ様に入用がございまして」

 彩李がネズミを手で示すと、リンゴがその手を煩わしそうに払った。

「後にせい。ネズミはんは私と洗濯しに川へ行くんやから」

 リンゴが洗濯桶を掲げて見せると、彩李は残念そうに首を振る。

「紅子様の指示です。ネズミ様を暮梨村くれなしむらで修行させよと」

 

      ✿


 暮梨村くれなしむら──その集落はザクロたち羅刹の住宅からは南西に半里離れた場所に位置する。村に住むすべての村人が羅神教らしんきょうの修行者であり、香梨紅子こうなしべにこを絶対の神として崇める信仰者だ。

 元は香梨暮子こうなしくれこ──紅子の母親が、あらゆる土地でかき集めた信者達であったが、〝香梨〟の〈神名〉を紅子が継いでから、その信仰心をより強大なものに成長させているという。

 ふと、ネズミは前を歩く伊紙彩李いかみいろりの背中に問いを投げた。

彩李いろりさんの『伊紙』も〈神名〉ってやつですか?」

「その通りでございます。人間も羅刹も、本来であれば名は一つと決まっていますが、親の首を落として羅神となった羅刹は〈神名〉を名乗って、人里の管理運営を行うのが世の常でございます」

「じゃあ、彩李さんにも信者さんがいらっしゃる?」

「いいえ。今は、違います。二〇年ほど前までは、私めも羅神として遠方の地で人里の管理を行なっておりましたが、灰神はいじんに信者達を皆殺しにされましたので」

 灰神──羅刹が死亡し、歩く屍となった姿をそう呼ぶらしい。

 羅刹の喉奥に宿る鮮花が、宿主の死亡を合図に死体を乗っ取ってしまうとのこと。乗っ取られた死体は一人でに歩き、異能の力を振るって人々に災いをもたらすという。

 ネズミも一度見たことがある。川岸でザクロが灰神の首を刎ねているのを。

「ご注意なされよ。首を落とさないままに死亡すれば、羅刹はもれなく灰神と成り果てる」

「その……恐ろしいですね」

「ええ。とても恐ろしいことにございます」

 聞けば、はるか西に位置する村では、灰神が一晩で五百人の人間を焼死させたらしい。

 遠く南に存在する町でも、二千人の町人が陸の上で溺死していたという。

 そんな虐殺を未然に防ぐため、死亡した羅刹(灰神)の首を落としてやるのが、羅刹として生まれた者の使命であるらしい。

「私が治めていた村を滅ぼした灰神は、一つ息を吐くだけで全てを腐らせてしまう腐蝕ふしょくの灰神でした。ですが──」

 言いさして、彩李は肩を揺らした。

「紅子様に見事に打ち取って頂きました。あの見事な一太刀……あれは本当に見事な……」

 頭上を仰いで恍惚と笑う彩李に、ネズミは若干の怖気を感じつつも質問を重ねる。

「二〇年前と言うと、紅子様はおいくつだったんですか?」

「今年三二歳を迎えられるので、当時は一二歳でございます。羅神教の修行のため、放浪の旅をしておいででした」

「一二歳で……凄まじいですね……」

「ちなみに、この顎の傷は誰につけられたと思いますか?」

 彩李は自身に刻まれた下顎の刀傷を指で叩いて見せる。

「話の流れ的に、紅子様?」

「ご名答。全ての信者を失い、気が触れた私は、救いの主である紅子様に飛びかかってしまったのです。年端も行かない小娘に仇を討ち取られてしまったこともありまして。その悔恨の念が暴走した次第で」

「それで返り討ちに」

「はい。目にも止まらぬ一太刀を頂きました」

 ネズミは自身の尻に手を当てる。彩李の顎を裂いた斬撃の威力に覚えがあるせいか、尻の付け根に僅かな疼きを覚えた。

「しかし刃が脳に達する前に、紅子様が気まぐれを起こされ、今も生かしていただいております。以降、紅子様の信徒の一人に加えられ、暮梨村の村長として運営の一部任せて頂けているのです」

 ホホホっと前を歩く老婆が自慢げに笑い、笹を踏む音をしとりと漂わせる。

 二人は引き続き竹林が立ち並ぶ山道を通り、件の暮梨村へと向かう。ネズミの開かぬ鮮花を開花させる方策を村の中で実施するというのだ。

 てっきり、リンゴとミカンも付いてきてくれるものとネズミは思っていたのだが、何か都合が悪いことがあるのか、暮梨村に行くこと自体を避けるような素振りを見せて、二人は桜の下に居残った。

 そんな姉妹の態度を思い出すと、目的地に近づけば近づくほどネズミの足取りは次第に重くなってくる。

「いずれ、ネズミ様も紅子様からお役目を任せられます」

「へぇ……」

「そのときのために、鮮花の開花をしておきませんといけませんからね。本日は張り切って修行にお努めになってくださいませ」

「はいぃ……」

 なんとも覇気のない相槌を足元に落として、ネズミは胸に溜まる不安を恐る恐る吐き出した。

「あの、本当に俺が村に入っていいんですか?」

「さっき問題ないとお伝えしたばかりではございませんか」

「先日、怯えられて逃げられたり、化け物だって言って追いかけ回されたばかりですし。やっぱり騒ぎになったら、超やだなーって」

「問題ありません。ネズミ様が意識を失われてから、私が村に知らせておきました。私たち同様に敬意を示すべき羅刹であると。なので、ご心配には及びませんよ」

 ──本当かなぁ……。

 先日のように追いかけられることはないにしても、この珍妙な肉体を見た人間達が、ゆびして嘲笑あざわう姿が目に浮かんでしまう。もしかすると、汚物を見るような目で忌避され、逃げられることもあるかもしれない。

 彩李との雑談で気を紛らわしてはいたが、迫るその時に頭に巡らせ、ネズミの胸の内は雨模様に染まってゆく。

 ──さあ、どれだけ惨めな思いをするか。

 心の中でネズミがそんなことを呟けば、老婆が踏む笹の音が『弱音など聞かぬ』と言っているように早まっていく。その音が殊更、ネズミの心に不安を募らせる。

 竹林を抜けた先、二人は暮梨村を一望できる高台に辿り着いた。大きな山々に囲まれた集落は山裾に沿って緩やかな弧を描き、東の山岳から流れる川がたすきのように横断している。

 村の中では川の近くに建てられた水車小屋から楽しそうに笑う子供たちが駆けてゆき、それを穏やかに見守る主婦達が輪を作って楽しそうに針仕事をこなしていた。

 そんな心を穏やかにさせる田舎の風景に、ネズミはくつくつ肩を揺らす

「あんな平和そうなのに、かわいそうだなぁ。今から俺の姿を見たら、慌てふためき逃げ惑う、阿鼻叫喚の地獄絵図になるんだ」

「卑屈すぎますよ!」

「卑屈にもなりますよ。鼠なんて病気を持ち込む負の象徴ですからねぇ。へへへ、いっそヨダレでも垂らしながら、四つん這いで村の中を駆け回ってやりますかねぇ!」

「ああもう!」

 両腕をだらりと地につけそうなネズミの手を強引に取って、彩李は老婆と思えない腕力でネズミを引っ張る。

「ほら、こうしていれば逃げられることもないでしょう?」

 戸惑い引きずられ、ネズミはたたらを踏んだ。「ちょいちょーい!」と抗議を送るも、彩李の歩みは止まらなかった。

「これじゃあ、逃げられないのは俺の方です!」

「ごちゃごちゃ言わない! 男子として背筋を正しなさい!」

 これは妙に照れ臭い。親と手を繋いでいないと歩けない稚児のようで体裁が悪い。

 だがしかし、冷静に考えれば、老婆と手を繋いで仲良く歩いていれば、いっそ愛くるしく写るだろうか? それは、怯えられるよりはるかにマシというものだ。

「何事もなければいいなぁ」


 しばらく後、村の中に入ったネズミは、叫び出したい衝動を必死に抑える羽目となっていた。

 ──あーぁ! やっぱりこうなった! 騙された! 嘘つきババア!

 ネズミの姿を目撃した村人は、もれなく眼を見開き固まった。

 口を開けて呆然とする者。手に持っていた水桶を落として足元濡らす者。

 赤子は激しく泣き喚き、子を抱く母親がネズミに見えないように我が子をその身で覆い庇う。

 逃走する者はおらずとも、ネズミの心を存分に抉る阿鼻叫喚の光景になってしまった。

「本当に説明したんですか!?」

「ホホホ、しましたとも。ですが、通常の人間が驚かない方が無茶というものです」

 彩李の言う通り、事前に聞かされていたとしても驚愕を禁じ得ないのだろう。老婆と手を繋いで二足で歩く大きな鼠を前に、驚かない方が無理である。

「さぞ心細いでしょうが、胸を張っていなさい。背筋を正し、堂々としていれば何も問題はありはしません。このまま村を練り歩いて皆の目を慣らしましょう」

 無茶を言うババアだ。どんな顔をして胸を張れと? この珍妙な肉体を晒してどうして背筋を伸ばせると言うのだ。

「ああッ! もう!」

 ネズミは心中で彩李に八つ当たり、ヤケクソ気味に背筋を伸ばして辺りを伺った。

 視界に入る平家はすべてが木造、どの家も似たような作りで、一見して貧富の差はないように見える。

 今しがたネズミの姿を見て、「えらいこっっちゃ!」と腰を抜かした青年も、「あれがッ」と息を呑んだ婦人も、柄のない地味な着物を着用していた。

 男はともかく、成人女性であればかんざしこうがいで身を飾り、口に薄紅でも引いてもいいだろうに。村を闊歩する誰もが必要最低限、質素な見目に留まっている。

「彩李さん。ここではみんなどんな仕事をしてるのですか? 生活ぶりに差がないような」

「仕事は様々ですが、金銭のやり取りはございません。金銭は不幸を招く種となりますので、暮梨村では禁じております。金銭を持ち込ませないために、他の村や人里とも交流を絶っておりますゆえ」

「え、ああ。じゃあ、物々交換ですか?」

「物々交換といえばそうなりますね。しかし、ここでは〝与え〟はすれど〝欲する〟と言うことはあまりありません。皆が率先して生活に必要なものを自ら作り、人に分け与え、支え合って生きております」

「食料でも?」

「食料でも、着物でも、紙でも、どんな物であろうと皆で作り、譲り合います」

「……心根の優しい人が多いんですね」

「そうですね。それもそうなのですが──」

 彩李が熱を帯びる目でネズミを振り返る。

「紅子様の教えにございます。多くを持つ者は恥を感じるべきなのだと。多く持つということは、人に与え切れていない、恥であると」

「恥? ですか?」

「かつて古き時代の権力者たちは、与えるどころか、自分を肥え太らせるために多くの命を戦争に投じさせておりました。身に余る財を持てば、その財に囚われ、一切れの財であっても失うことを恐れるようになる。なので、人に『与える』または『失う』を最上の在り方として置けば、人は健やかに生きていけると、紅子様は仰りました。故に、紅子様の信者はすべて、他者へ差し出すのでございます」

「うぅん……?」

 ネズミはつい疑ってしまう。誰もが人に与える世界、それは本当に実現できるのか。誰もが自分を他者と比較して、優越と劣等の間を彷徨い歩く。だから、他者より多くを持っていたいという願望に抗えるものなのか。

「一日汗して働いた成果を、人にこころよく譲れるものでしょうか? 人より上手く作れた何かを、すぐに差し出せる物でしょうか?」

「疑うのも無理はありません。ですが、ここでは〝与える者〟こそ至高であり尊敬を集めるのです。我々は多くを紅子様から与えて頂いております。病気にならぬ肉体、不作に怯えることのない田畑、そして羅神教による健全な教えによる精神を」

 老婆が淀みなく言った言葉の中で、耳を疑うことを聞いた気がした。

「今、なんて言いました? 病気にならない? 不作に怯えない?」

「そうです。紅子様の能力は〈生物の変質変化〉でございます。故に、村人はすべて病気にならぬ肉体を頂いておりますし、仮に病気になったとしても、紅子様が即座に治してくださる」

「なんと……」

「食料も、土の中の微生物を紅子様に調整して頂いておりますので、どの四季であれ、すべての村人の腹を満たす豊富な食料がございます。娘であるミカン様も果実の成る樹木を際限なく栽培できますので、時折、紅子様を手伝っておられますね」

 香梨紅子とミカンの能力を見る前なら、とてもじゃないが信じられなかったが、今なら得心がいく。ここには病もなく、飢える心配もない、最も死から遠い場所であると。

「紅子様に多くを頂いている村の者は『与える』姿勢を見習い、それに倣っているのです」

「なるほどぉ……」

 ネズミの心に未だにつっかえるのは、その『与える』ことだ。どんなに死から遠い生活を貰っても、金銭の必要のない暮らしを補償されても、自分は貰うことに慣れて甘えてしまいそうだ。自分から率先して与えるにしても、無償で人に与え続けられる自信がない。奥底に下心を抱えてしまうだろう。

 ネズミがそんな省察を巡らせていると、彩李が立ち止まって振り返った。

「手を握られると、握り返したくはなりませんか?」

 そう言って、握った手に優しく力を込めてネズミに笑いかける。

 ああ、なるほど。それはそうだ。反射的にその真心に答えたくなるものだ。与えられれば何かを返したくなるのも人の性だ。朝方、ザクロに言われたように、自分はゴネゴネと考えすぎていたのかもしれない。

 ネズミは彩李の手をそっと握り返して頷いた。

「俺も、人に返せる人になれたらいいなぁ」

「ホホホホ、まこと素直で健全な男の子です。愛い、愛い」

 彩李が談笑しながら足を進めれば、遠巻きに見ていた村人たちも少しずつ警戒を解き、表情が柔らかくなってゆく。

 これは好機だと、ネズミが勇気を出して「こんにちは」と近くを通る女性に会釈してみると、女性は笑って「こんにちは、ネズミ様」と返してくれた。少し戸惑いの色が見え隠れするも、次から次へとネズミが笑いかければ、誰もが笑顔で応えてくれた(多少引き攣っているようにも見えるが)。

 その手応えに心和ませ、会釈を配って村の中を闊歩していると、彩李の足が村の中央でぴたりと止まる。そこは円状の広間になっており、中心にはミカンが咲かせたであろう満開の枝垂れ桜が、惜しげもなく花弁を散らせていた。

「ここで、ネズミ様に羅神教の修行法の一つを実践して頂きます。鮮花を開く糸口になるやもしれませんから」

 相貌を引き締めた彩李が、数名の村人に指示を出し、桜の木下に座布団を一枚敷かせ、その四隅に金属で出来た香炉こうろを配置させる。 

「ささ、こちらにお座りください」

 彩李に誘われ、ネズミは座布団の上に尻を預けた。

「なんか……緊張するなぁ。ここから何を……すれ……ん?」

 ふと頭頂部に視線を感じ、ネズミは頭上に視線を移す。

 すると、枝垂れ桜の枝の上に、ザクロが猫のようにもたれていた。

 白い髪と白い着物が陽光に照らされ、淡く光る桜の花とよく溶け合っている。

 ネズミと目が合うと、ザクロは人差し指を唇に当てて訴えるような眼差し送ってよこす。

 ──隠れんぼでもしているのか?

 準備を進める彩李に悟られぬように、ネズミは頭上に小さく頷いた。

「座ってるだけでいいんですか?」

香炉瞑想こうろめいそうという修行でして。今からしばらくここで──」

 彩李の言葉の途中で、突然、四隅に置かれた香炉から煙が上がった。

 誰かが火を着けたわけでもなく、元から火がついていたわけでもない。

 不可解な現象にネズミは目を瞬かせていると、彩李が緊張を帯びた眼で言う。

「ネズミ様の鮮花は、とてつもない能力を秘めているのやもしれません」

「そうなんです? 何もしていないのに驚かれても……」

「この香炉は紅子様が作成した特殊な香炉にございます。羅刹が近くに座していると、その鮮花の強さに比例して煙が上がる仕組みなのですが」

「思いの外、早かった?」

「はい。リンゴ様でも一刻(約三〇分)は煙が上がらなかったというのに……」

 嬉しい誤算。思わぬ収穫。ネズミはそう読み取った。

 近くにいる彩李と頭上にいるザクロに反応したのではないかと邪推するも、言わぬが花という言葉が頭に過ぎる。

 それに、興味を示した村人達がいつの間にか、ネズミと彩李の周りを囲み、眼を爛々と輝かせている。その熱を冷ますのはひどく申し訳ない。

「次の段階に進みましょう! そこの者、こちらへ」

 妙に急かしながら、彩李が一人の女性を呼び寄せる。

 年は二〇代前半、素朴な美しさと清純さを兼ね備えた、整った見目をしていた。

抱擁法ほうようほうを行う。良いな?」

 彩李が聞くと、女性は厳かに首肯して着物の襟元を整える。

 そして、ネズミの眼前で織り目正しく膝を付くと、

「ネズミ様、失礼致します」

 軽い会釈の後、突然、ネズミに勢いよく抱きついた。

「ファッ!?」

 混乱したネズミを置き去りに、首に腕を回し、首元に顔を深く埋めて甘い吐息を漏らす。胸も腰もぴたりと密着させるその所作は、まるで恋人にするようなもので──。

「い、彩李さん? こ、ここれは?」

「羅神教の修行の一つ、〈抱擁法ほうようほう〉です。ネズミ様もほれ、しかりと抱きしめてください」

 彩李は催促するようにネズミの両腕を取って、抱きつく女の背中と腰に回させる。

 ネズミも戸惑いながらも、女性の全身を支えるようにぎこちなく抱きとめた。

 ザクロに見られているという気恥ずかしさで、頭が沸騰しそうだった。

「こんな……修行があります……?」

「あります。鮮花は生命の拍動に敏感ですから、これが最も有効であると紅子様がおっしゃられました」

「そ、そうなんですね……なんか卑猥なような……」

「はるか昔はもっと卑猥でした。三代前の羅神様は、男女問わず性交を重ねたそうです。時には観衆の前で。時には墓場で数人の男女と激しく」

「墓場で!? それって……いや何でもないです」

 曲がった欲望を実現するため、修行という体裁を整えたのでは? そんな疑問を口にするのは流石に不敬に感じて、ネズミは口を閉ざした。

 それに、胸に当たる女性の柔らかな双丘と首筋に当たる官能的な吐息が、ネズミの思考をひどく曖昧にした。

「で、どうです? ネズミ様は今、何を感じていますか?」

「おっぱ……嬉し恥ずかしの感情で顔面が爆発しそうです」

「もっと素直にはっきりと、雄弁に表現してください。でないと、修行になりませんので」

 彩李の注文に、ネズミは顔で僅かに難色を示すも、周囲の村人と頭上のザクロの真剣な眼差しを受けて思い直す。恥ずかしがるだけでは誰の納得は得られないようだ。

「その……とてもムラムラします。名も知らない女性と抱き合って、気分がとても高揚しています。男って悲しい生き物ですね。さっきまで不安でいっぱいだったのに、こうして抱擁されただけで有頂天になっちゃって。もう一生このままでいいかも。超幸せです」

 ネズミが語り終わると、何故か周囲で拍手が巻き起こる。

 腕の中にいる女性も一層とネズミに密着し、彩李も大いに手を叩いて喜んでみせた。

 当の本人は、まったくもって意味がわからず、その異様さに恐怖さえ感じていると。

「羅刹の喉奥に宿る鮮花、それは人々の祈りから生まれる奇跡の花と呼ばれております。皆の祈りの結実が、ネズミ様のような素直で愛されるべき者に与えられたことを、皆が喜んでおるのです」

「そ、そうなんだ。どう思えばいいか良くわかりません……」

「羅刹は人々の安寧を支えるために存在しています。故に、あなたが命の温みと重みを胸に抱いたとき、どのような感情を抱く者なのか。それを皆知りたかったのです」

「なるほど? ただただ、スケベな本音を漏らしただけなんですが?」

「他者に抱く感情の全ては愛情に繋がります。肯定的な感情の発露を見て、あなたの好ましい心根が伝わったのでしょう」

 そういうものなのかと、ネズミは半ば強引に自分を納得させた。

「それで、ネズミ様。そうして女と抱き合っていると、喉の奥が疼いてはきませんか? 乾いたり、痒くなったり、痛みが走ったり」

 問われて、ネズミは喉元に指を当ててその感触を確かめる。

「まったく」

「そうですか……。むかし、抱擁法の最中に勝手に鮮花が開いた羅刹がおったそうです。ネズミ様の鮮花も都合良く開いてくれればいいものを」

 どこか咎めるように彩李が言うと、抱きついていた女が空気を読んだのか、名残惜しそうにネズミの肉体から離れて彩李の背後に控えた。

「クソゥ、ずっと抱きついてくれていたらいいものを! なんか切ない気持ちですッ」

「素直に表現しろとは言いましたが、余計な願望まで口に出さなくてよろしい」

 窘める声をおぼろげに聞きながら、ネズミは頭上のザクロを盗み見ると。

 口を押さえて必死に笑いを堪えていた。

 桜の花々の隙間から見えるその光景が、とても愛らしく。

「…………」

 ネズミは心がひどく温まるのを感じる。知らない女に抱きつかれるより、はるかに胸が高鳴っている。抱擁法の成果なのか、その愛らしい笑顔を知っている気がした。

 旧知の仲だったのか、失った記憶の中の既視感にネズミは歯噛みする。ザクロとの思い出がすんなりと出てこない頭の箪笥に、鉄槌でも振り下ろしたい気分になった。

「ネズミ様、どうされました? ぼーっとしている暇はございません。まだまだ抱擁法を続けてもらいますよ。ほれ」

 彩李の合図と共に、小さな足音が駆けてくる。

 一〇歳に満たないであろう元気そうな女児が、ネズミに勢いよく飛びついた。

「ネズミ様! フワフワァ!」

 がしりとネズミは抱きつかれ、女と同様、おっかなびっくり女児の背中に手を添える。

「先ほどと同様にお願いします」

 彩李の催促に、ネズミは気を取り直して眼前の生命に意識を集中した。

「子供の軽さと柔らかさに怖くなりました。俺の抱擁で潰してしまわないかと。それと、木の幹にしがみつくクワガタみたいな子だなっと思いました」

 感想を述べると、女児はあっけなく離れて何処かへ駆け出してゆく。

「ほれ、次の者!」

 数打てば当たるだろうと、彩李は次から次へと村人を呼び寄せてはネズミと抱擁させる。 

「尊敬の念が浮かびました。畑仕事をしていたのか、土の匂いと汗の酸っぱい匂いがします。お疲れ様でした」

 男も女も、年齢さえも関係なく抱きつかれ続けて。

「畳に直で寝てます? 全身の筋肉が硬くなっちゃってるし、布団で寝て欲しいなぁ。それと、ボケて動物の糞でも触りました? 手から排泄物の香りが……」

 五〇人を超えた辺りから、徐々にネズミの感想もいい加減なものになり、彩李に盛大に溜息を吐かせた。

「一応お聞きしますが、喉に疼きは?」

「まったく……」

「お疲れのようですし、次で最後にしましょう」

 彩李が最後に誘ったのは、矍鑠かくしゃくとした老爺だった。年は七〇を超えているだろうに、筋骨が太く恰幅かっぷくも良く、背骨を真っ直ぐに立てて快活に笑っていた。

「ネズミ様、お疲れですね! はははッ、よろしくお願いしますね!」

 やたらに声が大きい。相貌にも覇気が宿っており、ネズミは存分に気圧された。

 居住まいを正す隙も貰えず、荒々しく抱き寄せられ、今まで抱擁した誰よりも力強く全身を締め上げられる。

 粗野で無遠慮な振る舞いに、ネズミは呆れまじりに老爺の背中に腕を回す。

 それと同時だった──視界が明滅して、鋭い頭痛が走る。

『やめて! 息子を殴らないで!』

 張り裂けんばかりの女の絶叫が、ネズミの頭の中を木霊した。

『お願い! すべて告白します! だから息子だけはッ』

『痴れ者め! 最早、お前の罪などどうでもよい。お前の息子はとんでもないことを!』

 次には腹部に鈍い痛みが走り、口の中に血の味が拡がる。じわりと額から汗が滲み、焦燥で背中が沸騰した。

「あんた……よくも……」

 憎悪が込められた呟きは、自分自身の舌先から転がっていた。

 なぜそんなことを言ったのか、なぜこんなにも腹が煮えているのか。ネズミは自分が理解できなかった。

「ネズミ様ッ!」

 彩李の慌てた叫声と、周囲から張り裂けんばかりの悲鳴が上がった。

 今何が起こっているのか。自分が今何をしているのか。思考が白濁としてよくわからない。

「ネズミ様ッ、どうされたのですか!? お気を確かに!」

 彩李が声を上げて、ネズミの腕を必死に掴んでいる。まるで自分が老爺によからぬことをしようとしているような、そんな焦りが伝わった。

 しようとしていた。ネズミは老爺の胸ぐらを掴んで押し倒し、馬乗りとなって拳を大きく振りかぶっていた。その凶行を自覚してなお、ネズミは止まる気が起きなかった。

 ──やるべきだ。こいつをしこたま殴らなければ、腹の虫がおさまらない。 

 ネズミが憤怒を帯びた瞳で獲物を射抜くと、老爺は怯えて小さく悲鳴を上げる。

 老爺が逃れようと必死の抵抗を行うも、それは叶わない。香梨紅子に強化されたネズミの腕力から逃れることは、通常の人間では不可能なことだ。

 煩わしいとばかりに、ネズミは腕にしがみつく彩李を振り払う。

 もう邪魔する者はいない。真っ直ぐな殺意を抜き放ち、とうとうネズミの拳が放たれた。

 老爺の顔面に拳が炸裂する──その寸前。

 ネズミの肉体に強い衝撃が加わり、その場から大きく吹き飛ばされた。

「何してんだぁああッ! 落ち着けバカ野郎が!」

 枝垂れ桜の上で寝そべっていたザクロがネズミの暴走を止めるため、地に降りて体をぶつけて、ネズミを組み伏せた。

「あのジジイに何をされた!? 私達の怪力で人間なんて殴っちまったら殺しちまうぞ!」 

 殺しても良いと、先ほどまで思っていた。

 なぜかはわからない。何をされたかもわからない。

「俺は……」

 ただ、そうしたくて堪らなかった。

「わかりません。ただ無性に腹が立って。今も──」

 殴りたい、そう言おうとしたネズミは咄嗟に口を噤んだ。

 ザクロの悲痛に歪む相貌を見上げて、途端に頭が冷えてゆく。

 しばらく見つめ合っていると、徐々に自分のしようとしたことに戦慄を覚えた。

「俺は……なんてことを……もう少しで人殺しを……」

「二度としないと、約束できるな?」

 ネズミを睨めつけるザクロの双眸が、今にも流れ出そうな涙を堪えていた。

 これほど悲しませるなら、僅かに燻る憤怒の炎にも水をかけられる。

「ごめんなさい。二度と、しません」

「ほんとうだな?」

「はい……絶対に」

 見上げるネズミと、見下ろすザクロ。

 両者の間に重い沈黙が漂い、ただ見つめ合うだけの時間が流れる。

 そうしていると、ネズミは喉の奥に──。

 微かな、疼きをおぼえた気がした。


 そこからの道中の記憶は、ネズミにとってあやふやなものだった。

 ザクロに手を引かれて帰宅し、夕餉に焼いた魚と白米を頂いたが、味はしなかった。

 会話をいくつか交わしたような気がするが、内容も覚えていない。

 夜が更ける頃にはザクロの姿は既になく、一人で大人しく布団で横になった。

 枕に顔を埋めていると、いくつもの雑念が過る。

 鮮花が開けば、記憶が戻るだろうか。あの老爺と自分との関係を思い出せるだろうか。

 もし思い出した時、自分はまた殺そうとするだろうか。

 もし殺してしまったら、ザクロをまた悲しませてしまうだろうか。

 あの少女の悲しむ顔を見るのも、初めてではない気がした。

 震える声と、涙を流す姿を知っている気がする。

 ザクロを悲しませた過去があるなら謝りたい。

「ごめんなさい」

 やはり軽い。過去を忘れ去った自分の言葉には重みがない。

 全部思い出したい。そう願うと、胸から込み上げるものがあった。

 花を開けば、忘れ去ったすべてを取り戻せるだろうか。

 

      ✿


 ぺたりぺたりと、獣の足音が暗い室内を響き回る。

「お邪魔、しまぁす」

 憚るような低声を発して、ネズミは暗闇を伺った。

 香梨紅子こうなしべにこの社、その内部。岩肌に囲まれた室内は空気が冷たく、初夏であるにもかかわらずほんのり肌寒さを覚える。幸いなことに完全な暗闇ではない、すでに灯籠の火は灯っており、室内中央の台座まで進めば充分に視界が確保できた。

 朝一番、ネズミは香梨紅子と謁見するようにと彩李から指示を受けた。昨日、村で起こした騒動のお咎めを言い渡される。そう考えたネズミは、少しでも心象を良くしたいと駆け足で社へ向かい、刻限まで余裕のある到着と相成った。

「座らせていただきまぁす」

 ネズミは虚空に会釈をして、室内中央の台座の前でゆっくりと正座をする。

 落ち着きなく社の暗闇を見つめていると、己に言い渡されるであろう処罰の数々が頭の中に過ってゆく。

 危険な獣は何処ぞで隔離され、牢獄にでも幽閉されてしまうだろうか。

 犬猫のように去勢されてしまうか。最悪な場合、打首なんてこともあるかもしれない。

 ──もう、逃げちゃう?

 そんな出来心を知ってか知らずか、コツンコツンと社の奥から音が鳴った。

 香梨紅子の足音だ。主人の帰りを察する犬のように反応して、ネズミは急いで頭を地につけ平伏した。

 しばらく心臓を大いに跳ねさせて待機していると、下駄の心地良い音がネズミの頭上で降り積り、三歩の距離でぴたりと止んだ。

「おはよう、ネズミ。良い日和ですね」

「おはようございます、紅子様」

「顔をお上げなさい」

 言われて、ネズミはゆっくり頭を上げた。

 香梨紅子は先日と変わらない装いだった。純白の死装束と顔に纏った白布、その異様な装いでさえ眼前に据えると、違和感の欠片もネズミの頭から消え去ってしまう。

 ふと紅子の背後に視線を移すと、モモとカリンが顔を伏せて静かに控えていた。

 鳴った足音は一つであったというのに、二人はいつの間に社の中に居たのか。

「ここは少し寒いでしょう?」

 不思議に思っていると、香梨紅子がネズミの前まで進んで膝を着く。

 ネズミは何をされるのかと身を強張らせると、両頬を優しく手で包み込まれた。

「これで、少しは暖が取れます」

 触れられた瞬間、風呂に浸かっているような暖気が全身に駆け上り、ネズミは驚愕して眼を見開く。

「これはッ」

「内緒、ですよ? あまり娘達にこういう風にしてきませんでしたから」

 耳元に唇を寄せて、紅子が小声で囁いた。

 香梨紅子の能力『生物の変質変化』を自分に惜しげもなく使ってくれた。

 その明らかな〝特別扱い〟に、ネズミは大いに萎縮する。

「俺なんかのために、神の権能を……」

「自身をそのように卑下するべきではありません」

 紅子は諭すように首を横に振る。

「あなたという生命そのものが、〝座石ざこく〟の歴史において奇跡なのですよ?」

「ざこく……? ですか」

「私たちが住んでいるこの星のことを指します。昔の羅刹たちは、この星の狭さを『狭い石の上にみんなで座っているようで窮屈だ』なんて皮肉を込めて〝座石〟と呼んだそうです」

「なるほど、ご教授感謝いたします」

 ネズミが頭を下げようとすると、香梨紅子の手がそれを制止した。

「やはり男の子は愛いものですね。娘ばかりだったもので、つい可愛がりたくなります」

 心を撫でる優しい声で、ネズミの顔を滑らかに触る。

「愛い」などと言って可愛がられると、年頃の男子は照れ臭くなるものだが、ネズミはそれどころではない。自分の息が眼前の神に当たらないように必死に呼吸を止めていた。

「息をしてください。そんなに緊張しなくとも」

「は、はい。申し訳ございません」

「フフフ、可愛らしい」

 ネズミが紅子に存分に愛でられていると、背後に控える四女モモから棘のある眼差しが注がれる。

「母上、いいのですか? そこのドブ……ネズミは昨日、村の中で暴れとうたそうです」

 その進言にネズミは緊張の糸を結び直し、即座に床に額を打ちつけた。

「申し訳ございません! なぜあんなことをしたのか、自分でも──」

 弾かれるように行なった謝罪は、即座に紅子の手で遮られた。

「知っていますよ。些事さじであると判断したので、叱るつもりはありません」

「お、俺をお咎めにならないのですか?」

「些事です。咎める必要はありませんよ」

 ネズミは盛大に安堵の息を吐き、心の中で小躍りする。

 ──うわァア、よかったァア!

 まるでこの世の春だ。脳内に桜吹雪を舞い散らせ、頭上を仰いで恍惚に笑う。

 その様子を見たモモとカリンが微かに舌を打つ。露骨に嫌悪を向けられれば、普段ならば傷つくところだが、今のネズミには豆鉄砲程度にしか感じはしなかった。

「それより──ザクロに助けられたと、彩李から聞き及んでいますよ」

 紅子が言うと、なぜかモモとカリンの相貌が緊張の色を帯び始めた。

「はい。暴走をしている俺を諌めてくれました」

「ザクロは村の中にいたのですね。村の何処に?」

 問われて、ネズミはつい口を閉ざした。ザクロは何かから隠れているようだった。それは恐らく文脈から察するに、香梨紅子から身を潜めていたと推測できる。そんな状況で告げ口するようなマネをしていいものなのか。

「ネズミ?」

 名を口にされると、不思議と頭の中から迷いが消えた。多くの村人もザクロの姿を目撃している。今更、自分一人が口を噤んでも意味がない。

「村の中央の枝垂れ桜、その枝の上にいらっしゃいました」

「木を隠すなら森の中。あの子も上手く隠れていますね。ねえ?」

 紅子が皮肉の籠った響きで背後に同調を求めると、

「「申し訳ございません!」」

 激しく床に頭を打ちつけて、モモとカリンが平伏した。

 それらの所作を見ても、紅子は平然と微笑みを浮かべる。

「母は謝罪を求めたわけではありませんよ。わかりますね?」

 言われて、二人は即座に社の大門へと駆け出す。焦燥を露わにし、ネズミを一瞥もせず社の外へと姿を消した。

 それを横目で見届けて、ネズミは罪悪感を募らせる。ザクロに不都合を被らせてしまったのではないかと。

「では、いきましょうか」

 門が閉じるのと同時に、紅子はネズミの手を引いて立たせた。

「社の奥で、あなたへの贈り物を用意しました」


 香梨紅子の社の内部は、蟻塚のような枝分かれした構造だった。天井は高く、道幅も広く確保されている。壁に設置された吊り灯籠が廊下を暖色に照らし、歩く者を誘ってくれていた。

 ネズミが香梨紅子の背後に追従していると、いくつか紅殻べんがらの格子窓が付いた部屋が目についた。

「それらの部屋は、羅神教の歴代の教祖達が集めた書物庫です」

 つい足を止めて部屋を覗き見ようとしたネズミに、紅子が言う。

「いずれ、あなたにも必要になるかもしれませんね」

「御息女の皆さんも、ここでお勉強を?」

「幼き頃は筆を取っていたこともありますね。ですが、今は役目を与えていますから」

「役目? ですか」

「フフ、いずれあなたにも手伝ってもらいますからね」

 どこか期待を滲ませるように言って、香梨紅子は再び歩き出す。

 しばらく回廊を進んでいると、突き当たりに紅殻の冠木門かぶきもんが姿を現した。

「ようこそ、香梨大社こうなしたいしゃ、奥の院へ」

「お邪魔します……、ッ!」

 紅子が開け放った門を潜ってすぐに、ネズミは言葉を失った。広大な空洞に豪奢な神明造しんめいづくりの社が鎮座しており、趣のある前庭を構えている。それだけなら圧倒されるだけで済んだのだが、庭を飛び交う数々の生物があまりに異様であった。

 羽から炎が揺らめく紅の蝶々がそこらを飛び回り。

 光り輝く七色の鯉が、庭池ではなく空中を優雅に泳いでいる。

 嘴に提灯を咥えた白色のカラスが、ネズミの前を通り過ぎ。

 そのカラスが羽を休めるのは、黄金の葉が生い茂る松の木であった。

 この世のものとは思えない幻想的な光景に、ネズミの頭の中に『神域』の二文字が浮かんで焼きつく。自分が踏み入って良い領域に思えず、つい立ち尽くしていると。

「これらを見て驚いてくれる者は、もうあなたくらいかもしれませんね」

 紅子は一羽の蝶を指に止め、ネズミの眼前に掲げて見せると、蝶からバチバチと激しく火花が散る。

 ネズミが驚いて身を引くと、次には紅子の手の平には艶やかな青色のトカゲが収まっていた。

「新鮮ですね。そこまで良い反応を示されると、つい揶揄ってしまいます」

 いたずらに口元を綻ばせて、ネズミの頭頂部にトカゲを放す。トカゲは一歩二歩、ネズミの頭髪を踏み締めると、居心地良さそうに寝息を立てはじめた。

「凄すぎて……頭が回りません……」

「フフフ、愛いですねぇ。娘達はもう驚いてくれませんから。楽しみが増えました」

 なるほどとネズミは思う。病にならない村人と枯れない食物、おまけに常軌を逸した生命の創造を自在に行える。となれば、多くの信者を魅了して止まないだろう。

 すっかり香梨紅子の魅力に沈められたネズミは、奥の院の中へと誘われる。庭と違い、室内は荘厳にして単純な造りだった。二十畳ほどの板の間の中央に文机が一つと座布団が二枚。漆器や陶器、掛け軸などの飾り物はなく、偶像の一つさえ飾っていない簡素な室内だ。

 ネズミが「失礼します」と座布団の一つに腰掛けると、紅子は文机の下からひのきの木箱を取り出した。鎧兜でも収まっていそうな大きさと佇まいをしている。

「さてさて。少々驚くかもしれませんが、どうか目を背けず刮目してください」

 あれほどの神秘的な光景を見せられて、今さら驚くことがあるのかとネズミが不思議に思っていると、紅子が木箱の蓋をそっと開く。

「へ? え?」

 ネズミの口から間抜けな声音が漏れた。むせ返るような甘い花の香りと共に広げられた、信じられない光景を前に思わず叫び出しそうになる。

 血の気のない、青白い皮膚。

 乱れて、黄ばんだ髪。 

 閉じた瞼の下には、長く伸びる乾いた血涙。

 男の生首だ。

 男の死体の生首。

 それが白い花に飾られ、木箱の中に収められていた。

「ええええええッ」

 理解が遅れ、やっと頭を回したネズミは反射的に仰け反った。

「な、ななな、なん──」

 頭に駆け上る混乱と、激しく波打つ心臓の拍動と共に、ネズミの瞳から涙が溢れそうになる。

 ──なんちゅうもんを!

 ひどく動揺して腰を抜かすネズミに、紅子は諭すように言う。

「我ら羅刹の成れの果て、灰神の生首にございます。よく刮目してご覧なさい」

「ご、ご覧なさいって……ッ!」

 遠くからなら見たことはある。この首はまさにザクロが川岸で落としていた首だ。

 しかし、間近で見ると迫力が違う。血で汚れたその有様と悲痛に歪んだ相貌が強い恐怖心を植え付けてくる。

 刮目しろと言われた手前、ネズミは恐る恐る薄目で生首と目を合わせた。

「これが、お、贈り物ですか?」

「そうです。まあ、生首そのものではなく。用があるのは中身なのですが。良い機会です、死者と向き合うこともあなたには必要なことです」

 紅子は言うと、箱から生首を手に取ってネズミによく見えるように掲げ始めた。

「よく見なさい。羅刹となった人間が死亡するともれなく〈灰神〉と呼ばれる、動く屍に成り果てる。それは知っていますね?」

「はい……聞き及んでいます」

「灰神というのはこうして顔の辺りから花を生やし始めます。これが灰神であるという何よりの証になりますので、よく見て覚えておきなさい」

 ネズミはなんとか頷いて、指し示された花を視界に収める。

 男の左頬、口元、右の瞼から皮膚を突き破るように白い花が生えていた。

鮮花あざばなは宿主が生きている間は喉の奥に潜んでいますが、宿主が命を落とすと全身に根を張り巡らせ、死体を乗っ取ります。その根から花粉を撒くために生えるのがこれらの花ですね」

「花粉? ですか?」

「鮮花の蒔く花粉というのは生殖行為ではなく、生物の探知を行います。殺すために探しているのか、次なる宿主の候補を探しているのか、その鮮花によって目的は異なります」

「恐ろしいですね……」

 ネズミが苦い顔をすると、紅子は満足げに頷いた。

「羅刹が死すれば、顔から花が生えてくる。覚えておいてくださいね」

「承知しました」

「もしそんな者を見かけたら、誰であろうと容赦なく首を落としなさい。羅刹の流儀ですから、覚悟なさいね」

 そう言われても、とネズミは困惑する。今のところ鮮花を開けないのだから、異能の力を振り撒く死体なんて見かけた日には、逃げる以外の選択肢を取れそうにない。

「心配しなくとも、いずれあなたも戦えるようになりますから」

 表情を読んだのか、紅子は安心させるようにネズミの額を撫でつける。

「それに、あなたの花は今日、開花するかもしれませんからね」

 言うと、おもむろに紅子は懐から手巾を取り出して生首の切断面を覆った。そしてそのまま手巾に二本指を当てると、ずぶりと生首の断面に指を侵入させる。

「紅子様……? 何を」

「贈り物があると言ったでしょう?」

 ぐにゅり、と肉を掻き分ける嫌な音を立ててから、紅子は指を勢いよく引き抜いた。

 すると、赤黒い血で汚れた手巾越しに、同じ赤で濡れた〝花〟が摘まれていた。

「これが我ら羅刹の能力の根源、〈羅生界鮮花らしょうかいあざばな〉です」

 紅子は花を綺麗に拭き取って、呆気に取られるネズミの手に乗せる。

 血を拭われたその花は、白く澄んだツツジの花だった。

「普通の花に見えるでしょう?」

 あ、はい、とネズミはなんとか応えて鮮花に触れて感触を検める。

 どこからどう見ても、ただの花だ。なんの変哲もなく、そこらに転がっていればなんの感慨もなく見落としてしまうだろう。異能を司る花にしては、その見目はあまりにも普通だった。

 異なる点と言えば、柔らかそうな見目に反して表面はとても硬い。花弁を折り曲げようと力を加えてもビクリともしない。

「カチコチですね」

「鮮花は外気に晒せば、金剛の如き硬さになります。ですが、羅刹の喉の中に生えている間は、花のように柔らかくなるのです」 

「そうなんですね。不思議だなぁ、これが俺の喉の中にも……」

「では、どうぞお食べなさい」

 突如、紅子がそんなことを言う。

「食べる? 鮮花を? 金剛のように硬いって言ってませんでした?」

 歯が折れますよ? とネズミが抗議の声を上げると、紅子は表情を崩さず答えた。

「鮮花は他者の鮮花を取り込んで、その身を強く成長させる、共食いを行う花なのです」

「共食い……」

「故に、あなたがこれを食べれば開かぬ鮮花が飛び起き、開花するかもしれません。安心なさい。口に入れればその瞬間に喉の中に吸い込まれ、今あるネズミの花と一体化しますので」

 ネズミはゴクリとの生唾を呑む。今しがた、死体から引き抜いた花を食べなければならない。これはひどく忌避感が強い。神前であっても、つい躊躇してしまう。

「あのぅ……バチとか、当たりません?」

 文机に置かれた生首を横目で見て、ネズミは身震いする。

「安心なさい。羅神教に天国も地獄もありません」

 一人で厠に行けない子供を躾けるように言って、紅子は生首に片手を添える。

 すると、途端に生首はけたたましく火花を散らして一瞬の内に紅の蝶の群れとなってそこらに飛翔してゆく。

「こういうのは時間を置けば置くほどに躊躇いが増します」

 その配慮に、ネズミは流石に覚悟を固めて居住まいを正した。

「ありがとうございます」

 いただきます。ネズミは香梨紅子に会釈をして深く息を吐く。神から与えられた贈り物を拒否する痴れ者になるわけにはいかない。それに、落としてしまった記憶も取り戻せるかもしれないのだ。

 やるならさっさと一思いに、とネズミは勢いよく鮮花を口の中に放った。

「──ゴッ!」

 言われていた通り、鮮花はすぐに喉の中に吸い込まれていった。ネズミの扁桃腺に擦り、声帯にぶつかり、気管の中頃で鋭い痛みが走った。

「ゲホゲホ! アアッ!」

 喉の中に硝子片でも飛び込んできたかと思う異物感と激痛に、ネズミは激しく咳き込んだ。そうして息を絶え絶えに吐いていると、濃い花の香りが喉を通って鼻腔を抜ける。その香りを吐き切る頃には、痛みも大分マシになる。

「ああ、痛かったぁ」

「大丈夫ですか?」

「喉が焼けそうです。でもなんとか──」

 気遣われ、それに応えようと顔を上げたネズミは呼吸を止めた。

 違う。声をかけてくれた香梨紅子の姿がさっきとは違う。

 糸だ。

 白く光り輝く無数の糸。

 それが蛇の交尾のように蠢き絡まり合って、女性の形を編んでいる。

「──ッ!?」

 周辺を飛んでいた蝶々も、自分の肉体でさえも。

 違う。糸が絡み合ってできた人形だ。陽炎のように揺らめく白光を帯びた糸束の集合体。そんな白く奇妙な存在に成り変わっていた。

 周囲を見渡せば、座っていた座布団も室内も、無機物だったものはすべて白い糸によって編まれた荒い網目状の麻布のように見える。

 眼前の一変してしまった世界に困惑していると、女性の糸玉人形が話しかけてきた。

「どうやらの世界──〈羅生界らしょうかい〉が見えているようですね」

 聞き違えるはずもない紅子の美しい声が響くと、人の手を模る糸束がネズミの頬に伸び、宥めるように撫でつけた。

「こ、これは」

「あなたが見ているものは、〈羅生界〉と呼称される鮮花が見ている景色です。人には人の、猫には猫の、花には花の世界があります。同じ世界に住んでいても、見たり感じたりするものは、まったくの別物」

 曰く、蜂やダニなどは生物の温度を見ている。牛や馬なども人の見えている世界より色のない世界を見ている、と紅子は言う。

「羅神教では羅生界を真実の世界であると説いています。肉体と心を編む、生命の糸。自身と他者を結ぶ、縁の糸。それらが重なりに重なり合って、網目の細かい〝〟となる、輝く世界であると」

 紅子の言う輝く糸の世界を見ているせいか、ネズミは感じ取っていた。白布に覆われている香梨紅子の視線が、好奇なものになって自分に注がれている。それが糸人形の目玉から糸が伸びて自分に絡みつく不気味な体験であり、首を絞められているように息苦しい。

 ネズミが堪らず顔を覆うと、紅子が一つ柏手を打った。

 途端にネズミの視界に色が戻る。ネズミ自身の灰色の体毛に紅子の美しい白肌、文机の黒柿色が、その色を思い出したように鮮やかに蘇った。

「ああ、よかったぁ」

 深く安堵を吐いて、ネズミは胸を撫で下ろす。鮮花の世界は生命が生命に見えない孤独な世界だった。色の付いた世界でないと生きた心地がしない。

「で、いかがですか?」

「はい?」

「能力が開花した実感はありますか?」

 問われてネズミは思い出す。生首に羅生界。次から次へと混乱させられ忘れ去っていた。自分の能力を開花するために鮮花を食らったのだったと。

 ネズミは自身の喉を揉んで感触を確かめる。

「びっくりして胃液が上がっただけで、特段……変わった感じはないですね」

「ふむ」

 頬に手を当て思案する紅子に、ネズミは恐る恐る聞く。

「もし、羅刹じゃない者が鮮花を食べるとどうなるんですか?」

「三日と経たずに灰神に転化します」

「え……じゃあ……俺がもし羅刹じゃなかったら」

「安心なさい。あなたの肉体の中に鮮花があるのは間違いありません。羅神である香梨紅子が保証します」

 その言葉にネズミが胸を撫で下ろした束の間、紅子が退屈そうに息をつく。

「変化を感じないと言うことは、開花の時ではないということですね」

「あ、その……ごめんなさい。貴重な鮮花を頂いたのに、何もないなんて」

 ネズミは申し訳なさそうに耳を垂れて謝罪を口にすると、紅子から微笑が転がった。

「花咲くを待つ夜は長く。山巓さんてん仰ぐは遥か遠く。光さすは忘れるものなり」

 つらつら唱えた詩に、ネズミが首を傾げると。

「羅神である私でさえ忘れそうになる」

 しとりと自省を溢し、紅子が衣擦れの音が立たせる。

「引き続き抱擁法を行いなさい。鮮花は生命の拍動に魅かれる生物です。他者の温もりを感じ取ることで、あなたの頑固な花も徐々に開くやも」

 しれませんね、と紅子は立ち上がった。ネズミの疑問を置き去りに、神はそそくさとその場を後にする。

 振り向きもしないその背中はあまりに素っ気なく、ネズミは両の手を着いて項垂れた。

「ぁぁぁ……なんか知らないけど、やっちゃったかもォ」

 ひどく落胆させてしまったのではないか。これは取り返しがつかないのではないか。そんな自問自答を繰り返すも答えは出ず。しばらくの後、ネズミは力のない足取りで帰路に立った。


 居宅へ戻ると、畳んだ布団の横に握り飯二つと漬物が添えられていた。どうやらザクロがまた朝食を持ってきてくれていたらしい。

 随分と時間が経ってしまった。米は乾いていないかと握り飯を手に取ると、まだ白米は艶やかに光沢を帯びていた。

「いただきます」

 米の旨みを存分に咀嚼していると、ザクロが『気にすんな』と慰めてくれているような気がした。こうして食事を振る舞ってくれるのだから、さほどお門違いな解釈ではないはずだ。

 そんな風にあの少女のことを考えていると、告げ口のようなことをしてしまったことに、激しく後悔の念が湧き立った。自分のせいで、ひどいことになってはいないかと。 


      ✿

      

 ──煩わしい。しつこいにも程がある。

 ザクロは腹の底で悪態をついた。長女にこっそり料理を習って居たというのに、煩わしい妹がここまで嗅ぎつけて来てしまった。

「キサン、本当やろうな!?」

「せやから、知らん言うてるやん!」

 香梨大社こうなしたいしゃから南に半里離れたリンゴの自宅、その押入れの中にザクロは忍んでいた。僅かに開けた襖からリンゴとモモの言い争いを覗き見て。胸から込み上げる溜息をなんとか飲み込む。

「本当にザクロを見てないがか? 隠し立てすれば──」

「すればなんや? 誰に言うてる? おどれが私に言うとんのか?」

 リンゴが出刃包丁を片手にドスの効いた低声を放ち、モモを存分に威圧した。互いに憤怒の形相で一歩二歩と畳を踏み鳴らして間合いを詰め、胸ぐら掴み合う。

「キサンに言うとーぞッ、クソ女ぁ!」

「長女の私に、四女のおどれが意見するんか? 調子に乗るんもええ加減にせえよ!」

 香梨紅子の娘達の序列は、そのまま羅刹としての強さを表している。リンゴは姉妹の中でも最強の格、『長女』の地位を揺るぎないものにしている。『四女』のモモが太刀打ちできる道理はない。

「母上の命令や言うちゃろーが! ザクロを引っ捕まえな、いけんじゃろが!」

「おらん言うとるよな? これ以上、料理の邪魔すんねやったら」

 言葉の途中で、さくり、濡れた音が立つ。

「刺すで」

 もう刺してるじゃん、と押入れに潜むザクロは、零れそうになった言葉を必死に押し殺す。

 モモの脇腹からポタリと雫が落ちて、畳にいくつも紅の花を咲かせている。最後に互いに掴み合った胸ぐらを解放して、視線をぶつけて後退り。

「覚えちゃれよ、リンゴォ。キサンの花は私が食らっちゃるぞ」

「やってみぃ。あんたには一生かかっても無理や」

 悪態を一つ交換し合うと、モモは玄関の障子を乱暴に蹴り破り、刺さった出刃包丁を打ち捨てて退散した。

 その足音が聞こえなくなるのを聞き届けて、ザクロは襖をゆっくりと開け放つ。

「いやあ、リンゴ姉は頼りになるなぁ。マジでありがとッ」

 カラカラと笑って、背を向けて立ち尽くすリンゴに感謝を述べると。

「ん?」

 リンゴからの返答がない。その場に黙って佇むばかりだった。どうしたんだと肩に手を置いてこちらに振り向かせると。

「……めちゃ痛い」

 振り返ったリンゴの口元に鮮血が垂れていた。よく見れば、腹部に短刀が深々と刀身を沈めて白い着物を赤く染めている。

「お前も刺されてるのかよ。やるようになったな、あいつも」

「ちょいと油断しただけやし」

 リンゴは不貞腐れるように舌を打ち、短刀を引き抜いて着物の袖で口元を拭う。腹に負った刺し傷が激しく火花を散らして回復するのを見届けると、口内に溜まった血を縁側から吐き捨てた。

「しょうもな」

 姉妹が諍いを起こすと、誰かが血を流す羽目になる。香梨紅子の施された回復力に甘んじた娘達は、幼少の頃から刃傷沙汰を日常茶飯事にして互いを鍛え上げている。それが、強き羅刹であることを義務付けられた香梨紅子の娘達の宿命であった。

「私が庇えんのも、そろそろ限界や」

 リンゴが血濡れの短刀を水桶に浸しながら送った苦言を、ザクロは重く受け止める。

「……わかってる。もうここには来ないよ」

「さっさと覚悟決めてまえば、こそこそ逃げ回らんでもええんちゃう?」

「いや、足掻ける内は足掻くよ。幸い、母上は外界を嫌ってるし」

 香梨紅子は生物の変質変化という超常の力を生まれ持っているせいで、年齢を重ねるほどに聴力が鋭くなってゆくそうだ。故に音の多い外界に長居することを嫌い、村の行事以外では一年の内の数度しか外出しない。

 だから、わざわざ娘のために出張ってはこないだろうと、ザクロはそう踏んでいる。現に、どれほど重大な用命があろうが、モモとカリンを差し向けるだけに留まっている。

「それでも、最後は母上の思い通りになるで」

「まあ、そうなんだけどな」

「わかっとるのに、時間稼ぎ必要か?」

 問われて、ザクロはバツが悪そうに頭を掻いて、次女ミカンの左手に思いを馳せた。あの黒い木肌の義手は、料理をするには不都合が多い。

「ミカンがさ、料理しなくなったじゃん」

「せやな」

「血の匂いが料理についちまうってさ。だから──」

 もう少し生身の腕でいたい。ザクロが溢すように言うと、リンゴは自身の左足に触れる。その義足を付けられてから、何度も川で足を清めているのをザクロは目撃している。

「それは、しゃあないことや。母上が決めたんやから。母上より強くならな、意見する資格あらへん」

 目を逸らして吐いた長女の言葉の裏に、やるせない怒りを感じ取る。

 ここではそれは呑み込まなければならない感情だ。香梨紅子の娘でいる限り、羅神の庇護にいる羅刹である限りは、受け入れる姿勢こそが正しきことだ。

「わかってる。わかってるから、残された時間は喜んでくれる奴に使いたい」

 言って、ザクロは悲哀を帯びる笑顔を浮かべて玄関から出てゆく。

 その背中に、リンゴは手で壁を作って言い添えた。

「これ以上匿えんけど、台所好きに使い」

 背に受け止めた長女の心遣いに、ザクロは振り向かないまま右手を挙げて応えた。

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